「小山登美夫ギャラリー六本木」、「小山登美夫ギャラリー天王洲」にて同時開催中のオノ・ヨーコ展「A statue was here 一つの像がここにあった」

2025/06/15
by 遠藤 友香

Mind Object I 1960 / 1966 Acrylic, marble, coin, cigarette, salt shaker h.2.5 x w.45.5 x d.30.0 cm ©︎ Yoko Ono


執筆者:遠藤友香


20世紀を代表する音楽家の一人であるジョン・レノンの元夫人ヨーコ・オノ(1933年2月18日生)。1950年代後半から現代に至るまで、70年以上にわたるキャリアを通して、アート界のみならず社会的にも影響を及ぼしてきました。

前衛的アート作品の表現者として、インストラクションやオブジェ、映画、音楽、パフォーマンスからインスタレーションまで、多様で革新的な表現によって鑑賞者の想像力を刺激してきました。彼女の作品は詩的な美しさをもたらし、日常のものや精神を因習的な概念から解放し、人間同士の関わりの重要性を強調しています。

また、独創的な音楽家としても数々の作品を生み出し、世界中の様々なアーティストやロックミュージシャンを魅了。一貫してジョンの「Imagine」に象徴される「平和と愛」を訴え続け、数々のチャリティイベントへの参加や基金の支援など、アクティビストとして世界平和のために貢献しました。

現在においてもヨーコ・オノの活躍は衰えることなく、2024年に開催された「テート・モダン」での大規模個展は大きな話題となり、現在ベルリンで「新ナショナルギャラリー」、「New Berlin Art Society」、「マルティン・グロピウス・バウ」などの3箇所以上で個展が同時開催中です。

また日本でも「大阪・関西万博 静けさの森」にて、地面の穴の中の鏡が空を映し天地を一体化したような「Cloud Piece」(1963年)を展示。6月5日からは「アート大阪 Expanded」セクションで、「FLY」(1963年)を再構築したインスタレーション作品展示しています。

この度、「小山登美夫ギャラリー六本木」「小山登美夫ギャラリー天王洲」にて、オノ・ヨーコ展「A statue was here 一つの像がここにあった」を2025年6月10日(火)~7月5日(土)まで開催しています。

本展は、彼女にとって「小山登美夫ギャラリー六本木」、「小山登美夫ギャラリー天王洲」での9年ぶり4度目の個展となり、スタジオ・ディレクターのコナー・モナハン氏がキュレーションを担当します。 

六本木では、白と透明色の、アクリルと既製品を組み合わせた作品に焦点をあてます。オノはそれらの作品を「コンセプチュアル・オブジェクト」と呼んでおり、そのうちの数点は1966年ロンドンのインディカ・ギャラリーでの個展、および翌年1967年リッソン・ギャラリーでの個展で最初に発表されました。本出展作は、オノが制作した初めてのオブジェ作品のうちの一部です。

天王洲では、来場者の参加とパフォーマンスを促す鑑賞型作品である、「Wrapping Piece」、「Draw Circle Painting」を主に展示します。

本展タイトル「A statue was here  一つの像がここにあった」は、1967年の作品からとられており、この言葉はのちにオノ・ヨーコ作品集『Grapefruit』(1970年刊行版)に掲載されました。本展キュレーターのモナハン氏は次の見識をあらわしています。

「オノの『一つの像がここにあった』という言葉は、展覧会全体に漂う不在と存在の詩的な交錯を呼び起こし、作品が過去と未来の可能性によって形作られる新たな現実を想像する余地を生み出しています。」

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Mind Object II 1966 / 1967 Acrylic, glass bottle Acrylic, glass bottle h.139.0 x w.26.5 x d.27.3 cm ©︎ Yoko Ono


本展は、オノのコンセプチュアルなアプローチを反映した作品セレクトを展開し、鑑賞者の参加型行為を誘います。 「Mind Object I」(1960 / 66年)は、白、透明の球体や、一本のタバコ、一枚のコイン、石でできた本、塩入れで構成され、観覧者の心の中に一つのオブジェクトを創造するように促します。「Mind Object ll」(1966 / 67年)は、 「NOT TO BE APPRECIATED UNTIL IT’S BROKEN (壊れた時に鑑賞しなさい)」と刻まれたプレキシガラスの台に、ガラスの瓶が一つ乗っています。

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Hide Me 1971 Acrylic h.83.8 x w.53.3 x d.54.0 cm ©︎ Yoko Ono


 「Hide Me」(1971年)は、タイトルのみ刻まれた透明な台座で、それ以外は何もない作品です。この作品は、存在を不在を通じて主張し、台座の伝統的な役割を宣言しつつも否定する二重の性格を持っています。その空虚さは、観る者に「そこにあるもの——おそらくかつてそこにあったもの——」を考えさせ、隠すという行為そのものを問い直すきっかけとするのです。

 「Mend Piece」(1966年)は、来場者はオノの「知恵を持って直しなさい、愛を持って直しなさい それは同時に地球を直すことにもなるでしょう」というインストラクションにより、壊れた器を「直す」ように精神的のも物理的にも誘われます。本展では、能登半島地震により破損した白磁の破片が使われます。

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Three Lives 2019 Three mirrors with steel frames, plywood, led lights, electrical wiring h.153.0 x w.61.6 x d.5.7 cm (each) ©︎ Yoko Ono


 「Three Lives」(2019年)は、初公開の作品です。3つの楕円形の鏡のうち1つは破損、1つはそのまま、1つは二つの光で照らされ、この3つの鏡があわさることで、鑑賞者自身が変化していく様が反映されます。 

天王洲の「Wrapping Piece」(1962 / 66年)は、鑑賞者が包帯を球体状に巻くことで、展覧会を通じて大きさを増していきます。この作品は参加者の行為によって発展し、手当、保護、覆うなどの行為の意味を喚起します。「Draw Circle Painting」(1964年)では、来場者はペンで白いキャンバスに丸を描くことができます。本作も「Wrapping Piece」と同じように来場者の自由な参加を促す作品となります。 

本出展作を通して見えるのは、存在と不在に対して、そして実態のないアイディアを形にする想像力―想像と希望によってつくられる未来への思考、知識、愛、信頼―に対してのオノの深い洞察です。

 「オノの芸術は、変容させること、つまり、視覚化の行為を通して、善を実現させる心の力を信じることに向けられていた。」「彼女は、ほんの僅かな時間と知覚を提供し、本質を顕現させることで、日常生活におけるウィットと驚きを見出すことを拳げ、望むべきは、私たちを少しは思慮深く、そしてもっと人間的にしてくれるのである。」(※アレクサンドラ・モロー「イエス(YES)の精神:オノ・ヨーコの芸術と人生」(オノ・ヨーコ「YES」展覧会カタログ、朝日新聞社刊行、2003年より)

 「(オノは)究極的には『すべての芸術作品は未完成である』と主張した。それは今日に至るまで挑発的と見なされ続けているアプローチであり、アート制作に関する既成概念を覆すだけでなく、アートの制度的な枠組みとも対極的な立場です。」 「しかし、人生において、本当に完成し、落ち着き、疑いようのない真実となるものなどあるでしょうか? 歴史そのものは、それが認識され、記憶される方法において、少なくとも、個人であれ集団であれ、時とともに変化していきます。 」(※コナー・モナハン「オノ・ヨーコ 一つの像がここにあった」、『オノ・ヨーコ A statue was here 一つの像がここにあった』展覧会カタログ、小山登美夫ギャラリー、2025年より)

 ぜひ、この貴重な機会にオノ・ヨーコの世界観を体感してみてはいかがでしょうか。


オノ・ヨーコ展「A statue was here 一つの像がここにあった」

小山登美夫ギャラリー六本木

東京都港区六本木6-5-24 complex665  2F

2025年6月10日(火)~7月5日(土)

11:00 - 19:00  日月祝 休

入場無料


小山登美夫ギャラリー天王洲

東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex Ⅰ 4F

2025年6月10日(火)~7月5日(土)

11:00-18:00   日月祝 休

入場無料