執筆者:遠藤友香
東京都は、2040年代の都⽴公園のあるべき姿と豊かな緑を次世代につなぎ、国内外の⼈を惹きつける魅⼒を⽣み出し、⼀⼈ひとりのウェルビーイングに貢献する公園を目標に、都⽴公園全体の機能や価値を向上させるべく様々な取組を⾏っています。東京都江⼾川区にある葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園は⻑きにわたり、海と深いつながりを持ってきました。今年はその歴史を踏まえ、広⼤な敷地の魅⼒を全⾝で感じるアートインスタレーションイベント「海とつながる。アートをめぐる。―HarmonywithNature―」を、2024年8月18⽇(⽇)まで葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて開催中です。
本イベント会期中、葛⻄臨海⽔族園では「海とつながる」をテーマとして、⽔族園を象徴するガラスドームをミストが包み込み、海とつながる世界を⽣み出す演出を⾏っています。また、葛⻄臨海公園では「アートをめぐる」をテーマとして、蜷川実花 with EiMの作品が東京湾を⾒渡せる展望レストハウスであるクリスタルビューを彩り、落合陽⼀⽒、河瀨直美⽒、平⼦雄⼀⽒の作品が4万本の向⽇葵が咲くひまわり畑の中に溶け込み、 新たな景⾊を⽣み出しています。
2024年8⽉1⽇(⽊)に葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて、「海とつながる。 アートをめぐる。― HarmonywithNature―」のメディア向け内覧会が開催されました。メディア向け内覧会にて、蜷川実花 with EiMによるアート作品 「Garden of Sky(空の庭園)」について、写真家・映画監督で、写真を中⼼として、映画、映像、空間インスタレーションも数多く⼿掛けている蜷川実花⽒から、以下の作品解説がありました。
【蜷川実花⽒による作品解説】
クリスタルビュー2階奥の展⽰室と外装、2つのインスタレーションで構成された「Garden of Sky(空の庭園)」。本作品のコンセプトについて蜷川⽒は「今回の企画のお話をいただいたとき、⼩さな頃から馴染みがあった⼤好きなクリスタルビューでの作品づくりを実施したいとお伝えしました。クリスタルビューは空が広く⾒える場所なので、空に溶け込むような作品と、建築の素晴らしさを活かすための表現⽅法を試⾏錯誤しました。」と述べました。
クリスタルを⽤いた新作については「ぜひ近くで細部まで⾒ていただき たいです。一つひとつ想いを込めてつくり続けたパーツを800本のライン状に繋ぎ、⽴体的に空間に配置しています。光を受けてキラキラと輝くため、朝と⼣⽅でも、また天気によっても⾒え⽅が変化する。そうやって⾃然を感じることができる作品です。瞬間の美しさを表現したいという気持ちは、⾃分のベースが写真家だからだと思います。瞬間の変化を感じ取って⼤切にしていく。この感覚を増幅させるようなつくりになっています」と解説。
続けて外装装飾について「ガラスに透過性フィルムを貼ることで、巨⼤なステンドグラスのようにした今回の作品は、これまでのアーティスト活動で最⼤規模の作品になりました。膨⼤な写真の中から美しい花々を選び、四季折々の景⾊が混ざりあった光景をつくっています。これは⾃分が⾒てみたい夢の⾵景、桃源郷のような世界です。遠くから⾒たときにも花々が空に向かって伸びていき、本物の空とグラデーションで溶け合っていく。実際の⾃然の⼀体化するようにつくっています」と語り、 最後に「この場所に来ていただくことでしか体感できない作品なので、 暑い中ではありますが、多くの⽅が来てくれるといいなと思います」と述べました。
続いて、ひまわり畑に場所を移し、植物や⾃然と⼈間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を⾏うアーティストの平⼦雄⼀⽒から、アート作品「Wooden Wood 73」についての解説がありました。
【平⼦雄⼀⽒による作品解説】
作品のコンセプトについて平⼦⽒は「中⼼に位置する、⼈のような姿をした樹⽊の頭部を持つこの⽴体作品は、私達⾃⾝を投影する存在だと思っています。そしてその両側にある果物、観葉植物、猫も、私たちと⾃然の関係を象徴するものとして配置しました。これらの彫刻の⾜元には書物があり、これは私たちが築き上げた⽂明や社会を表しています。⾃然の状況や価値は、私たち⼈間の尺度により変化してきました。そしてこれからも、私たちの植物や⾃然に対する⾏動や姿勢は変化し続けるのではないかと思います。この作品を通じて⾃然との関わり⽅を考え、 新たな視点を開拓してもらいたいと願っています」と語りました。
【落合陽⼀⽒の作品について】
境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開する、メディアアーティストの落合陽⼀⽒の作品「リキッドユニバース :向⽇葵の環世界のコペルニクス的転回」は、脱⼈間中⼼の思考において、他⽣物のプリュリバーサルな環世界の転回を考えています。本作は、存在論的な境界の流動性を探求し、計算機⾃然が織りなす新たな知覚の地平を開く試みです。⾃然と⼈⼯物と⽣成AIの交差点に⽴つ本インスタレーションは、向⽇葵畑と観覧⾞という具象と、デジタルが⽣み出す抽象との間に⽣起する認識の揺らぎを体現しています。⽣成AIは、観客の存在をも包含した環世界のダイナミズムを、LEDの光の律動として具現化します。向⽇葵の光屈性は、⽣命の根源的な環世界との関わりを象徴しています。同時に、その動きをデジタル的に再解釈することで、我々は⽣命とテクノロジーの境界、そして知覚の本質に対する問いを投げかけます。本作は、計算機⾃然という新たなパラダイムにおいて、存在の多様性と相互連関性を探求しています。それは、⼈間中⼼主義を脱し、万物の絶え間ない⽣成変化の中に逍遙遊を⽣きる花と光による具現化です。
【河瀨直美⽒の作品について】
奈良を拠点に映画を創り続ける映画作家の河瀨直美⽒の作品「隠されたもう⼀⼈の私。ひまわり畑での問いかけ」は、「⾃分の中に⾒え隠れするもう⼀⼈の⾃分と出会う」がテーマとなっています。夏を象徴するひまわりの群れの中に突如現れるいくつかの問いかけは、まるで⼈⽣の分岐点に⽴たされたような感覚を与え、鑑賞者を内省と⾃⼰発⾒の旅へと誘います。不規則に並べられた問いかけは、⾃分⾃⾝との対話のきっかけとなり、今まで出逢えなかった潜在的な意識へと繋げてくれます。この対話によって気付かされるもう⼀⼈の私は、⾃分が認識している⾃分とは異なる存在であり、⾃⾝の隠された⾃⼰の深みに気付かせてくれる体験となるでしょう。
【ガラスドームのミスト演出について】
都では、葛⻄臨海⽔族園本館の保存・利⽤の検討や、⽔族園を象徴するガラスドームへの愛着を表現するイベントなどを「ガラスドームプロジェクト」と名付けて進めています。今回その⼀環として、東京のランドマークとしても親しまれている葛⻄臨海⽔族園のガラスドームをミストで演出します。また、 2024年8月11日(⽇・祝)〜8月14日(⽔)の特別イベント「Night of Wonder 〜夜の不思議の⽔族園〜」期間中は、霧にライトアップが追加されて幻想的な空間を演出します。海とドームの境界が曖昧になり海と⼀体化する中、 霧がかる幻想的でまばゆい海の中に没⼊する体験をお届けします。
■「海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ―」
会期:2024年8⽉2⽇(⾦)〜8月18⽇(⽇)
会場:葛⻄臨海⽔族園(葛⻄臨海公園内)および葛⻄臨海公園
⼊場無料・予約不要
※葛⻄臨海⽔族園のみ⼊園料が必要です
時間:葛⻄臨海⽔族園 9:30〜17:00(最終⼊園16:00)
葛⻄臨海公園 9:00〜20:30
【葛西臨海水族園・葛西臨海公園】海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ― (tokyo-zoo.net)