チームラボ《メガリス》©チームラボ

チームラボ バイオヴォルテックス 京都
執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)
チームラボ バイオヴォルテックス 京都有限責任事業組合と、アートコレクティブ「teamLab(チームラボ)」は、京都市が進める京都駅東南部エリアプロジェクトの一環として、京都市南区に常設アートミュージアム「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」を、2025年10月7日(火)にオープンしました。
京都駅徒歩圏内に位置する本ミュージアムは、延べ面積約10,000平方メートルの空間が、日本未発表作品を含む50以上の作品群で構成される、国内最大規模のチームラボのミュージアムです。
チームラボは集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団です。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されています。
ここで、チームラボのあゆみについてご紹介。チームラボは「集団的創造の実験の場」として、2001年に代表の猪子寿之氏とその友人4名によって創業されました。チームラボの関心は、多様な専門家たちが知恵を出し合って作っていく過程を通して新たな経験を生み出すことにあり、アートによって、人間と自然、そして自分と世界との新しい関係を模索したいと思っているとのこと。
チームラボ は設立以来、デジタルテクノロジーを使った新しいアートを創っており、デジタルによる新たなアートを創ることで人類の価値観を変え、人類を前に進めたいと、起業当初から考えていました。当初、アートで経済的にチームを維持する方法を想像できていなかったそうですが、一方でチームラボはデジタルテクノロジーや創造性の力を信じており、ジャンルに囚われることなく新しい作品を作り続けていました。経済的にチームラボを存続させるために、ウェブやシステムのようなソリューションといった、クライアントからの受託の仕事をしていました。
社会的にはソリューションの仕事のほうが評価されていてお金になる一方で、アートは評価されずまったくお金にならない、そんな状況がしばらく続いていました。そんな中、現代美術家の村上隆氏に「世界で発表しなさい」とアドバイスをいただき、2011年に台北のカイカイキキギャラリーにて、初めての個展を開催したことが、今の国際的なアートワールドでアート活動への大きなきっかけとなりました。
以降、シンガポールビエンナーレ2013をはじめ、世界の大都市で開催される現代アート展にて作品を展示する機会が増えていきました。2014年には、ニューヨークのペースギャラリーがチームラボの作品展示を支援してくれるようになります。2014年にチームラボ初の単独アート展「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」を東京で開催し、以降、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、シリコンバレー、北京、台北、メルボルンなど世界各地で常設展およびアート展を開催しています。

オープンを記念して実施されたオープニングテープカットセレモニーでは、松井孝治京都市長、下村あきら京都市会議長、九十九壽雄山王学区自治連合会長、そしてチームラボ代表猪子寿之氏がテープカットを行いました。
<京都市長 松井孝治氏のコメント>
本年10月、京都駅東南部エリアに常設アートミュージアム「チームラボバイオヴォルテックス京都」が開業することを心から嬉しく思います。
チームラボの皆様は、国内外問わずアートの概念を覆すような新たな感動体験を創造してこられました。今世界では終わりの見えない戦争が相次ぎ、孤立や分断が広がっています。そんな時代だからこそ、テクノロジーとアート、作品と鑑賞者など、あらゆる境界を乗り越えてきたチームラボの作品は、多くの人々の心を揺さぶることでしょう。
今回のミュージアムの開業をきっかけに、長年多文化共生の取組を重ねてきた東南部エリアの歴史的な文脈に新たな風を吹き込み、京都の更なる活性化にも大きく寄与するものと期待しています。
京都市といたしましても、本ミュージアムの開業をきっかけに、文化芸術によるまちづくりを一層進めると共に、日本中、世界中の人々から、住みたい、働きたい、活躍したいと思われ、選ばれるまちとなるよう、様々なチャレンジを重ねてまいります。
<チームラボ代表 猪子寿之氏のコメント>
チームラボの初期、空間の平面化の論理を模索していた頃、京都の寺院や庭園を訪れる中で、日本の古典絵画が「歩きながら体験する身体的な空間芸術」であることに気づきました。
作品世界が身体と連続し、人々の存在によって変化し、自分と一体となる身体的美術、そして意志のある身体で歩きながら体験していく、無限に広がる身体的な空間芸術をつくろうと思ったのです。そして、作品同士も関係しあい、境界なく連続し、連続することそのものが美しいと感じるような、境界なく連続する一つの世界を模索しはじめました。
私たちは、やがて存在そのものを模索しはじめました。物体ではなく、特別な環境を創り、環境が生んだ現象によって作品を創ることを模索したのです。そして、それらを「環境現象」と呼ぶことにしました。
また「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」では、物体ではないものの存在を、人間の認識の世界で作り上げることを試みはじめました。物体的ではないものを、身体と認識によって彫刻するのです。ここは、新しい存在の可能性を感じ、認識が拡張する場所。存在の宇宙、認識の宇宙なのです。
「チームラボバイオヴォルテックス京都」は、「環境が現象を生み、その現象が存在を創る」という「環境現象」をコンセプトにした日本未発表作品《質量も形もない彫刻》をはじめ、初公開作品《メガリス》、《生と回帰の儚い抽象》、そして教育的なプロジェクトをテーマとした、複雑で立体的な創造的運動空間「運動の森」や、共創(共同的な創造性)のための「学ぶ!未来の遊園地」、スケッチファクトリーなど、50以上の作品群で構成されています。
次に、おすすめの作品を3点厳選してピックアップします。
1.《質量も形もない彫刻 / Massless Amorphous Sculpture》
チームラボ《質量も形もない彫刻》©チームラボ
浮遊する巨大な彫刻は、泡の海から生まれ、質量の概念を超越し、地面に沈むこともなく、天井まで上がりきることもなく、空間の中ほどを漂う。この浮遊する彫刻の存在の輪郭は曖昧で、千切れて小さくなったり、くっついて大きくなったりする。人がこの彫刻に身体ごと入り込んでも存在は維持され、人々によって壊されても、自ら修復する。しかし、塊は、自ら修復できる範囲を超えて破壊された時、修復が追いつかず崩れていく。そして、人々が押したり、横にのけようとしても、この彫刻を動かすことができないし、人々が風をあおげば、彫刻は散り散りになってしまう。人間の物理的な行為では、この彫刻を動かすことすらできない。
この空間には、物質は、水と空気とごく普通の石鹸しか存在していない。空間を泡で埋め尽くし、特異な環境を創り、空間にエネルギーの秩序を生み出す。そうすると、泡の海から巨大な塊が生まれ、浮き上がり、中空に定常する。
現在の生物学上は、生命の定義を厳密に行うことはできていないが、便宜的に、細胞を構成単位とし、代謝し、自己増殖できるものを生物と呼んでいる。つまり、全ての生物は、細胞でできている。そして、全ての細胞は、脂質二重層で構成された細胞膜で包まれている。二重層の外側は親水性、二重層の層と層の間は疎水性で、包んでいる袋の外側も内側も水である。石鹸の泡も、同じように、脂質二重層の膜に包まれていて、この彫刻を構成している泡は、構造的には細胞膜と同じである。ただし、泡の二重層は細胞とは逆に、二重層の外側は疎水性、二重層の層と層の間は親水性になっているため、袋の外側も内側も空気である。つまり、細胞が水中の袋状の膜であるならば、泡は空気中の袋状の膜である。
この彫刻は、生物の構成単位である細胞と同じ構造の物質と、環境が生んだエネルギーの秩序によって創られている。
生命も、外部から食物として物質とエネルギーを取り込み、物質を排出し、エネルギーを外に散逸させながら、秩序構造をつくりあげている。生命は、渦と同じように、外部環境が生む物質とエネルギーの流れの中にある存在であり、その存在の輪郭は曖昧なのである。
生命の構造は、その流れがつくるエネルギーの秩序であり、生命は、物質とエネルギーの流れの中にある奇跡的な現象かもしれないのだ、とチームラボは語っています。
2.《呼応する小宇宙 - 固形化された光 / Resonating Microcosms - Solidified Light》
チームラボ《呼応する小宇宙 - 固形化された光の色》©チームラボ
チームラボは色の概念を更新することを試みている。ovoidは「固形化された光の色」と名付けられた新しい概念の色、32色で変化していく。
ovoidは太陽の下では周りの世界を映しはじめ、太陽が沈むと共に、もしくは暗い場所ではovoidは自ら光り輝き出す。
ovoidは人に押されると、その光を強く輝かせ音色を響かせ、自ら立ち上がる。周辺のovoidも次々に呼応し同じ光を輝かせ、同じ音色を響かせ連続していく。
ovoidは、人々が何もしない時ゆっくりと明滅をはじめ、周りの世界を映しはじめる。屋外では、雨が降ったり風が吹くと反応する。作品空間は、そこにいる人々のふるまいや環境の影響を受けながらインタラクティブに変容し、人々と環境を作品の一部にしていく。それにより、作品と人々と環境、それから自分と他者が境界なく連続していく。
3.運動の森

「運動の森」 ©チームラボ
「世界を身体で認識し、立体的に考える」をコンセプトとした立体思考の運動空間。複雑で立体的な空間で、強い身体性を伴って、身体によって時間変化する4次元世界に没入します。
以下、「運動の森」のコンセプトをご紹介します。
学校では身体を固定されている
学校のテストでは、「席に座って一人で静かに」受けさせられます。このことに象徴されるように、これまでの知は、身体を固定して、情報量を限定した状態で脳を動かすことでした。「1+1=」という問題があったとして、その情報量は数バイトです。つまり、身体を捨てている状態で、言語や数字という、情報量で言うと極めて少ない情報を脳で処理している状態を「知」と呼び、学校で訓練されてきたのです。ところがぱっと自分の周りを直接見渡したならば、世界は圧倒的な情報量でできているのです。
人間や世界に関わっていく力
社会性、リーダーシップやコミュニケーション能力など様々な言葉がありますが、どれも、人間や世界に関わっていく力です。そのような力は、周りにいる人々の表情や態度、周りを見渡した状況など、空間における刻々と変わる膨大な情報量を処理している非常に知的な活動です。そしてそれは、学校での勉強のように、身体を固定して限定された極小の情報量に対して働かせる知性とはだいぶ違う知的な活動なのです。
人間は世界を身体で捉え、身体で考えている
人々が感動する物語を創ったり、話したりすること、それは、正しく文章を書く訓練をいくらしたところで、できるようにはならないでしょう。自らの身体で世界を切り開いていく中で培われた経験から、その物語は紡ぎだされているのです。
人間はもっと身体で世界を捉え、身体で考えているのです。
身体は巨大な情報ネットワーク
実際、脳が身体に指示しているだけではなく、身体は、体の中のあらゆる臓器や細胞が、ダイナミックな情報交換を繰り広げている、巨大な情報ネットワークであることがわかってきています。例えば、身体を動かす筋肉や骨が、海馬(記憶や空間認識能力に関わる脳の部位)の発達や海馬へ記憶することの指示をしていることがわかってきているのです。
空間認識能力
近年、物体同士の空間的な関係を理解し、記憶する能力である空間認識能力が言語能力や数学力に匹敵するほど重要だといわれています。空間認識能力はクリエイティビティやイノベーションにおいて主要な役割を果たしうるといわれているのです。
そして、空間認識能力に関係する海馬は、自らの身体によって多様で複雑な空間を探検し歩き回ることで発達することもわかってきています。ネズミの実験では、多様で複雑な空間を探索したネズミの海馬は、そうではないネズミの4万倍も多くの神経細胞を持ち、海馬の体積を15%増加させ、高い空間認識能力を持つのです。しかし、現代の子供は外で自由に遊べていません。ある調査によると、1981年から1997年の間に米国の子供が自由に遊ぶ時間は25%も減少しているのです。
※科学雑誌「ノーティラス」For Kids, Learning Is Moving
立体思考、高次元思考
空間認識能力とは、空間だけの話ではないのです。それは立体的に世界を捉えたり、物事を立体的に考える能力に繋がっていくものだと考えています。僕らはそれを「立体思考」、さらに高次元で考えることを「高次元思考」と呼んでいます。
チームラボは、本事業を通して、京都市が京都駅東南部エリアにおいて目指す、文化芸術や若者を基軸としたまちづくりの推進に貢献していくとのこと。ぜひ会場に足を運んで、チームラボの創造する世界感に思う存分浸ってみてはいかがでしょうか。
■チームラボ バイオヴォルテックス 京都
京都市南区東九条東岩本町21-5
https://maps.app.goo.gl/hykGEn...
開館日:2025年10月7日(火)
開館時間:9:00 - 21:00
*最終入館は19:30
*開館時間が変更になる場合があります。公式ウェブサイトをご確認ください。
休館日:11月4日(火)、11月18日(火)、12月2日(火)、12月16日(火)
*休館日が変更になる場合があります。公式ウェブサイトをご確認ください。
チケット価格:
・エントランスパス(入場日時指定)
来場と時間を事前に指定して購入するチケットです。
* 大人料金は変動価格制を導入しております。来場日や時間帯によって料金が異なりますので、詳細は公式ウェブサイトでご確認ください。
大人(18歳以上):3,400円〜
中学生・高校生(13 - 17歳):2,800円
子ども(4 - 12歳):1,800円
3歳以下:無料
障がい者割引:大人価格の半額
・フレキシブルパス(入場時間指定なし)
入場日のみを指定して購入するチケットです。当日は開館時間内であれば、いつでもご入場いただけます。
大人/子ども: 12,000円
チケット購入:https://www.teamlab.art/jp/e/k...
協賛:CHIEF、Klook、サードウェーブ