©︎Tamaki Yoshida
執筆者:遠藤友香
世界屈指の文化都市・京都を舞台に開催される、日本でも数少ない国際的な写真祭である「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。一千年の長きにわたって伝統を守りながら、その一方で先端文化の発信地でもあり続けてきた京都。その京都が最も美しいといわれる春に開催されます。
2024年は270,718人が来場され、これまでに約186万人の方に来場いただきました。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025」は、2025年4月12日(土)から5月11日(日)まで開催予定です。メインプログラムには、世界10カ国から13組のアーティストが参加します。今年のテーマは「HUMANITY」。世界各地で社会課題が幾重にも山積みにされている現代において、いま私たちが対峙すべき命題です。
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」は、本写真展について以下のように述べています。
「日本および海外の重要作品や貴重な写真コレクションを、趣のある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間に展開し、ときに伝統工芸職人や最先端テクノロジーとのコラボレーションも実現するなど、京都ならではの特徴のある写真祭を目指します。
2011年の東日本大震災を受け、日本と海外の情報交換の稀薄さを私たちは目の当たりにしました。それはおのずと双方の情報を対等に受信発信する、文化的プラットフォームの必要性への確信となりました。日本はカメラやプリントの技術において世界を先導しているにもかかわらず、表現媒体としての「写真」はまだまだ評価されていません。私たちはここに着目し、「写真」の可能性を見据えるべく国際的フェスティバルを立ち上げ、この世界が注目する伝統と革新の街「京都」で実現することを誓いました。
これまで多くの企業や団体、個人の皆様のみならず、市、府、国のご協力もいただきました。このフェスティバルの発展は皆様のご支援なくしてはありえません。国際的とはまだまだ言い難い日本と海外を対等に繋げるべく私たちは日々試行錯誤を重ねておりますが、同時に様々な出会いも生み出されています。私たちはそこから新しい価値が生まれてくることを信じ、このフェスティバルをさらに発展させるべく邁進します」。
(左より)KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の共同創設者/共同ディレクター ルシール・レイボーズ氏、仲西祐介氏
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭の共同創設者/共同ディレクターであるルシール・レイボーズ氏と仲西祐介氏は、今回のテーマ「HUMANITY」について、次のようにステートメントを発表しています。
「私たちは個人として、世界の一員として、どう生きるのか。
人間性には、素質や経験などそのすべてがあらわれる。
変化し発展し続ける現代社会において、私たち人間はどう在るべきだろうか。
KYOTOGRAPHIE 2025のテーマ「HUMANITY」は、私たちの愛の力や共感力、危機を乗り越える力にまなざしを向けながら、日本と西洋という2つの異なる文化的視点を通じて人間の営みの複雑さを浮かび上がらせる。
関係性を大事にし、調和と相互依存を重んじる日本において、人間性とは、他者との関係性によって成り立ち、人間を自然界から切り離せないものとして捉えられる。一方、西洋では伝統的に個性や自由を尊重し、世界における人間の中心性を強調し、共通の善と普遍的な道徳原理を讃えている。
2025年のプログラムで展示する作品は、自らの経験が作品の中心になっていて、私たちの周囲を照らし出し感情を深く揺さぶる。それは一人ひとりの在り方をあらわにし、私たちが他者と出会い、思いやり、調和することができることを語っている。
写真の力を通じ、人間性とは何かをともに探し求めることが、他者への理解の一助となり、この混沌とした世界において自らがすべきことを共有するきっかけとなることを願う」。
また、2024年12月18日に行われたプレスカンファレンスの場でも、レイボーズ氏と仲西氏から、前述のステートメントと重複する部分はありますが、本写真展で展示する作品を選んだ意図が語られたので、以下ご紹介します。
「現在世界中で、2025年になろうとするのに未だ戦争が起きていたり、ロボットやAIに私達の生活が変えられていく中で、もう一度人間というのはどういったものかというのを考えるような年にしたいと思っています。
KYOTOGRAPHIEは、フランス人のルシール・レイボーズと日本人の仲西祐介で立ち上げ、スタッフも大変多国籍です。日本的な見方、それから西洋的な見方は違うと思うのですが、日本的な見方で人間性をみると、協調性だとか、人と人との繋がりを大切にしたりだとか、自然と人間を分けないで共存していく、そういった考え方の中で私達は生きています。一方、西洋的な考え方でみていくと、個人の自由や権利を主張しながら、人間中心的な世界を作っていくという考え方があると思うのですが、これら両方の視点で今回作品を選んでいます」。
次に、本写真祭に参加するアーティストを、厳選して6名ご紹介します。
1.プシュパマラ・N/京都文化博物館 別館
Bharat Bhiksha (after Calcutta Art Studio print circa 1878–80) , 2018 ©Pushpamala N
インドのバンガロールを拠点に、様々な分野で活動するアーティスト、プシュパマラ・N。彫刻家として活動を開始し、1990年代半ばから、様々な役柄に扮して示唆に富んだ物語を作り上げるフォト・パフォーマンスやステージド・フォトの創作を始めます。その作品は、女性像の構築や国民国家の枠組みといったテーマを主としています。
Motherland: The Festive Tableau, 2009 ©Pushpamala N
本写真祭では、近年テート・モダンに展示された《The Arrival of Vasco da Gama》を含む、3つの主要な作品シリーズを展示。この作品は、ヴェローゾ・サルガドによる1898年の絵画に基づいており、プシュパマラはインドへの新航路を発見した最初のヨーロッパ人とされるポルトガルの探検家ヴァスコ・ダ・ガマに自ら扮しています。この発見で、ヨーロッパの植民地主義がアジア諸国へ広がっていくきっかけとなったとされています。また、母なるインドの歴史的表象について探求した継続的なプロジェクト《Mother India Project》も展示されます。これらの作品を通じて、プシュパマラの身体が政治的な意義を帯び、皮肉とユーモアを交えながら、記録資料、大衆文化、民俗学、考古学、碑文学、優生学の探求を通して、歴史上の様々なインドの人物像を再現します。
2.JR/京都駅ビル北側通路壁画・京都新聞ビル地下1階
The Chronicles of New York City, Domino Park, USA, 2020 ©JR
フランス出身のアーティスト、JR。道ゆく人に自分自身の認識と対峙するような問いを投げかける記念碑的なパブリック・アート・プロジェクトを発表しています。パリ郊外に住むステレオタイプの若者の在り方に異議を唱えた最初の大規模プロジェクト《時代の肖像》(2004-06年)を制作後、国際的に活動を開始しました。パレスチナとイスラエルの分離壁のそれぞれの側に暮らす人々のポートレート(2007年)、ケニアの巨大スラム街キベラの電車の車両に出現する女性の目(2009年)、アメリカとメキシコの国境のフェンスから覗く巨大な幼児(2017年)など、実物を超えるサイズのインスタレーションは、人々の日常の物語を拡張し、対話を促しています。
The Chronicles of San Francisco, Lightbox, USA, 2018 ©JR
2024年秋、JRと彼のチームは京都の様々な場所で移動式のスタジオを構え、道ゆく人に声をかけポートレートを撮影しました。ポートレートはコラージュされ、京都における人々の関係性や多様性を垣間見ることのできる、リアリティ溢れる写真壁画シリーズ《JR 京都 クロニクル 2024》に結実し、本写真祭にて発表されます。
3.マーティン・パー
Chichén Itzá, Mexico, 2002 ©Martin Parr/Magnum Photos
1952年、イギリスのサリー州エプソン生まれのマーティン・パー。1994年よりマグナム・フォトに所属しています。もっとも個性的といえる視覚芸術のアーティストのひとりであり、写真家、映像作家、コレクターとして一時代を築いています。ヴィヴィッドな色と難解な構図で知られるパーは、日本、アメリカ、ヨーロッパ、そして母国イギリスなど、世界各地の文化の特性を研究し、1985年以降は中国にも足繫く通っています。レジャー、消費、コミュニケーションといったテーマを辛辣な皮肉とともに長年探求しています。
The Matterhorn, Alps, 1990 ©Martin Parr/Magnum Photos
パーは2014年に財団を設立し、イギリスとアイルランドをテーマに作品を制作している新進気鋭の写真家や、これまで注目される機会がなかった写真家を支援しています。
KYOTOGRAPHIE 2025ではマスツーリズムをテーマに、長年世界中で撮影してきたユーモアたっぷりの作品に加え、開催直後に京都で撮影される新作を同時に発表します。
4.石川真生/誉田屋源兵衛 竹院の間
©Mao Ishikawa
1953年、沖縄県大宜味村生まれの石川真生。沖縄を拠点に制作活動を続け、沖縄をめぐる人物を中心に、人々に密着した作品を制作しています。2011年、『FENCES, OKINAWA』でさがみはら写真賞を、2019年には日本写真協会賞作家賞を受賞。国内外で広く写真を発表し、沖縄県立博物館・美術館のほか、東京都写真美術館、福岡アジア美術館、横浜美術館、ヒューストン美術館(アメリカ)、メトロポリタン美術館(アメリカ)などパブリックコレクションも多数。2024年に令和5年度芸術選奨文部科学大臣賞(2024)、第43回土門拳賞を受賞しました。
©Mao Ishikawa
本写真祭では、1970年代後半に当時米軍兵の中でも差別されてきた黒人兵だけが集まるバーで働きながら、男女の恋愛模様や当時の沖縄をシャッターに収めた最初期の作品《赤花》と、自身が愛してやまない人々を沖縄の離島で撮影している現在進行中の最新作をあわせて発表します。
5.アダム・ルハナ/八竹庵(旧川崎家住宅)
©Adam Rouhana
1991年アメリカ・マサチューセッツ州ボストン生まれで、エルサレムとロンドンを拠点に活動するパレスチナ系アメリカ人のアーティスト兼写真家であるアダム・ルハナ。オックスフォード大学で修士号を取得。彼の作品は『ニューヨーク・タイムズ』『Aperture』『Dazed』などに掲載されています。
ルハナの作品は、彼の主観的なレンズを通して、パレスチナが持つあらゆるコンテクストの中にあるオリエンタリズムを脱構築しています。アメリカで育った西洋人として、アラブ人として、そしてカメラを構えるパレスチナ人としての自分の立場を問うています。
©Adam Rouhana
ルハナの作品は、過去のテーマを内包しながら新たな物語を語ることで、パレスチナの同時代的な立ち位置を創出し、能動的な自己決定の倫理を体現するパレスチナの人々の生活を表現として昇華しています。ルハナは多くの場合、祖母が営む果樹園の風景や、パレスチナで過ごした幼少時の記憶にある家庭の暮らしからインスピレーションを受け、作品を制作しています。
6.吉田多麻希
©︎Tamaki Yoshida
コマーシャルフォトグラファーとして多くの企業で活動する傍ら、常々感じていた自然と人との関係の不平等さを見つめ直すべく、2018年よりプロジェクトをスタートした吉田多麻希。どこか他人事になりがちな大きな問題からではなく、より身近な視点から人と自然や生き物の関係を問いかけるのが吉田のスタイル。
現在は、生活排水による環境問題や、近年頻発している人と野生動物の事故などをテーマにしたプロジェクトに取り組んでいます。これらのプロジェクトにおいて吉田は、生き物の悲劇的な側面に焦点を当てるのではなく、人間の思考方法や無意識の行動に固執することに疑問を投げかけ、人と生き物の新たなバランスを模索することを目指しています。
©︎Tamaki Yoshida
2024年、KYOTOGRAPHIEインターナショナルポートフォリオレビューの参加者より受賞者が選ばれる「Ruinart Japan Awarad 2024」を受賞。本写真祭では、同年の秋にフランスを訪れ、ルイナールのアーティスト・レジデンシー・プログラムに参加して制作した作品を発表します。
以上、2025年4月12日に開幕する「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025」についてご紹介しました。「HUMANITY」をテーマに掲げる本写真祭を訪れ、世界各地で社会課題が幾重にも山積みにされている現代において必要とされる、愛、共感、危機を乗り越える力について熟考してみてください。
■KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025
会期 : 2025年4月12日(土)〜5月11日(日)
主催 :一般社団法人KYOTOGRAPHIE
チケット:一般パスポート 6000円(前売り5500円)、学生パスポート 3000円(前売りも同額)
入場無料会場もあり
■参加アーティスト Artists
プシュパマラ・N Pushpamala N.
JR
マーティン・パー Martin Parr
グラシエラ・イトゥルビデ Graciela Iturbide
石川真生 Mao Ishikawa
甲斐啓二郎 Keijiro Kai
■予定会場 Venues
京都文化博物館 別館
京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
京都駅ビル北側通路壁面
京都市美術館 別館
両足院
誉田屋源兵衛 竹院の間
くろちく万歳ビル
ASPHODEL
八竹庵(旧川崎家住宅)
ギャラリー素形
DELTA/ KYOTOGRAPHIE Permanent Space 出町桝形商店街
嶋臺(しまだい)ギャラリー
※出展作家、会場名など全てのプログラム内容は、2024年12月12日現在のもので、予告なく変更になる可能性があります。