マシンの知性からバイアスを引き出し、その眼に“幻の風景写真”を撮らせる認知心理的な試みを行った、苅部太郎個展 「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」

2024/08/05
by 遠藤 友香

苅部太郎個展 「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」


執筆者:遠藤友香


株式会社マイナビが、東京・銀座の歌舞伎座タワー22Fで運営する、2023年7月にオープンしたアートスペース「マイナビアートスクエア(MYNAVI ART SQUARE/通称:MASQ)」。学生、ビジネスパーソン、企業、教育機関とアーティストの繋がりを後押しするプラットフォームです。複雑化した社会で、主体的に考え柔軟に判断していく力を養うきっかけとなる「アート」や「アート思考」、「リベラルアーツ」を起点に、プログラムを展開しています。MASQは、新たなアイデアやアプローチをもたらすアーティストやキュレーター、コレクティブ(共同体) などの表現者らと共に、機械やAI では代替できない、一人ひとりのもつ潜在的な可能性を広げることで、豊かな未来を共創することを目指しているとのこと。

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この度、MASQでは2024年8月31日(土) まで、アーティスト / 写真家の苅部太郎氏による個展「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」を開催中です。

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アーティスト / 写真家 苅部太郎氏


苅部氏は、今日の社会における複雑な様相を、メディア技術や知覚システムの根源に立ち戻り、人類学や哲学など知の領域から「人がものを見る経験」を再認識するコンセプチュアルな作風を特徴としています。活動開始から一貫して写真メディアを使用し、初期は被災地・紛争国などでのフォトジャーナリズムや、人形やロボットなどの人工物と人間関係を結ぶ人々を捉えるドキュメンタリーの手法を用いました。そして近年は、テクノロジーと人間が相互作用しながら形成するホロスの主観的視覚世界の視覚化など、角度を変えながら手法を考察しています。

その活動は国内外で評価され、『EL PAÍS Semanal』や『WIRED.jp』にて作品が取り上げられるほか、「浅間国際フォトフェスティバル」や「Auckland Festival of Photography」などの展覧会にも多数出品しています。さらに今年春に開催された「ジャパンフォトアワード」では、審査員であるキュレーター/『Foam Magazine』元編集⻑の「Elisa Medde賞」を受賞。現代写真の新たな領域を切り拓く存在として注目を集めています。

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「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the  Rock in the Ocean」展示会場の様子


本展では、苅部氏が2022年から続けるプロジェクト「あの海に見える岩に、弓を射よ」に新作を交えて発表します。本作はマシンの知性からバイアスを引き出し、その眼に“幻の風景写真”を撮らせる認知心理学的な試みです。太古の穴居人が洞窟壁画や星座に抱いた「夢想」と、現代に生きる私たちの誰しもが囚われる「欲望」を、苅部はマシンを依り代にして魔術師のごとく作品に投影します。

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「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the  Rock in the Ocean」展示会場の様子


苅部氏は本展に関して、以下のように語っています。

「私は10年ぐらい写真を使った作家活動を、東京を拠点として行っています。写真を始める前に、心理学、感染症、金融、ITという領域で活動してきました。それで今美術や写真の分野で活動しており、ぱっと見バラバラなように思えるのですが、自分の中では一つ共通していることがあって、それは見えないシステムを使っていることなんです。心理学って見えないシステムを使うし、金融経済、ITもそうですし、感染症も免疫という体のシステムを使っていますよね。そういった見えないシステムに自分たちが生きている世界って包まれていて、そこのシステムに含まれているパターンや構造とか、そういったものを自分が探求したりとか、そこから何か自分の気づきやヒントを得られないかということを考えながら、そういった事象を扱っています。

そういったバックグラウンドがあって写真を始めたわけなんですが、写真を始めた当時は報道写真家として活動していました。国内外の被災地や難民キャンプといった、ハードゾーンが主な場所だったのですが、そういった場所でいわゆるフォトジャーナリズムをして、海外のメディアに写真を配信する仕事をしていました。

いわゆる歴史を動かすような大きな事件とかイシューとか、グランドゼロに立ちたいなという気持ちを持って活動してきて、具体的に言うと熊本地震とか、ロヒンギャ難民キャンプとか香港デモとか、そういった場所にも出向いてきたんですが、だんだん目の前で起きていることを写真に撮って、その写真を使ってどう語るかという語り方よりも、その写真を自分が撮って、その後世界中に伝播していくというそのダイナミズム、写真とか視覚メディアの機能自体に関心が移ってきました。

改めて考えるとすごく写真って不思議なもので、目の前で自分が見た光景をそのまま記録して、それを世界中の人と瞬時にシェアできるというものすごい制度で、そのおかげで人類のサバイバル能力とか考える力が上がっているんですが、そういった機能面について最近は考えています。なので、最近はこういったちょっとコンセプチュアルな、写真メディアそのものについて問うような、写真の写真性をあがくようなことを最近はしています」。

次に、苅部氏おすすめの1作品をピックアップしてご紹介します。

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苅部氏はこちらの作品について、「これは街っぽい絵だなというのが多分おわかりになると思うんですが、元々の写真は違うんですね。元々の写真はノイジーな抽象的な画像なんです。この作品は、AIに誤読させる、機械に見間違いをさせるというプロジェクトです。

AIが搭載された風景写真認識システムがあって、そこに風景写真じゃないものを入れると、バグっちゃうんですね。バグってAIが混乱するという、AIのハルシネーションという現象なのですが、それをここでは積極的に出そうとしています。AIが搭載されたソフトウェアに、こういったカオティックなものを入れると、AIってバグりながらもパターン認識を頑張ってしようとするんですね。この情報の塊は窓だなとか、岩だなとか、森だなというのを、無理やり自分の中で一致率を計算して引っ張ってくるんですね。

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ここでいうと、こういうブロックのノイズがデジタルテレビ画像の中で出てくるのですが、テレビを接触不良にしています。元々流れているドラマとかニュースとか、そういった番組にブリッジノイズを発生させて、よくわからない画像にして、その画面を直接カメラで撮っています。画面を撮って、その画像を回転とかトリミングすると、一見元の画像が何だかわからなくなります。そうやって人間が抽象画を観たときに、何かに自分に引きつけて観るように、AIも元々人間の脳を模して作られてるので、人間の脳と同じように解釈をしようとするんです。無理やりこういった出力をしてくることを行っています。

その出力具合も時間の経過に伴って変わってくるんですね。大体1年前に出力したときは写実的なものがたくさん出ていました。街とか、少し滝っぽい絵とか。ですが、だんだん時間が1年ぐらい経つと、抽象的な表現になってきたんですね。より抽象的に解釈を踏まえながら、AIが出力するようになってきていて、だんだん人間が観てこれは写実的な風景絵画だなっていうことを理解しづらくなってきて、AIの風景感と人間の風景感かがちょっとずつずれてきているなということが感じられて、そこを記録しているんですね。

AIってバージョンアップされて、一度バージョンアップされると、元のアルゴリズムとか元の振る舞いに戻らないんです。なので、そのときにしか得られないAIの振る舞いっていうものを私は写真的に、この瞬間をキャプチャーしているというのがこの作品になります」。

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プロデューサー 戸倉里奈氏


MASQのキュレーションを担当しているプロデューサーの戸倉里奈氏は、本展について次のように述べています。

「マイナビアートスクエアは去年の夏にオープンしまして、特に去年から今年にかけては、若手のアーティストをフューチャーして取り扱っています。今回は、JAPAN PHOTO AWARDさんにご協力いただいての共同キュレーションになります。JAPAN PHOTO AWARDさんは、現代アート写真家、特に若手の発掘に力を入れているアワードで、非常に魅力的なアート写真家を多く輩出しています。今回、その中でも苅部太郎さんに展覧会をお願いしました。

苅部さんの素晴らしいところは、現代アート写真という写真の枠にとどまらずに、もっと広い可能性を示しているところです。ご覧いただくとわかるかと思うのですが、写真というよりも本当にアート作品で、まるでペインティングのような世界観が展開されています。写真は苅部さんが表現したいものの一つのツールであって、写真を見せたいわけではなく、本当にアート作品を見せるのが軸にあるのだと思いました。

軽部さんは非常に経歴も面白くて、色々なことを経験して最後にたどり着いたのがアート写真で、それはどうしてですかと聞いたら、わからないこと、わからないシステムを探していくのが好きなんですと仰ったのが非常に心に残りました。アートというのはずっと問いかけをしながら作り続けていくものだと個人的に思っていまして、苅部さんの作品が魅力的なのは、ずっと問い続けて、そして答えを見つけようとするその姿勢にあるんだなというふうにものすごく感じました」。

 

以上、MASQで開催中の苅部太郎の個展 「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」についてご紹介しました。まるで抽象画のような写真作品は、観ている者の心に深く刺さってくるものがあります。ぜひ会場に足を運んで、ご自身の目でお確かめください。

09.jpg?1722841144469 会場内では、Art Book『あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean』の販売も。


■「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」

会期 :2024年7月26日(金)〜8月31日(土)
・苅部太郎×徳井直生トークイベント | 8月22日(木) 19:00〜20:00
場所 :MYNAVI ART SQUARE(MASQ)
東京都中央区銀座4-12-15 歌舞伎座タワー22F
開館時間 :11:00〜18:00
休館日 :日・月・祝

アートとラグジュアリー分野で世界的に知られるサザビーズが、 アジアの新フラッグシップ拠点「サザビーズメゾン」を香港にグランドオープン!

2024/08/03
by 遠藤 友香

サザビーズメゾン Courtesy of Sotheby’s


執筆者:遠藤友香


1744年に設立され、アートとラグジュアリー分野で世界的に知られる「サザビーズ」。サザビーズはオークションや即時購入チャネルを通じて、優れたアートやラグジュアリーオブジェへのアクセスと所有を促進しています。これにはプライベートセール、Eコマース、リテールが含まれます。長年蓄積された信頼に基づく我々のグローバルマーケットプレイスは、業界をリードするプラットフォームと、40カ国70カテゴリーにわたるスペシャリストのネットワークによって支えられています。これらのカテゴリーには、現代美術、近代美術、印象派美術、古典美術、中国美術、ジュエリー、時計、ワイン、スピリッツ、デザイン、そしてコレクティブルカーや不動産が含まれます。サザビーズは、アートと文化の変革力を信じ、業界をより包括的、持続可能、そして協力的にすることにコミットしています。

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 ササビーズメゾン、ランドマークチャーター Courtesy of Sotheby’s Photo credit : Stefan Ruiz


この度、サザビーズが2024年7月27日(土)に、アジアにおける新たなフラッグシップ拠点となる「サザビーズメゾン」を香港にオープンしました。メゾンは、ラグジュアリーブランドや世界的なコマーシャルギャラリーが立ち並ぶセントラル地区に位置するランドマークチャーターに開設されました。

ロッテルダムに本拠を置く建築スタジオ「MVRDV」によってデザインされた約2,230平方メートルに及ぶスペースは2フロアにわたり、独自のキュレーションの元、さまざまなカテゴリーのアートやラグジュアリーといった蒐集を探求する場として展開されています。先史時代から現代まで、20以上のカテゴリーを網羅するその価格帯は、5,000香港ドルから50百万香港ドルに及びます。2階のスペースには5つのサロンが設けられ、奈良美智の最も評価の高い作品群から「Agent Orange (In the Milky Lake)」や、塩田千春「State of being (Skull)」、平子雄一の「Tree Ring」など、日本人作家の作品を含む数百点にわたるファインアート作品やオブジェの販売を展開。オープニングでは、21世紀における最も衝撃的なオークションの瞬間のひとつとして記憶に新しいバンクシーの著名な「Girl with Balloon」が紹介されました。

サザビーズ・アジア・マネージングディレクターのネイサン・ドラヒは、以下のように語っています。

「サザビーズメゾンは長い年月をかけて築き上げてきたものです。私たちは香港のこの最先端のスペースが、世界中の訪問者にとって文化の中心地となること、あらゆる世代のアートやカルチャー愛好者が特別なオブジェや体験に触れ、インスピレーションが得られる場所となることを願っています。この香港の中心地にあるサザビーズの Another World を是非ご体験下さい」。

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サザビーズ・サロン 上階 Courtesy of Sotheby’s


大通りに面するメゾンの1階スペースは3つの空間から成り、美術館級の展覧会やパフォーマンスに加えて、主要なオークションも展開される予定です。道教の教えとその具現化でもある岩の形にインスピレーションを受けたデザインは、自然との調和、絶え間ない変化と適応性を象徴し、過去と現在をつなぐ没入的で瞑想的な空間となっています。

グランドオープニングにおける展示では、ドイツのビジュアルアーティスト、ゲルハルト・リヒターの「Eisberg(Iceberg・氷山)」(1982年)と、中国の宋代の希少な汝窯陶磁器をユニークな視点から取り上げた「ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum」展、そして仏教芸術の発展を網羅した展覧会「Bodhi: Masterpieces of Monumental Buddhist Art」を開催。

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ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum Courtesy of Sotheby’s


時空を超えた物語を展開する「ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum」展では、現代美術が写真の時代を経て辿り着いた風景画の究極の形態の一つである、ゲルハルト・リヒターによる「Eisberg(Iceberg・氷山)」が、光り輝く青緑色の釉薬と織り交ぜられ、その氷のようにひび割れた美しい表情で歴代の皇帝や学者、人々を千年近くにもわたり魅了してきた稀有な汝窯の筆洗陶磁器と重ね合わされます。展覧会では英国の小説家、アンナ・カヴァンによる小説『氷』(1967年)の一節も参照されています。

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Bodhi Masterpieces of Monumental Buddhist Art Courtesy of Sotheby’s ササビーズメゾン、ランドマークチャーター1階 Photo credit : Stefan Ruiz

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BBodhi Masterpieces of Monumental Buddhist Art Courtesy of Sotheby’s ササビーズメゾン、ランドマークチャーター1階 Photo credit : Stefan Ruiz


また、古代ガンダーラから栄華を誇った明朝宮廷、北朝と南朝の激動の時代、そして二つの宋代まで、その二千年にも及ぶ仏教芸術の発展をたどる展覧会「Bodhi: Masterpieces of Monumental Buddhist Art」も同時開催。

同社は新たなメゾン開館を記念して、英国の著名俳優、チャールズ・ダンスがナレーションを務める特別映像「Another World」(2024年)も制作。そこでは複製技術を経た現代の世界にコピーのコピーが溢れている中で、それでも我々は「Another World(未知の世界)」を探求できると語られています。

サザビーズ・アジアの会長、ニコラス・チョウは次のように述べています。

「『Another World』は、私たちメゾンの哲学を体現しています。訪問者はこの場所において、数百万年の歴史と多様な文化や文明を反映したアートや収集品の数々を、その優れた美術館的要素を兼ね備えた空間で提供されるプログラムと共に、新たに創造された購入体験として365日楽しむことができます。

私たちの新しいメゾンは、歴史が語られ、創られる場であり、素晴らしい物語の数々が生き生きと蘇る場所になることを確信しています。

徹底したキュレーションや、現代的なパフォーマンス、ユニークなイベントを通じて、芸術体験の限界に挑戦します」。

サザビーズはまた、2024年9月に開催される「サザビーズ・モダン・コンテンポラリー・アートのイブニングセールスとデイセールス」を皮切りに、10月には「ラグジュアリー&アジアン・アートオークション 」も展開予定です。今後の展開も益々目が離せないサザビーズに、ぜひ注目してみてください。

 

■サザビーズメゾン
公式オープン日:2024年7月27日(土)
営業時間:
月~土|午前11:00~午後7:00
日|午前11:00~午後6:00
住所:LANDMARK CHATER, 8 Connaught Road, Central
sothebys.com/asia

Sotheby's Asia (sothebys.com)

「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」が、南仏・アルル国際写真フェスティバルにて「TRANSCENDANCE(超越)」展を開催中

2024/08/02
by 遠藤 友香

世界屈指の文化芸術都市・京都を舞台に開催される、 アジアで最も大きな国際写真祭の一つである「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。 国内外の気鋭の写真家による作品展示を中心に、 子どもから大人、アマチュアからプロ写真家までを対象とする様々な教育プログラムも開催し、 写真を通して歴史や社会など関連分野にも造詣を深めていけるように取り組んでいます。 KYOTOGRAPHIEは、多くの観客、写真関係者、 多様な分野の第一人者たちが集い、 交流していくことで新たな創造性が生み出せるような、 国際的なプラットフォームの構築を目指しているとのこと。

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この度、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭は、世界最古の写真祭「アルル国際写真フェスティバル」にて、「TRANSCENDANCE(超越)」展を、2024年9月29日(日)まで開催中です。本展では、写真の多様な言語を探求し、写真表現を肯定とレジリエンスへと昇華する 6 人の日本人女性写真家、細倉真弓、岩根愛、岡部桃、鈴木麻弓、殿村任香、吉田多麻希の作品が一同に会します。

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(左から)仲西祐介、ルシール・レイボーズ(KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 共同創設者& 共同ディレクター)


「TRANSCENDANCE(超越)」展は、 第10回 KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭を記念し、ルシール・レイ ボーズ、仲西祐介、ポリーヌ・ベルマールの企画により2022年に開催された「10/10 現代日本女性写真家 たちの祝祭」展にインスパイアされ、同展に参加した写真家の数名の作品に焦点を当てています。彼女たち の作品に内在する親密性や集団社会における体験は、現代の日本社会の複雑性やその先にあるものを私たちに投げかけています。

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「TRANSCENDANCE(超越)」展は、いわゆるグループ展ではなく、6人の写真家それぞれに光を当てる万華鏡のような展覧会とも言えるでしょう。写真の力を通して、ヴァルネラビリティ(脆弱性)、多様性の美しさ、そして自分の物語や歴史を新たに作っていく勇気を持つ女性たちの不屈の精神を讃えています。日本で制作された6名の作品は、KYOTOGRAPHIEが第1回からタッグを組んでいる小西啓睦のデザインによる洗練されたセノグラフィーにより展示されています。

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展示会場となるVAGUEは、南フランスの古都アルルの閑静な通りに面した、自然光あふれる石造りの建造物で、日本出身のデザイナー兼クリエイティブ・ディレクターの柳原照弘がリノベーションを手掛けています。時を超越したこの空間では、建築、デザイン、現代アート、工芸が出会い、展覧会、ワークショップ、 フード・ポップアップ、マテリアルリサーチ、現代工芸、レジデンスなど、多様なコラボレーション・プロジェクトが生まれる場となっています。

■ケリング「ウーマン・イン・モーション」の協力

ファッション、レザーグッズ、ジュエリー製品を扱うメゾンおよびケリングアイウエア、ケリング ボーテを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループである「ケリング」。傘下のブランドは、グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、アレキサンダー・マックイーン、ブリオーニ、ブシュロン、ポメラート、ドド、キーリン、ジノリ1735。戦略の中心にクリエイティビティ(創造性)を掲げるケリングは、 サステナブルで責任のある方法により未来のラグジュアリーを築きながら、各ブランドがそれぞれの創造性を自由に表現することを可能にしています。

2015年、ケリングは映画界の女性に光を当てることを目的に、カンヌ国際映画祭にて「ウーマン・イン・ モーション」を立ち上げました。芸術分野における平等のための闘いは映画界に限ることなく、「ウーマン・ イン・モーション」は写真を始めとする他の芸術分野にもその取り組みを広げています。

2019年3月、ケリングはアルル国際写真祭とのパートナーシップを発表し、同写真祭での「ウーマン・イン・ モーション」プログラムをスタートしました。このパートナーシップは、女性写真家の認知度向上に貢献し、 同分野における男女平等を達成することを目的としています。ケリングは、2016年から支援しているマダム・ フィガロ・アルル・フォトグラフィー・アワードを通じて、才能ある次世代の女性写真家を支援し続ける一方で、 アルル国際写真祭にて「ウーマン・イン・モーション」ラボと「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを立ち上げました。同賞は象徴的な女性写真家のキャリアを称えるもので、受賞作家の作品を写真祭のコレクションとして購入するための賞金2万5000ユーロが含まれています。2019年はスーザン・ メイゼラス、2020年はサビーヌ・ヴァイス、2021年はリズ・ジョンソン・アルトゥール、2022年はバベット・ マンゴルト、2023年はロザンジェラ・レンノ、2024年は石内都が受賞しました。

日本でも、ケリングはKYOTOGRAPHIEを支援しています。2021年は、ヨーロッパ写真美術館 (MEP)による「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展 ‐ フランスにおける写真と映像の新たな見地」、2022年に10名の日本人女性写真家の展覧会「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」、2023年は石内都・頭山ゆう紀「A dialogue between Ishiuchi Miyako and Yuhki Touyama |透視する窓辺」展、2024年は川内倫子・潮田登久子「From Our Windows」展を支援しました。

南仏に行かれる方は、世界最古の写真祭「アルル国際写真フェスティバル」にて開催中の「TRANSCENDANCE(超越)」展を、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。


■「TRANSCENDANCE(超越)」展

出展作家:細倉真弓、岩根愛、岡部桃、鈴木麻弓、殿村任香、吉田多麻希

会期:2024年7月1日(月) - 9月29日(日)

会場:VAGUE ARLES(フランス・アルル) 14 Rue de Grille, 13200 Arles, France

会場時間: 10:00―19:30

入場料:€ 6

キュレーション:ルシール・レイボーズ、仲西祐介(KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 共同創設者& 共同ディレクター)

共同プロデュース:SIGMA

With the support of Kering | Women In Motion

トランセンデンス - エキシビション - アルル国際写真 (rencontres-arles.com)

カンボジアの深刻な社会問題について、新たな視点や解釈で探求。カンボジアで最も重要なアーティストの一人、クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」が開催中

2024/08/02
by 遠藤 友香

Kongkea (Water)
2024
woven vines and dark green fabric
190.0 x 78.0 x 6.0 cm
©Khvay Samnang


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Cholsa (Sea) 
2024
woven vines and camouflage fabric 
95.0 x 110.0 x 6.0 cm 
©Khvay Samnang

執筆者:遠藤友香


日本を代表するコンテンポラリーアートギャラリーである「小山登美夫ギャラリー」。この度、小山登美夫ギャラリー天王洲では、カンボジアで最も重要なアーティストの一人である、クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」を2024年8月10日(土)まで開催中です。

クゥワイ・サムナン(1982-)は、カンボジアの深刻な社会問題を多大な時間を費やしてリサーチし、写真、ビデオ、インスタレーション、彫刻、パフォーマンスなど様々なアプローチによって、歴史、文化、様々な事象についての新たな視点、解釈を探求しています。

ユーモラスで重層的な作品は国際的にも高い評価を得ており、主な個展にジュ・ド・ポーム国立美術館(2015年、パリ、その後、CAPCボルドー現代美術館へ巡回)、ハウス・デア・クンスト(2019年、ミュンヘン、ドイツ)、Tramway(2021年、グラスゴー、スコットランド)、ifa(2022年、シュトゥットガルト,ドイツ)があります。その他の国際展では、現在開催中の第60回 ヴェネチア・ビエンナーレの公式関連展示「The Spirits of Maritime Crossing」に参加中、2017年にはドクメンタ14に参加。またアーティストコレクティブ「Sa Sa Art Projects」のメンバーとしても活動し、2018年の第21回シドニービエンナーレ(片岡真実キュレーション)や、2022年のドクメンタ15にも参加しました。

本展は作家にとって小山登美夫ギャラリーでの4度目の個展となります。今回、長年サムナンの活動を至近距離で支えてきたチュム・チャンヴィアスナがキュレーションを担当し、以下の言葉を寄せています。

■クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」のキュレーションを担当したチュム・チャンヴィアスナの言葉

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Das Pralung (Rousing Spirits)
2024
single-channel HD video, color, sound, 22'29''
©Khvay Samnang 


クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」では、「Pralung(プロルン)」と呼ばれる精霊を扱った新作シリーズを展開。本展では、クメール語とパーリ語で書かれた言葉をかたどった壁掛けの彫刻や、シングルチャンネル・ビデオとミステリアスな真鍮の彫刻を組み合わせた作品などを展示しています。「プロルン(精霊)」の概念は、カンボジアに広く伝わる複雑なアニミズム信仰の体系に由来するもので、今日の東南アジアの国境をはるかに越えて、「モンスーン・アジア」として知られるインド東部や中国南部にまたがる広大な地域の人々にも共有されています 。新作は、自然における人間と人間でないものの両方の側面、超自然的なもの、アニミズム、政治的・地理的な環境などに関わる、儀式や信仰に焦点を当てます。これは困難にみまわれた場所について身体をもって省察するという、サムナンの長年の関心を継続するものです。彼は抗しがたいほどの開発や、国際的な社会・政治の混乱、無秩序、領土紛争、戦争などにより、人間と自然は互いへの敬意をほとんど失ってしまっていると観察します。こうした要因や、自然と人間の間における敬意の喪失は、地球規模の気候変動においても深刻な影響を及ぼしています。

ギャラリーに足を踏み入れると、クメール語の「Mchas Teuk(水の主)」と「Mchas Dei(土地の主)」という言葉が訪れる人を迎え、これは迷彩布と撚り合わせて編まれた蔓によって制作されたものです。さまざまなプロルン(精霊)を想起させるこれらの言葉は、サムナンの新作を、アーティスト・ラン・スペース「Sa Sa Art Projects」を共に創設したアーティストたちと2022年にプノンペンで参加した、グループ展のタイトルと結びつけます。クゥワイ・サムナンは今日多くの国において、地政学的な状況だけでなく、人と自然との関係にも劇的な変化が起きていると捉えます。土地や環境は、以前にも増して欺瞞に満ちた、不透明で、不安定な方法で管理されているのです。こうした不確かさや、私たちを不可視化してしまうような変化の背後には、何かが存在していると思えてならないと作家は言います。今日における土地や水の主は、いったい誰なのでしょうか?現代の人々は、人間と土地の祖先である「Nak Ta(ネアク・タ)」や超自然的な守護者である「Mrenh Kongveal(マレン・コンヴィアル)」といったプロルン(精霊)を、変わらず信じているでしょうか?

ギャラリースペースの反対側には、パーリ語とクメール語の文字でそれぞれ「Kongkea(水)」、「Aki(火)」、「Thorani(土)」、「Khyal(空気)」という言葉を綴った4つの彫刻が2列に展示されています。これらは、人間、動物、植物、無生物を含む地球上のすべての生き物の誕生を支える4つの元素のメタファーとなっています。「モンスーン・アジア」のアニミズムの信仰体系においては、これらの要素が一緒に保たれている限りすべてが生かされる一方で、それらが切り離されると、すべてのものは即座に死んでしまうと言われます。

本展では、言葉をベースにした彫刻作品とともに、ギャラリー中央に設置されたシングルチャンネル・ビデオと真鍮のオブジェを鑑賞することができます。サムナンはこの映像作品のために、10年以上ぶりに自らの身体を使ってパフォーマンスを行う決意をし、3日間にわたり炎天下で1日数時間を過ごしました。ラタン(籐)の椅子に座り、真鍮のオブジェを叩いて、叩いて、振動する音を出すーその音は、カンボジア南部のコッコン州やコン・クラウ島、北部のメコン川沿いの小さな島々など、豊かな自然資源と希少な野生動物の宝庫である大森林に響き渡ります。世界の現状を目の当たりにしてサムナンは、ネアク・タやマレン・コンヴィアルをはじめとする森を守るプロルン(精霊)たちは、ぐっすり眠っているに違いない、と感じたと言います。真鍮のオブジェを叩くことで、彼はその精霊たちを目覚めさせ、地球が非常事態にある今、行動を起こさせようと試みます。自然は分断され、地熱的・政治的な現象の両方により、地球規模の気候危機を引き起こしています。サムナンの行動はプロルン(精霊)たちへ、どうか目覚めて団結し、自然環境と世界の地政図を修復するために力を合わせて介入して欲しい、と呼びかけます。

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horani (Earth) 
2024
woven vines and dark green and black fabric
199.0 x 190.0 x 7.0 cm 
©Khvay Samnang


「Das Pralung (目覚める精霊たち)」の出展作品は、人間や人間でないもの、言語、そして自然の間の関係を結びつけ、再び想像するための新たな風景を訪れる人に提供します。本展は、カンボジアおよび広域の「モンスーン・アジア」における政治、経済、文化、伝統、生活、そして本質的な社会構造を形成し続けるアニミズム信仰を通して、元素や地理的・政治的環境の複雑な相互作用に光をあてます。この知識体系によれば、プロルン(精霊)やネアク・タ、マレン・コンヴィアルに対する信仰、地理的状況、政治的状況、気候変動といった、自然環境を構成する生態系の要素に何らかの危機が生じれば、目に見えるかに関わらず、生活や生態系にリスクや不規則性、不均衡が生じるとされます。


チュム・チャンヴェスナ    
ロジャー・ネルソン氏への謝辞を込めて

 

この貴重な機会に小山登美夫ギャラリー天王洲に足を運んで、カンボジアで最も重要なアーティストの一人である、クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」をぜひご覧ください。

 

■クゥワイ・サムナン 「Das Pralung(目覚める精霊たち)」

会期:2024年7月20日(土)- 8月10日(土)11:00-18:00   

休廊日:日、月、祝日

場所:小山登美夫ギャラリー天王洲

東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex Ⅰ 4F

Tel:03-6459-4030

入場無料

グッチの日本上陸60周年を祝し、グッチ銀座 ギャラリーにて展覧会「Bamboo 1947: Then and Now バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」を開催

2024/08/01
by 遠藤 友香

Courtesy of Gucci


執筆者:遠藤友香


1921年、フィレンツェで創設された「GUCCI(グッチ)」は、世界のラグジュアリーファッションを牽引するブランドのひとつです。ブランド創設100周年を経て、グッチは社長兼CEO ジャン=フランソワ・パルー氏とクリエイティブ・ディレクター のサバト・デ・サルノ氏のもと、クリエイティビティ、イタリアのクラフツマンシップ、イノベーションをたたえながら、ラグジュアリーとファッションの再定義への歩みを続けています。

グッチ製品が日本で初めて正式に紹介されたのは1964年のこと。日本上陸60年目のアニバーサリーイヤーを迎えた今年、グッチは日本の皆さまへの感謝とともに、日本とのつながりを今後もより強く育んでいきたいという思いを込めて、さまざまなプロジェクトやイベントを展開しています。そのひとつとして、新たなアートプロジェクトを発表。これは日本の伝統工芸作家とコンテンポラリーアーティストが、ヴィンテージの「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグを用いて作品を創り上げるというスペシャルなコラボレーションを軸に、ヴィンテージバッグを発掘し、アップサイクルする過去に類のないプロジェクトです。

この度のプロジェクトに用いられるのは、主に1980年代から90年代に製造・販売された「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグです。時を重ねても、なおそのエレガントな美しさを保ち続けている60点のヴィンテージバッグを、グッチの専任アーキビストが厳選しました。そして、その一つひとつに新たな生命を吹き込むのは、彫金家で人間国宝の桂盛仁(かつら もりひと)氏と、その弟子の北東尚呼(あい なおこ)氏、塗師の渡慶次愛(とけし あい)氏、陶芸家の中里博恒(なかざと ひろつね)氏、写真家の森山大道(もりやま だいどう)氏、そして画家の八重樫ゆい(やえがし ゆい)氏と横山奈美(よこやま なみ)氏です。伝統工芸作家とコンテンポラリーアーティストが、自身の匠の技とクリエイティビティを通じて、グッチの職人たちの技の軌跡やそのバッグが過ごしてきた豊かな時間と対話しながら唯一無二の「グッチバンブー 1947」ハンドバッグを創り上げました。

作品として完成した60点の「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグは、2024年8月2日(金)から 9月23日(月・祝)まで、東京・銀座のグッチ銀座 ギャラリーにて開催される「Bamboo 1947: Then and Now バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」展にて一般公開され、アートピースとして販売される予定です。

グッチはこのプロジェクトを通じて、「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグのタイムレスな美しさ、日本の職人による卓越したクラフツマンシップ、グッチと日本が数十年にわたって共有してきたクリエイティブな対話を掘り下げます。そして職人やアーティストとともに、ファッションとアートやカルチャーが交わる新たな次元で、グッチのアーティスティックなビジョンを体現し、伝統と革新の物語を紡ぎ続けるそうです。

■「Bamboo 1947: Then and Now Celebrating 60 years of Gucci in Japan バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」展

会期 :2024年8月2日(金)– 9月23日(月・祝) ※会期中無休
場所 :グッチ銀座 ギャラリー 東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座6-7階
時間 :11:00-18:00 (最終入場 17:00)
※8月2日(金)– 4日(日)、6日(火)は17:00終了(最終入場 16:00)
入場 :無料・予約不要

※開催内容・時間は予告なしに変更となる可能性があります。

※作品の販売について
グッチ銀座 ギャラリーにて、60点の作品の展示販売会を開催予定です。

来場のお申し込みなどにつきましては、グッチクライアントサービス Tel. 0120-99-2177 までお問い合わせください。

グッチ バンブー 1947: 銀座美術展|GUCCI公式 JP

著名な建築家やデザイナーのアイデアをプロダクトへと具現化している、 イタリアのオフィス家具メーカー「UniFor」が、「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョン 2024」を建築で支援

2024/07/20
by 遠藤 友香

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執筆者:遠藤友香


建築へのこだわりとものづくりのノウハウがビジネス戦略の基礎となっている、イタリアのオフィス家具メーカー「UniFor」。この度、UniForが、「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョン 2024」の建築をサポートしています。

ロイヤル・アカデミーの設立以来の主要な活動のひとつは、「功績のあるすべての芸術家に公開される」毎年恒例の夏季展覧会を開催することです。この展覧会は1769年以来、途切れることなく毎年開催されており、新進気鋭の芸術家や著名な芸術家、建築家の作品を、国際的な聴衆に広めるうえで重要な役割を果たし続けています。
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ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョンでは、版画や絵画、写真、彫刻、建築など、有名なアーティストから才能あるアマチュアの作品まで、あらゆるスタイルのアートが展示されます。

第256回目となる今年のテーマは「Making Space(スペースを作る)」。スペースを与えても、それを逆に取り去っても誰かにとっての空間になる、という哲学的なアイデアを探究し、限られた空間に飾られた作品を通じて見る喜びをさらに高めることを目的としています。ほとんどの作品は購入可能で、収益はアーティストのサポートなどに使われます。

ロイヤル・アカデミーは毎年、展覧会内の優れた作品に対して数々の賞を授与しています。今年、UniForは、優れた建築作品に贈られる「Summer Exhibition Architecture Award 2024」を支援。 UniFor のCEOであるCarlo Molteni氏は、Vicky Richardson氏、Maria Lisogroskaya氏(Assemble RA)、Julian Robinson氏など、様々な分野の著名人で構成される権威ある国際審査員の一員でした。この賞は、自然史博物館のためのディプロドクス・カーネギーイ プロジェクトの構造ワークショップ(Cat 787) に授与されました。

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この展覧会には、7月17日に開催された、世界的に有名な建築家でハーバード大学教授の森俊子氏との第1回「建築入門:16~25歳のためのフリートーク」も含まれました。この講義では、建築家が環境に対する建築の影響について話し合い、創造的思考の概念を探りました。

UniForは、2024年6月から8月にかけて行われる「ロイヤル アカデミー建築サマープログラム」を支援することで、次世代の建築家やデザイナーにインスピレーションを与えることができる文化活動の推進者としての役割を果たしていくといいます。


ぜひ、「UniFor」と「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョン 2024」に、注目してみてくださいね!

能登の伝統や魅力がわかる復興支援イベント「THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風」

2024/07/20
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香


2024年1月1日、石川県能登地方を震源とした「能登半島地震」が発生しました。未だ復興には程遠く、多くの市民の方々は避難生活を余儀なくされています。

この度、能登の伝統や魅力がわかる復興支援イベント「THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風」が、2024年7月26日から7月28日まで、東京・代官山「Studio 4N Daikanyama」にて開催されます。入場料は500円で、本イベントの売上はすべて支援活動の継続資金となり、能登半島の被災者支援のために使われます。

「能登半島からの風」の主催者である、現代における衣服デザインの本質を見つめ直すファクトリーレーベル「AUGUSTE PRESENTATION(オーギュストプレゼンテーション)」のデザイナー 大野知哉氏は、本イベントの趣旨について、以下のように述べています。

「2024年の年明け1月1日に能登半島は、かつてない地震災害に見舞われました。新年を祝う元旦ムードの市街地は、一瞬にして瓦礫と化し、多くの被災者たちを生みました。そんな中で、地元の若者を中心とする勇士が中心となりいくつものボランティア団体が立ち上がり、1月3日から支援活動がスタート、避難所への物資運搬から始まり、避難所への炊き出し、そして、販売活動が出来なくなった農家さんを中心とする、様々な商品の代行販売をこの7ヶ月間支援してきました。半年以上たった現在も、まだ復旧が進んでいない地域もあり、かつての活氣ある能登の街と人々の笑顔が戻ってくるには至っていません。

ただ、これを機会に能登の伝統や魅力を知ってもらい、それを復興支援に繋げることが出来ないか、という理想のもと、この度「能登からの風」と題して、復興支援イベントを開催する運びとなりました。地元の工芸、芸術家の皆さまのご協力のもと ”輪島塗漆器“など貴重な工芸品の数々の販売や、地元の食材の直販もさせて頂く予定です。是非、この機会に能登半島という、北陸の小さな半島の魅力を知ってもらい、そして、機会があれば訪れてみたいな、という氣持ちになってもらえたら本当にうれしいです。そして、その時は、能登の地でみんなが笑顔で皆さまをお迎えできるようになっていたい、強くそう思います」。

次に、本イベントに参加するアーティスト3名をご紹介します。

1. 桐本滉平/漆芸家

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桐本滉平氏は、1992年石川県生まれ。江戸時代から輪島で漆に携わってきた桐本家。能登半島の輪島の地で、200年以上「木と漆」の仕事に携わってきました。いつもの暮らしの中に潤いのある木工と漆器を提供し続けています。

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桐本氏は、学生時代にパリで漆器販売を経験し、漆、麻、米、珪藻土を素材とした乾漆技法を用いて、「生命の尊重」を軸に創作を行っています。また、共同創作にも取り組んでおり、様々なジャンルの作品を生み出しています。

2.室谷文音/抒情書家

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室谷文音氏は、1980年大阪府生まれ。お箸を持つより先に筆を持ちました。4歳の時、抒情書家の両親が「綺麗な山の水で墨を磨りおろしたい」との想いから、京都府美山町へ移住。10歳のときに読んだ本「緑色の休み時間」に感動し、イギリスへ行く夢を膨らませます。日本の管理教育に疑問を感じ、テレビのインタビューで自分が普通に思っていることを口にすると天才と扱われることにも違和感を感じ始め、13歳で単独渡英。バース、ヨークの街で中高学校へ行った後、2003年にセントラル・セイント・マーティンズ大学ファインアート科(ロンドン)を卒業しました。

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両親が石川県能登町に移住したことをきっかけに能登半島を訪れ、日本の原風景がそのまま残っているところに一目惚れ。現在は拠点を能登に置き、日本国内、ロンドン、ジュネーブ、ベルリンでも展覧会を開催。能登町ふるさと大使、いしかわ観光特使を務めています。

3.小森邦衛/漆芸家

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小森邦衞氏は、1945年生まれ。 石川県輪島市出身の日本の漆芸家です。1977年には漆器産地初の重要無形文化財の指定を受け、その高い技術を保存し後世に伝えるべく、継承・発展に努力を重ねています。2006年「髹漆」の人間国宝として認定されました。

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小森氏は、下地から上塗りまですべての工程を行い、漆本来の持つ美しさを追求しています。「塗り」の最初から最後まで神経を使い、作品づくりを行っています。この職が「天職」と語る小森氏は、技と創意工夫で使い手を魅了し続けています。


以上、能登の伝統や魅力がわかる復興支援イベント「THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風」についてご紹介しました。一日も早く復興が進み、能登の方々が再び笑顔を取り戻すことを願ってやみません。


■THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風

会期:2024年7月26日(金)~7月28日(日)

時間:11:00-18:30

場所:Studio 4N Daikanyama

東京都渋谷区猿楽町2-1 アベニューサイド代官山Ⅲ 3F

入場料:500円

「麻布台ヒルズ」に注目! 「麻布台ヒルズ ギャラリー」で開催中の「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展と、麻布台ヒルズのパブリックアート

2024/07/19
by 遠藤 友香


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執筆者:遠藤友香


森ビル株式会社等が、約300件の権利者の方々とおよそ35年かけて進め、2023年11月24日(金)に無事開業した「麻布台ヒルズ」。 

「麻布台ヒルズ」は、“Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街”をコンセプトに、“Green & Wellness”人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街です。約8.1haの広大な計画区域には、約24,000㎡の圧倒的な緑が広がり、延床面積約861,700㎡の空間に、オフィスや住宅、商業施設、文化施設、教育機関、医療機関など、多様な都市機能が集積しています。

森ビルは、「都市には経済活動を支えるだけではなく、豊かな都市生活を実現するための文化的魅力が不可欠である」との強い想いから、「文化」を最も重要な要素の1つとして都市づくりに取り組み、ヒルズごとに個性的な文化施設をつくってきました。ウェルネスへの意識が高まってきた今、文化やアートは、人々の暮らしを心豊かなものにするものとして、より都市生活にとって大切な存在となっています。 

「麻布台ヒルズ」では、「街全体がミュージアム」をコンセプトに、総施設面積約9,300㎡(約2,820坪)のデジタルアートミュージアムとギャラリーを中核として、オフィスや住宅、ホテルのロビーや広場など、街のあらゆる場所にパブリックアートを設置し、芸術・文化が一体となった街を創出しています。

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「麻布台ヒルズ」の文化発信の中核となる場所が「麻布台ヒルズ ギャラリー」です。美術館仕様の施設・設備を備え、アート、ファッション、エンターテイメントなど、多様なジャンルの文化を発信。麻布台ヒルズ ギャラリーで、2024年9月6日(金)まで開催中なのが、アレクサンダー・カルダーによる、東京での約35年ぶりとなる個展「カルダー:そよぐ、感じる、日本」です。

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本展は、アメリカのモダンアートを代表するカルダーの芸術作品における、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴をテーマにしています。この展覧会は、ニューヨークのカルダー財団理事長であるアレクサンダー・S.C.ロウワーのキュレーションと、Paceギャラリーの協力のもと、カルダー財団が所蔵する1920年代から1970年代までの作品約100点で構成され、代表作であるモビール、スタビル、スタンディング・モビールから、油彩画、ドローイングなど、幅広い作品をご覧いただけます。

カルダー自身は生前日本を訪れたことはありませんでしたが、日本の多くの芸術家や詩人に受け入れられました。それは、今日、彼の作品20点以上が日本国内18箇所の美術館に収蔵されていることからも理解できます。

本展の会場デザインを担当し、長年のカルダー財団の協力者でもあるニューヨーク拠点の建築家、ステファニー後藤は、カルダーが同時代の偉大な建築家たちとコラボレーションしていた精神にならい、3:4:5 の直角三角形の幾何学にもとづいた設計で、日本建築の要素や素材をエレガントかつモダンに展示空間に取り入れています。

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Calder with Armada (1946), Roxbury studio, 1947. Photograph by Herbert Matter


ここで、カルダーについてご紹介しましょう。1898年にペンシルベニア州ローントンにて生まれたカルダーは、20世紀を代表する芸術家です。古典的な芸術家の一家に生まれた彼は、針金を曲げたりねじったりすることで、立体的な人物を空間に「描く」という新しい彫刻の手法を編み出し、芸術活動をスタートさせました。吊るされた抽象的な構成要素が、絶えず変化する調和の中でバランスを保ちながら動く「モビール」の発明で最もよく知られています。カルダーは、動く彫刻であるモビールによって近代彫刻の概念を一変させ、最もその名を知られていますが、絵画、ドローイング、版画、宝飾品など、数多くの作品を制作し、幅広い分野で活躍しました。

次に、本展でおすすめの作品を5点ピックアップします!

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Alexander Calder 《Fafnir》, 1968 Sheet metal, rod, and paint 112" × 184" × 46" (284.5 × 467.4 × 116.8 cm)


カルダーがアート作品をつくる以前は、彫刻は地面に付いていて動かないもの、静的なものというイメージが強かったのですが、カルダーが動く彫刻をアートの中で初めて生み出したことによって、動く彫刻が誕生しました。このことは、歴史的にも高評価を受けています。

こちらの作品は、本来屋外置くためのパブリックアートの彫刻作品ある鉄の部分がクルクル回るなど、気流や光、湿度、人間の相互作用に反応します。

この姉妹作品がパブリックアートとして一番最初に置かれたのが、名古屋市美術館です。名古屋市美術館では、姉妹作品が屋外に置かれています。

こちらの作品名《Fafnir》とは、北欧神話の「龍」に由来します後ろ部分が尻尾でもあるように見えます。本作は、名古屋市美術館に置かれている姉妹作品という点と、日本繋がりといったことを含め、入口を入って一番最初に置かれています。

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ここは、茶室イメージした空間なっており、壁には使っています。照明部分は、日本庇(ひさし)を想定していますカルダーの作品は動きがあるため、影も一緒楽しめるのですが、ここはあえて出ないよう空間構成なっています。

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Alexander Calder 《Un effet du japonais》, 1941 Sheet metal, rod, wire, and paint 80" × 80" × 48" (203.2 × 203.2 × 121.9 cm)


こちらは《Un effet du japonais》という作品で、今回展覧会英語タイトルなっています。《Un effet du japonais》とはフランス語で、日本語訳すと「日本美学」という意味です。

本展をキュレーションしたサンディー曰く、赤で構成されいる本作は、見方によって日本歌舞伎の化粧や、また左右部分が羽のようで鶴のようにも見えるとのこと。

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Alexander CalderSword 《Sword Plant》, 1947 Sheet metal, wire, and paint 42-3/4" × 31-1/4" × 30-1/2" (108.6 × 79.4 × 77.5 cm)

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こちらは、日本のいわゆる瓦を想起させる空間で、まわりは全て黒染めした和紙で囲まれています。よく見ると、和紙の2だけが止まっており、その理由は、あるモビール作品そよいだり動くことを想起しているためです。ここの空間にあると、和紙揺らぐような形をイメージして、このようなデザインなっています。

作品見る黄色やといったがパッと入ってきますが近づいてみると小さなモビール作品は、だけではなくモビール要素入っていることが見て取れます。空間の中において、黒いモビールが空間と同化していますが、作品に近づくこと見えくるある点が面白い。

カルダーの作品は、展覧会では基本的にホワイトキューブ展示すること多いのですが、展示空間を担当した後藤意向あって、興味深い空間構成なっています。

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Alexander Calder 《Untitled》, 1956 Sheet metal, wire, and paint 35" × 120" × 64" (88.9 × 304.8 × 162.6 cm)


こちらは、カルダーの代表的なモビール作品です。カルダーの父アレクサンダー・スターリング・カルダーは高名な彫刻家で、母ナネット・レダラー・カルダーは油絵の画家というアート家系に生まれました。ただ、両親はカルダーがアートの道に進むことを好んでいませんでした。カルダー自身工学部で機械工学を専攻し、エンジニアとなりましたが、その後芸術家の道に転向したという経緯を持っています。

元々カルダーは工学部出身なので、こちらのモビール作品も計算されているのかと思いがちですが、キュレーションしたサンディー曰く、カルダーはモビール作品を本能作っており、全く計算されていないとのこと。

確かに見てみると視点部分不均衡で、必ずしも真ん中置かいるわけではなかったり、黄色部分も、全く同じもの吊るさいるわけではなく、人力調整されて作られていることが理解できます。

現在、巷に出回っている赤ちゃん知育玩具は、このカルダーのモビールが元となって誕生しているそうです。

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Alexander Calder 《Black Beast》, 1940 Sheet metal, bolts, and paint 103" × 163" × 78-1/2" (261.6 × 414 × 199.4 cm)


記事冒頭でご紹介した作品《Fafnir》と同じタイプのスタビルという種類の作品《Black Beast》。屋外彫刻の作品の中では、初期の作品です。屋外彫刻作品なので、高さあってもいいのですが、こちらは高さ2.8mです。ただ、重さが400kgあるといった、かなり重い作品です。

素材は鉄ですが、こういった屋外彫刻といった大きな作品を制作していた時期が、ちょうど第二次世界大戦で、資源して限らので廃材使っコーティング直すなど、カルダーはサステナブル姿勢を持っていました。

以上、カルダーによる個展「カルダー:そよぐ、感じる、日本」をご紹介しました。次に、麻布台ヒルズのパブリックアートをピックアップします!


「パブリックアート」日常生活とアートの境界をなくす

圧倒的な緑に包まれた広大な空間が広がる「麻布台ヒルズ」。その公共空間や生活環境にあるパブリックアートには、空間の壮大なスケール感とヒューマンスケールを融合し、人間と宇宙の繋がりを感じられ、「麻布台ヒルズ」で生成される自然界のエネルギーを可視化するような作品が、森美術館のキュレーションにより選定されています。

また、手仕事の痕跡が残された作品の表情や、さまざまな素材が五感を刺激し、人間本来の野性や芸術的感性が喚起されることも想像されています。さらには、「エプソン チームラボボーダレス」や「麻布台ヒルズギャラリー」など、「麻布台ヒルズ」の各アートスペースとも連動し、街全体でミュージアム・クオリティのアートを体験できるよう考慮されているといいます。パブリックアートでは、世界の現代アート界を牽引するアーティストの豪華な共演を楽しむことができます。

中央広場:奈良美智(日本) 《東京の森の子》2023年

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奈良美智(日本) 《東京の森の子》2023年


目を閉じた《東京の森の子》は、アンテナを天高く伸ばし、宇宙と交信しているようにも、森の精として自然界の平安を祈っているようにも見えます。天空に向けて円錐状に立ち上がる本作は、2011年の東日本大震災の悲しみから、創造活動を再開する契機ともなった《ミス樅の子》(2012年)に続き、2016年以来、青森、那須塩原、ロサンゼルスなどに恒久設置されている《森の子》シリーズの8体目。都内に常設される奈良の野外彫刻としては初めてです。

粘土で作った原形をブロンズで鋳造し、ウレタン塗装を施した表面には、奈良の指跡が鮮やかに残り、作家の身体性や情動がリアルに伝わってきます。心の奥底に刻み込まれた記憶、感性、直感のままに制作されたこのシリーズには、奈良自身の葛藤、世界平和への願い、希望などが折り重なり、私たちの心の奥底に話しかけてくるようです。

中央広場:ジャン・ワン(中国) 《Artificial Rock. No.109》 2015年

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ジャン・ワン(中国) 《Artificial Rock. No.109》 2015年


ステンレススチールで自然石を模した彫刻は、中国の彫刻家ジャン・ワンの代表的なシリーズです。中国で天然岩を鑑賞する文化「供石」は唐の時代に遡ります。自然石を鑑賞する文化は日本では「水石」と呼ばれ、14世紀に中国から伝来したと言われています。供石で愛でられる自然岩は主に石灰岩で、自然現象によって溶解した形が風景にも喩えられてきました。

ジャン・ワンは急速な経済発展や産業化の只中にある中国で、多くの知識人や趣味人を魅了してきた自然岩が連想させる伝統的な風景を、自然を模して近代的な素材で再現しました。自然とその模造の意味を問い掛けながらも、鏡面に仕上げられた表面は麻布台ヒルズで移り変わる四季の風景、さらには天空を写し出し、過去と未来を繋げます。

森JPタワー:オラファー・エリアソン(デンマーク) 《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》2023年

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オラファー・エリアソン(デンマーク) 《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》2023年


連続する4つの彫刻は、ひとつの点がねじれながら移動する軌跡を描いたものです。人々の行動、求心力、自由に動くダンスなど、あらゆるものの運動を表現しています。螺旋状の彫刻は、窓や柱など空間にあるそのほかの要素とも相互に関連しあいながら、調和しているように見えます。徐々に複雑になるこれらの形は、振動を表すリサジュー曲線に着想を得て、そこからダイナミックな立体に転換されました。

細部に目を向けると、菱形、凧型、三角形で構成される十一面体を多数連続させることで全体が形作られていることがわかります。スタジオ・オラファー・エリアソンが長年続けてきた幾何学的形体の研究や地質学的な時間に対する概念的な問いに基づき、本作では再生金属が初めて使われています。

以上、「麻布台ヒルズ ギャラリー」で開催中の「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展と、麻布台ヒルズのパブリックアートについてご紹介しました。感性と知性が刺激される作品を鑑賞しに、ぜひ「麻布台ヒルズ」に足を運んでみてはいかがでしょうか。


■「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展

会場:会場麻布台ヒルズ ギャラリー
(東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)

会期:2024年5月30日(木)ー2024年9月6日(金)
※休館日:2024年8月6日(火)

開館時間:月/火/水/木/日   10:00-18:00(最終入館 17:30)
金/土/祝前日  10:00-19:00(最終入館 18:30)

お問い合わせ:azabudaihillsgallery@mori.co.jp

夏休み直前! 子どもと出掛けたい、アート集団チームラボが手がける「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」

2024/07/15
by 遠藤 友香

森ビル株式会社とアート集団チームラボが手がける「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」。今年2月の開館から5か月連続でチケットが完売するなど、世界中から来館者が訪れるほど人気を博しています。

境界のないアート群による「地図のないミュージアム」としてお台場から移転オープンし、来館者たちは「境界なく連続する1つの世界の中で、さまよい、探索し、発見する」体験を通じて、他者と共に世界を創り、発見していきます。

夏休みも多くの来館者で賑わうことが予想されるなか、本館でおすすめのアート作品を5点ピックアップします!

1.《スケッチオーシャン》

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《スケッチオーシャン》は、チームラボボーダレスの独立した70以上の複雑に関係しあう作品群の中でも人気の高い参加型の作品で、来館者が紙に描いた海の生き物たちが、海で泳ぎだす作品です。

まず、来館者はクレヨンを使って、生き物の輪郭が描かれた紙に自由にお絵かきをします。下絵は、カジキや、カタクチイワシ、クラゲ、カメ、タツノオトシゴなど、様々な種類から選ぶことが可能です。

中でもマグロは、麻布台ヒルズにあるミュージアムの空間を超えて、世界の他の地域で開催されている《スケッチオーシャン》や《世界とつながったお絵かき水族館》の海まで泳いでいきます。また、世界の他の場所で描かれたマグロが、目の前の《スケッチオーシャン》の海の中に泳いで来ることもあります。

また、自分で描いた絵は作品空間で動くだけでなく、Tシャツや缶バッジなど世界に一つだけのプロダクトにして持ち帰ることができます。ぜひ、お子さん連れの方におすすめしたい作品です。

2.《ライトスカルプチャー 》

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《ライトスカルプチャー 》シリーズは、流れ出ていく光による巨大な光の彫刻が生まれ、押し寄せ、広がり、人々を飲みこんでいく作品です。

「非対称宇宙」と呼ぶ空間に生まれる《ライトスカルプチャー 》は、現実空間とミラーの中の世界とは非対称な異なる存在として生まれ、現実世界とミラーの中の世界を行き来します。

これまでもチームラボは、物質的ではない彫刻、「境界面の曖昧な空間彫刻」を生み出してきました。「なぜ、海の渦に存在を感じるのか? そして、それを生命にすら感じるのか? 構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、部分に秩序が形成された時、部分は一つの存在として認識され、時には生命のようにすら感じる」―このような考えのもと、流れ出ていく光の集合体が、生命的宇宙を創り出します。

3. 《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》

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こちらは、《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》という作品 。

《Bubble Universe》は、チームラボの新たなアートプロジェクト「認知上の存在」をテーマにした、インタラクティブな作品です。空間は無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中には、異なる光の存在が入り混じっています。本作は、認知と存在について、そして、人間が世界をどのように見ているのか、を模索すると同時に、現象とは環境との連続的な関係性の中に存在することを示唆しています。

4.《Infinite Crystal World》

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点描は、点の集合で絵画表現を行ったものですが、これは、光の点の集合で立体物を創っています。光の彫刻群が、無限に広がる作品です。

「渦潮の中に人が入っても、渦の存在は維持されるように、点群が、空間的、時間的に離れていても、点群に連続性や構造が形成されたとき、一つの存在として認識されるのではないか、そして、人がその存在の中に入っても、存在が維持されるのではないか。そのとき、その存在は、人と一体となる彫刻となりえる」と、チームラボは語っています。

人々がスマートフォンから自ら選んだ構成要素を投げ込むことで立体物が生まれ、それらの群によってこの作品空間は創られていきます。空間に出現した構成要素は互いに影響を受け、また、投げ込んだ場所や人々の存在にも影響を受けます。

これは、人々によって刻々と創られていきながら、永遠に変化していく作品です。

5.《反転無分別:虚空の黒》

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光で描かれる書の黒は、何もないことを意味します。何もない黒は、空っぽゆえに、何でも入る無限大の可能性が開かれます。

チームラボ曰く「書かれた『空書』は作品空間の中を全て同一方向に回転していますが、『超主観空間』の特性として、視覚的には、左回転も右回転も論理的に同等となります。そのため、意識によって、書は、左回りにも、右回りにもなるのです」。

「空書」とは、チームラボが設立以来書き続けている空間に書く書のこと。書の墨跡が持つ、深さや速さ、力の強さのようなものを、新たな解釈で空間に立体的に再構築し、チームラボの「超主観空間」の論理構造によって2次元化しています。書は平面と立体との間を行き来します。


以上、夏休みにお子さんと出掛けたい、アート集団チームラボが手がける「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」についてご紹介しました。夏休みの思い出作りに、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。


■「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」

開館時間:9:00 - 21:00

※ 8月6日(火)、9月3日(火)は17時閉館(最終入館16時)

※最終入館は閉館の1時間前

休み:7月16日(火)、8月20日(火)、9月17日(火)

場所:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1

東京都港区麻布台1-2-4

チケット購入はコチラから。

【公式】チームラボボーダレス, 麻布台ヒルズ, 東京 (teamlab.art)

生成AI時代に内在する、倫理的、社会的規範によるバイアスからの解放について考察。ライゾマティクスによる「AIと⽣成芸術」をテーマとした展覧会「Rhizomatiks Beyond Perception」が開催

2024/07/11
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香

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アートと社会の曖昧な関係性のうえにアートを成立させようと、歴史的、文化的、科学的、美学的な文脈にアプローチし、過去を読み解き、今を捉え直し、未来についてしなやかに思索している現代アートギャラリー「KOTARO NUKAGA(天王洲)」。

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Photo. Muryo Homma(Rhizomatiks)


この度、「KOTARO NUKAGA(天王洲)」は、TERRADA ART COMPLEX Iの3階からTERRADA ART COMPLEX IIの1階に拡張移転しました。このギャラリースペースの移転を記念し、2024年9⽉28⽇(⼟)まで、「Rhizomatiks(ライゾマティクス)」による展覧会「Rhizomatiks Beyond Perception」を開催中です。

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展覧会準備中の真鍋大度氏


ライゾマティクスとは、真鍋⼤度氏と⽯橋素氏が主宰するクリエイティブコレクティブで、技術と表現の新しい可能性を探求し、研究開発要素の強い実験的なプロジェクトを中⼼に活動を展開しています。

ライゾマティクスによる、ギャラリーでの初の⼤規模な展覧会となる本展では「AIと⽣成芸術」をテーマとし、「創造的思考プロセス」⾃体を作品化します。この展⽰では、AIモデルがどのように学習し新しいイメージを⽣成するかを可視化し、同時に現在、世界規模で支配的な影響力を持つ巨大IT(情報技術)企業群「BigTech」などが提供するAIサービスに内在する倫理的、社会的規範のバイアスによるイメージの操作からの解放についても考察します。

真鍋氏は、「そもそも生成AIは、著作権問題など色々な課題ありますが、我々17年活動しているので、多く作品ありますさらにそういったAI画像、AIのモデル作る技術あるので、自分たちモデル作っ自分たちデータを販売することは、大きなチャレンジに繋がります

色々な著作権の問題や技術的な問題などをクリアして、AIモデルを作って売ることができたとして、次にそれをどうやって紹介するかという問題があるので、この展覧会ではAIモデルが持っているポテンシャルを色々と紹介するために、実際に生成した画像を展示したり、あとは学習のプロセスを可視化したり、モデルそのものを観察、可視化するということにもチャレンジしています。作品の中には、AIモデルを使って色々な映像表現を行っているエリアがあるので、楽しんでいただきたいと思います」と語りました。

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《Beyond Perception Model 2024》


会場入り口を入って左側にある小さな展示室にて、《Beyond Perception Model 2024》が展示され、販売されています。今回販売するのは、AIが作ったイメージやできあがった画像、何か形のあるものではなく、データ自体を作品として販売します。しかも、本モデルは既存の基盤モデルを一切使用せず、ゼロから学習されているのです。そして、それを動かすためのキューブ状の画像再生用パソコンおよびモニターも展示されており、一見作品に見えますが、これ自体も付属品であって、あくまでもこの中に入っているデータが作品となっています。これをコードとモニターに繋ぐと、1分間に1枚づつ新しい画像が出てくる仕組みです。さらに、購入者はモデル使用ライセンスに基づき、画像を生成し、生成した画像を商用非商用問わず、幅広い目的で利用が可能。自身の作品や許諾を得た作品であれば、追加学習することもできます。全5エディションが販売され、1点につき550万円(税別)となっています。

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展覧会は、モデルが学習した約17万枚の画像データから選ばれた約1万枚の画像の展示からスタートします。この展示によって、AIの学習過程を視覚的に理解することが可能となり、モデルの基盤となるデータの性質を直接観察する機会を提供しています。

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KOTARO NUKAGAディレクター 額賀古太郎氏


約10万枚の画像の中から、真鍋氏が選んだ5枚の画像の展示に関して、KOTARO NUKAGAのディレクターである額賀古太郎氏は、「真鍋さんはこの作品を作る際、10万枚の画像の中から5枚を選んだそうですが、すごい膨大な作業量なんですね。それを伺って、我々が美術品として鑑賞できるというか、美術品として成立する、アートとして成立するイメージとは何かということを考えたときに、真鍋さんはそういうことを考えながら、10万枚の中から選んだと思うのです。そこに、ひとつAIができること、人間ができることの折り合いというか、シンギュラリティとかいろいろ言われますが、美術においては、もちろん美しいだけが判断基準ではないというは、現代アートでは言われていることです。人の感性というものが、どれだけAIが作ったものと折り合っていくか、それを選別していくか、もしくはAIがそれを乗り越え、人の感性を超えるようなものを提示していくのか、そういうことを今回の展示で示せるのではないかと思っています」と述べています。

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最終エリアでは、《Live Generation》をご覧いただけます。これは、Beyond Perception Modelによるリアルタイムの画像生成プロセスを展示しているものです。本インスタレーションでは、約1分に1枚のペースで新たな画像を連続的に生成し、Beyond Perception Modelの多様な表現可能性を示すことを試みています。


最後に、ライゾマティクスを黎明期から知る阿部⼀直⽒(東京⼯芸⼤学 芸術学部教授)が本展覧会に宛てたテキストを紹介します。

「ライゾマティクスが、2010年以降の⽇本の、そして国際的なメディアアートシーンの主導的な活動を牽引してきた最先鋭の位置にあることは誰もが認めることである。しかしそれは通常の現代アートとは異なった多くのリスクマネージメントを伴うものであり、先端的なメディアテクノロジーをスペクタクルに使⽤するエンターテインメント、広告、プロモーションなどが数ある中で、⽂化的にも技術的にもそれらとは批評的な距離を置いた実働に集中することは予想以上に難しい作業に違いない。その集団制作[アーティスト、エンジニア、デザイナーによるクリエイティブ・コレクティブ]による活動は、(まだ定義も規定も⼗分でない、だからこそエキサイティングでもある)メディアアートあるいはメディアパフォーマンスの領域は何かという汽⽔域を探る地勢・地質調査とも喩えられるだろう。

ライゾマティクスの遂⾏するメディエイションには、2⽅向の特徴があって、⼀つには、徹底的なコンピュテーション&データ・オリエンテッドな志向の最先端のリサーチである。それとは対照的に、もう⼀つの特徴は、ハードウェア・エンジニアリングのメカ機構の独⾃開発、コントロール・センシング技術のリサーチと実装である。この2つの⽅向性にアート↔パフォーマンス[ダンス・パフォーマンス+エレクトリック・ミュージック・パフォーマンス]という2軸が加わり、ライゾマティクスの4象限マトリクスが完成する。このどこかのポジションに、ライゾマティクスの相当数のアウトプットが、毎回異なるバイアスがかけられて表⽰されるのだ。

しかし、今回のKOTARO NUKAGAでの新作は、アートマーケットにおける展⽰という新しい⼀歩にとどまらず、この時期の⼤きな⼈類史の転換期へのアプローチが含まれる画期的な展開を孕んでいる。それは、⽣成AIの技術⾰新、つまりここ数年で予想を遥かに超えた進展を⽰した事象に関してである。それより少し前ではデータ資産通貨であるトークンによるNFTアートが急速にトピックとなっていたが、ティナ・リバース・ライアンはその特徴をこのように記述している。「永久に単⼀の資産を指し、NFTは暗黙のうちにデジタルプロジェクトの乱雑な現実に対する、安定した単⼀のアートワークの理想的特権を与えるものである。それらは分散的、双⽅向的、偶発的、反復的、またはエフェメナル(瞬時的)であるが」。NFTアートには、このエフェメナルなジェネラティブ・アートの要素も加わっているのが重要で、それは単に表象⽂化の最新のアウトプットをお気に⼊りのパーソナル・モバイルにデータ収蔵するだけのものではなく、むしろ本質的には、表象画像を⽋いた⽣成・更新するデータ・フローに⽂化的・経済的価値を与える次元をも作り出すものであった。

ライゾマティクスの今回の新作「Rhizomatiks Beyond Perception」は、⽣成AIを使⽤したアートプロジェクトとその在り⽅への問いの試⾏にまで発展させて提⽰しようとする。それは、AIが作り出す表象画像の成果や波及性を問題にする視点というよりも、AIモデル⾃体のあり⽅⾃体をデータ・メディエイションとして⽰そうとするものだ。つまり「通常ブラックボックスとされる学習データ、AIモデルそのものの公開、可視化、そして販売の試み」となる。

ライゾマティクスのディレクションは、国際的にも著名なメディア・アーティストでリーダー格である真鍋⼤度を中⼼に⾏われているが、コレクティブとしての集団制作、専⾨性の分散的R&D、構想ディスカッションによる相互影響関係の構築も⾒逃せない。真鍋のほかの多彩なメンバーの代表的⼈材を2例紹介しておくと、⽯橋素は、エンジニアリングとコンピュテーションの⾼度なレベルの複合的研究を突き詰めており、2000年代前半から多彩なアート領域をカバーしてビジョンを発揮し、各種デバイスや可動メカニクスの開発・制御において独⾃の境地を開拓している。花井裕也は2014年からライゾマティクスに参加し、Seamless MR、Dynamic VR、インタラクティブレーザーなど、カメラやプロジェクター等を⽤いた数々の独⾃のビジュアルシステムの開発に携わっているが、近年では、Web上で公開されている情報を学習した基盤モデルは使⽤せず、ライセンス懸念のないオープンライセンスや許諾を得たデータのみを学習する画像⽣成AI「Mitsua Diffusion」「Mitsua Likes」「Elan MitsuaMT」を開発するなど、⽣成AIに関する倫理的アプローチは注⽬されている。

ここで、真鍋⼤度のディレクション性に注⽬してみると、私なりの表現をするなら、真鍋の特徴は⼤きく⾒て2つあるといえるかと思う。それは「未完への志向」それと「制御されるゆえに我あり」である。多少、美術史に寄って位置づけるならば、常に「未完」を⽬指したアーティストの代表格は、いうまでもなくイタリア・ルネサンスのレオナルド・ダ・ヴィンチと(それを当然意識している)マルセル・デュシャンである。レオナルドは、作品を常に変化・更新させていくだけでなく、その時代の未確定の新技術を疑いもなく古典技法に加算採⽤し(そのため多くの作品が遺らないことになったが)、さらにその技術による思考や実装の向かう先の社会的アサインも不確定な予想外の組み合わせを常に試⾏していたのだった。つまりあらゆる意味で作品は永遠に完成しない。デュシャンは、私にとっては、レディメイドの作家などではなく、鋳型の作家である。デュシャンは、活版印刷⼯をやっていた時期があり、その⽣涯に通底する⼯⼈的アプローチは原型と鋳型、鋳型と新規物質の関係であり、その隙間に毎回⽣成する表象できない薄弱空間(アンフラマンス)の多様性への注⽬である。それは試みごとに異なって⽣成する、つまり途切れることのない⽣成が鋳型(メディウム)の余⽩によって原理的に存在する。真鍋の技術観はこれらとほぼパラレルで、新技術が出現するとそれの関係する思考としてプロジェクトはスタートするが、それは表象(作品表現)の完成にほぼ奉仕することなく、次なる⽣成を⽣み出すために、あるいは踏⽯とされ、次の別の技術的アプローチに即座にとって替わられる。

それを成⽴させているのが、真鍋の「徹底的に制御される」ことに関するプラットフォーム構築である。⼈間が⼈間をいかに制御するか否かは、古今東⻄様々な思想で語られてきた問題である。⽈く、メディアは⾝体の拡張であり、⼈間(主体)の視覚の延⻑の先に監視技術がある……。しかし完全に⾃動制御される技術世界に対して⾝体、存在、主体が投げ出されるプラットフォームを想像し、世界を記述することは、これとは位相を異にしている(現在のメタバース/マルチバースの到来はこのヴィジョンに由来しているだろう)。2023年に発表されたメディアパフォーマンス「Syn」では、普段は透明で不可視の存在である鑑賞者(観客)が同時にパフォーマンス空間を移動しながらその動きがレコーディングされ、視覚対象としてリヴァース再⽣・加⼯される映像をステレオ視で直⾯させるメディエイションが現れたが、それはこうした事態が明⽩になった瞬間であるだろう。

そのライゾマティクスが、「⽣成」そのものに(独⾃の開発も含む)AI技術にアプローチして乗り出し、さらにAIとの関係⾃体を対象化、経済化しようとするプロジェクトが、今回の新作「Rhizomatiks Beyond Perception」である。はたしてどのような実装が我々に提⽰されるのか、⼼して待ちたいと思う」。


誰もがAIを使って画像を⽣成できる現代において、改めて「⽣成される画像の価値とは何なのか?」ということを、本展⽰において我々に問いかけています。ライゾマティクスは独⾃のAIモデルを作り、そのモデル⾃体を購⼊可能な作品とすることで、AIとアートに関する新しい視点や考察が⽣まれることを期待しているといいます。是⾮、会場に足を運んで、ライゾマティクスが創造する世界観を体感してみてはいかがでしょうか。


■Rhizomatiks Beyond Perception
会期:2024年6月29日(土)〜9月28日(土)
会場:KOTARO NUKAGA(天王洲)
住所:東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 1F
開館時間:11:00〜18:00
休館日:日月祝