物がもつ従来の⽤途から切り離すことで、デザインすること、形を⽣み出すことについて思考するグループ展「Not Quite」

2024/06/26
by 遠藤 友香

Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL

執筆者:遠藤友香


2019年6⽉、東京・⽇本橋⾺喰町の「DDD HOTEL」の⼀⾓に開廊したギャラリー「PARCEL(パーセル)」。⻑年ギャラリー業に従事してきた佐藤拓がディレクターを、アートコレクティブ「SIDE CORE」の⼀員、⾼須咲恵がプログラム・アドバイザーを務めています。

元々、⽴体駐⾞場だった特徴的な空間において、現代美術を軸にカルチャーを横断するプログラムを形成し、国内外の幅広い作家を紹介。2022年2⽉には、PARCELの裏側に位置する「まるかビル」2Fに2つ⽬の拠点「parcel」を開廊。PARCELとparcelは両スペースを通して、時代に対して多⾓的なメッセージを発信しながら、コマーシャルギャラリーとプロジェクトスペースの特性を併せ持った存在とプログラム構成を⽬指しています。

この度、PARCELにおいてグループ展「Not Quite」が2024年6⽉30⽇(⽇)まで開催中です。私たちが⽇々の⽣活の中で何気なく触れている、椅⼦、焼物などのプロダクトや⼯芸と呼ばれるもの、アートなどが本来の「⽬的」から逸脱したとき、カテゴライズ⾃体が無⼒化し、より純粋にそのフォルム、マテリアルを享受することができるのではないかと、PARCELは問うています。

グループ展に参加しているイ・カンホ、橋本知成、太⽥琢⼈、⽮⼝周太郎といった4⼈のアーティスト、デザイナー、ショップオーナーは、家具や物がもつ従来の⽤途からそれらを切り離すことで、デザインすること、形を⽣み出すことと形そのものについて考えることを促しています。

次に、それぞれの作家についてご紹介します。

1.イ・カンホ

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


プロフィール:弘益⼤学校にて⾦属⼯芸とデザインを学んだ後、韓国のソウルを拠点に活動。⾝の回りにある素材から、さまざまな⽇⽤品をつくっていた農業家の祖⽗の影響を受け、幼少期から⾃らの⼿で⾝近な素材をもとに新たに作り出すことに楽しみを⾒出してきた。その体験をもとに、⽇常のものに新たな意味と機能を与える⼿法で⽇々制作を続けている。最近は、素材が別の素材と結びつく瞬間を発⾒することをテーマに次々と新作を発表している。Design Miami/Baselで審査員特別賞(2009年)、韓国政府⽂化部のArtist of the Year(2011年)、Yaol/韓国⽂化遺産協会のYoung Craftsman of the Year(2013年)、Designer of the Year(2017年)など受賞多数。

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


ソウル拠点のイは彫⾦出⾝でありながら、現在は⼯業⽤のワイヤーやロープを鍵編みしたベンチや照明、伝統的な七宝焼きをベースにした作品を制作しています。

ソウル郊外で暮らしていた祖⽗から⾝の回りの物を⾃分で作ることを叩き込まれたイは、作品を通して、世に溢れている素材に対しての⼯夫とそれを駆使した新たな造形について気づかせる作品を多く残しています。


2.橋本知成

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


プロフィール:1990年、和歌⼭県⽣まれ。2012年に、京都教育⼤学教育学部美術領域専攻を卒業。2014年、⾦沢美術⼯芸⼤学⼤学院⼯芸専攻陶磁コース修了。2017年に、⾦沢美術⼯芸⼤学⼤学院博⼠後期課程⼯芸研究領域陶磁分野を修了している。

Kyoto Art for Tomorrow−京都府新鋭選抜展2019で産経新聞社賞(2019年)、神⼾ビエンナーレ2015 現代陶芸コンペティションで準⼤賞(2015年)など受賞多数。Victoria and Albert Museum、LOEWE Foundation、Park Hyatt Kyoto、HOTEL THE MITSUI KYOTOなどにコレクションされている。

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


橋本知成は信楽を拠点に活動しており、⼟を素材に、焼物と時にはモルタルを組み合わせた彫刻作品で知られ、焼物が持つフラジャイルなイメージとモルタルが持つマスキュリンな印象を組み合わせながら、素材間の緊張感を通して我々に、フォルム、重量、重⼒について考えさせる作品を制作しています。2019年のLOEWE CRAFT PRIZEファイナリストでもある彼の作品の肌は、鉱物を連想させるような不思議な光沢で覆われ、対峙する⾓度によって⼤きくその表情を変えます。


3.太⽥琢⼈

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


プロフィール:1993年、フランス⽣まれ。2017年武蔵野美術⼤学⼯芸⼯業デザイン学科卒業。2022年東京藝術⼤学美術研究科デザイン専攻修⼠課程卒業。物と⼈間のコミュニケーションについて興味があり、⽇常の観察の中で新たな視座の発⾒を作品へ変換する。特定の分野に固執せず、プロセスや考え⽅の流動性と多元的思考を⼤切にしている。

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


デザイナーである太⽥琢⼈は、⽇常の観察を通しての作品を発表している作家です。ただ、⼀貫してそこにはアウトプットの造形に向かう姿勢とクリティックとしての視点もあり、⽣活を通しての取捨選択や物事の認知、社会システムなどと作品テーマは広いのが特徴です。既存の枠組みにとらわれることなく、インテリアプロダクトからインスタレーションまでと横断をしながら発表を続けています。


4.⽮⼝周太郎

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


プロフィール:「YOU ARE WELCOME」オーナー、プロップスタイリスト、プロダクトデザイナー。

2018年にショップ「YOU ARE WELCOME」をスタートさせる。80年代以降のポストモダンデザインを筆頭に、前衛的で挑発的な造形美のものを中⼼に、様々な年代やジャンルのアイテムをセレクト。⽮⼝周太郎によるオリジナルの什器も展開している。雑誌やCDジャケット、広告やミュージックビデオの美術/プロップスタイリングも⼿がけ、アートやプロダクトのデザインも⾏う。

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Photo: Kohei Omachi (W) courtesy of PARCEL


⽮⼝周太郎は、東京都内で「YOU ARE WELCOME」というインテリアショップを営んでいます。巨匠のモダンデザイン家具から作者不明の何かまで、その特異な審美眼から選び抜かれた品々は不思議な調和を産んでいます。フォルム、⾊彩という点においてユニークなプロダクトたちは、⽮⼝のフィルターを通し、あらたなコンテクストを帯びた状態で再度世に出されます。


PARCELは、タイトル「Not Quite」(~でなくもない) にもあるように、いつも私たちが⾒慣れている視点からはみ出ている作品を中⼼に作家を選んでいます。これら居⼼地の良いカテゴリーを⾶び出してしまっている「〜でなくもない」作品や審美眼を通して、デザインとアートのいびつかつ奇妙な相関関係を⾒ていただくとともに、形というものを純粋に楽しんでいただけたらと述べています。


■“Not Quite”A Group Exhibition by:
イ・カンホ | Kwangho Lee
橋本 知成 | Tomonari Hashimoto
太⽥ 琢⼈ | Takuto Ohta
⽮⼝ 周太郎 | Shutaro Yaguchi

日時:2024年5⽉18⽇(⼟)ー6⽉30⽇(⽇)/14:00ー19:00

場所:PARCEL
東京都中央区⽇本橋⾺喰町2-2-1 DDD HOTEL 1F

休日:⽉・⽕・祝⽇

PARCEL (parceltokyo.jp)