●
株式会社ヘラルボニーが、初めて主催した国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ 2024)」。同社は、障害のある方がひとりの作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いを込めて、「HERALBONY Art Prize 2024」を創設しました。「国籍や年齢はアンリミテッド!」であるとし、世界中の障害のある表現者を対象として、今年1月31日「異彩(イサイ)の日」から3月15日の期間中、世界28カ国・924名のアーティストから総数1,973点の作品を応募。作家のキャリアを新たな高みへと押し上げ、従来の「障害とアート」のイメージを塗り替えていくとのことです。
今回グランプリに輝いたのは、仙台市在住の浅野春香氏の作品「ヒョウカ」。グランプリ作品受賞作家には、創作活動を奨励する資金として賞金300万円が贈られるほか、ヘラルボニーと作家契約を締結し、今後さまざまなライセンス起用により国内外にその異彩を発信していくそうです。グランプリをはじめとする各受賞作家と最終審査進出作家の総勢58名による全62点の作品を一堂に展示しているアート展「HERALBONY Art Prize 2024 EXHIBITION」は2024年9月22日(日)まで、三井住友銀行東館 1F アース・ガーデンにて開催中です(入場無料)。
浅野氏は、20歳で統合失調症を発症後、入退院を繰り返しながら闘病を続けています。本格的に絵を描き始めたのは29歳のとき。受賞作品である「ヒョウカ」は「評価されたい」という作家の純粋な感情から制作されたそうです。作家は以前までその欲求を「恥ずかしいこと」だと思っていましたが、ある人から「それもあなたの素直な気持ちの表れ」と言われたことをきっかけに、ありのままの気持ちを表現して良いのだと気づきました。本作は満月の夜の珊瑚の産卵をテーマに、切り広げた米袋に満点の星空や宇宙、満月などのモチーフが緻密に描かれています。母親の胎内にいた頃の情景や、珊瑚の研究者である父親のことなど、作家にとって大切な存在である両親からインスピレーションを受けているとのこと。
8月12日から25日にかけて、アートイベント「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」が開催されています。
大阪(市内中心部、万博公園)と千葉(幕張新都心)の二か所で同時開催されており、日本最大級の都市型音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」(8/17~8/18)との連携が注目されています。
日本を文化芸術のグローバル発信拠点に
本プロジェクトは文化庁が推進するプロジェクトで、⾳楽とアートの融合による「新たな価値」を創造する作品をアーティストと産み出し、日本が文化芸術のグローバル発信拠点になることを目指すものです。
SUMMER SONIC 大阪会場を訪れた文化庁の都倉俊一長官は開催に寄せて、「国としてあらゆるアートを応援していきたい」そして官民一体となって文化芸術を「より大きな意味でのカルチャービジネスにしなければいけない」とコメント。
さらに本イベントを来年開催の大阪・関西万博への足がかりとして、万博を通じてアートの国際的発信に力を入れていく意気込みを語りました。
音楽ファンで賑わう万博会場に大型アート作品が登場
久保寛子《やさしい手》
8月17日・18日に開催された「SUMMER SONIC 2024」とのコラボレーションは本プロジェクトの大きな見どころです。大阪会場となった万博公園(吹田市)と周辺には、GOMA(ゴマ)・奥中章人・久保寛子の3名のアーティストによる大型作品が野外展示されました。
GOMA《ひかりの滝》
アーティストGOMAの《ひかりの滝》は、アートと自然、そして音楽との融合が感じられる作品です。
風に揺らめく作品のバックに聴こえてくるのは、空気を静かに震わせるような不思議な音色。オーストラリア大陸の先住民アボリジニの民族楽器、ディジュリドゥを使った楽曲でGOMAが作品と同時期に制作したものです。
もともと世界的なディジュリドゥ奏者として活躍していたGOMAが絵を描き始めたのは、交通事故がきっかけだったといいます。高次脳機能障害や記憶喪失などの後遺症に悩まされるなかで、絵は「自分を癒すために描いていた」と振り返ります。
《ひかりの滝》で描かれている世界は、GOMA自身が意識を失ってから再び意識を取り戻す際に必ず見ていたという光景を絵画として再現したものなのだそうです。
17日夜には、ドローンショーを企画・運営するクリエイティブ集団「REDCLIFF(レッドクリフ)」とともに空中アート作品《ひかりの世界・阪栄の火の鳥》をお披露目。
1000機のドローンが花火と融合して空に描いた「火の鳥」は、GOMAが手塚治虫の『火の鳥』に触発されて制作されたものなのだそうです。
奥中章人《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》
奥中章人の《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》は、作品に直接触れて体験できる作品。
農業用ポリエチレンを素材に使ったバルーン型彫刻は、見た目はまるで大きなシャボン玉のようです。手で押すと簡単に形が変わるほど柔らかで、内側に入ることもできます。作品に触れ、作品越しに太陽の光を見つめることで、光や空気、風など目に見えないものを可視化してくれます。
街のなかで誰もが出会えるアート
渋田薫《Singin’ in the Rain》《ミライムジーク》
REMA《The Ecosystem of Love from That Time》
大阪市内では、音を色や形でとらえるアーティスト渋田薫や、過去と未来、デジタルとアナログが交錯するREMA(レマ)など、若手アーティストの作品を中心に12カ所に作品が展示されています。
展示場所は、関西経済連合会や地元の関連企業の協力によって提供されており、ほとんどがビルのエントランスやロビーなどパブリックスペースにあり、誰もが自由に見ることができるのが特徴です。
いくつかの作品をピックアップしてご紹介します。
大谷陽一郎《はん/えい #1》《はん/えい #3》
中之島フェスティバルタワー・ウェスト(3階オフィシャルエントランスホール)には、大谷陽一郎の《はん/えい #1》《はん/えい #3》が展示されています。
“はんえい”は「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」の2024年のプロジェクトテーマ。
はん、えい、と発音する約50種の漢字が波紋のように広がる作品で、「反映」や「繁栄」といった既存の言葉を超えて、新しい文字の出会いや、そこから広がるイメージや言葉の意味に想いを寄せることができます。
檜皮一彦《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》
同ビルの地下1階では、檜皮一彦の《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》を見ることができます。
約70台の車いすが三角形の構造物として積み上げられ、圧倒的な存在感を放っています。車いすを使用する檜皮自身にとって三角形の構造物は乗り越えるべきものの象徴。そして同時に、社会の中で誰もが体験する偏見や障壁の象徴でもあるのだそうです。
いつもの大阪がアートで変わる
会期中は地図機能のあるスタンプラリーアプリケーションを使ったアート巡り企画『STAMP MAP ART』を実施しています。
街に点在するアートを巡ることで、普段見ている街の風景がアートによって変わっていく様子を目にすることができるでしょう。
アートをきっかけに、いつもは通らない道、訪れたことのない場所に連れて行ってくれるのもこのイベントの楽しさです。
■「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」
会期:2024年8月12日(月)~25日(日)
会場:SUMMER SONIC 大阪会場及び周辺 8月17日(土)~18日(日)
大阪市内中心部の展示 8月12日(月)~25日(日)
※各展示場所により展示期間が異なります(以下、WEBサイトにて詳細を掲載)
Webサイト https://micusrat.com
株式会社マイナビを主幹事とするアートスクイグル実⾏委員会は、現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」を、2024年7⽉19⽇(⾦)から9⽉1⽇(⽇)までの 45 ⽇間、横浜・⼭下ふ頭にて初開催しています。
⼭下ふ頭は、明治維新から世界と⽇本を繋いで、⼈、モノ、そして⽂化が交差し続けてきた場所です。本イベントの会場である⼭下ふ頭・4号上屋もまた、⽇本の⾼度経済成⻑を⽀えてきた時代のアイコンであり、巨⼤な躯体を⽀えるトラス構造の建築は、昭和の建築技術の粋を集めた圧倒的なスケール感の内部空間を有しています。 ⼭下ふ頭は数年後に⼤規模な再開発が予定されており、本イベントは、歴史的にも貴重な建築物をアートとともに体験する試みでもあるといいます。
執筆者:遠藤友香
森ビル株式会社がアートコレクティブ・チームラボと手がける「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)」。チームラボボーダレスは、アートコレクティブ・チームラボの境界のないアート群による「地図のないミュージアム」です。アートは部屋から出て移動し、他の作品と関係し影響を受け合い、他の作品との境界線がなく、時には混ざり合います。チームラボボーダレスは、そのような作品群による境界なく連続する1つの世界であり、来館者は境界のないアートに身体ごと没入し、「境界なく連続する1つの世界」のなかを「さまよい、探索し、発見」する唯一無二の体験ができます。
この度、チームラボボーダレスが、アメリカのニュース雑誌「TIME」が発表した「THE WORLD'S GREATEST PLACES 2024(世界で最も素晴らしい場所2024年度版)」に選出されました。(※「TIME」誌「THE WORLD'S GREATEST PLACES 2024」記事はこちらから)。麻布台ヒルズへ移転前のお台場では、2019年にも「TIME」誌で「World's Greatest Places 2019(世界で最も素晴らしい場所 2019年度版)」に選出されました。
「TIME」誌は1923年に創刊され、発行部数368万部、世界200カ国で読者数2,000万人にもおよぶ世界最大の週刊誌です。2018年から始まった本企画は、「TIME」誌が「今すぐ体験すべき世界100の新目的地」を選出したもので、全世界のTIME誌の編集者、特派員、専門家たちから募った、美術館、テーマパーク、レストラン、ホテルなど複数のカテゴリーの候補地の中から、クオリティ・オリジナリティ・持続性・革新性・影響力をもとに選ばれています。チームラボボーダレスは、特にクオリティ・オリジナリティの点で選ばれ、今年2月の開館からわずか半年での選出となりました。
「TIME」誌は、「チームラボボーダレスは、ソーシャルメディアの定番となった没入型アートから群を抜く、技巧を凝らした空間だ。息を呑むようなインスタレーション作品《人々のための岩に憑依する滝》は鑑賞者の動きによって流れが変化する。《Bubble Universe》や《Microcosmoses》は、球体に鑑賞者が近づくと反応し、二度と再現できない魅惑的な光の波紋を生み出す」と伝えています。
次に、主な作品を4つご紹介します。
1.《人々のための岩に憑依する滝》、《花と人、コントロールできないけれども共に生きる – A Whole Year per Hour》、《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス:境界を越えて飛ぶ》
「人々のための岩」に降り注ぐ滝は、岩と人々の存在、そして、この空間に入ってくる他の作品の影響を受け、変容し続けます。また、水の流れそのものが、この空間に入ってくる他の作品に影響を与えていきます。今この瞬間の絵は二度と見ることができません。
そして、滝が映し出された壁や床は、我々と作品との境界面にならず、滝の作品空間は、人々の身体のある空間と連続します。
2.《Bubble Universe: 光の球体結晶、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》
「認識上の彫刻」をテーマにした、インタラクティブな作品です。空間は無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中には、異なる光の存在が入り混じっています。
人が球体の近くで立ち止まりじっとしていると、最も近い球体が強く輝き音色を響 かせ、光はその球体から最も近い球体に伝播します。伝播した光は、最も近い球体に伝播し連続していきます。光は、空間内の球全ての球体を通る1本の光の軌跡になります。
そして、自分から生まれた光と、他者から生まれた光は交差していきます。
3.《マイクロコスモス:ぷるんぷるんの光、環境が生む光》
奥行きのわからない無限の空間の中を、無数の光が走り続けます。
「構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、構成要素全体に異なった秩序が形成され、それらが重なり合う時、それは、 宇宙か?」を模索した作品です。
半球の中は、「ぷるんぷるんの光」と「環境が生む光」が重なり合います。ぷるんぷるんの光は、チームラボが創る「境界面の曖昧な空間彫刻」の一つで、認識世界に存在する彫刻です。
4.《スケッチオーシャン》
この海は、みんなが描いた魚たちが泳ぐ海 です。
来館者が紙に自由に魚の絵を描きます。すると、目の前の海でみんなが描いた魚と共に泳ぎだします。泳いでいる魚は触れることもでき、触れられた魚は、いっせいに逃げだします。エサ袋に触ることによって、 魚にエサをあげることもできます。
魚たちは部屋を出て、他の作品の境界を越えてチームラボボーダレスの中を泳ぎ始めます。中でもマグロは、ミュージアムの物理空間をも超えて、世界の他の場所で行われている展覧会へと泳いでいき、そこで描かれたマグロの群れを引き連れて帰ってきます。
以上、米TIME誌の「世界で最も素晴らしい場所」に選出された、チームラボボーダレスについてご紹介しました。ぜひ、夏休み期間中、お子さまと一緒に訪れてみてはいかがでしょうか。
■「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」
開館時間:9:00 - 21:00
※9月3日(火)は17時閉館(最終入館16時)
※最終入館は閉館の1時間前
休み:8月20日(火)、9月17日(火)
場所:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1
東京都港区麻布台1-2-4
チケット購入はコチラから。
執筆者:遠藤友香
東京都は、2040年代の都⽴公園のあるべき姿と豊かな緑を次世代につなぎ、国内外の⼈を惹きつける魅⼒を⽣み出し、⼀⼈ひとりのウェルビーイングに貢献する公園を目標に、都⽴公園全体の機能や価値を向上させるべく様々な取組を⾏っています。東京都江⼾川区にある葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園は⻑きにわたり、海と深いつながりを持ってきました。今年はその歴史を踏まえ、広⼤な敷地の魅⼒を全⾝で感じるアートインスタレ ーションイベント「海とつながる。アートをめぐる。―HarmonywithNature―」を、2024年8月18⽇(⽇)まで葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて開催中です。
本イベント会期中、葛⻄臨海⽔族園では「海とつながる」をテーマとして、⽔族園を象徴するガラスドー ムをミストが包み込み、海とつながる世界を⽣み出す演出を⾏っています。また、葛⻄臨海公園では「アートをめぐる」をテーマとして、蜷川実花 with EiMの作品が東京湾を⾒渡せる展望レストハウスであるクリスタルビューを彩り、落合陽⼀⽒、河瀨直美⽒、平⼦雄⼀⽒の作品が4万本の向⽇葵が咲くひまわり畑の中に溶け込み、 新たな景⾊を⽣み出しています。
2024年8⽉1⽇(⽊)に葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて、「海とつながる。 アートをめぐる。― HarmonywithNature―」のメディア向け内覧会が開催されました。メディア向け内覧会にて、蜷川実花 with EiMによるアート作品 「Garden of Sky(空の庭園)」について、写真家・映画監督で、写真を中⼼として、映画、映像、空間インスタレ ーションも数多く⼿掛けている蜷川実花⽒から、以下の作品解説がありました。
【蜷川実花⽒による作品解説】
クリスタルビュー2階奥の展⽰室と外装、2つのインスタレーションで構成された「Garden of Sky(空の庭園)」。本作品のコンセプトについて蜷川⽒は「今回の企画のお話をいただいたとき、⼩さな頃から馴染みがあった⼤好きなク リスタルビューでの作品づくりを実施したいとお伝えしました。クリスタルビューは空が広く⾒える場所なので、空に溶け込むような作品と、建築の素晴らしさを活かすための表現⽅法を試⾏錯誤しました。」と述べました。
クリスタルを⽤いた新作については「ぜひ近くで細部まで⾒ていただき たいです。一つひとつ想いを込めてつくり続けたパーツを800本のライン状に繋ぎ、⽴体的に空間に配置しています。光を受けてキラキラと輝くため、朝と⼣⽅でも、また天気によっても⾒え⽅が変化する。そうやって⾃然を感じることができる作品です。瞬間の美しさを表現したいという気持ちは、⾃分のベースが写真家だからだと思います。瞬間の変化を感じ取って⼤切にしていく。この感覚を増幅させるようなつくりになっています。」と解説。
続けて外装装飾について「ガラスに透過性フィルムを貼ることで、巨⼤なステンドグラスのようにした今回の作品は、これまでのアーティスト活 動で最⼤規模の作品になりました。膨⼤な写真の中から美しい花々を選 び、四季折々の景⾊が混ざりあった光景をつくっています。これは⾃分が⾒てみたい夢の⾵景、桃源郷のような世界です。遠くから⾒たときにも花々が空に向かって伸びていき、本物の空とグラデーションで溶け合っていく。実際の⾃然の⼀体化するようにつくっています。」と語り、 最後に「この場所に来ていただくことでしか体感できない作品なので、 暑い中ではありますが、多くの⽅が来てくれるといいなと思います」と述べました。
続いて、ひまわり畑に場所を移し、植物や⾃然と⼈間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を⾏うアーティストの平⼦雄⼀⽒から、アート作品「Wooden Wood 73」についての解説がありました。
【平⼦雄⼀⽒による作品解説】
作品のコンセプトについて平⼦⽒は「中⼼に位置する、⼈のような姿をした樹⽊の頭部を持つこの⽴体作品は、私達⾃⾝を投影する存在だと思っています。そしてその両側にある果物、観葉植物、猫も、私たちと⾃然の関係を象徴するものとして配置しま した。これらの彫刻の⾜元には書物があり、これは私たちが築き上げた⽂明や社会を表しています。⾃然の状況や価値は、私たち⼈間の尺度により変化してきました。そしてこれからも、私たちの植物や⾃然に対する⾏動や姿勢は変化し続けるのではないかと思います。この作品を通じて⾃然との関わり⽅を考え、 新たな視点を開拓してもらいたいと願っています」と語りました。
【落合陽⼀⽒の作品について】
境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開する、メディアアーティストの落合陽⼀⽒の作品「リキッドユニバース :向⽇葵の環世界のコペルニクス的転回」は、脱⼈間中⼼の思考において、他⽣物のプリュリバーサルな環世界の転回を考えています。本作は、存在論的な境界の流動性を探求し、計算機⾃然が織りなす新たな知覚の地平を開く試みです。⾃然と⼈⼯物と⽣成AIの交差点に⽴つ本インスタレーションは、向⽇葵畑と観覧⾞という具象と、デジタルが⽣み出す抽象との間に⽣起する認識の揺らぎを体現しています。⽣成 AIは、観客の存在をも包含した環世界のダイナミズムを、LEDの光の律動として具現化します。向⽇葵の光屈性は、⽣命の根源的な環世界との関わりを象徴しています。同時に、その動きをデジタル的に再解釈することで、我々は⽣命とテクノロジーの境界、そして知覚の本質に対する問いを投げかけます。本作は、計算機⾃然という新たなパラダイムにおいて、存在の多様性と相互連関性を探求しています。それは、⼈間中⼼主義を脱し、万 物の絶え間ない⽣成変化の中に逍遙遊を⽣きる花と光による具現化です。
【河瀨直美⽒の作品について】
奈良を拠点に映画を創り続ける映画作家の河瀨直美⽒の作品「隠されたもう⼀⼈の私。ひまわり畑での問いかけ」は、「⾃分の中に⾒え隠れするもう⼀⼈の⾃分と出会う」がテーマとなっています。夏を象徴するひまわりの群れの中に突如現れるいくつかの問いかけは、まるで⼈⽣の分岐点に⽴たされたような感覚を与え、鑑賞者を内省と⾃⼰発⾒の旅へと誘います。不規則に並べられた問いかけは、⾃分⾃⾝との対話のきっかけとなり、今まで出逢えなか った潜在的な意識へと繋げてくれます。この対話によって気付かされるもう⼀⼈の私は、⾃分が認識している⾃分とは異なる存在であり、⾃⾝の隠された⾃⼰の深みに気付かせてくれる体験となるでしょう。
【ガラスドームのミスト演出について】
都では、葛⻄臨海⽔族園本館の保存・利⽤の検討や、⽔族園を象徴するガラスドームへの愛着を表現するイ ベントなどを「ガラスドームプロジェクト」と名付けて進めています。今回その⼀環として、東京のランド マークとしても親しまれている葛⻄臨海⽔族園のガラスドームをミストで演出します。また、 2024.8.11(⽇・祝) 〜8.14(⽔)の特別イベント「Night of Wonder 〜夜の不思議の⽔族園〜」期間中は霧にラ イトアップが追加され、幻想的な空間を演出します。海とドームの境界が曖昧になり、海と⼀体化する中、 霧がかる幻想的でまばゆい海の中に没⼊する体験をお届けします。
■「海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ―」
会期:2024年8⽉2⽇(⾦)〜8月18⽇(⽇)
会場:葛⻄臨海⽔族園(葛⻄臨海公園内)および葛⻄臨海公園
⼊場無料・予約不要
※葛⻄臨海⽔族園のみ⼊園料が必要です
時間:葛⻄臨海⽔族園 9:30〜17:00(最終⼊園16:00)
葛⻄臨海公園 9:00〜20:30
【葛西臨海水族園・葛西臨海公園】海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ― (tokyo-zoo.net)
2010年より毎年開催している京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。国内外の「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台芸術を創造・発信し、 芸術表現と社会を、新しい形の対話でつなぐことを目指しています。 演劇、ダンス、音楽、美術、デザインなど、ジャンルを横断した実験的な表現が集まり、 そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性をひらいていきます。
フェスティバルは、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」、「Shows(上演プログラム)」、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」といった3つのプログラムから構成されます。例えば、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」は、京都発の国際フェスティバルとして、自分たちが立脚する「地域」について自覚的に捉え、フィールドワークを通して探求す るプログラム。アーティストが中心となり、地域住民やプロデューサー、研究者と一緒に、京都や関西の文化を継続的にリサー チしていきます。活動を通じて生まれた思考の軌跡やプロセスは特設ウェブサイトに蓄積され、誰もがアクセスできるオンラ イン図書館として公開。未来のクリエイターや企画のためのナレッジベースや実験場、アイデアソースとなることを目指します。
「Shows(上演プログラム)」は、世界各地から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき舞台芸術作品を上演するプログラム。京都および関西における舞 台芸術の変遷と動向に注目しながら、ダンス、演劇、音楽、美術といったジャンルを越境した実験的作品を紹介します。
そして、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」は、とりわけ実験的な舞台芸術作品と社会を対話やワークショップを通してつなぎ、新たな思考や対話、フレッシュな問題提起など、未来への視点を獲得していくプログラムです。実験的表現が映し出す社会課題や問題をともに考え、議論し、現代社会に必要な智恵や知識を深めていきます。ここで獲得できるスーパー知識 (ナレッジ)は、予測不能な未来にしなやかに立ち向かうための拠り所となるはずです。
2024年7月18日 (木)に開催された、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」記者会見において、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクターの川崎陽子氏から、次のようなフェスティバルの概要説明がありました。
「2010年から始まったKYOTO EXPERIMENTでは、国内外の演劇、ダンス、音楽、美術など、ジャンルを横断した実験的な舞台芸術を創造、発信し、芸術表現を通して、社会に新しい形の対話を生み出すことを目指しています。今回のフェスティバルが15回目となります。
今年はプログラムから思考を生み出すきっかけとして、キーワードに「えーっと えーっと」という言葉を設定しています。今回「Shows」で紹介する多くの作品には、土地と人々の結びつきから生まれる芸能や文化とその検証、あるいは再構築、近代から現代における歴史の中の環境と人の関係性、政治史と個人史、国の記憶やその伝承など、様々な歴史、記憶やそれらを思い出す行為を見出すことができます。そうしたことをディレクターチームで話し合う中で、「えーっと」という言葉にたどり着きました。
何か思い出そうとするとき、私達は「えーっと」と言いながら、断片的な記憶を寄せ集めて言葉にすることが多いのではないでしょうか? それは空白を埋める言葉であり、何かを考えたり、探しているときの言葉でもあります。他者との間を埋めながら、記憶と対話を繋いでいくための言葉でもあるかもしれません。
毎日のように、ウクライナへのロシアの軍事侵攻や、パレスチナでの人道危機についてのニュースが流れ、選挙があれば、極右政権が支持を得るというのは珍しいことではありません。
このような時代において、私達はフェスティバルという場を通して、何ができるのだろうかということを考える中で、「えーっと」という言葉に行きつきました。何かを白と黒に分ける二項対立的な思考に陥るのではなく、「えーっと」という空白のスペースに立ち止まること、思考を再構成すること、過去との対話から明日を作っていくということをキーワードとして、フェスティバルのプログラムを通して皆さんと考えたいと思います」。
また、記者会見に登壇されたアーティストの穴迫信一氏(劇作家・演出家・俳優)と捩子ぴじん氏(ダンサー・振付家)は、Shows(上演プログラム)に参加。穴迫信一×捩子ぴじん with テンテンコとして、「スタンドバイミー」を上演します。
北九州でブルーエゴナクを旗揚げし、現在は京都と東京も拠点に加えるなど、国内で縦横に活動を広げている劇作家・演出家の穴迫信一氏。麿赤兒氏率いる大駱駝艦で活動を開始し、その後自身のソロダンスや振付作品を発表すると共に、様々なアーティ ストと共同作業を行ってきたダンサー・振付家の捩子ぴじん氏。THEATRE E9 KYOTOのアソシエイトアーティストを務めた経験もある2人が、初めての共同演出に臨みます。今作では、両者がかねてから関心を寄せていた死生観をテーマとし、「自らとの関係が保留されている(現在の、あるいは 100年後の)死者の前に立つことができるか」の問いをもとに、穴迫氏が戯曲を書き下ろします。音楽性の高いリリカルな穴迫氏の言葉に、 捩子氏の身体性はどのように介入していくのでしょうか。音楽は、アイドルグループBiSで活動後、ソロプロジェクトを展開する エレクトロニクスミュージシャン・DJのテンテンコしが担います。死者同士の対話は、生者の現実以上にその風景をリアルタイムに生起させるかもしれません。そこから観客が見出す、死と生と、 そして現在とは、一体どのようなものなのでしょうか。
最後に、松井孝治京都市長のからのメッセージをご紹介します。
「国内外で活躍する新進気鋭のアーティストが京都に集う舞台芸術の祭典「KYOTO EXPERIMENT」は今回、記念すべき15 回目となります。芸術表現の最先端を走り続ける壮大な実験(EXPERIMENT)がこうして今年も開催できることを心から嬉しく思います。開催に御尽力いただいた山本麻友美実行委員長をはじめ、すべての関係者の皆様に深く敬意と感謝の意を表します。
本年のテーマは「えーっと えーっと」。私たちが何かを考えたり、記憶を思い出したりするときになじみの深い言葉です。 豊かな歴史と文化を有するここ京都は、過去、現在、未来が交錯する場所。アーティストの研ぎ澄まされた感性で紡ぎ出され る京都ならではの表現に期待が高まるばかりです。御来場の皆様は、今ここだけの作品との出会いを心ゆくまでお楽しみくだ さい。
本市としても、「古きをいつくしみ、新たな世を切り拓く」との方針で、伝統を大切に、多才な人々が集い、文化を支える強 い経済の復活やさまざまな社会課題の解決につなげる。そして「突き抜ける魅力のある文化首都・京都」の実現に全力で取り 組んでまいります。変わらぬ御支援と御協力をお願い申し上げます」。
以上、京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」についてご紹介しました。今や日本でも数少ないチャレンジングな国際舞台芸術祭として、世界中の芸術関係者から熱視線が注がれている「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」に、ぜひご注目ください。
■KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024
会期:2024年10月5日(土)~10月27日(日)
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、ほか
主催:京都国際舞台芸術祭実行委員会
[京都市、ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、京都芸術大学 舞台芸術研究センター、THEATRE E9 KYOTO(一般社団法人アーツシード京都)]
一般社団法人KYOTO EXPERIMENT
ダンスプログラム共同主催 ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル