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執筆者:遠藤友香
2010年から3年ごとに開催され、今回で6回目を迎える国際芸術祭「あいち2025」。国内最大規模の芸術祭の一つとして知られ、国内外から多数のアーティストが参加する芸術祭です。「あいち2025」は、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなかを主な会場として、2025年9月13日~11月30日の全79日間開催予定です。
フール・アル・カシミ芸術監督 ©SEBASTIAN BÖTTCHER
テーマは「灰と薔薇のあいまに」。芸術監督には、シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/国際ビエンナーレ協会(IBA)会長のフール・アル・カシミ氏が就任されています。開催目的として、新たな芸術の創造・発信により、世界の文化芸術の発展に貢献すること、現代美術等の普及・教育により、文化芸術の日常生活への浸透を図ること、そして文化芸術活動の活発化により、地域の魅力の向上を図るといったことが掲げられています。現代美術を基軸とし、舞台芸術なども含めた複合型の芸術祭で、ジャンルを横断し、最先端の芸術を「あいち」から発信します。
フール・アル・カシミ氏は、以下の言葉を寄せています。
「モダニズムの詩人アドニスは、1967年の第3次中東戦争の後、アラブ世界を覆う灰の圧倒的な存在に疑問を投げかけ、自身を取り巻く環境破壊を嘆きました。アドニスの詩において、灰は自然分解の結果生じるものではなく、人間の活動による産物、つまり無分別な暴力、戦争、殺戮の結果なのです。環境に刻まれた痕跡を通して戦争を視覚化することで、アドニスは、直接的な因果関係や現代的な領土主義の理解ではなく、地質学的かつ永続的な時間軸を通して戦争の遺産を物語ります。したがって、アドニスにとってそれはただ暗いばかりではありません。消滅の後には開花が続くからです。
この感情は、再生と復活のためには必ず破壊と死が先行するということ、そして人類の繁栄のためには、恐怖を耐え忍びながらその道を歩まなければならないという、一般的な心理的概念を表しています。アドニスは、希望と絶望の感情と闘いながら、新たな未来、現在と過去に結びつく恐怖から解放された未来を思い描きます。戦争を国家、民族、部族、人間中心的なものよりも、集合体としての環境という視点から理解しようとすることで、アドニスは戦争の多様な顔を強調します。すなわち、人類が引き起こした戦争、地球に対する戦争、私たち自身の内なる戦争、他者との戦争、ヒエラルキー・服従・抑圧・飢饉・飢餓・搾取をめぐる象徴としての戦争、資源とエネルギーをめぐる戦争、所有権や著作権をめぐる戦争、希望・夢・想像力をかけた戦争などです。
観察者、目撃者として戦争と破壊を経験したアドニスがこの詩を書いた政治的背景は、私たちの現在の経験にも根差しており、この芸術祭ではそれをさらに拡張しています。「 灰と薔薇のあいまに」というテーマにおいて、私は人間が作り出した環境の複雑に絡み合った関係を考えるために、灰か薔薇かの極端な二項対立も、両者の間の究極の境界線も選ばないことにしました。むしろ、啓蒙思想の知識文化から受け継がれた両者の境に疑問を投げかけ、人間と環境が交わる状態、条件、度合いを想定します。今回の芸術祭では、戦争と希望という両極のいずれでもなく、その間にある私たちの環境の極端な状態を受け止めながら、人間と環境の間にあると思われている双方向の道を解体する可能性を探ります。
(中略)
第6回となる国際芸術祭「あいち2025」では、人間と環境の関係を見つめ、これまでとは別の、その土地に根差した固有の組み合わせを掘り起こしたいと考えました。農業が機械化され領土が金融化される以前には、世界の至るところで共同体が自然を管理し、環境景観との相互関係を発展させていました。そうした共同体は、自然の権利や保護を意識し、それを取り巻く動植物の生息地との間に親近感を感じて、互いに信頼し、育み、補い合う道を築いていました。この芸術祭では、そのような枠組みを現代的な芸術実践の一部として歓迎します。
(中略)
人間は、原材料を収奪できる空間へと環境を均す専門技術を持ったエンジニアであるだけでなく、人類の間に存在する不平等を再強化してもいます。今日私たちが占有している環境は、ある共同体が他の共同体よりも恩恵を受け、その生活の質が高まるように、異質化され、細分化され、分類され、モデル化されています。現在のグリーンエネルギー化の言説もまた、片方の半球にいる人々のためのものであり、他方で環境回復のために欠かせない方策の恩恵を受けることのできない共同体が、世界中至るところに存在しているように思われます。このように、今日の人間と環境にまつわる実践の多くは、人種、社会、差別についての知識や考え方を何度も繰り返しているのです。
(中略)
今回の芸術祭では、現在の人間と環境の関係に関する一筋縄ではいかない物語や研究を念頭に置きながらも、私たちが直面している極端な終末論も楽観論も中心としないことを目指しています。私は、環境正義に関する対話に複雑さを重ねることによってのみ、私たちが自らの責任に向き合い、不正義への加担に気づくことができるのだと考えています。ヒエラルキーの押しつけや偏った読み方を避けるために、世界中からアーティストやコレクティブを招き、私たちが生きる環境について既に語られている、そしてまだ見ぬ物語を表現するのです。アドニスが想像したように、試練を乗り越えて死や破壊に耐えるからこそ自然は回復力を持つのでしょうか。それとも、生命を奪われ機械化された空疎な気候フィクションが表現するディストピア的で黙示録的な未来像が、今まさに私たちが生きる現実なのでしょうか。愛知県に根差した今回の芸術祭には、灰と薔薇の間にある日本独自の環境に対する想像力も組み込まれます。愛知県は陶磁製品の産地として、瀬戸市は「せともの」の生産地として知られています。周囲の環境から得た素材や資源を用いるこれらの地場産業は、アーティストたちの新作の中にも立ち現れてくるでしょう。こうした産業は、地域の誇りの源であり、人間と環境の関係についての新たなモデルを模索する本芸術祭の支柱となります。たとえばこの地では、歴史的な写真や資料で目にする陶磁製品の生産によって作り出された灰のような黒い空は、環境の汚染や破壊よりも、むしろ繁栄を意味していました。このように普遍主義的な人新世という人間中心の批評の視点から脱却する時、技術、地域に根差した知識、帝国の歴史、環境に対する想像力について、どのような思考が浮かび上がってくるのでしょうか。地場産業や地域遺産は、人間と環境の複雑に絡み合った関係について、新たな、幅を持った思考への道を開くのでしょうか。
芸術祭ではさらに、手塚治虫の『来るべき世界』を始め、日本の大衆文化、小説、映画、音楽のさまざまなシーンや事例もまた参照します。手塚の物語では、アメリカ合衆国とソビエト連邦になぞらえた国同士の緊迫した関係が原爆の開発競争ーそれは日本の現代化と環境の状態に深く絡んだ歴史でもありますーを招き、偶然にも「フウムーン」と呼ばれる突然変異の動物種を生み出してしまいます。フウムーンは人間を超える能力と知性を持ち、多くの動物と少数の人々を地球から避難させる作戦を考えます。自然と人間の副産物であるフウムーンが、窮地を救うためにやって来るわけです。
『来るべき世界』は、今回の芸術祭のテーマとアドニスの詩に共鳴しつつ、終末と開花の間を横断します。愛知県という地域性、アドニスや手塚といった作家への参照、そして参加アーティストたちが共に示すのは、「灰と薔薇のあいまに」を掲げるこの芸術祭が、幅を持った考え方、有限なもの、そして中間にある状態を採り入れることによって、当然視されてきた位置づけやヒエラルキーを解きほぐせるということなのです」。
次に、新たに発表された国際芸術祭「あいち2025」の参加アーティスト32組(現代美術26組、パフォーミングアーツ6組)の中から、一部の方をご紹介します。
■現代美術
1.バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ
《May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us》 2020–22 Photo: Christian Øen © Astrup Fearnley Museet, 2023. Installation view of May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us, 2022, Basel Abbas / Ruanne Abou-Rahme. An echo buried deep deep down but calling still
バゼル・アッバスとルアン・アブ゠ラーメは、サウンド、映像、文章、インスタレーション、パフォーマンスなど、様々な分野で共に活動するアーティストです。二人の取り組みは、パフォーマティビティ、政治的イマジナリー、肉体、仮想世界の横断にあります。二人のアプローチの特徴として、サウンド、映像、テキスト、オブジェなど、既存の素材や自作の素材をサンプリングし、それらを全く新しい「台本」に再構築することが挙げられます。その成果として、マルチメディア・インスタレーションやサウンドと映像のライブ・パフォーマンスという形で、サウンド、映像、テキスト、サイトが持つ政治的、情緒的、物質的な可能性を追求する表現を展開しています。
2.ジョン・アコムフラ
《Vertigo Sea》 2015 © Smoking Dogs Films; Courtesy of Smoking Dogs Films and Lisson Gallery.
アーティスト、映画制作者として著名なジョン・アコムフラは、記憶、ポスト植民地主義、一時性、美学を探求し、世界中に存在する移民に着目して、しばしばディアスポラをテーマにしています。1982年にはロンドンで、デヴィッド・ローソンやリナ・ゴポールらとともに、影響力を持つブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブを設立。ローソン、ゴポールとの協力関係は今なお続いており、アシティー・アコムフラを加えたスモーキング・ドッグ・フィルムズとして活動しています。記録映像、スチール写真、撮り下ろし、ニュース映画を組み合わせた多層的な視覚様式で制作した画期的なマルチチャネル映像のインスタレーションは、国際的に注目を集めています。
3.ミネルバ・クエバス
《The Trust》 2023 Courtesy of Kurimanzutto Mexico, New York.
ミネルバ・クエバスは、サイトスペシフィックなアクションや作品を通して、社会圏の実像を描写するリサーチ型のプロジェクトを展開するアーティスト。資本主義体制とその社会的帰結に内在する価値、取引、資産の概念を研究し、日常生活に潜む反逆の可能性を探っています。インスタレーション、動画、壁画、彫刻、公共空間への介入など幅広いメディアを介して、ブランドロゴに見る身近な視覚表現をもじって、人々の政治的虚像に根付く概念に疑問を投じ、ソーシャル・コミュニケーションの活性化を狙っています。主な研究分野は、エコロジー運動、人類学、企業史です。1998年にMejor Vida Corpを、2016年にInternational Understanding Foundationを設立しました。
4.ウェンディー・ヒュバート
《Hunting Place》 2024
ウェンディー・ヒュバートはインジバルンディの長老であり、無形文化財保持者、アーティスト、言語学者でもあります。ピルバラ(西豪州)のレッドヒル・ステーションで生まれ、その後ミンダルー・ステーション、オンスローを経てロウバーンに定住。その地での地域保健活動を通じて夫と出会い、3人の息子を授かりました。2019年にジュルワル・アート・グループで絵画制作を始め、幼少期に見ていた風景やインジバルンディとグルマ・カントリーの重要な場所を描いた風景画で知られるアーティストとなります。「私は自分の故郷(カントリー)とその掟を知っています。インジバルンディの守り手として、老いてもその考え方と生き方を貫いています。」(ウェンディー・ヒュバート 2021年)
5.加藤泉
《無題 Untitled》 2023 Photo: 岡野圭 Cortesy of the artist / ©︎2023 Izumi Kato
加藤泉の絵画や彫刻には、未分化な原始生物、胎児、動物、またはそれらのハイブリッドのような存在が表象されています。人間、自然、環境をめぐる根源的な関係が見出される彼の作品は、胎内回帰を想起させながら、新たな神話的物語を紡ぎ出しているようでもあります。2007年の第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「Think with the Senses ̶ Feel with the Mind. Art in the Present Tense」に選出されたのをきっかけに、国内外で精力的に発表を行っています。近年では、木彫に彩色を施した従来の彫刻に加え、ソフトビニール、プラモデル、石、布地、アルミニウム、ブロンズも素材に加わり、加藤の絵画の意識はソフト・スカルプチャーやインスタレーションへと拡張しています。
6.シェイハ・アル・マズロー
《Accordion Structure》 2022
シェイハ・アル・マズローは、シャルジャ大学美術デザイン学部を卒業。2014年にロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツで芸術修士号を取得し、MFA学生賞を受賞しました。その後、母校シャルジャ大学で彫刻の授業を担当、現在は、ニューヨーク大学アブダビ校にて准教授を務めています。アル・マズローの彫刻における実験と探究は、物質性の表現、すなわち形式と内容の緊張関係と相互作用を表わしており、同時に素材とその物理的特性の直感的で鋭敏な理解でもあります。アル・マズローは、色彩理論から幾何学的抽象主義に至るまで、フォルムと素材に焦点を当てた現代のアートムーブメントの概念を統合・進化させています。
7.ダラ・ナセル
《Adonis River》 2023 Commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist
多様な素材を用いて、抽象概念とオルタナティブなイメージを表現する芸術家 ダラ・ナセルは、絵画、パフォーマンス、そして映画などのジャンルを横断した作品を手掛けています。ナセルの作品は、資本主義と植民地主義的な搾取の結果として悪化していく環境、歴史、政治的な状況に、人間と人間以外のものがどのように関わり合っているかを探求しています。ナセルは、伝統的な風景画の広大な視点とは対照的に、土地をインデックス的に捉えた絵画で、政治や環境における侵食に焦点を当てています。彼女は自らの作品を通して、人間の言葉が届かない中で環境がゆっくりと侵され、侵略せし者が搾取を行い、インフラが崩壊する様子を、人間以外のものの視点から表現しています。
8.沖潤子
《anthology》 2023 FUJI TEXTILE WEEK, Photo by Kenryou Gu
生命の痕跡を刻み込む作業として、布に針目を重ねた作品を制作する沖潤子。下絵を描く事なしに直接布に刺していく独自の文様は、シンプルな技法でありながら「刺繍」という認識を裏切り、観る者の根源的な感覚を目覚めさせます。古い布や道具が経てきた時間、またその物語の積み重なりに、彼女自身の時間の堆積をも刻み込み紡ぎ上げることで、新たな生と偶然性を孕んだ作品を生み出しています。存在してきたすべてのもの、過ぎ去ったが確かにあった時間。いくつもの時間の層を重ねることで、違う風景を見つけることが制作の核にあります。
9.マイケル・ラコウィッツ
《The invisible enemy should not exist (Lamassu of Nineveh)》2018 Photo: Gautier DeBlonde ©Courtesy of the Mayor of London.
マイケル・ラコウィッツは、問題の解決と発生が交差するような場において、多領域を横断しながら活動するアーティストです。植民地主義や地政学的対立など、様々な形での強制排除によって文化財や人々が居場所からの退去を強いられていることに着目し、日用品に新たな意味を与えたり型破りなアプローチを取り入れ、問題の周知を図ります。2018年には、ハーブ・アルパート芸術賞を受賞し、ロンドンのトラファルガー広場の第4の台座に作品を展示する名誉を得ました。2020年にはパブリック・アート・ダイアローグ賞、およびナッシャー賞を受賞。現在、ハーグ市からの委嘱で、考古学と移民の流れをテーマとした公共プロジェクトを手掛けています。
10.ヤスミン・スミス
《FOREST》 2022 Photo: THE COMMERCIAL, SYDNEY Courtesy of the artist and THE COMMERCIAL, SYDNEY.
ヤスミン・スミスは陶芸と釉薬技術を駆使した彫刻による大規模なインスタレーションを制作し、徹底した現地調査、地域社会との協働、スタジオ制作を通して特定の土地を探求しています。科学と芸術を融合し、釉薬の造形美を通して、生態系がもつ知性に形を与えています。スミスは、労働、採取主義、植民地化、政治生態学などについてのコンセプチュアルな調査を含む幅広い素材研究において、植物、灰、岩石、石炭、塩、自然土などの有機物や無機物を用いています。展覧会のため海外に長期滞在して、新作に取り組むこともあります。作品の多くは豪州の公的機関に収蔵されています。ザ・コマーシャル(シドニー)での2022年制作の《Forest》は、豪州各地の石炭火力発電所から採掘した石炭灰による釉薬に関する4年間の調査の成果であり、深い地質学的な時間軸を表現したものでした。
■パフォーミングアーツ
1.AKNプロジェクト
『喜劇 人類館』 2022 Photo: 小高政彦
『人類館』によって沖縄出身で初めて岸田戯曲賞を受賞した劇作家・知念正真(1941–2013年)の作品を継承するために、娘の知念あかねにより2020年に発足。コザ(現・沖縄市)を拠点に活動した演劇集団創造によって初演された『人類館』は、1903年の大阪・第5回勧業博覧会会場近くで“人間の展示”を行った「学術人類館」に発する「人類館事件」を出発点に、日本語、沖縄口、沖縄大和口を織り交ぜ、場面展開にも実験性を持たせた、沖縄演劇史にとって記念碑的な作品です。クラシック音楽の演奏家でもある知念あかねのAKNプロジェクトは、父の作品を『喜劇 人類館』として演出し、これまで2021年にコロナ禍での配信上演、2022年には那覇文化芸術劇場なはーとにて沖縄「復帰」50年特別企画として上演しました。
2.クォン・ビョンジュン
「”We Will Have a Serious Night” by Ghost Theater」2022、HongDong Reservoir Photo: ARKO
クォン・ビョンジュンは、1990年代初頭にシンガーソングライターとして活動を開始しました。オルタナティヴ・ロックからミニマル・ハウスまで幅広いジャンルの音楽アルバムを6枚発表し、さらに映画のサウンドトラック、演劇、ファッション・ショー、モダン・ダンスなど多様な分野にわたる作品を手掛けています。2000年代末にはオランダに渡り、アートサイエンスを学ぶ傍ら、ライブパフォーマンス用の電子楽器を開発するSTEIMでハードウェア・エンジニアを務めます。2011年韓国に帰国後は、新しい楽器や舞台装置を開発・活用してドラマチックな「シーン」を生み出す音楽、演劇、美術を包括したニューメディア・パフォーマンスを制作。アンビソニックス(没入型3Dオーディオシステム)を活用したマルチチャンネル・サウンドインスタレーションの第一人者として知られています。ロボットを用いた感覚刺激的なパフォーマティブ・インスタレーション作品で、Korea Artist Prize 2023を受賞しました。
3.態変
Photo: Hikaru Toda
「身体障碍者の障碍じたいを表現力に転じ未踏の美を創り出すことができる」という金滿里の着想に基づき、1983年に創設された「態変」。作・演出・芸術監督を、自身がポリオの重度身体障碍者である金が担ってきました。その方法は、身体障碍者がその姿態と障碍の動きとをありのままに晒すユニタードを基本ユニホームに、健常者社会の価値観では醜いとされるその身体から、従来の美醜観を掻き回すような表現を引き出します。従来、身体表現に求められてきたコントロールと再現性に真っ向から反する、一期一会の表現だと言えるでしょう。その舞台を通して、観客も自身の日常を超え、いつしか非日常のパフォーマーの身体を共に生き、自身の身体を解放させ、命に触れるのです。
以上、国際芸術祭「あいち2025」についてご紹介しました。ぜひ、来年2025年の開催を楽しみにお待ちください。
■国際芸術祭「あいち2025」
会期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間]
主な会場:愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか
主催:国際芸術祭「あいち」組織委員会(会長 大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長))
助成:文化庁、公益社団法人企業メセナ協議会 社会創造アーツファンド
Photo: Ryohei Tomita
テープカットセレモニーの様子(左から)一般社団法人 京橋彩区エリアマネジメント 代表理事 髙橋康紀氏、京橋一丁目東町会 会長 西野文人氏、戸田建設株式会社 執行役員副社長 戦略事業本部長 植草弘氏、京橋一之部連合町会 会長 冨田正一氏 、戸田建設株式会社 代表取締役社長 大谷清介氏、中央区 副区長 吉田不曇氏、戸田建設株式会社 代表取締役会長 今井雅氏、京橋一丁目西町会 会長 末吉康祐氏、東京中央大通会 副会長 森静雄氏
江戸町火消による木遣りと纏振り
執筆者:遠藤友香
戸田建設株式会社は、東京都中央区京橋一丁目にて開発を進めていた超高層複合ビル「TODA BUILDING」を、2024年11月2日(土)に開業しました。これにより、2016年に都市計画決定の京橋一丁目東地区計画が完了し、街区「京橋彩区」もグランドオープン。オープニングセレモニーでは、中央区副区長、地元町会長並びに京橋彩区エリアマネジメント代表理事、戸田建設株式会社 代表取締役社長 大谷清介氏によるテープカットセレモニーのほか、江戸町火消による木遣りや纏振りなどの演舞が執り行われました。
「TODA BUILDING」について、戸田建設株式会社 大谷清介氏は「多様な価値を生み出し続けることはもちろん、これからも京橋の街とともに歩み、新たな文化を創出して参ります」と述べ、アートの力に満ちた新たな門出を賑やかに盛り上げました。
Photo: Ryohei Tomita
「TODA BUILDING」は、本社ビル建替えを機に、隣接街区と共同して都市再生特別地区制度(以下、特区)を活用し、特区テーマを「まちに開かれた、芸術・文化拠点の形成」と「街区再編、防災力強化、環境負荷低減」として、それぞれが超高層複合用途ビルを建設する大規模プロジェクトとして開発を進めてきました。
ビル共用部でのオフィスワーカーと芸術文化エリア利用者の交流を意図し、8~27階をオフィスフロア、1~6階を芸術文化施設と商業施設で構成する地下3階地上28階建ての超高層複合用途ビルとなっている「TODA BUIDLING」。「人と街をつなぐ」をコンセプトに、ミュージアム、ホール&カンファレンス、ギャラリーコンプレックス、創作・交流ラウンジ、ギャラリー&カフェを設けるほか、アート事業を含む様々なアートプログラムやイベントを展開することで、オフィスの枠を超えたアートとビジネスが交錯する場所を創出します。「TODA BUILDING」は、新たな芸術文化の発信地として、江戸期より多くの芸術資産が息づく京橋の文化的価値醸成に貢献し、街に開かれたビルとして、オフィスワーカーへの「アート&ウェルネス」を提供していくとのこと。
また、「TODA BUILDING」開業とともに、パブリックアートプログラム「APK PUBLIC Vol.1」がスタート。「APK PUBLIC」は、新進アーティストやキュレーターによる都市の風景を担う大規模な作品発表の場として、「TODA BUILDING」の共用空間を活用し、更新性のあるパブリックアートを展開するプログラムです。来街者やオフィスワーカーが日常的に作品のある空間を体感し、クリエイティビティが刺激されることで、視野の拡張をもたらし日々の生き方や働き方を豊かにしていくことを目指しています。
第1回は、国内外で活躍するキュレーターの飯田志保子氏を迎え、不確かな時代の閉塞感を未来志向のポジティブな展望に転換できるよう「螺旋の可能性ー無限のチャンスへ」をコンセプトに作品を展開します。
【開催概要】
会期:2024年11月2日(土)~2026年3月(会期終了日は未定/ビル休館日はご覧いただけません)
時間:7時~20時
会場:TODA BUILDING 広場、1-2Fエントランスロビー(東京都中央区京橋1-7-1)
入場:無料
主催:戸田建設株式会社
アーティスト:小野澤峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子
キュレーター:飯田志保子
■TODA BUILDINGオープニングイベント
<第1弾>Tokyo Dialogue 2024 トークセッション
開業直前の「TODA BUILDING」の工事仮囲を舞台に、今年10月に開催された屋外写真展「Tokyo Dialogue 2024」を、出展アーティスト、キュレーターと共に振り返ります。写真と言葉による対話を通して、変わりゆく都市の姿を描き出すこのプロジェクトも最終回を迎えた今年、改めてプロジェクトを通して私たちが思い巡らせてきた都市の過去、現在、未来へのつながりについて、それぞれの対話を通して考えてみたいとのこと。
【開催概要】
日 時:2024年11月30日(土) 14:00~16:30(受付13:30)
会 場:3F APK ROOM
登壇者: 今井智己(写真家)、堂園昌彦(歌人)、上田 良(写真家)、青柳菜摘(アーティスト・詩人)、鈴木のぞみ(写真家)、藤井あかり(俳人)
モデレーター: 小髙美穂(キュレーター)
定員:会場30名 ※オンライン配信あり
参加費:有料/作品集付き
主催・企画:T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO、戸田建設株式会社
オープニングイベント Tokyo Dialogue 2024 トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
<第2弾>APK PUBLIC Vol.1 トークセッション
「TODA BUILDING」の共用スペースでパブリックアート作品を展開するプログラム「APK PUBLIC Vol.1」の開催にともない、トークイベントを開催します。4名の参加アーティスト、キュレーターが一堂に介し、企画検討から作品制作、設置、展示にいたる過程の様々な試行錯誤の様子など、ここでしか語れない制作秘話を語り合います。
【開催概要】
日 時:2024年12月7日(土) 13:30~16:00(受付13:00)
会 場:4F TODA HALL & CONFERENCE TOKYO・カンファレンスルーム401-402
登壇者:小野澤 峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子(すべてAPK PUBLIC Vol.1 参加アーティスト) モデレーター: 飯田志保子(キュレーター)
定員:80名
参加費:無料 ※申込は11月7日開始予定。
オープニングイベント APK PUBLIC Vol.1 トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
<第3弾>APK STUDIES トークセッション
2025年2月にメンバー募集、6月に第1期がスタートする「APKSTUDIES」のプログラム紹介を兼ねてトークイベントを開催します。APK STUDIESのファシリテーターと、ロゴ制作に関わったデザイナーと共にロゴ制作の経緯を振り返り、「広報」の仕事をしているAPK STUDIES 第1期のゲストを加えて、参加者も共にコミュニケーションデザインや運営チームの共通認識に関する悩みを話し合いたいそうです。
【開催概要】
日 時:2025年1月18日(土) 14:00~15:30(受付13:30)
会 場:3F APK ROOM
ゲスト:大西隆介(direction Q 代表取締役/APK アートディレクション)、中田一会(APK STUDIES 第1期ゲスト)
モデレーター:青木 彬(APK STUDIESファシリテーター)
定員:20名
参加費:無料 ※申込は12月より開始予定。
オープニングイベント APK STUDIES トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
安藤忠雄が美術館として建築、1994年に竣工した「大阪文化館・天保山」
2025年4月13日から10月13日の期間に開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の会期に合わせて、安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山、黒川紀章建築の大阪国際会議場・中之島、西成、 船場、JR大阪駅エリアなど、大阪・関西地区の様々な場所で展覧会やアートフェア、アートプロジェクトを展開する国際アートイベント「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」が、2025年4月6日から10月13日まで開催予定です。
文化芸術・ 経済活性化や社会課題の顕在化を意味する「ソーシャルインパクト」をテーマに、大阪市内一帯を利用した関西発の文化芸術を世界に向けて発信するほか、ドイツや韓国、アフリカ諸国の機関とコラボレーションしたプロジェクトなど、アートを通じた国際交流を行います。また本芸術祭の財源の一部として、文化芸術分野への民間資金の活用促進を図るため、地方自治体と連携し、企業版ふるさと納税を活用します。
関西地区は、古くは千利休や江戸時代の上方文化など、芸術文化と産業でその歴史を牽引してきました。しかしながら近年、東京に文化リソースが集中しており、文化庁が「関西元気文化圏推進・連携支援室」を開所するなど、日本文化が集積・保存されている関西からの文化振興の必要性が唱えられています。2023年3月には文化庁が東京から京都に移転され、「地方創生」の一環として、新たな文化行政への展開を進めるうえで、関西地方は重要な役割を担っています。
2025年に開催される大阪・関西万博には、現在161の国や地域が参加を表明。大阪・関西地区に世界中から多くの人々が集う万博開催期間と並行して芸術祭を開催することで、日本の文化芸術を世界に広め、文化芸術立国の樹立に寄与すると共に、アートを通じた地域活性化や文化の発展に貢献したいと考えています。
「Study:大阪関西国際芸術祭」は、先にも述べたように、文化芸術・経済活性化や社会課題の顕在化を意味する「ソーシャルインパクト」をテーマとした大規模アートフェスティバルの開催を目指し、その実現可能性を検証するためのプレイベントとして、2022年より過去3回国際芸術祭を開催してきました。このアートの力は観光コンテンツとしての活用など、大阪・関西のみならず日本全国の地域経済活性化に寄与できるものです。
■地方創生の財源として松原市と連携し企業版ふるさと納税を活用
企業と地方双方にメリットがあり、最大で約9割の法人関係税が軽減
今回の芸術祭を活用した地方創生の財源として、松原市(大阪府)の企業版ふるさと納税が活用されます。企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は、国が認定した自治体の地方創生プロジェクトに対し企業が寄附を行った場合に、税制上の優遇措置が受けられる仕組みです。2020年度税制改正により、税額控除額の申請手続きの簡素化など大幅な見直しが実施されました。これにより寄附を行う企業の法人関係税の負担割合は最大約9割軽減されることとなり、今後、制度を活用する企業が増え、地方創生事業への民間資金の活用が進むと想定されます。また、大阪府松原市が窓口になることによって大阪市をはじめ、全国の企業も寄付することが可能なものとなります。
今回の芸術祭は、大阪・関西を起点にアートを世界に発信するという点で松原市に賛同いただきました。澤井宏文松原市長は、全国666市区町村が参加する万博首長連合会長及び、近畿の111市で構成される近畿市長会会長として、アートを通して地域活性化を目指しています。本取り組みを通じて、文化芸術産業を関西から盛り上げていけるような芸術祭の実現を目指します。
■安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山、黒川紀章建築の大阪国際会議場、そして、これまでの西成エリア、船場エリア、JR大阪駅エリアなど大阪一帯を会場に「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」 を開催
1. 安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山では、ドイツの研究機関と共に、「人間とは何か。」を問う“Reshaped Reality(仮)”を開催
建築家・安藤忠雄が美術館として建築、1994年に竣工した「大阪文化館・天保山」(旧サントリー・ミュージアム)会場ではドイツの研究機関 ”Institut für Kulturaustausch - The Institute for CulturalExchange”と共に、「Reshaped Reality〜ハイパー・リアリスティック彫刻の50年〜(仮)」展を、2025年4月より開催します。
ハイパー・リアリスティック彫刻は、人体や身体の一部の形態、輪郭、質感をリアルに表現し、それによって鑑賞者を視覚的錯覚に陥らせます。1960年代後半から、さまざまな現代アーティストが、モデリング、鋳造、ペインティングといった伝統的な技法を駆使して、人体の物理的な実物そっくりの外観に基づくリアリズムの表現によってもたらされる哲学的な発想や新しい芸術体験に挑戦してきました。
本展では、過去50年間におけるハイパーリアリスティック彫刻における人物像の発展を展示し、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博年に「人間とは何か。」を考察します。
2. 黒川紀章建築の大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて日韓合同の国際アートフェア「Study × PLAS : Asia Art Fair」を開催
日本・韓国の国交正常化60周年を記念し、韓国で2016年に誕生した現代アートフェア「Plastic Art Seoul(通称、PLAS)」と株式会社アートローグが共同開催する国際アートフェア「Study × PLAS : Asia Art Fair」を、黒川紀章建築の大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて開催します。本アートフェアを開催する同じ週には、1000年以上の歴史を誇り、毎年130万人もの人が訪れる日本三代祭の一つ「天神祭」が大阪天満宮・大川を中心に開催されます。
また、複数フロアで展開する同会場では、前回に続きクリエイティブエコノミー領域のスタートアップを対象としたビジネスコンテスト『StARTs UPs』を開催するとともに、これまで、フランス、ドバイ、メキシコなど海外開催で旋風を巻き起こしているNFTイベント「TOKYO SOLID」を主催するNOX Galleryが国内で過去最大級の国際的大型NFTカンファレンス「NFT.OSAKA(仮)」を開催します。音楽とデジタルアートに包まれるようなイマーシブ空間でのショー、AI、ジェネラティブアート、Web3など最先端のテクノロジー表現の展示・販売や、Web3分野の国内外のトップランナーによるカンファレンスやネットワーキングの場となります。
3. 大阪の歴史を紡ぎ出す西成エリア・船場エリアもこれまでに引き続き芸術祭を開催
釜ヶ崎芸術大学のアートに出会う日常に宿泊できる“Our Sweet Home”
森村泰昌(美術家)× 坂下範征(元日雇い労働者、釜ヶ崎芸術大学在校生)
かつて高度経済成長期の肉体労働に従事するために集まってきた労働者たちが住まう場所だった釜ヶ崎(西成エリア)は、近年は高齢化や外国人の増加、あるいは不動産投資による地価上昇など、さまざまなソーシャルな事象に向き合っているエリアです。本芸術祭では、立ち上げ当初から、このエリアのアートの力に注目し、多様な出会いを生み出してきました。
2025年、本芸術祭の会期中も、NPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する釜ヶ崎芸術大学、および「kioku手芸館 たんす」を拠点に展開するファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」等と連携し、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博年に、新しい出会いと創造の場が日常になるような活動を生み出していきます。
また、かつて物流の拠点となり全国から人と富と情報そして、文化芸術が集積する問屋街として栄えた船場エリアにある船場アートサイトプロジェクトの拠点「船場エクセルビル」(大阪市中央区久太郎町3-2-11)。地域の共創的なまちづくりと連動しながら「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」の重要な拠点として活用します。
4. JR西日本グループと横断的なワーキングチームを発足、本芸術祭の多様なプロジェクトへの活用を検討
本芸術祭.vol3 の「ルクアイーレ」展示風景。野原邦彦作品《雲間》
「拡張される音楽 Augmented Music」の佐久間洋司
前回開催の本芸術祭.vol3では、JR西日本グループと協力し、JR大阪駅直結のランドマーク「ルクアイーレ」施設内にてアーティスト・野原邦彦氏の大規模インスタレーションや、万博大阪パビリオンディレクターの佐久間洋司氏キュレーションによる「拡張される音楽 Augumented Music」展を開催し、領域をこえて幅広い層に大きな反響がありました。人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かし、魅力的なまちづくりと持続可能で活力ある未来を目指すJR西日本グループと本芸術祭は、2025年の開催に向けて横断的なワーキングチームを発足。JR西日本グループの多様な事業の施設や空間を本芸術祭の会場やプロジェクトに活用していく予定です。
次に、「Study:大阪関西国際芸術祭2025」の第1弾アーティストをご紹介します。
「大阪・関西万博」と「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」の開催半年前、第1弾として28組のアーティストを発表
Patricia Piccinini, The Comforter,2010 ©Patricia PiccininiCourtesy of Olbricht Collection and the artist
©TonyMatelli Courtesy of the artist and Institute for Cultural Exchange, Tübingen
「Study:大阪関西国際芸術 2025」の参加アーティストとしては、実物と遥かに異なる大きさの作品で見る者に違和感を植え付ける”ロン・ミュエク(オーストリア)”、異種交配によってつくり出されたかのような見たこともない生命体をリアルな存在感で表現する”パトリシア・ピッチニーニ(シエラレオネ )”、ユーモラスでありながら現代社会の矛盾を喚起する視点を投げかける”マウリツィオ・カテラン(イタリア)”らが参加します。
以上、いよいよ5カ月後に迫った「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」についてご紹介しました。アートを起爆剤として大阪・関西地区が盛り上がっていく様に、ぜひご期待ください。
■「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」
開催期間: 2025年4月6日~10月13日
会場:大阪・関西万博会場内、大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)・ベイエリア、中之島エリア(大阪国際会議場)、船場エリア、西成エリア、JR大阪駅エリア、他(2024年10月時点)
【主催】大阪関西国際芸術祭実行委員会
概要 | Study:大阪関西国際芸術祭 2025
【協力・後援】 ※前回実績
大阪府・大阪市、公益社団法人関西経済連合会、大阪商工会議所、一般社団法人関西経済同友会、 一般社団法人 関西領事団、公益財団法人大阪観光局、辰野株式会社、他
総合プロデューサー:鈴木大輔(株式会社アートローグ代表取締役CEO)
石牟礼道子原作、志村ふくみが衣装を担当した、金剛流の能楽「沖宮」の際に着用された着物
1984年8月26日に滋賀県立近代美術館として開館した「滋賀県立美術館」。日本画家の小倉遊亀(滋賀県大津市出身)や染織家の志村ふくみ(滋賀県近江八幡市出身)のコレクションは国内随一を誇っています。2023年度末時点の収蔵件数は、日本画・郷土 1,291件、現代美術 567件、アール・ブリュット 731件の合計2,589件です。
本館では、しーんと静かにする必要はなく、おしゃべりしながら過ごすことができます。目が見えない、見えづらいなどの理由でサポートを希望される場合や、そのほか来館にあたっての不安をあらかじめ伝えていただいた場合には、事前の情報提供や当日のサポートの希望に可能な範囲で対応してくれるなど、鑑賞者に大変優しい美術館です。
そんな滋賀県立美術館にて、紬織の人間国宝である染織家、志村ふくみの生誕100年を記念して、故郷滋賀で約10年ぶりとなる個展「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」が、2024(令和6)年11月17日まで開催中です。
滋賀県近江八幡市出身のふくみは、30代の頃、実母の影響で染織家を志し、植物染料による彩り豊かな染めと、紬糸(節のある絹糸)を用いた紬織に出会います。特定の師にはつかず、自らの信念を頼りに道を進むうちに、生命力あふれる色の表現、文学や哲学といった多彩な芸術分野への探究心に培われた独自の作風が評価され、1990(平成2)年、紬織の人間国宝に認定されました。
本展では、国内屈指の規模を誇る滋賀県立美術館収蔵の志村ふくみ作品と館外からの借用作品、作家ゆかりの資料など合わせて80件以上を展示し、初期から近年までの歩みをたどります。合わせて、ライフワークである「源氏物語シリーズ」や、ふくみの心のルーツであり、制作においても重要な位置を占める滋賀をテーマにした作品を紹介します。
また、ふくみは染めや織りの仕事と共振させるかのように言葉を紡ぎ、第10回大佛次郎賞を受賞した初の著作『一色一生』(1982(昭和57)年)など、これまで20冊以上の著作を刊行しています。本展では随筆家としての活動にも注目し、染織作品や故郷、仕事への思いを語るさまざまな言葉をご紹介します。
ふくみは、本展に以下の言葉を寄せています。
「百歳を迎えた今、ゆかりの深い滋賀県立美術館で展覧会を開催していただくことは大きな喜びでございます。同時に染織家として責任も感じています。
私の生きた一世紀と、次の一世紀を思うとその違いに慄然といたします。
地球の環境全てが大きく変わってしまいました。
琵琶湖を藍甕(あいがめ)に例えるなら、この先も美しい色彩がそこから生まれ出ることを祈って止みません」。
次に、四章で構成される展示についてご紹介します。
第一章 近江八幡の水辺から
1924(大正13)年、琵琶湖畔の町である滋賀県近江八幡で小野元澄(もとずみ)、豊(とよ)の間に次女として生まれたふくみは、幼い頃に実父の弟、志村哲(さとる)夫妻の養女となりました。やがて自身の出自を知ったふくみは、かつて京都で民藝運動に携わったこともある実母の手引きによって、1955(昭和30)年より故郷で染織家としての活動を始めます。特定の師を持たず、素朴ながらも独自の感性に裏打ちされた作品が近江八幡の工房で生み出され、1957(昭和32)年、第4回日本伝統工芸展に初出品で初入選を果たします。
随筆家としてのふくみの歩みも、またかの地から始まったといえるでしょう。ふくみが最初にまとまった文章を発表したのは1954(昭和29)年、早世した実兄、小野元衞(もとえ)について記した「兄のこと」。近江八幡の実家で、元衛の枕元に寄り添った看病の日々が綴られています。
本章では、日本伝統工芸展に初出品し染職家として歩み始めた近江八幡時代の紬織作品と、関連する言葉を紹介します。
《方形文綴織単帯》が日本伝統工芸展に入選し、染職家としてのデビューを飾ったふくみでしたが、引き続き特定の師にはつかず、地元の職人に教えを乞いながら、手探りで技術を身につけようともがく毎日でした。そのような日々の中で、ふくみは緑濃い草むらや竹やぶの薄暗がりを思わせる1領を織り上げます。実母との何気ない会話の中から《鈴虫》と命名された本作は、晩夏の近江八幡の情景を思わせる、初期の代表作です。
第二章 広がる色と言葉の世界
1968(昭和43)年、ふくみは近江八幡から京都嵯峨に工房を移します。この時期、多くの交流や旅などを通してふくみの視野は一気に広がりました。やがて生命力あふれる色の表現、文学や哲学といった多彩な芸術分野への探究心に培われた独自の作風が評価され、1990(平成2)年には、いわゆる人間国宝である重要無形文化財保持者(紬織)に認定。2013(平成25)年には、染織を学ぶ場として「アルスシムラ」を設立し、後進の育成にあたるようになります。
旺盛な染織作品の制作と歩調を合わせるかのように、言葉による表現にも積極的に取り組みました。1982(昭和57)年に出版された随筆集『一色一生』(求龍堂)は、翌年に第10回大佛(おさらぎ)次郎賞を受賞。自身が興味を抱いたさまざまな領域を行き来しながら紡ぎ続ける言葉は、いまも多くの読者を魅了しています。
本章では、より独自性の強い作風へと展開を見せた、京都嵯峨の工房への転居後から現在に至るまでの作品を展示します。
何本かずつ束になったロウソクの一群が、藍の地の上に炎を揺らめかせています。イタリア旅行の際、ふくみは田舎の教会でミサが行われているところに遭遇しました。祈りを捧げる人々を取り囲むように、堂内を埋め尽くしたおびただしい数のロウソクの炎が印象的だったといいます。本作は、その旅行の体験をもとに制作されました。炎とロウソクには絣の技法が生かされ、炎の背後に白いぼかしを入れることで、炎の揺らぎを表現しています。
第三章 王朝の世界に遊ぶ 「源氏物語シリーズ」より
ふくみが京都で工房を構えた嵯峨には、歴史ある名刹が点在しています。『源氏物語』の主人公、光源氏のモデルと言われる平安時代の実在の人物、源融(みなもとのとおる)が眠る清凉寺もその一つです。ある日、散歩の途中に清凉寺を訪れたふくみは源融の墓所の存在を知り、遠い王朝の世界が一気に身近に感じられるようになったといいます。そもそも『源氏物語』は、作者である紫式部が近江石山寺に参籠(さんろう)し、琵琶湖に映る月を眺めていた際に物語の着想を得たことが執筆のきっかけと伝わります。古典文学への造詣が深く、滋賀と京都、両地ともにゆかりの深いふくみにとって、『源氏物語』が深く興味を惹かれるテーマであったことは想像に難くありません。
本章では、ふくみがライフワークとして織りつなぐ「源氏物語シリーズ」から9件を抜粋し、ご紹介します。
琵琶湖がテーマの「湖水シリーズ」の最初期に制作された、記念碑的な1領。ふくみが、「ふと後をふりむくと、湖全体に夕陽が映え、細波が黄金色にきらめいていた。山の端に入日するほんの数刻、湖は燃えるように茜色に染っていた。(「彩ものがたり 湖上夕照」『芸術新潮』1982年12月号)と回顧する琵琶湖の夕焼けの情景が、濃紺地に朱や茶などの色を織り込み表現されています。
第四章 近江 百年の原風景
「琵琶湖は私にとって単なる風景ではない。肉親や愛する人などの終焉の地であり、鎮魂の思いのする湖、いわば私の原風景というべきところである。」(「自然の風景、心象風景を織る」『伝書 しむらのいろ』求龍堂 2013年)と語るように、ふくみにとって琵琶湖は、実兄の元衛(もとえ)をはじめとする大切な人を見送り、人生の再出発を決意した祈りと鎮魂の地でもありました。故郷の近江をこよなく愛したふくみは、京都に工房を移転した後も制作に行き詰まると電車に飛び乗り、琵琶湖を眺めに出かけたといいます。
展覧会の結びとなる本章では、本年100歳を迎えたふくみの原風景である近江、琵琶湖がテーマの作品群をご紹介します。また、植物染料によって染められた「色糸(いろいと)」のインスタレーションも展示。ふくみが故郷で出会い心惹かれた、織り上げられる前の状態の糸の艶や質感をぜひ確かめてみてください。
以上、滋賀県立美術館にて開催中の、紬織の人間国宝である染織家、志村ふくみの生誕100年を記念した個展「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」をご紹介しました。経糸と緯糸が交差して織り出される紬織のように、色と言葉との出会いを美術館でぜひお楽しみください。
■滋賀県立美術館 開館40周年記念「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」
会期:【前期】10月8日(火)~10月27日(日)
【後期】10月29日(火)~11月17日(日)
※会期中に展示替えを行います。
休館日:毎週月曜日(ただし祝休日の場合には開館し、翌日火曜日休館)
開場時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
会場:滋賀県立美術館 展示室3
観覧料:一般1,200円(1,000円)
高校生・大学生800円(600円)
小学生・中学生600円(450円)
※お支払いは現金のみ
※( )内は20名以上の団体料金
※企画展のチケットで展示室1・2で同時開催している常設展も無料で観覧可
※未就学児は無料
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳をお持ちの方は無料
主催:滋賀県立美術館、京都新聞
特別協力:都機工房
後援:エフエム京都
企画:山口真有香(滋賀県立美術館 主任学芸員)
⽇本有数のビジネス街である⼤⼿町・丸の内・有楽町(⼤丸有)から、社会や経済の未来をアートによるビジョンメイキングを交えて考える都市型のカンファレンスイベント「FUTURE VISION SUMMIT 2024」が2024年11月15⽇まで、⼤⼿町・丸の内・有楽町といった⼤丸有エリアの丸ビル、国際ビル等の複数拠点にて開催中です。
環境問題や資本主義経済の行き詰まり、紛争に格差、予期せぬ疫病や自然災害など、私たちが考える様々な課題を乗り越え、社会経済の新たなモードを築いていくには、ヴィジョナリーやフューチャリストと呼ばれるリーダーたちに見られるクリエイティブ・マインドを持って、まだ見ぬ未来像を描く力が求められていると、FUTURE VISION SUMMITは考えています。その中で「アート」は問題提起力やヴィジョンメイキング、価値創造の源泉とも言え、今後の社会において必要不可欠と言えます。
このような背景において、より良き未来社会を考えていくべく、「アート」を軸に、SDGs、環境問題などの社会課題やこれからの経済について考え、学び合う都市型のイベントがFUTURE VISION SUMMIT 2024です。
東京の国際競争力向上のために、「ビジネスの集積地」である⼤丸有地区がどのような街づくりをするべきかを考えたとき、貨幣経済から共感経済への時代転換を見据え、才能ある尖った人材が惹き付けられる面白い街をつくることで、社会や企業のクリエイティビティやイノベーション力の向上を図りたいとのこと。
本イベントは、リーダーたちのヴィジョンが⽰される「カンファレンス」と、アートを媒介とした多彩な実践・実験的な取り組みを展⽰・ワークショップで紹介する「ショーケース」の2セクションで構成され、今回は「ショーケース」に着目してご紹介します。
1.『どうすれば都市で“ガラス”はサーキュレーションできる?』
普段意識することの少ない建築物のガラス。ですが、周りを見渡すと都市にはたくさんのガラスが使用されています。これらのガラスは建築物の解体後、どこにいくのでしょうか? 実は、建材ガラスのほとんどは埋め立てられています。
ガラスは何度でも同じガラスとしてリサイクル可能な素材であり、今都市づくりに取り組むにあたり、建築ガラスの循環を考えることは重要なアジェンダです。こうした課題認識をともに持つ、世界的なガラスメーカーAGCと丸の内エリア(⼤⼿町・丸の内・有楽町)というビジネス街で、アーティストの活動を呼び込みエリアのサステナビリティ向上に取り組む「有楽町アートアーバニズム (YAU)」は、「都市における素材サーキュレーション」を思索するプロジェクトを2023年秋にスタートしました。
本プロジェクトでは、鉱山や工場への訪問、長い歴史を持つガラスという素材の探求などを、アーティストの内海昭⼦、磯⾕博史とともに実施。このリサーチをベースにしたインスタレーションを展示しています。
2.『クリエイティブ・エコシステムが⽣み出す資本を超えた価値とは?』
ニューヨークにある美術館「NEW MUSEUM」の「新しい芸術、新しいアイディア」を軸とする活動から、2013年に設⽴された「NEW INC」は、アートやデザイン、テクノロジー、サイエンス、起業家といった領域横断的なインキュベーションプログラムを運営しています。これまで600組以上が参加し、27.3万ドルの資⾦調達に寄与してきたプログラムから、今回ナット・デッカーとアミーナ・ハッセンといった2⼈のアーティストを招き、その⼀端を展⽰で体感することができます。
⽇常⽣活において⾞いすを使⽤するナット・デッカーは、クィア、障害を持つアーティストとして、バーチャリティ・アクセシビリティを探究しています。集団的なケアのネットワークや解放から引き離された身体・精神の政治性に着目してリサーチを行い、作品を制作。よりアクセス可能で収容力を持つ実践としてテクノロジーを用い、コンピューターはそれを実現させるための補助的デバイス、また搾取と削除のパターンを映し出す方法に論争を要する、潜在的な空間として捉えています。
本作品は、障がい者の身体の動きと静止、親密なケアのダイナミクスをデジタル上で明らかにしています。肉体の記憶と日常的な動作の魅力を映し出すことで、単純に見えるケアが特に他者の手によって操作されるプラスチックや金属の義肢に具現化するとき、いかに親密さの形として現れるかを示しています。
アミーナ・ハッセンは、都市プランナー・エデュケーター・アーティストとして、様々な環境における公平性を前面に押し出したプロジェクトに情熱を注いでいます。2024年、ニューヨーク州よりクリーン・エネルギーの先駆者として指名され、恵まれないコミュニティにおけるクリーン・エネルギーのプロジェクト開発を専門とする独立系コンサルティング会社の創立者でもあります。
2023年6月、ニューヨーク市の空は、まるで黙示録を思わせるビビッドな琥珀色の「もや」に覆われました。制御不能となった山火事はカナダから瞬く間に流れ、煙は分厚く舞い上がって空気を乾燥させ、しばしニューヨークの上空は最悪な環境になりました。
本インスタレーションの焼けたような琥珀色のフィルムは、当時の記憶を呼び起こす視覚的装置になっています。カーラジオから流れる番組のような音声が、ニューヨーク市民の山火事の経験や空気との関わりを伝えています。
本作品は、大気汚染の主な原因である車社会のあり方へのジェスチャーであり、空気そのものの偏在性を通して、それに国境や統治はなく、私たちの空は繋がっていることを知らせてもいます。
3.《Air on Air》
インターネットを介して、遠隔地に「息」を届ける参加型インスタレーション。鑑賞者がデバイスに息を吹きかけると、離れた場所でシャボン玉が飛び出し、空へと舞う様子をリアルタイムの一人称視点で、画面で眺めることができます。
パンデミックを経て、移動や距離の捉え方が変化した今、この体験は画面の「向こう」に広がる世界との新たな繋がり方を示すとともに、空気や風といった見えない存在を再認識する機会となります。
4.《経験の共有》
昨年2023年度より、YAUはアーティストの田中功起とともに、「経験の共有」プロジェクトを進めています。⼤丸有にある様々な会社組織に所属するオフィス・ワーカーが、社会生活で出会う現実(育児、介護、災害、人間関係など)、普段ならば友人や同僚にも話さないかもしれない個人的な経験をインタビューを通して話してもらい、シナリオを制作。
本展では、そのシナリオをもとにAI音声を使用した作品を発表しています。「誰かの声は、僕の声でもあり、もしかするとあなたの声なのかもしれない」。
5.Mobillity ZERO / MAYU4X
グローバルな自動車部品メーカーの株式会社デンソーでは、先進的なシステム・製品を提供してきた企業として、AIなどの技術進化によって変容する未来のライフスタイルを考える「Mobillity ZERO プロジェクト」を、東京大学先端科学技術研究センターと共同して取り組んできました。
EV(電動車)や自動運転にとどまらず、移動の概念そのものを再定義するような技術開発もスコープにおかれています。
その試作機を、実証実験の一環として丸の内の「Personal Wellness Clinic Marunouchi」に設置。五感を刺激することにより、人の意識や行動の変容がどのように起こるかという研究からつくられた「MAYU4X」では、光環境変化から音声ガイドにそった心身の健康や、パフォーマンス向上を図るメディテーションプログラムを体験できます。
光による強い刺激と暗闇の交互の繰り返しで、日常から脱却しリラックスした状態で、音声ガイドに従い自身の心や身体に目を向けて客観視することで、ストレス軽減や集中力向上などを狙っています。所要時間は、約13分です。
アートを軸に未来社会を考える、ビジネス、サイエンス、エンジニアリングの交差点である「FUTURE VISION SUMMIT」。ぜひ、⼤丸有での本イベントに足を運んで、未来に向けてのポジティブ思考を実践してみてはいかがでしょうか。
■FUTURE VISION SUMMIT 2024
会期:2024年11⽉13⽇(⽔)・14⽇(⽊)・15⽇(⾦)
会場:丸ビル、国際ビル(YAU CENTER、1階エントランス、121区、124区)、三菱ビル、他
主催:「FUTURE VISION SUMMIT 2024」実⾏委員会
(構成団体:⼤丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)、Forbes JAPAN、「有楽町アートアーバニズム (YAU)」実⾏委員会
特別協力:三菱地所株式会社
協力:東京藝術大学 芸術未来研究場
執筆者:遠藤友香
アートバーゼルとの提携および⽂化庁の協⼒を受け、⼀般社団法⼈コンテンポラリーアートプラットフォームが主催する、東京における現代アートの創造性と多様性を国内外に発信する年に⼀度のイベント「アートウィーク東京(略称:AWT)」が、2024年11⽉7⽇(⽊)から10⽇(⽇)まで開催中です。今年は東京を代表する53の美術館・ギャラリーが、それぞれ多様な展覧会と共に参加者を迎え、各施設を無料のシャトルバス「AWT BUS」がつなぎます。
会期中は「買える展覧会」である「AWT FOCUS」や映像作品プログラム「AWT VIDEO」、建築×⾷×アートのコラボレーションを感じられる特設の「AWT BAR」など、AWT 独⾃の企画も行われます。様々な体験を通じて東京のアートの「いま」を感じられる4⽇間です。
また、都内のアートアクティビティーの体験を創出する「アートウィーク東京モビールプロジェクト」を、東京都とアートウィーク東京モビールプロジェクト実⾏委員会の主催により実施します。
(左から)山本美月さん、鈴木京香さん
10⽉30⽇(⽔)に開催されたAWTの発表会では、AWTのアンバサダーに就任した俳優・鈴⽊京⾹さん、そしてスペシャルゲストとして俳優・モデルの⼭本美⽉さんを迎え、アートをテーマにしたトークセッションが実施されました。⼭本美⽉さんから⼤のアート好きである鈴⽊京⾹さんへ「アートを購⼊するにはどこを⼊⼝したらよいのでしょうか」という質問からトークが繰り広げられました。
アートを購⼊するきっかけ、気になる展覧会は?
鈴⽊京⾹さんは、「私は29歳のときに初めてオークションで絵を購⼊しましたが、アートを購⼊してみたいという⽅は、『アートウィーク東京』のような機会があれば、お散歩のついでに⾊んなギャラリーを巡って、新しいアーティストと出会い、気に⼊った作品を招き入れることができるんじゃないかなと思います。私たちの⼤好きな都市、東京がアート⼀⾊になる期間、ぜひ皆さんにも秋を満喫しながら、アートを楽しんでいただきたいです」と語りました。
⼭本美⽉さんは、「今回お招きいただいて、はじめて『アートウィーク東京』を知りました。アートはハードルが⾼いというイメージがあるけれど、この機会に⾊んな美術館やギャラリーを廻ってみて、アートをもっと近く、深く知っていけたらなと思います。託児所サービスがあって、ただ預かっていただけるだけじゃなく、アートに触れさせてもらえるというのが、⾃分だけじゃなく⼦供も⼀緒に楽しめて、とてもいいなと思いました」と述べました。
次に、アート、建築、⾳楽、ファッション、ダンスなど、⾒どころ満載のAWTについてご紹介します。
1.AWT BUS
会期中にアートスペースをつなぐ無料のシャトルバス「AWT BUS」(東京都庭園美術館)
AWTは、都内53の美術館・ギャラリーによる展覧会とAWTプログラムを⾃由に巡っていただくイベントです。会期中に参加施設を6つのルートで巡回する「AWT BUS」は、どなたでも無料でご利⽤になれます。
AWT BUSについて | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■「Berlin‒Tokyo Express」
東京都とベルリン市の友好都市提携30周年を祝し、AWT BUSでは「Berlin‒Tokyo Express」と題したエキシビションを開催。ルートごとに1⼈ずつ、東京やベルリンにゆかりのあるアーティストが作品を展開します。
2.AWT FOCUS
AWT FOCUS「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」 会場外観(⼤倉集古館、東京) Photo by Kei Okano. Courtesy Art Week Tokyo.
AWT FOCUS「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」 展⽰⾵景(⼤倉集古館、東京) Photo by Kei Okano. Courtesy Art Week Tokyo.
美術館での作品鑑賞とギャラリーでの作品購⼊というふたつの体験を掛け合わせた「買える展覧会」。2024年は森美術館館⻑で国⽴アートリサーチセンター⻑の⽚岡真実氏を監修に迎え、「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」と題した展覧会を開催します。⽚岡氏が全出展作家の解説を執筆した無料のカタログも必読です。
AWT FOCUS | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■キッズ・ユース向けガイドツアー&ワークショップ
「AWT FOCUS」を題材に、「親⼦向け(⼩学校低中学年)」「⼩学⽣向け」「中学⽣以上の⽅向け」の3種類のガイドツアーとワークショップを実施。ワークシートやガイドによる問いかけを通して⼦どもたちの⾃由な発想や想像⼒を引き出し、美術鑑賞の楽しみ⽅の発⾒をサポートします。
キッズ・ユース向けガイドツアー&ワークショップ | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■乳幼児向け臨時託児室
「AWT FOCUS」会場の⼤倉集古館地下1階に、乳幼児を対象としたバイリンガル対応の臨時託児室を開設。お⼦さまをただお預かりするだけでなく、アーティストが⼿がけた絵本の読み聞かせや作品づくりを通してアートと触れ合う機会を提供します。
乳幼児向け臨時託児室 | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
3.AWT VIDEO
2023年度の「AWT VIDEO」の解説の様⼦
AWT 参加ギャラリーのアーティストの映像作品を厳選して上映するビデオプログラム。2024年はニューヨークのスカルプチャーセンターのディレクター、ソフラブ・モヘビ氏が監修を務め、蜷川実花氏 with EiMや加藤翼氏ら13名のアーティストによる14作品を上映します。
AWT VIDEO | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
4.AWT BAR
⼾村英⼦氏による「ランドスケープがつくるBAR」の空間 © eiko tomura landscape architects
EMMÉ・延命寺美也氏によるフード
「AWT BAR」国内外のアートファンが集う憩いの場。ランドスケープアーキテクトの⼾村英⼦氏が設計を、「ゴ・エ・ミヨ 2023」でベストパティシエ賞を受賞した⻘⼭「EMMÉ」の延命寺美也氏がフードを⼿掛けます。 荒川ナッシュ医氏、⼩泉明郎氏、束芋氏が考案したカクテルも注⽬です。
AWT BAR | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
5.TOMO KOIZUMI×コンテンポラリーダンス
「TOMO KOIZUMI」デザイナーの小泉智貴氏
コンテンポラリーダンサー/振付家の⽔村⾥奈氏
ラッフルを⼤胆にあしらったドレスで知られるファッションブランド「TOMO KOIZUMI」と、コンテンポラリーダンサーで振付家の⽔村⾥奈氏が、「AWT BAR」を舞台にコラボレーション。AWTがアートバーゼルと共催するこのイベントでは、⽔村氏がTOMO KOIZUMIの⾐装をまとい、パフォーマンスを披露します。
TOMO KOIZUMI×コンテンポラリーダンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
6.サウンドインスタレーション
AWT BARを⾳で彩るサウンドインスタレーション。作曲はリズムアンサンブル・goatの主宰で電⼦⾳楽ソロプロジェクト・YPYとしても知られる⽇野浩志郎氏が手掛けます。会場に点在する14のスピーカーから流れる⾍や⿃の声は、フィールドレコーディングを使わず、すべて電⼦⾳や楽器⾳などで構成されています。⽇野氏が再解釈した「都市のランドスケープ」に⽿を澄ませてみてください。
7.パフォーマンス
11⽉9⽇(⼟)と10⽇(⽇)には、数回にわたってライブパフォーマンスが⾏われます。⾳楽家・打楽器奏者の⾓銅真実氏と⽇本とカナダをルーツにもつシンガーソングライターのジュリア・ショートリード(Julia Shortreed)氏が、ランドスケープとサウンドインスタレーションを使ったサイトスペシフィックなパフォーマンスを披露します。
場と人をつなげるサウンドインスタレーション&パフォーマンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
8.《TO SEE THE WIND》
Photo by Yuko Torihara
11⽉8⽇(⾦)と9⽇(⼟)には、東京都とベルリン市の友好都市提携30周年を祝したプログラム「Berlin‒Tokyo Express」の⼀環として、アーティストの上⽥氏が特別な茶会を開催。参加者が、まるで露地(茶室に⼊る前の庭)を歩いて⽇常を離れるかのような体験を提供します。
上田舞による茶会パフォーマンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
9.AWT TALKS
AWT TALKS | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■シンポジウム
スザンヌ・プフェファー氏 Photo by picture alliance/dpa
⽚岡真実氏 Photo by Akinori Ito
ソフラブ・モヘビ氏 Photo by Julian Abraham “Togar”
私たちは他者をどのように想像しているのか?そして、他者は私たちをどのように想像しているのか? AWT TALKのシンポジウムでは、フランクフルト近代美術館(MMK)館⻑のスザンヌ・プフェフ ァー氏、「AWT FOCUS」監修の⽚岡真実氏、そしてニューヨークのスカルプチャーセンターディレクターで今年の「AWT VIDEO」監修を務めるソフラブ・モヘビ氏が登壇します。
シンポジウム | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■オンライントーク
アーティストや美術史家、キュレーター、批評家、クリエイターなど、各分野の第⼀線で活躍する専⾨家らによるレクチャーやディスカッションをオンラインで無料で配信。2024年はこれが初となった村上隆氏と⼤⽵伸朗氏によるトークが公開されているほか、⽑利悠⼦氏とミン・ウォン氏によるトークと美術史学者の中嶋泉氏によるレクチャーを公開。
オンライントーク | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■ミートアップ
現代アートの作品をコレクションしてみたい⼈を対象にした3セッション構成のプログラム。世界最⾼峰のアートフェアである「アートバーゼル」とのコラボレーションのもと、3⽇間にわたってアート鑑賞や購⼊の⽅法から世界のアートワールドの最新情報、コレクションの傾向までを⽴体的にとらえる⼿引きとなるツアーやトークを実施します。
ミートアップ | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
その他のプログラム
10.TOKYO HOUSE TOUR
「塔の家」設計:東孝光氏 © Nacása & Partners
「花⼩⾦井の家」設計:伊東豊雄氏 © Ohashi Tomio
東京の街に佇む名建築を巡る建築ツアー。コースの監修はプリツカー賞などの受賞歴をもつ建築ユニット「SANAA」の共同設⽴者で、東京都庭園美術館館⻑を務める建築家・妹島和世氏です。建築家・東孝光氏が1966年に設計した東京都⼼の住宅「塔の家」と、建築家・伊東豊雄氏が1983年に設計した東京郊外の住宅「花⼩⾦井の家」を訪ねます。
妹島和代氏コメント
「現在の東京には素晴らしい小住宅が多く存在しています。それらは戦後、個人事業として設計を営む建築家の設計によって建てられた庶民の家です。そうした小住宅群は、戦後の東京の暮らしをいまに伝える貴重な財産でありながら、同時に日本近代建築史の中で公共建築とともに存在感を示し、日本の近代建築を象徴する存在として世界で高く評価されてきました。住宅建築がこれほど多く集まる街は、世界的に見ても東京以外にありません。
しかし現在、高齢化をはじめとする様々な理由により、そうした建築物の維持が難しくなってきています。例えば、ヨーロッパでは戦後に建てられた住宅建築の多くは集合住宅であり、それらは地方自治体によって保存されながら現在も大切に使われていますが、日本の小住宅群はすべて民間で作られたものであるために、その保存と継承の困難さが現実的に大きな問題になっているのです。そこで、そうした小住宅に新たな使い方を与え、それらを東京の、そして日本の財産として継承し、みんなで守っていけたら良いのではないかと考え、このプログラムを企画するに至りました。
今回のツアーはその1回目のテストケースとして、建築とその保存継承、そして東京の暮らし全般に関心のある方たちを対象に、東京都心に建つ住宅と、まだ自然が残る郊外に建つ住宅のふたつを取り上げます」
TOKYO HOUSE TOUR | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
以上、AWTについてご紹介しました。ぜひ、東京における現代アートの創造性と多様性を体感しに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■アートウィーク東京(略称:AWT)
会期:2024年11⽉7⽇(⽊)〜10⽇(⽇)(4⽇間) 10:00〜18:00
会場: 都内53の美術館/インスティテューション/ギャラリー AWT FOCUS、AWT BARほか各プログラム会場
主催: ⼀般社団法⼈コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携: アートバーゼル(Art Basel)
特別協⼒: ⽂化庁 アートウィーク東京モビールプロジェクト
■アートウィーク東京モビールプロジェクト
会期: 2024年11⽉7⽇(⽊)〜10⽇(⽇)(4⽇間) 10:00〜18:00
主催: 東京都/アートウィーク東京モビールプロジェクト実⾏委員会
料⾦: AWT BUSの乗⾞無料。 参加ギャラリーの⼊場無料。参加美術館ではAWT会期中に限り所定の展覧会にてAWT特別割引適⽤。 AWT FOCUSの⼊場⼀般 1,800円、学⽣・⼦供無料。
執筆者:遠藤友香
株式会社ヘラルボニーが、初めて主催した国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ 2024)」。同社は、障害のある方がひとりの作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いを込めて、「HERALBONY Art Prize 2024」を創設しました。「国籍や年齢はアンリミテッド!」であるとし、世界中の障害のある表現者を対象として、今年1月31日「異彩(イサイ)の日」から3月15日の期間中、世界28カ国・924名のアーティストから総数1,973点の作品を応募。作家のキャリアを新たな高みへと押し上げ、従来の「障害とアート」のイメージを塗り替えていくとのことです。
《ヒョウカ》浅野春香
今回グランプリに輝いたのは、仙台市在住の浅野春香氏の作品「ヒョウカ」。グランプリ作品受賞作家には、創作活動を奨励する資金として賞金300万円が贈られるほか、ヘラルボニーと作家契約を締結し、今後さまざまなライセンス起用により国内外にその異彩を発信していくそうです。
グランプリをはじめとする各受賞作家と最終審査進出作家の総勢58名による全62点の作品を一堂に展示しているアート展「HERALBONY Art Prize 2024 EXHIBITION」は2024年9月22日(日)まで、三井住友銀行東館 1F アース・ガーデンにて開催中です(入場無料)。
浅野春香氏
浅野氏は、20歳で統合失調症を発症後、入退院を繰り返しながら闘病を続けています。本格的に絵を描き始めたのは29歳のとき。受賞作品である「ヒョウカ」は「評価されたい」という作家の純粋な感情から制作されたそうです。作家は以前までその欲求を「恥ずかしいこと」だと思っていましたが、ある人から「それもあなたの素直な気持ちの表れ」と言われたことをきっかけに、ありのままの気持ちを表現して良いのだと気づきました。本作は満月の夜の珊瑚の産卵をテーマに、切り広げた米袋に満点の星空や宇宙、満月などのモチーフが緻密に描かれています。母親の胎内にいた頃の情景や、珊瑚の研究者である父親のことなど、作家にとって大切な存在である両親からインスピレーションを受けているとのこと。
今回のグランプリの受賞を受けて浅野氏は、「バスに乗っているときに(グランプリ受賞に関して)メールで知らせを受けたのですが、嬉しすぎて何も感情が湧いてこなかったんです。それぐらい嬉しかったんです。
(作品制作は)まず最初に、30キロのお米の入った袋をハサミで開きます。開いたら、ペンでシワをなぞって、それをポスカでなぞります。その後、隙間を色を塗って埋めて、丸を描いていきます。作品制作は、7ヶ月かかりました。他の作品も大体7ヶ月くらいかかることが多いです。(作品の)中に動物が隠れてるので探して欲しいですね。お父さんも隠れてるので探してみてください。
今、友達の絵をオマージュした作品を制作しています。その作品は動物がいっぱい描いてあります」と語りました。
(左から)へラルボニー代表の松田崇弥氏、浅野春香氏、へラルボニー代表の松田文登氏
へラルボニー代表の松田崇弥氏は、本国際アートアワードに関して、「今回のプライズは、私自身が2023年の5月にフランスに行くタイミングがありまして、世界中の障害のある作家のギャラリストで、今回の審査員であるクリスチャン・バーストさんに接触させていただいたり、あとシャンゼリゼ通りで障害のある人たちが当たり前に働いているカフェが存在していたり、本当に世界で色々な福祉施設がある中で、やはりなかなか支援的な構造から脱却できないんですよ。
日本で考えられているような課題と非常に近しい部分を感じまして、これを世界のコンペティションとして大きく打ち出すような可能性っていうものはないんだろうかという思いを込めて、この度ヘラルボニー・アート・プライズというものを創設しました」と述べました。
2024年8月8日にパレスホテルにて開催された「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ)」の授賞式では、浅野氏の作品「ヒョウカ」について、ヘラルボニー代表の松田崇弥氏、文登氏より「作品タイトル『ヒョウカ』には、浅野さんが『社会で評価されたい』という強い思いが込められていると伺いました。障害のある方が『ピュア』とイメージされやすい一方で、評価されたい、自立したいという思いは、一人一人が持つ権利であると感じました。第1回のグランプリを浅野さんが受賞されたことをとても嬉しく思います。この賞が浅野さんにとって誇りとなるよう、私たちも努力して参ります」といったコメントが贈られました。
また、審査を通じて、グランプリ1作品の他、協賛企業によって選出された企業賞受賞作品として7作品、審査員特別賞受賞作品として4作品が選出されました。
【企業賞】JAL賞/《タイトル不明》水上詩楽
《タイトル不明》水上詩楽
幼少期にアニメのキャラクターを好んで描いていた水上詩楽氏は、やまなみ工房に通所し始めてから、部屋にあった画材(筆や線引き棒)を手に取ると模様を描き始めました。様々な色でいくつも描かれた扇形と点の模様。筆の動きや点の打ち方は規則正しく、同じ動作をゆっくりと繰り返します。画用紙上の線や点はイメージしているものがあるのか、色や動きを楽しんでいるのか、何を感じて描いているのかは不明ですが、気分のバロメーターのように、その時の彼の気持ちを線の筆使いや整列した点が表しているかのようです。
日本航空株式会社のコメント
社員投票でJALグループ社員の心を掴んだのは、多様性と自由な発想を感じる水上詩楽さんの作品です。様々な色の点は多様な人々が集い、つながる様子を象徴し、明るい色彩の扇形は未来へと羽ばたく姿を描き出しているように感じられます。まさに、空を飛び、世界をつなぐJALグループとの親和性を感じる作品です。
【企業賞】丸井グループ賞/《Blue Marble》フラン・ダンカン
《Blue Marble》フラン・ダンカン
フラン・ダンカンは、自己発見と受容、そして自身の筋痛性脳脊髄炎と側弯症という健康問題を含む逆境に立ち向かいながら、情熱を絶やすことなく表現に向き合い続けています。年齢や身体的制約に関係なく、自由と開放を見出したのがアルコールインクを使った作品です。その制作過程において、厳密にコントロールすることを許さないインクを、彼女は潜在意識に導かれながら相互的に協働する意識で制作しています。未知を受け入れ、予期しない美しさを見出すこの手法に、彼女なりの人生の教訓を重ねています。つまり、人生の複雑さを乗り越え、あるがままの自分を発見し尊重すること、そして創造性には限界がないことを、私たちに示してくれます。
株式会社丸井グループのコメント
丸井グループは共創投資先であるへラルボニーの描く未来に共感し、本プライズに協賛いたしました。企業賞選定にあたり丸井グループ全社社員にアンケートを実施し、1位に選ばれた作品が《Blue Marble》です。私たちが目指すインクルージョンの世界感を見事に表現し、躍動感あふれる本作品に丸井グループを授与いたします。
【審査員特別賞】日比野克彦(アーティスト/東京藝術大学長)/《Untitled》S. Proski
《Untitled》S. Proski
視覚障害のあるアーティスト S. Proskiは、盲目そのものを視覚の媒体として展開してきました。作家が盲目の世界で感じとる浮遊感や歪みに焦点を当て、切り取ったキャンバスの切れ端を手作業で丁寧に縫い合わせたり、コラージュしたりして、層状で触覚的な構成の絵画にしています。スケッチやコラージュを使ってイメージを構築し、解体し、再構築するーこの物質的で回り道とも言える手法は、見えない視覚の世界を理解するための手段であり、視覚ではなく触覚を通じて絵画を探求しようとする工夫に満ちています。リサイクルとリミックスの過程を用いて、 S. Proskiは能力主義や同化、そして絵画との関係によって生じた傷を癒そうと試みています。
日比野克彦氏(アーティスト/東京藝術大学長)のコメント
こんな作品を私も作りたいと素直に思った。憧れる作品はどうして生まれてくるのだろうか? 作者に聞いてみたい。制作のきっかけは? 何をイメージしながら? などなど作品制作の様子を見てみたい。そんなまだ会えぬ作者を想像するのが、憧れを深める時間。
【審査員特別賞】黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)/《落書き写真(タイル状の壁)》isousin
《落書き写真(タイル状の壁)》isousin
子供の頃から社会に対する不安や自己否定が強く、漠然とした生きづらさを抱えていましたが、写真と出会ってからは自己を受け入れられるようになり、自然と自由な自己表現としてのアートにも興味を持つようになりました。ある日、日が暮れて誰もいなくなった公園の砂場で、子供が描いたであろう落書きを見つけます。一人その場に佇み、食い入るように見つめた後、おもむろにスマートフォンのカメラでその落書きを一枚の写真に収めました。本作は、その時の写真をヒントに制作されています。カメラと画像編集ソフトを使用して写真を抽象的なイメージへと昇華させ、そこに別で撮影した地面や壁の写真を合成することで、不思議な造形を生み出しています。
黒澤浩美氏(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)のコメント
21世紀の人々はカメラという機械の眼によって、世界の断片を収集しているが、何を写し取るのかは、ひとえにシャッターを切る人の選択に拠る。写真が「現実と創造力の交差」と言われる所以だ。isousinは街中の建物や道路の一部に見られる模様に関心を寄せて、それらを写し取り、その上に別に撮影したイメージを重ねる。このレイヤーによって抽象化された被写体が、印画紙から浮き出すように存在感を増す。子供が地面に落書きをしていたのを見て思い立ったというが、そこから在るモノに被せる手法を思いつくとは驚きだ。小さめの作品サイズも功を奏し、作品それ自体、まるでパズル化された街の1ピースのように見える。秀作である。
■「HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition」
会期:2024年8月10日(土)~9月22日(日)
時間:10:00~18:00
料金:入場無料
会場:三井住友銀行東館 1F アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
主催:株式会社ヘラルボニー
8月12日から25日にかけて、アートイベント「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」が開催されています。
大阪(市内中心部、万博公園)と千葉(幕張新都心)の二か所で同時開催されており、日本最大級の都市型音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」(8/17~8/18)との連携が注目されています。
日本を文化芸術のグローバル発信拠点に
本プロジェクトは文化庁が推進するプロジェクトで、⾳楽とアートの融合による「新たな価値」を創造する作品をアーティストと産み出し、日本が文化芸術のグローバル発信拠点になることを目指すものです。
SUMMER SONIC 大阪会場を訪れた文化庁の都倉俊一長官は開催に寄せて、「国としてあらゆるアートを応援していきたい」そして官民一体となって文化芸術を「より大きな意味でのカルチャービジネスにしなければいけない」とコメント。
さらに本イベントを来年開催の大阪・関西万博への足がかりとして、万博を通じてアートの国際的発信に力を入れていく意気込みを語りました。
音楽ファンで賑わう万博会場に大型アート作品が登場
久保寛子《やさしい手》
8月17日・18日に開催された「SUMMER SONIC 2024」とのコラボレーションは本プロジェクトの大きな見どころです。大阪会場となった万博公園(吹田市)と周辺には、GOMA(ゴマ)・奥中章人・久保寛子の3名のアーティストによる大型作品が野外展示されました。
GOMA《ひかりの滝》
アーティストGOMAの《ひかりの滝》は、アートと自然、そして音楽との融合が感じられる作品です。
風に揺らめく作品のバックに聴こえてくるのは、空気を静かに震わせるような不思議な音色。オーストラリア大陸の先住民アボリジニの民族楽器、ディジュリドゥを使った楽曲でGOMAが作品と同時期に制作したものです。
もともと世界的なディジュリドゥ奏者として活躍していたGOMAが絵を描き始めたのは、交通事故がきっかけだったといいます。高次脳機能障害や記憶喪失などの後遺症に悩まされるなかで、絵は「自分を癒すために描いていた」と振り返ります。
《ひかりの滝》で描かれている世界は、GOMA自身が意識を失ってから再び意識を取り戻す際に必ず見ていたという光景を絵画として再現したものなのだそうです。
17日夜には、ドローンショーを企画・運営するクリエイティブ集団「REDCLIFF(レッドクリフ)」とともに空中アート作品《ひかりの世界・阪栄の火の鳥》をお披露目。
1000機のドローンが花火と融合して空に描いた「火の鳥」は、GOMAが手塚治虫の『火の鳥』に触発されて制作されたものなのだそうです。
奥中章人《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》
奥中章人の《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》は、作品に直接触れて体験できる作品。
農業用ポリエチレンを素材に使ったバルーン型彫刻は、見た目はまるで大きなシャボン玉のようです。手で押すと簡単に形が変わるほど柔らかで、内側に入ることもできます。作品に触れ、作品越しに太陽の光を見つめることで、光や空気、風など目に見えないものを可視化してくれます。
街のなかで誰もが出会えるアート
渋田薫《Singin’ in the Rain》《ミライムジーク》
REMA《The Ecosystem of Love from That Time》
大阪市内では、音を色や形でとらえるアーティスト渋田薫や、過去と未来、デジタルとアナログが交錯するREMA(レマ)など、若手アーティストの作品を中心に12カ所に作品が展示されています。
展示場所は、関西経済連合会や地元の関連企業の協力によって提供されており、ほとんどがビルのエントランスやロビーなどパブリックスペースにあり、誰もが自由に見ることができるのが特徴です。
いくつかの作品をピックアップしてご紹介します。
大谷陽一郎《はん/えい #1》《はん/えい #3》
中之島フェスティバルタワー・ウェスト(3階オフィシャルエントランスホール)には、大谷陽一郎の《はん/えい #1》《はん/えい #3》が展示されています。
“はんえい”は「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」の2024年のプロジェクトテーマ。
はん、えい、と発音する約50種の漢字が波紋のように広がる作品で、「反映」や「繁栄」といった既存の言葉を超えて、新しい文字の出会いや、そこから広がるイメージや言葉の意味に想いを寄せることができます。
檜皮一彦《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》
同ビルの地下1階では、檜皮一彦の《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》を見ることができます。
約70台の車いすが三角形の構造物として積み上げられ、圧倒的な存在感を放っています。車いすを使用する檜皮自身にとって三角形の構造物は乗り越えるべきものの象徴。そして同時に、社会の中で誰もが体験する偏見や障壁の象徴でもあるのだそうです。
いつもの大阪がアートで変わる
会期中は地図機能のあるスタンプラリーアプリケーションを使ったアート巡り企画『STAMP MAP ART』を実施しています。
街に点在するアートを巡ることで、普段見ている街の風景がアートによって変わっていく様子を目にすることができるでしょう。
アートをきっかけに、いつもは通らない道、訪れたことのない場所に連れて行ってくれるのもこのイベントの楽しさです。
■「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」
会期:2024年8月12日(月)~25日(日)
会場:SUMMER SONIC 大阪会場及び周辺 8月17日(土)~18日(日)
大阪市内中心部の展示 8月12日(月)~25日(日)
※各展示場所により展示期間が異なります(以下、WEBサイトにて詳細を掲載)
Webサイト https://micusrat.com
執筆者:遠藤友香
森ビル株式会社が運営する、虎ノ門ヒルズにある「TOKYO NODE(東京ノード)」。2023年10月に開業した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の最上部に位置する新たな情報発信拠点で、イベントホール、ギャラリー、レストラン、ルーフトップガーデンなどが集積する、約10,000㎡の複合発信施設です。 施設内には、ミシュランで星を獲得したシェフによるレストランや、イノべーティブなプレイヤーが集まり共同研究を行う「TOKYO NODE LAB」も併設。「NODE=結節点」という名のとおり、テクノロジー、アート、エンターテインメントなどあらゆる領域を超えて、最先端の体験コンテンツ、サービス、ビジネスを生み出し、世界に発信していく舞台となっています。
この度、「TOKYO NODE」では、2024年8月9日(金)~2024年10月14日(月・祝)まで、「身体性」×「テクノロジー」表現の最先端を歩み続け、本年9月に結成25年目に突入するアーティスト「Perfume」を取り上げた体験型展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」を開催中です。
さまざまな先端技術や舞台演出で時代を先取りしてきた、Perfumeのライブステージ。そのステージが成立する前提には、制御された演出と体の動きを完全に一致させることができる、メンバーらの身体性の高さがあります。本展は彼女たちの驚異的な「身体性」と、その舞台を支えるクリエイターたちの「テクノロジー」それぞれが研鑽されて生まれる“ 奇跡の同期(シンクロ) ”をテーマに、Perfumeが作り上げてきた表現への挑戦とステージの数々を再現。本展の総合監修には、Perfumeの振り付け・ライブ演出を手掛けるMIKIKO、インスタレーションには真鍋大度、クリエイティブコレクティブ「Rhizomatiks」など、“チーム・Perfume”に長年携わるメンバーが脇を固め、25年におよぶ取り組みをステージとその舞台裏の両面から紐解きます。
次に、展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」の見どころをご紹介します。
■Chapter-1.We are Perfume
光の粒子が軌跡を描く作品。Perfumeの3人の「Aポーズ」は、25年の一つのシンボルです。無数の光の粒子が集まり、3人の姿を浮かび上がらせます。
■Chapter-2.軌跡と奇跡
結成25年、Perfumeの3人が続けてきたその軌跡は、ライブステージを重ねるたび奇跡を紡いできました。それは3人だけが持つDNAレベルとも言える“ 同期(シンクロ) ”が生むパフォーマンスです。
結成当初から演出・振付をするMIKIKO、その中期からテクニカル演出として加わったRhizomatiksと共に作られる完成度の高いライブステージは、人とテクノロジーとの同期をも実現してきました。テクノロジーとはいえ、全て人が作るステージングとPerfumeの3人によるもの。テクノロジーと人がパラレルに進化し、新しい価値が創造されています。その研鑽によって、より美しい世界が築かれることを、3人のライブパフォーマンスが示しています。
このChapter-2では、これまで実現させてきた様々な同期の形を、実際に体験/鑑賞できるエリアです。ステージの体験を通じて、Perfumeの3人の姿をそこに見ることができるかもしれません。
■Chapter-3.IMA IMA IMA
1999年の結成から今まで、そして次のPerfumeは未だ誰も見たことのない、この未来のステージから始まります。一見誰もいないように見えるステージの上では、Perfumeが新曲「IMA IMA IMA」をバーチャル上で演じています。
この特別なセットを囲み、Perfumeの未来のステージに参加することができます。Perfumeのステージに携わる一人の「クルー」として、ステージの照明や映像、スイッチングを自在に操作しながら、各々が想像する未来のステージ演出に参加することができます。
最後にPerfumeの3人から届いたメッセージをご紹介します。
「私たちPerfumeの25年を振り返る展覧会、『Perfume Disco-Graphy』の開催が決定しました! 結成してから25年分のPerfumeの歴史、そしてライブ演出の軌跡が、一気に見られる展覧会です。ライブの演出の進化と共に、テクノロジーの進化も体感してきました。未知数の実験的な“人間とテクノロジーの挑戦”がそれぞれの努力と信じる力でピタッと合わさると身震いするような高揚感がやみつきになります。その何物にも代え難い感覚をぜひ体験して皆さんにぶっ飛んでほしいです。夏休みやシルバーウィークにも重なりますので、ぜひ全国の皆さんに遊びに来ていただけたら嬉しいです。今年の夏は、虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで会いましょう!」
以上、「TOKYO NODE」にて開催中の、「Perfume」を取り上げた体験型展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」をご紹介しました。
会期中は、本展をさらに楽しむためのスペシャルコンテンツも多数登場。館内にはポップアップショップが出店し、本展限定のオリジナルグッズが販売されるほか、TOKYO NODE内のレストラン・カフェではPerfumeメンバーが監修したコラボメニューを提供します。さらにPerfumeの代表的な楽曲『チョコレイト・ディスコ』にちなみ、展示室内をディスコ会場にしたDJイベントも開催。
ぜひ、Perfumeの織りなす世界観を思う存分体感してみてくださいね!
■「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡 (パフューム ディスコグラフィ) 」
開催期間:2024年8月9日(金)~2024年10月14日(月・祝)/67日間
会場: TOKYO NODE GALLERY A/B/C (東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F)
チケット:オンラインでの日時予約制
一般 2,800 円(税込)
高校生・中学生 2,200 円 (税込)
小学生 1,000 円 (税込)
未就学児 無料
※チケットをお持ちの障がい者の方1名につき介助者1名まで無料で入場可
※購入後のキャンセル不可(日時変更1回のみ可)
※チケットは3期に分けて発売します。ご希望の来場日により販売開始日が異なりますのでご注意ください。
[第1期]7月2日(火)販売開始:8月9日(金)~ 9月1日(日)分まで(※こちら、販売を終了しています)
[第2期]8月13日(火)販売開始:9月2日(月)~ 9月29日(日)分まで
[第3期]9月10日(火)販売開始:9月30日(月)~10月14日(月・祝)分まで
執筆者:遠藤友香
株式会社マイナビを主幹事とするアートスクイグル実⾏委員会は、現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」を、2024年7⽉19⽇(⾦)から9⽉1⽇(⽇)までの 45 ⽇間、横浜・⼭下ふ頭にて初開催しています。
⼭下ふ頭は、明治維新から世界と⽇本を繋いで、⼈、モノ、そして⽂化が交差し続けてきた場所です。本イベントの会場である⼭下ふ頭・4号上屋もまた、⽇本の⾼度経済成⻑を⽀えてきた時代のアイコンであり、巨⼤な躯体を⽀えるトラス構造の建築は、昭和の建築技術の粋を集めた圧倒的なスケール感の内部空間を有しています。 ⼭下ふ頭は数年後に⼤規模な再開発が予定されており、本イベントは、歴史的にも貴重な建築物をアートとともに体験する試みでもあるといいます。
タイトルにも使われている「Squiggle(スクイグル)」という言葉は、「まがりくねった / 不規則な / 曲線」という意味を持ちます。直線的でなく予測不能な動きや形状を表すことから、この言葉は本展において、アーティストが創作活動中に経験する迷いや試行錯誤のプロセスを象徴しており、来場者もまた、まるで迷路のように構成された空間を好きな順序で辿りながら、アート鑑賞を楽しむことができます。
アーティストやコレクティブなど総勢16組による作品が展示され、その内8組が本イベントのために制作した新作を初披露します。会場は、空間デザイナーの西尾健史が空間設計を手掛けています。
株式会社MAGUS(マグアス)をはじめとする企画制作チームから、以下の言葉が寄せられています。
「アートは、私たちから遠い存在ではありません。私たちが生きる時代、社会、暮らしのなかのさまざまな経験や感情から生まれてくるものです。ここでは、テーマやコンセプト、制作プロセスに『Squiggle(スクイグル) = やわらかな試行錯誤』が見られる多様な作品を、アーティストのビジョンに寄り添った空間でご紹介しました。正しいアートの見方を提示するのではなく、ご来場のみなさまにも『Squiggle』するアート鑑賞を体験してもらうべく、ライブラリー&ラウンジや『アーティスト・ノート』をご用意しました。ここでのユニークな体験を日常にも持ち帰り、アートを少しでも身近に感じていただけましたらうれしいです」。
次に、本イベントでおすすめの作品を5点ピックアップします!
1.GROUP
建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、建築設計・リサーチ・施工をする建築コレクティブ「GROUP」。
こちらの展示は、約100平米の空間をサボテンのある広場にし、人間とサボテンが築くことができたかもしれない風景としたもの。航路を通じ、サボテンが日本に渡来したのは16世紀後半のこと。当時は鑑賞用のほか、薬用として紹介されていました(いずれも諸説あり)。そうした渡来経緯は今でも色濃く残り、もしそれとは違った出合い方をしていれば、サボテンとの付き合い方も今とは異なったのかもしれない―。GROUPはサボテンを見つめることで、テーブルや棚の一部として採用し、新しい家具の構造物としてサボテンを提案します。リサーチャー・原ちけい、音楽家・土井樹、植物に関する専門家・越路ガーデン(西尾耀輔)を迎え、建築の知見だけでなく多角的にサボテンを見つめ直しています。
GROUPの井上岳は「本展が開催される45日間で、(サボテンの)植物としての成長も予想しています。会期中にサボテンの世話をしながら、そうした変化過程も含めて展示にできればなと。そうすると、今とは全然違ったサボテンと人間の新しい関係が生まれるんじゃないかと期待しています」と述べています。
2.山田愛
山田愛《流転する世界で》(2024)Photo: Shinichi Ichikawa
1992年に京都府にて生まれた山田愛は、社寺建築や墓石を手掛ける石材店にて育ちました。2017年に東京藝術大学大学院美術研究科先端藝術表現専攻を修了。石やドローイングを用いたインスタレーションを主な手法とし、根源的な地点へ誘う鑑賞体験を目指しています。
こちらは、直径5メートルの円の中に無数の石が並ぶインスタレーション作品で、自身の好きな場所から思い思いに鑑賞可能です。一筆で円を描いた、始まりも終わりもない無限の世界や悟りの境地を表す禅の書画を意味する〈円相〉と名付けられたシリーズの新作です。
山田愛《流転する世界で》一部(2024)Photo: Shinichi Ichikawa
山田は平らにならした砂の上に、何度も洗い、汚れを拭き、本来の美しさを取り戻した、ひとつとして同じものがない石をそれぞれが在るべき場所に据えていきました。世界の縮図のようなインスタレーションには、私たち一人ひとりにも輝く場所が必ずあるという祈りのような思いが込められています。ここでの体験は、自身と向き合い、現在の立ち位置を見つめ直す時間となるでしょう。交平光平
3.川谷光平
東京を拠点に活動する写真家・川谷光平。近い距離感から色鮮やかに被写体を捉える独自の作風で、国内外から注目を集めています。
川谷の展示空間にはいくつかの新作のほか、パーソナルワークやクライアントワークで撮影し、当時は選ばなかったアザー写真や資料写真を含む、膨大なカットの中から選び直した写真が並びます。それぞれの写真が固有の作品性を保ちながらも、どれが、どこまでが作品の領域から明らかではありません。
本来、一直線上に進んでいくはずの写真家にとってのプロセス、すなわち、リサーチ→撮影→セレクト→編集→展示という流れが会場の中に視覚化され、そこを順行・逆行しながらぐるぐると考え直すことで、作品としてのイメージが「ゴールすること」について言及します。鑑賞者がこの場所で撮影した写真も、川谷の作品に内包され得るかもしれません。
4.中島佑太
2008年に東京藝術大学美術学部卒業以後、一貫してワークショップを用いた活動を続けている中島佑太。ルールやタブー、当たり前だと考えられていることなどに関心を持ち、遊びや旅といった軽やかなテーマを通して、その書き換えを試みています。近年は、保育施設に活動を拡張し、子どもたちやその周りにいる大人たちとの関わりから見えてくる社会の問題や課題をリサーチしながら、芸術と遊びの融合を模索しています。
こちらの作品は、かつて鉱山で働いていたという朝鮮人労働者たちのエピソードから着想を得たもの。石を砕き、砂に変える過程を手作業によって行い、砂場をつくるワークショップです。過酷さを連想させる砕石や採掘といった労働(Labor)によって、芸術作品(Work=仕事)に参加をし、遊びという人間の根源的な活動(Action)の場へと接続を試みます。
砂山にトンネルを掘る行為は、子どもの頃に誰もが体験した遊びのひとつなのではないでしょうか。遊びとは、遊ぶ主体である個人の内側に、誰からも指示・強制されることなく湧き起こるものです。ワークショップの名の下に強制された作業から、遊びは生み出せるのでしょうか。
5.河野未彩
視覚ディレクター/グラフィックアーティストの河野未彩。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始めました。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、現象や女性像に着目した色彩快楽的な作品を多数手掛けています。
《HUE MOMENTS》は、白い光の中に7色の影をつくるペンダントライト「RGB_Light」を開発する際のインスピレーションとなった、「光の三原色」の原理を再解釈したインスタレーション作品です。幅10メートル越えの空間に構造体があり、そこにR(Red:赤)、G(Green:緑)、B(Blue:青)の光源をミックスさせた光を3方向から当てることで、刻一刻と変化する影や色面をつくりだします。
色が移り変わる周期はそれぞれの光源で異なり、45日間一瞬も同じ色が現れることはありません。この作品には、河野の「鑑賞体験を通じて光と影の関係性や、そこにある多様性を感じるとともに、この瞬間にしか存在しない色相を目撃してもらいたい」という想いが込められています。
暑い夏にぴったり!ソフトドリンク&アルコールの販売も
イベント会場内(屋外)では、週末を中心にフードトラックも営業し、オフィシャルバーでは暑い夏におすすめのソフトドリンクとアルコールの販売を行っています。アルコールには、横浜市内で最も長い歴史を持つローカルビアカンパニーの「横浜ビール」や、90年の歴史を持つ台湾最大のビールブランド「台湾ビール」がラインナップ。「横浜ビール」からはグビグビ飲める味わいのIPAや、心地良い柑橘の香りが爽やかなピルスナーなどの横浜で愛されるビールを各種、「台湾ビール」からは、台湾でも大人気の「マンゴー(香郁芒果)」、「パイナップル(甘甜鳳梨)」をはじめとした台湾フルーツ果汁がたっぷり入った飲みやすいフルーツビールが楽しめます。
以上、現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」についてご紹介しました。主観と客観を⾏き来する思考プロセスを経て作られた多彩な作品群は、新しい視点や気づきを与えてくれることでしょう。ぜひ、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■「Art Squiggle Yokohama 2024 (アートスクイグルヨコハマ 2024 )」
会期日時:2024年7⽉19⽇(⾦)〜9⽉1⽇(⽇) (45⽇間開催)
平⽇・⽇・祝⽇ 11:00-20:00 (19:15 最終⼊場)/ ⾦・⼟ 11:00-21:00 (20:15 最終⼊場)
開催地:横浜⼭下ふ頭(神奈川県横浜市中区⼭下町)
⼊場料:当⽇ 2,400 円
⼤学⽣、⾼校⽣ 1,500 円
横浜市⺠割 当⽇ 2,200円
※中学⽣以下無料(⼊場時に受付にて学⽣証提⽰)
※障がい者⼿帳をお持ちの⽅と介護の⽅1名は無料
※⼤学⽣、⾼校⽣:⼊場時に受付にて学⽣証提⽰
※横浜市⺠割:横浜市内在住の⽅(⼊場時に受付にて要証明)は⼀般料⾦より200円割引
チケット販売:ArtSticker(Art Squiggle Yokohama 2024 | オンラインチケット販売 | ArtSticker)にて販売中
【主催】アートスクイグル実⾏委員会 (マイナビ、他)
【企画制作】MAGUS、博報堂DYメディアパートナーズ
【後援】横浜市にぎわいスポーツ⽂化局、横浜港ハーバーリゾート協会、J-WAVE
【協⼒】東急、カリモク家具
【公式サイト】ART SQUIGGLE YOKOHAMA 2024 | やわらかな試行錯誤 芸術と私たちを感じる45日間
【公式SNS】 Instagram @artsquiggle_official ART SQUIGGLE丨アートスクイグル(@artsquiggle_official) • Instagram写真と動画