執筆者:遠藤友香
オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器「ディジュリドゥ」奏者として名を馳せていたGOMA。彼は、2009年に交通事故に遭い、そこから絵画の才能を開花させました。そんなGOMAの展覧会「ひかりの世界」が、東京都渋谷区にある「GYRE GALLERY」にて、2024年6月29日まで開催中です。
プロフィール:GOMA。オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器「ディジュリドゥ」の奏者、画家。1998年にオーストラリアで開催されたバルンガディジュリドゥ・コンペティションにて準優勝を果たし、国内外で広く活動。2009年交通事故に遭い高次脳機能障害の症状により活動を休止。一方、事故の2日後から緻密な点描画を描きはじめるようになり、現在では、オーストラリアBACKWOODS GALLERY(2016)、新宿髙島屋美術画廊(2018・2019)、PARCO MUSEUM TOKYO(2022)、PARCO GALLERY OSAKA(2023)、PARCO GALLERY NAGOYA(2023)など多数の個展を開催。2012年本人を主人公とする映画「フラッシュバックメモリーズ3D」に出演し、東京国際映画祭にて観客賞を受賞。2021年2020TOKYOパラリンピック開会式にて、ひかるトラックの入場曲を担当。2022年舞台「粛々と運針」の音楽監督と劇中のアートを手掛ける。
ディジュリドゥ奏者として世界的に評価されていたGOMAが突然絵を描き始めたのは、2009年に交通事故に遭った2日後のこととのことだそう。それまで職業としてはもちろん、趣味としても絵を描いたことがほとんどなかったのに、細かい点描で画面を埋めつくした独特の絵画を描くようになったといいます。また、事故後は記憶喪失や昏睡などの後遺症に見舞われるようになりました。原因究明には時間がかかりましたが、アメリカの研究所で「後天性サヴァン症候群」と診断されます。脳に傷を負ったときに美術や音楽、数学などの分野で特別な才能を発揮するようになる、極めてまれな現象です。
事故から十数年たって日常生活にはほぼ支障はなくなり、ディジュリドゥの演奏も再開したそう。しかし、今も一日の大半を絵画の制作に費やしています。それは、彼の頭の中に浮かんでくる景色を描きとめたもので、意識を失うと真っ白い発光体に包まれたような世界が現れます。そして、意識が戻るにつれて次第に色がついたものになっていくのだそうです。その「意識を消失した後に見る希望に満ち溢れた世界」を、彼は「ひかりの世界」と名付けました。
彼が描いているのは、事故の後遺症によって意識を失っているときに見た光景です。それは最初、白い発光体に囲まれた、ただひかりだけがあるような空間から始まります。そのときの彼には一切の感情がないといいます。恐怖心もなければ嬉しい、楽しいといった気持ちもありません。そして、次第にその発光体に色がついてきて「脳と体が合体する」のを感じると意識が戻るのだそうです。どのように色がついてくるのかはそのときどきによって様々だといいます。彼はその景色を絵画という平面で表現していますが、実際には奥行きがあり、流動体の中を運ばれていくような感覚を覚えるのだそう。意識が戻ると「また倒れて旅に出たのだな」と感じるといいます。
事故後、何十回も倒れて意識を回復するーその経験を経て、GOMAは自分が見ているものが「生と死の間にあるどこか」であると感じるようになりました。実際に臨死体験を研究している人々も、GOMAの絵と似た光景を見た人がいるといいます。音楽活動については曲を覚えるのに時間がかかり、何度も練習しないとできないといった状況に、GOMA自身も葛藤を覚えることはありました。しかし、今では「もっと気楽にディジュリドゥを吹けるようになったし、リフレッシュして絵の活力になる」といいます。音楽は、過去の自分と今の自分をつないでくれるものであり、未来へとつなげてくれるとGOMAは感じています。
会場内では「GOMA ひかりの世界」のCD販売も。18年ぶりのオリジナル・ソロ・アルバムで、3曲収録されています。各曲は約20分ほどの長さで、静寂と深みを感じさせ、瞑想や集中、リラックスしたいときに最適。
新たに挑戦した陶芸作品。一つひとつ違う個性豊かな形が愛おしいお皿とマグカップ。珊瑚の凹凸を出すために、幾重にも土を手作業で塗り重ねています。
次に、GOMAのインタビューをご紹介します。
Q1. GOMAさんにとって、音楽活動とアート活動は、生きる上でどんな役割を果たしていますか?
音楽は前の人生と今の人生を繋ぐ役割があって、アートの方は15年間前に意識が戻ってから急に始まったので、役割としては自分を癒すためにずっと描き続けています。
Q2. GOMAさんにとって、ひかりの世界はどのような意味を持っていますか?
ひかりの世界はすごくポジティブなエネルギーで、いい方向に自分を導いてくれています。毎回意識が戻るときに見る景色は一緒で、僕にとっては風景画なんです。最初の頃に描いていた絵を見ると、もう絵と呼べるものではないかもしれない。何か点を打ちたくて打っていたけど、それが徐々に体の再生とともに形になってきました。この10年間ずっと後遺症があって、倒れて、意識が戻ってっていうのを何十回と繰り返して、意識が戻ったときに、毎回同じようなひかりの残像が脳に焼き付いてくるのに気がつき始めて、そこからキャンバスに見てきた景色を描き残すようになっていきました。
絵画はアクリル絵の具で、MIXED MEDIAはヒマラヤの天然水晶で作っています。今回、陶器を初めて作ってみたんですが、日常の近くにひかりを感じれるようなものがあったらいいなと思ったんですね。僕はコーヒーが大好きで、コーヒーを飲むときに使えるコップやお皿があったらいいなと思って作ってみました。《ひかりの珊瑚》という作品をモチーフにしています。
Q3. 今後の目標・展望についてお聞かせください。
1回目の人生と2回目の人生が、今ようやくクロスしてきた感じがあって、アートと音楽が完全に二刀流になってきました。今回の展覧会では、アートに合わせた音楽を初めて作りました。一つのパッケージとして、音も映像もアートも全部自分で作ったっていうのが初めでで、今までも自分の音楽はかけてたんですが、昔作ったものをCDでっていう感じでした。今回は、この展覧会のために作った音楽を最適な環境できくことができるように、僕の音楽活動においてレコーディングやライブエンジニアもお願いしている会社に音響設計をお願いしてシステムごと全て持ってきてもらったので、サウンドインスタレーション的な要素もあります。
展望としては、今回音楽とアートの2つを軸にした世界観ができあがってきたなっていう感覚が自分の中にあるので、それをもうちょっとビルドアップして、それを持ってあちこち回りたいですね。アメリカとかヨーロッパも行ってみたいですし、最近ここに来たお客さんと話していたら、インドネシアも面白そうだなと思いました。あとは、やっぱり僕が演奏しているディジュリドゥの国でもあるオーストラリアは行きたいですね。そして、それを一緒にできるようなパートナーを探さないといけないなと思っています。そのパートナーはギャラリーなのか、団体なのか今はまだわからないのですが、そういう人たちと繋がりを持っていきたいと思っています。
以上、交通事故後に絵画の才能が開花したGOMAについてご紹介しました。彼の描く洗練された作品の数々の鑑賞とサウンドを体験しに、ぜひGYRE GALLERYを訪れてみてはいかがでしょうか。
■GOMA ひかりの世界
会期:2024年5月4日(土)ー6月29日(土)/11:00-20:00
会場:GYRE GALLERY | 東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
お問い合わせ:0570-05-6990 ナビダイヤル(11:00-18:00)