執筆者:遠藤友香
日比谷公園 噴水広場の様子
東京都が主催し、エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社が制作、運営、PR事務局を務める「Playground Becomes Dark Slowly」が、2024年5⽉12⽇まで⽇⽐⾕公園にて開催中です。
東京都は、四季を通じた花と光の演出によって、公園の新しい楽しみ⽅を届ける「花と光のムーブメント」を実施しています。今回新たに、花と光に「アート」を掛け合わせ、「Playground Becomes Dark Slowly」と題したアートインスタレーションを展開。⼤巻伸嗣⽒、永⼭祐⼦⽒、細井美裕といった3名のアーティストによる企画や展⽰を通して、アート体験を楽しむことができます。
本イベントのキュレーターは⼭峰潤也が務め、コンセプトは「公園という都市の隙間の中で変化していく⽇の光を感じながら、⾃然への想像⼒を駆り⽴てること」。⽇中は永⼭祐⼦の《はなのハンモック》を中⼼としたプレイグラウンド、夜は光を放つ⼤巻伸嗣の《Gravity and Grace》、また細井美裕がサウンドスケープの視点から⽇⽐⾕公園の⾳を収集し、再構築した《余⽩史》など、⼀⽇を通して公園で新たなアートを体感できます。
2024年4月26日に行われたプレス内覧会には、山峰潤也、大巻伸嗣、永山祐子、細井美裕、東京都生活文化スポーツ局長の古屋留美、そしてスペシャルゲストとして西内まりやが登壇。
古屋留美氏
古屋留美は「日比谷公園は120年前に設置された、非常に歴史の深い伝統ある公園です。この公園ができたときは、非常に新しいチャレンジングな取り組みがたくさん重ねられて、今の公園ができました。都民の方が新しい時代の文化に出会う、文化の発信拠点として日比谷公園は始まって、今も皆さんに愛されている、そういう公園です。この公園ができたときのように、都民の皆さんに新しい価値をお届けするっていうことをやっていきたいと思い、この花と光のムーブメントの取り組みをお願いしました。
新しい取り組みというのは、アートです。アートというのはどなたにも入口になる素晴らしい要素だと思います。洋花、洋食、洋楽と新しい要素を都民の方に価値として提供してきたこの公園で、新しくアートというものを上乗せし、より皆さんが楽しんでいただける公園にしたいーそういうことが、今回このプロジェクトをお願いした趣旨です」と述べました。
⼭峰潤也氏
⼭峰潤也は、今回のアートインスタレーションについて、以下のように語っています。
「日比谷公園だけではなく、公園というもの自体が、皆さんの記憶の中でどのような存在としてあるのか、日常の中でどういうふうに存在しているのかということを思いながら、今回二つの時間を大きく考えました。
幼少期の頃に、皆さん公園で遊ばれた記憶があると思いますが、暗くなってくると帰るわけですね。そんな暗がりの中で、虫の声だったりとか、小さなさえずりだったりみたいなものにだんだんと意識が向かっていく。
また子供から大人へと変わっていく時間というのは、日が暮れていくようにだんだんと進んでいく。大人になってから、公園というものの場所の存在が違って見えてくる。そういった意味では、公園には異なる時間、そしてそれぞれの人たちの物語がある場所だと思うんですね。
そういったことを踏まえ、このプレイグラウンドを象徴するような、花の上で展開する絨毯を永山さんに作っていただきましたし、また夜の暗がりの中で輝く大巻さんの作品もあります。そして、またその二つの象徴的な存在とは全く逆側のベクトルから、たくさんの人たちの集合体、音を拾って集めるることによって、色々な人たちのナラティブを感じることができる細井さんの作品など、様々な方向からの展開を考えて、このような企画としました」。
次に、各アーティストによる作品について、みていきましょう。
1.⼤巻伸嗣《Gravity and Grace》(会場:草地広場)
⼤巻伸嗣氏
「存在」とは何かをテーマに制作活動を展開する、アーティストの⼤巻伸嗣。環境や他者といった外界と、記憶や意識などの内界、その境界である⾝体の関係性を探り、三者の間で揺れ動く、曖昧で捉えどころのない「存在」に迫るための⾝体的時空間の創出を試みています。
《Gravity and Grace》
⼤巻伸嗣は作品《Gravity and Grace》について、「この作品は、2016年の「あいちトリエンナーレ」からスタートした作品なんですが、もっと言えば震災の後に原子炉の問題で、私達が関わらざるを得ないエネルギーの問題とか、そういった社会における自分たちの重力、見えない重力と、その音調たらしめるものは何だろうなっていうその問いを、震災以降の私達の日常の中で認識するために作った作品だったんですね。
昨年、国立新美術館で大きな展覧会をさせていただいて、美術館という箱の中で展示することができました。そこはやはり日常ではなくて、非日常的な空間で、作品を皆さんに見ていただくことができました。その非日常的な空間だからこそ、日常的なものを考えたりとかするような、先ほど⼭峰さんが二つの時間というお話をされましたが、違ったその側面を考えるきっかけにしたい。
屋外の公園の日常自体に、非日常的なアートの作品が関わったらどんな空間が生まれるのだろうか。もしくは非日常的なアートというものが、美術館というところでしか成り立たないかもしれないんですが、そういったものが美術館を出て、この日常空間に立ち現れたときにそれはアートになるのか。何かその問いが生まれるのか。またその関わりがどういうものを生み出していくのかっていう挑戦が、ここではできるんじゃないかなというふうに思って、どんどんどんどんそういうものが頭の中を巡っています」と語りました。
2.永⼭祐⼦《はなのハンモック》(会場:第⼀花壇)
永⼭祐⼦氏
1975年東京⽣まれの建築家 永⼭祐⼦。1998年昭和⼥⼦⼤学⽣活美学科卒業。1998年⻘⽊淳建築計画事務所勤務。2002年永⼭祐⼦建築設計設⽴。主な仕事に、「LOUIS V UITTON 京都⼤丸店」「豊島横尾館」「ドバイ国際博覧会⽇本館」「JINS PARK」「膜屋根のいえ」「東急歌舞伎町タワー」など。主な受賞歴に、JIA新⼈賞(2014)、World Architecture Festival 2022 Highly Commended(2022)、i FDesign Award 2023 Winner(2023)など。現在、2025年⼤阪・関⻄万博にて、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」と「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」(2025)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進⾏中です。
《はなのハンモック》
永⼭祐⼦は作品《はなのハンモック》について、「今回こういうお話をいただいて、日比谷公園を訪れたときに、私は普段建築の設計をしてますので、ある意味敷地を見に来たみたいな形でどこに何を置くと、よりこの公園を新しい形で体験することができるのかなっていう目線で色々見て回りました。
一番最初に目に入ったのがこの広い芝生の広場で、そこに何か白い木が生えていて、お花がその足元を覆っているような形だったんですが、普段はそれはどちらかというと遠くから鑑賞するものとして置かれてると思うんですが、何かもうちょっと触れ合ってみたい。
例えば、お花畑があって素敵だなと思っても、その上に寝転がることは多分できないと思うんですが、何かこういったハンモックがあれば、その花畑に寝っ転がるみたいなのを、もしかすると体験できるんじゃないかといったことから、木を中心に花畑を作って、その上に寝っ転がる体験を作りたいなと思いました。
ハンモックは、実は海の漁網をリサイクルしたもので、海ゴミの問題とか、自然環境や気候変動みたいな、そういうものが私達の身近な問題としてだんだん迫ってきていると思うんですが、そういったものを教科書的に伝えるのではなくて、例えば子供が遊びを通して、実はこのハンモックは海の漁網を一度再生して作ったものなんだよっていう裏のストーリーにまで、興味を持ってもらえると嬉しいです」と述べています。
3.永⼭祐⼦《はなの灯籠》(会場:⼼字池)
《はなの灯籠》
永⼭祐⼦は、光の粒を携えた花⼀輪を、来場者の⽅々の⼿で⽔辺に浮かべてもらうワークショップ《はなの灯籠》に関して、以下のようにコメントしています。
「この場所を見に来たときに、⼼字池が最初に目に入ってきたのですが、ただどうしても鬱蒼と草が生えているので、なかなか水辺に近寄れないですが、今回水にこの光と花をセットにして浮かべるワークショップを予定していますが、そういった体験型のワークショップをやることによって、少し水辺に近づくきっかけができるんじゃないかなと思いました。
この公園はすごく色々なものが色々な場所に、すでにポテンシャルの高い状態であり、それをどうやって私が作った作品を通して新しく発見できるかってことが、私がすごくやりたかったことです。そういう自分にとっての公園みたいなのをそれぞれ発見してもらいながら、体験して、またそういった経験を持ち帰ってもらえたらなというふうに思っています」
4.細井美裕《余⽩史》(サウンドインスタレーション)(園内各所)
細井美裕氏
1993年⽣まれの細井美裕。マルチチャンネル⾳響をもちいたサウンドインスタレーションや、屋外インスタレーション、舞台作品、また、⾳を⼟地や⼈の記憶媒体として扱いサウンドスケープを再構築するなど、⾳が空間の認識をどう変容させるかに焦点を当てた作品制作を⾏っています。⻑野県⽴美術館、愛知県芸術劇場、NTT インターコミュニケーション・センター [ICC]、⼭⼝情報芸術センター[YCAM]、国際⾳響学会、⽻⽥空港などで作品を発表しています。
《余⽩史》
細井美裕は《余⽩史》について「普段、私は音の作品を作っていまして、今回大巻さんと永山さんが圧倒的なビジュアルの作品を作られることを、私が参加する段階で把握していたので、そうであればもう音に振り切っても大丈夫そうだと思いまして、作品としては日比谷公園の音をアーカイブする、公的にアーカイブするという、リサーチベースのプロジェクトになっています。
具体的には、私が信頼しているものの見方をしている作家さんやサウンドエンジニア、庭の研究者の方、公園も含む研究者の方々といった、普段は音を使ってない人の視点の録音もあってもいいんじゃないかと思いました。
そういった方々に1ヶ月くらいかけて、日比谷公園の色々なところを、彼らの主観で録音していただきました。将来的にその音のデータから、環境の状況を分析する可能性っていうのも踏まえて、人間の可聴域ではない帯域、例えばものすごい低い振動とものすごい高い音とか、とにかく普段聞こえていないこの環境をキャプチャーするための音データっていう収録もあわせて行ってまして、合計でおそらく50名以上の方に今回の録音に参加していただきました。
アウトプットとしては、公園の園内放送のスピーカーのみを使用することにしました。公園が過去鳴らしてきた音を、今この瞬間の音と重ねて出せたらいいなと思いました」とコメントしています。
西内まりや氏
スペシャルゲストとして登壇した西内まりやは「この歴史ある日比谷公園という場所に入った瞬間、遠くに見える皆さんの作品に、何かいつも公園に来ている感覚とまた違う、ワクワクした気持ちになりました。
先程、実際にハンモックに寝そべったのですが、そうやって何歳になっても公園に来て楽しめる空間ということ、またこういった機会が日本でももっともっと増えたらなって思っていたので、とても嬉しかったですし、たくさんの人に私も伝えていけたらなっていうふうに思いました」と述べました。
以上、⽇⽐⾕公園にて開催中の「Playground Becomes Dark Slowly」について、ご紹介しました。日の光と影の移り変わりをアートとして捉え、訪れる人々に新たな感動をお届する本プロジェクトを、ぜひ楽しんでください。
■「Playground Becomes Dark Slowly」
会期:2024年4⽉27⽇(⼟)〜5⽉12⽇(⽇)
会場:⽇⽐⾕公園(千代⽥区⽇⽐⾕公園)
時間:9:00〜22:00
⼊場:無料・予約不要
公式サイト:https://www.tokyo-park.or.jp/s...
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