小森紀綱×山田康平による2人展「空白の翼廊」が、渋谷区神宮前の「HENKYO」にて開催中

2025/09/06
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


小森紀綱山田康平による2人展「空白の翼廊」が、渋谷区神宮前にあるギャラリー「HENKYO」にて、2025年9月27日(土)まで開催中です。

「翼廊(よくろう)」とは、建築物において鳥の翼のように左右に張り出した部分のこと。日本建築における主な例として、「平等院鳳凰堂」、「平安神宮 神門(応天門)」、「護国神社」などの主要部分に付け加えられています。

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©️Akitsuna Komori.Courtesy of HENKYO

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©️Akitsuna Komori.Courtesy of HENKYO


以下、ステートメントをご紹介します。


■ステートメント

男は彫刻家だった。昔は祖父に憧れて建築家を志していた時期もあったのだが、気づけば彫刻に魅せられていた。

自身の作品に建築に通ずる美意識を見出し、木や石を削り続けて長い年月を過ごしてきた。だが、いつからか男は違和感を抱いていた。作品は何か(或いは誰か)のために作り続けてきたはずだったが、その「何か」が思い出せない。

ある日、男は夢を見た。柱が立ち並び、アーチが交差し、壁が果てしなく続いていた。見上げれば天井はなく、壁には扉も窓もないのだが、どこからともなく光が降り注いでいた。いや、壁ではなかった。それは果てしなく続く書架だった。書架には無数の書物が並び、そのどれもが彼が彫刻のために描き溜めたデッサンや設計図といった記録だった。中には男の知らない記録まで混ざっていた。やがて、一人の通行人が現れ男に尋ねた。

「これは何の記録ですか?」

「わからない。ただ、書き続けている。」

通行人は本を一冊手に取り、ぱらぱらとめくる。

「これは記録ではなく、空白ですね。」

男は答えなかった。

「あなたの仕事は、いつ終わるんです?」

「終わりはない。」

「では、あなたも書架の一部になっていくんですね。」

目が覚めると、男は奇妙な焦燥感に駆られた。何かを作らなければならない。だが何を作るべきか分からない。

ただ、夢の中の世界がどこかに存在するような気がしてならなかった。

六十歳を目前にしたある日、男が丘の上でデッサンをしていると頭上から二羽の鳥が落ちてきた。

いや、鳥ではない。見事な鳥が彫られた石だった。石は男のすぐ目の前にぼてっと落ち、

一方の鳥の片翼は砕けていた。男は頭を上げてみたがそこに広がるのは広大な青空だけだった。


小森 紀綱/Akitsuna Komori

1997年生まれ

諸宗教の宗教的対象や古典絵画のアトリビュート(特定の人物や神々に帰属する対象物)を“シミュレーショニズム” という絵画系譜の中で引用することで形而上学的絵画を制作している。小森の絵画制作は図像解釈や理論構成、宗教倫理などエピステーメから出発しており、絵画の骨組みとなる要素を複雑に張り巡らせ、時にはちぐはぐに入れ替えることでコードを集積させて超現実的な絵画を構築している。異なる宗教や様式をコラージュするように織り交ぜることで事物に内在していた共通項や相違が紡ぎ出されている。主なコレクションに大原美術館(岡山)。

【主な個展】

2024 「文化と文明」HENKYO (東京)

【主なグループ展】

2025 「Drawings」HENKYO(東京)

2024 「Metamorphosis: Japan’s Evolving Society」WKM GALLERY(香港) 

2023 「ART FAIR HENKYO 2023」HENKYO(東京)

2022 「VOCA展 2022」(東京)- 大原美術館賞 -

【主なアートフェア】

2024 「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2024」(福岡)

2023 「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」(福岡)


山田 康平/Kohei Yamada

1997年大阪生まれ

キャンバスと紙にたっぷりとオイルを染み込ませることから始まる山田の制作は、起点や輪郭となる黒の線をひき、絵の左上には光に見立てている黄色をのせ、それから強く鮮やかな色で一気に画面を覆います。筆を重ねることでキャンバスの表面は更に滑らかに整えられ、面と面がぶつかる場所から浮かび上がる色は強さを増し、何層にも重ねられたレイヤーから山田作品特有の奥行きが絵画空間に生まれます。2020年に武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻を卒業、2022年に京都芸術大学修士課程美術工芸領域油画専攻を修了し、現在は東京を拠点に活動。

【主な個展】

2025 「支える軽さ」隙間(東京)

2025 「Borderline」Arario Galery Seoul(ソウル)

2023 「Strikethrough」タカ・イシイギャラリー(東京)

2022 「それを隠すように」biscuit galery(東京)

2022 「線の入り方」MtK Contemporary Art(京都)

2022 京都岡崎 蔦屋書店ギャラリースペース(京都)

2021 「road」代官山ヒルサイドテラスアネックスA(東京)

【主なグループ展】

2025 「Fluid in Forms」Arario Galery Shanghai(上海)

2024 「Everywhere It Goes」Mai 36 Galerie(チューリッヒ)

2024 「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」東京都現代美術館(東京)

2024 「コレクション展示:新収蔵作品紹介」群馬県立近代美術館(群馬)

2024 「Abstraction (re)creation―20 under 40-」Le Consortium(ディジョン)

2021 「biscuit galery Opening Exhibition II」biscuit galery(東京)

アートフェア「ARTISTS’ FAIR KYOTO」京都文化博物館別館(京都、2021年、2020年)に参加。

主な受賞は、CAF賞(2020年)入選。