執筆者:遠藤友香
東京都は、2040年代の都⽴公園のあるべき姿と豊かな緑を次世代につなぎ、国内外の⼈を惹きつける魅⼒を⽣み出し、⼀⼈ひとりのウェルビーイングに貢献する公園を目標に、都⽴公園全体の機能や価値を向上させるべく様々な取組を⾏っています。東京都江⼾川区にある葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園は⻑きにわたり、海と深いつながりを持ってきました。今年はその歴史を踏まえ、広⼤な敷地の魅⼒を全⾝で感じるアートインスタレーションイベント「海とつながる。アートをめぐる。―HarmonywithNature―」を、2024年8月18⽇(⽇)まで葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて開催中です。
本イベント会期中、葛⻄臨海⽔族園では「海とつながる」をテーマとして、⽔族園を象徴するガラスドームをミストが包み込み、海とつながる世界を⽣み出す演出を⾏っています。また、葛⻄臨海公園では「アートをめぐる」をテーマとして、蜷川実花 with EiMの作品が東京湾を⾒渡せる展望レストハウスであるクリスタルビューを彩り、落合陽⼀⽒、河瀨直美⽒、平⼦雄⼀⽒の作品が4万本の向⽇葵が咲くひまわり畑の中に溶け込み、 新たな景⾊を⽣み出しています。
2024年8⽉1⽇(⽊)に葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて、「海とつながる。 アートをめぐる。― HarmonywithNature―」のメディア向け内覧会が開催されました。メディア向け内覧会にて、蜷川実花 with EiMによるアート作品 「Garden of Sky(空の庭園)」について、写真家・映画監督で、写真を中⼼として、映画、映像、空間インスタレーションも数多く⼿掛けている蜷川実花⽒から、以下の作品解説がありました。
【蜷川実花⽒による作品解説】

クリスタルビュー2階奥の展⽰室と外装、2つのインスタレーションで構成された「Garden of Sky(空の庭園)」。本作品のコンセプトについて蜷川⽒は「今回の企画のお話をいただいたとき、⼩さな頃から馴染みがあった⼤好きなクリスタルビューでの作品づくりを実施したいとお伝えしました。クリスタルビューは空が広く⾒える場所なので、空に溶け込むような作品と、建築の素晴らしさを活かすための表現⽅法を試⾏錯誤しました。」と述べました。
クリスタルを⽤いた新作については「ぜひ近くで細部まで⾒ていただき たいです。一つひとつ想いを込めてつくり続けたパーツを800本のライン状に繋ぎ、⽴体的に空間に配置しています。光を受けてキラキラと輝くため、朝と⼣⽅でも、また天気によっても⾒え⽅が変化する。そうやって⾃然を感じることができる作品です。瞬間の美しさを表現したいという気持ちは、⾃分のベースが写真家だからだと思います。瞬間の変化を感じ取って⼤切にしていく。この感覚を増幅させるようなつくりになっています」と解説。

続けて外装装飾について「ガラスに透過性フィルムを貼ることで、巨⼤なステンドグラスのようにした今回の作品は、これまでのアーティスト活動で最⼤規模の作品になりました。膨⼤な写真の中から美しい花々を選び、四季折々の景⾊が混ざりあった光景をつくっています。これは⾃分が⾒てみたい夢の⾵景、桃源郷のような世界です。遠くから⾒たときにも花々が空に向かって伸びていき、本物の空とグラデーションで溶け合っていく。実際の⾃然の⼀体化するようにつくっています」と語り、 最後に「この場所に来ていただくことでしか体感できない作品なので、 暑い中ではありますが、多くの⽅が来てくれるといいなと思います」と述べました。
続いて、ひまわり畑に場所を移し、植物や⾃然と⼈間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を⾏うアーティストの平⼦雄⼀⽒から、アート作品「Wooden Wood 73」についての解説がありました。
【平⼦雄⼀⽒による作品解説】


作品のコンセプトについて平⼦⽒は「中⼼に位置する、⼈のような姿をした樹⽊の頭部を持つこの⽴体作品は、私達⾃⾝を投影する存在だと思っています。そしてその両側にある果物、観葉植物、猫も、私たちと⾃然の関係を象徴するものとして配置しました。これらの彫刻の⾜元には書物があり、これは私たちが築き上げた⽂明や社会を表しています。⾃然の状況や価値は、私たち⼈間の尺度により変化してきました。そしてこれからも、私たちの植物や⾃然に対する⾏動や姿勢は変化し続けるのではないかと思います。この作品を通じて⾃然との関わり⽅を考え、 新たな視点を開拓してもらいたいと願っています」と語りました。
【落合陽⼀⽒の作品について】


境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開する、メディアアーティストの落合陽⼀⽒の作品「リキッドユニバース :向⽇葵の環世界のコペルニクス的転回」は、脱⼈間中⼼の思考において、他⽣物のプリュリバーサルな環世界の転回を考えています。本作は、存在論的な境界の流動性を探求し、計算機⾃然が織りなす新たな知覚の地平を開く試みです。⾃然と⼈⼯物と⽣成AIの交差点に⽴つ本インスタレーションは、向⽇葵畑と観覧⾞という具象と、デジタルが⽣み出す抽象との間に⽣起する認識の揺らぎを体現しています。⽣成AIは、観客の存在をも包含した環世界のダイナミズムを、LEDの光の律動として具現化します。向⽇葵の光屈性は、⽣命の根源的な環世界との関わりを象徴しています。同時に、その動きをデジタル的に再解釈することで、我々は⽣命とテクノロジーの境界、そして知覚の本質に対する問いを投げかけます。本作は、計算機⾃然という新たなパラダイムにおいて、存在の多様性と相互連関性を探求しています。それは、⼈間中⼼主義を脱し、万物の絶え間ない⽣成変化の中に逍遙遊を⽣きる花と光による具現化です。
【河瀨直美⽒の作品について】


奈良を拠点に映画を創り続ける映画作家の河瀨直美⽒の作品「隠されたもう⼀⼈の私。ひまわり畑での問いかけ」は、「⾃分の中に⾒え隠れするもう⼀⼈の⾃分と出会う」がテーマとなっています。夏を象徴するひまわりの群れの中に突如現れるいくつかの問いかけは、まるで⼈⽣の分岐点に⽴たされたような感覚を与え、鑑賞者を内省と⾃⼰発⾒の旅へと誘います。不規則に並べられた問いかけは、⾃分⾃⾝との対話のきっかけとなり、今まで出逢えなかった潜在的な意識へと繋げてくれます。この対話によって気付かされるもう⼀⼈の私は、⾃分が認識している⾃分とは異なる存在であり、⾃⾝の隠された⾃⼰の深みに気付かせてくれる体験となるでしょう。
【ガラスドームのミスト演出について】


都では、葛⻄臨海⽔族園本館の保存・利⽤の検討や、⽔族園を象徴するガラスドームへの愛着を表現するイベントなどを「ガラスドームプロジェクト」と名付けて進めています。今回その⼀環として、東京のランドマークとしても親しまれている葛⻄臨海⽔族園のガラスドームをミストで演出します。また、 2024年8月11日(⽇・祝)〜8月14日(⽔)の特別イベント「Night of Wonder 〜夜の不思議の⽔族園〜」期間中は、霧にライトアップが追加されて幻想的な空間を演出します。海とドームの境界が曖昧になり海と⼀体化する中、 霧がかる幻想的でまばゆい海の中に没⼊する体験をお届けします。
■「海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ―」
会期:2024年8⽉2⽇(⾦)〜8月18⽇(⽇)
会場:葛⻄臨海⽔族園(葛⻄臨海公園内)および葛⻄臨海公園
⼊場無料・予約不要
※葛⻄臨海⽔族園のみ⼊園料が必要です
時間:葛⻄臨海⽔族園 9:30〜17:00(最終⼊園16:00)
葛⻄臨海公園 9:00〜20:30
【葛西臨海水族園・葛西臨海公園】海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ― (tokyo-zoo.net)
執筆者:遠藤友香

©︎小池アイ子
2010年より毎年開催している京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。国内外の「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台芸術を創造・発信し、 芸術表現と社会を、新しい形の対話でつなぐことを目指しています。 演劇、ダンス、音楽、美術、デザインなど、ジャンルを横断した実験的な表現が集まり、 そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性をひらいていきます。
フェスティバルは、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」、「Shows(上演プログラム)」、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」といった3つのプログラムから構成されます。例えば、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」は、京都発の国際フェスティバルとして、自分たちが立脚する「地域」について自覚的に捉え、フィールドワークを通して探求するプログラム。アーティストが中心となり、地域住民やプロデューサー、研究者と一緒に、京都や関西の文化を継続的にリサーチしていきます。活動を通じて生まれた思考の軌跡やプロセスは特設ウェブサイトに蓄積され、誰もがアクセスできるオンライン図書館として公開。未来のクリエイターや企画のためのナレッジベースや実験場、アイデアソースとなることを目指します。
「Shows(上演プログラム)」は、世界各地から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき舞台芸術作品を上演するプログラム。京都および関西における舞台芸術の変遷と動向に注目しながら、ダンス、演劇、音楽、美術といったジャンルを越境した実験的作品を紹介します。
そして、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」は、とりわけ実験的な舞台芸術作品と社会を対話やワークショップを通してつなぎ、新たな思考や対話、フレッシュな問題提起など、未来への視点を獲得していくプログラムです。実験的表現が映し出す社会課題や問題をともに考え、議論し、現代社会に必要な智恵や知識を深めていきます。ここで獲得できるスーパー知識 (ナレッジ)は、予測不能な未来にしなやかに立ち向かうための拠り所となるはずです。

(左から)ジュリエット・礼子・ナップ氏、川崎陽子氏、塚原悠也氏(KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター)
2024年7月18日 (木)に開催された、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」記者会見において、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクターの川崎陽子氏から、次のようなフェスティバルの概要説明がありました。
「2010年から始まったKYOTO EXPERIMENTでは、国内外の演劇、ダンス、音楽、美術など、ジャンルを横断した実験的な舞台芸術を創造、発信し、芸術表現を通して、社会に新しい形の対話を生み出すことを目指しています。今回のフェスティバルが15回目となります。
今年はプログラムから思考を生み出すきっかけとして、キーワードに「えーっと えーっと」という言葉を設定しています。今回「Shows」で紹介する多くの作品には、土地と人々の結びつきから生まれる芸能や文化とその検証、あるいは再構築、近代から現代における歴史の中の環境と人の関係性、政治史と個人史、国の記憶やその伝承など、様々な歴史、記憶やそれらを思い出す行為を見出すことができます。そうしたことをディレクターチームで話し合う中で、「えーっと」という言葉にたどり着きました。
何か思い出そうとするとき、私達は「えーっと」と言いながら、断片的な記憶を寄せ集めて言葉にすることが多いのではないでしょうか? それは空白を埋める言葉であり、何かを考えたり、探しているときの言葉でもあります。他者との間を埋めながら、記憶と対話を繋いでいくための言葉でもあるかもしれません。
毎日のように、ウクライナへのロシアの軍事侵攻や、パレスチナでの人道危機についてのニュースが流れ、選挙があれば、極右政権が支持を得るというのは珍しいことではありません。
このような時代において、私達はフェスティバルという場を通して、何ができるのだろうかということを考える中で、「えーっと」という言葉に行きつきました。何かを白と黒に分ける二項対立的な思考に陥るのではなく、「えーっと」という空白のスペースに立ち止まること、思考を再構成すること、過去との対話から明日を作っていくということをキーワードとして、フェスティバルのプログラムを通して皆さんと考えたいと思います」。

©みずの紘
また、記者会見に登壇されたアーティストの穴迫信一氏(劇作家・演出家・俳優)と捩子ぴじん氏(ダンサー・振付家)は、Shows(上演プログラム)に参加。穴迫信一×捩子ぴじん with テンテンコとして、「スタンドバイミー」を上演します。
北九州でブルーエゴナクを旗揚げし、現在は京都と東京も拠点に加えるなど、国内で縦横に活動を広げている劇作家・演出家の穴迫信一氏。麿赤兒氏率いる大駱駝艦で活動を開始し、その後自身のソロダンスや振付作品を発表すると共に、様々なアーティストと共同作業を行ってきたダンサー・振付家の捩子ぴじん氏。THEATRE E9 KYOTOのアソシエイトアーティストを務めた経験もある2人が、初めての共同演出に臨みます。今作では、両者がかねてから関心を寄せていた死生観をテーマとし、「自らとの関係が保留されている(現在の、あるいは 100年後の)死者の前に立つことができるか」の問いをもとに、穴迫氏が戯曲を書き下ろします。音楽性の高いリリカルな穴迫氏の言葉に、 捩子氏の身体性はどのように介入していくのでしょうか。音楽は、アイドルグループBiSで活動後、ソロプロジェクトを展開するエレクトロニクスミュージシャン・DJのテンテンコしが担います。死者同士の対話は、生者の現実以上にその風景をリアルタイムに生起させるかもしれません。そこから観客が見出す、死と生と、 そして現在とは、一体どのようなものなのでしょうか。
最後に、松井孝治京都市長のからのメッセージをご紹介します。
「国内外で活躍する新進気鋭のアーティストが京都に集う舞台芸術の祭典「KYOTO EXPERIMENT」は今回、記念すべき15 回目となります。芸術表現の最先端を走り続ける壮大な実験(EXPERIMENT)がこうして今年も開催できることを心から嬉しく思います。開催に御尽力いただいた山本麻友美実行委員長をはじめ、すべての関係者の皆様に深く敬意と感謝の意を表します。
本年のテーマは「えーっと えーっと」。私たちが何かを考えたり、記憶を思い出したりするときになじみの深い言葉です。 豊かな歴史と文化を有するここ京都は、過去、現在、未来が交錯する場所。アーティストの研ぎ澄まされた感性で紡ぎ出され る京都ならではの表現に期待が高まるばかりです。御来場の皆様は、今ここだけの作品との出会いを心ゆくまでお楽しみくだ さい。
本市としても、「古きをいつくしみ、新たな世を切り拓く」との方針で、伝統を大切に、多才な人々が集い、文化を支える強い経済の復活やさまざまな社会課題の解決につなげる。そして「突き抜ける魅力のある文化首都・京都」の実現に全力で取り組んでまいります。変わらぬ御支援と御協力をお願い申し上げます」。
以上、京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」についてご紹介しました。今や日本でも数少ないチャレンジングな国際舞台芸術祭として、世界中の芸術関係者から熱視線が注がれている「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」に、ぜひご注目ください。
■KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024
会期:2024年10月5日(土)~10月27日(日)
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、ほか
主催:京都国際舞台芸術祭実行委員会
[京都市、ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、京都芸術大学 舞台芸術研究センター、THEATRE E9 KYOTO(一般社団法人アーツシード京都)]
一般社団法人KYOTO EXPERIMENT
ダンスプログラム共同主催 ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル
苅部太郎個展 「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」
執筆者:遠藤友香
株式会社マイナビが、東京・銀座の歌舞伎座タワー22Fで運営する、2023年7月にオープンしたアートスペース「マイナビアートスクエア(MYNAVI ART SQUARE/通称:MASQ)」。学生、ビジネスパーソン、企業、教育機関とアーティストの繋がりを後押しするプラットフォームです。複雑化した社会で、主体的に考え柔軟に判断していく力を養うきっかけとなる「アート」や「アート思考」、「リベラルアーツ」を起点に、プログラムを展開しています。MASQは、新たなアイデアやアプローチをもたらすアーティストやキュレーター、コレクティブ(共同体) などの表現者らと共に、機械やAI では代替できない、一人ひとりのもつ潜在的な可能性を広げることで、豊かな未来を共創することを目指しているとのこと。

この度、MASQでは2024年8月31日(土) まで、アーティスト / 写真家の苅部太郎氏による個展「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」を開催中です。

アーティスト / 写真家 苅部太郎氏
苅部氏は、今日の社会における複雑な様相を、メディア技術や知覚システムの根源に立ち戻り、人類学や哲学など知の領域から「人がものを見る経験」を再認識するコンセプチュアルな作風を特徴としています。活動開始から一貫して写真メディアを使用し、初期は被災地・紛争国などでのフォトジャーナリズムや、人形やロボットなどの人工物と人間関係を結ぶ人々を捉えるドキュメンタリーの手法を用いました。そして近年は、テクノロジーと人間が相互作用しながら形成するホロスの主観的視覚世界の視覚化など、角度を変えながら手法を考察しています。
その活動は国内外で評価され、『EL PAÍS Semanal』や『WIRED.jp』にて作品が取り上げられるほか、「浅間国際フォトフェスティバル」や「Auckland Festival of Photography」などの展覧会にも多数出品しています。さらに今年春に開催された「ジャパンフォトアワード」では、審査員であるキュレーター/『Foam Magazine』元編集⻑の「Elisa Medde賞」を受賞。現代写真の新たな領域を切り拓く存在として注目を集めています。

「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」展示会場の様子
本展では、苅部氏が2022年から続けるプロジェクト「あの海に見える岩に、弓を射よ」に新作を交えて発表します。本作はマシンの知性からバイアスを引き出し、その眼に“幻の風景写真”を撮らせる認知心理学的な試みです。太古の穴居人が洞窟壁画や星座に抱いた「夢想」と、現代に生きる私たちの誰しもが囚われる「欲望」を、苅部はマシンを依り代にして魔術師のごとく作品に投影します。

「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」展示会場の様子
苅部氏は本展に関して、以下のように語っています。
「私は10年ぐらい写真を使った作家活動を、東京を拠点として行っています。写真を始める前に、心理学、感染症、金融、ITという領域で活動してきました。それで今美術や写真の分野で活動しており、ぱっと見バラバラなように思えるのですが、自分の中では一つ共通していることがあって、それは見えないシステムを使っていることなんです。心理学って見えないシステムを使うし、金融経済、ITもそうですし、感染症も免疫という体のシステムを使っていますよね。そういった見えないシステムに自分たちが生きている世界って包まれていて、そこのシステムに含まれているパターンや構造とか、そういったものを自分が探求したりとか、そこから何か自分の気づきやヒントを得られないかということを考えながら、そういった事象を扱っています。
そういったバックグラウンドがあって写真を始めたわけなんですが、写真を始めた当時は報道写真家として活動していました。国内外の被災地や難民キャンプといった、ハードゾーンが主な場所だったのですが、そういった場所でいわゆるフォトジャーナリズムをして、海外のメディアに写真を配信する仕事をしていました。
いわゆる歴史を動かすような大きな事件とかイシューとか、グランドゼロに立ちたいなという気持ちを持って活動してきて、具体的に言うと熊本地震とか、ロヒンギャ難民キャンプとか香港デモとか、そういった場所にも出向いてきたんですが、だんだん目の前で起きていることを写真に撮って、その写真を使ってどう語るかという語り方よりも、その写真を自分が撮って、その後世界中に伝播していくというそのダイナミズム、写真とか視覚メディアの機能自体に関心が移ってきました。
改めて考えるとすごく写真って不思議なもので、目の前で自分が見た光景をそのまま記録して、それを世界中の人と瞬時にシェアできるというものすごい制度で、そのおかげで人類のサバイバル能力とか考える力が上がっているんですが、そういった機能面について最近は考えています。なので、最近はこういったちょっとコンセプチュアルな、写真メディアそのものについて問うような、写真の写真性をあがくようなことを最近はしています」。
次に、苅部氏おすすめの1作品をピックアップしてご紹介します。

苅部氏はこちらの作品について、「これは街っぽい絵だなというのが多分おわかりになると思うんですが、元々の写真は違うんですね。元々の写真はノイジーな抽象的な画像なんです。この作品は、AIに誤読させる、機械に見間違いをさせるというプロジェクトです。
AIが搭載された風景写真認識システムがあって、そこに風景写真じゃないものを入れると、バグっちゃうんですね。バグってAIが混乱するという、AIのハルシネーションという現象なのですが、それをここでは積極的に出そうとしています。AIが搭載されたソフトウェアに、こういったカオティックなものを入れると、AIってバグりながらもパターン認識を頑張ってしようとするんですね。この情報の塊は窓だなとか、岩だなとか、森だなというのを、無理やり自分の中で一致率を計算して引っ張ってくるんですね。

ここでいうと、こういうブロックのノイズがデジタルテレビ画像の中で出てくるのですが、テレビを接触不良にしています。元々流れているドラマとかニュースとか、そういった番組にブリッジノイズを発生させて、よくわからない画像にして、その画面を直接カメラで撮っています。画面を撮って、その画像を回転とかトリミングすると、一見元の画像が何だかわからなくなります。そうやって人間が抽象画を観たときに、何かに自分に引きつけて観るように、AIも元々人間の脳を模して作られてるので、人間の脳と同じように解釈をしようとするんです。無理やりこういった出力をしてくることを行っています。
その出力具合も時間の経過に伴って変わってくるんですね。大体1年前に出力したときは写実的なものがたくさん出ていました。街とか、少し滝っぽい絵とか。ですが、だんだん時間が1年ぐらい経つと、抽象的な表現になってきたんですね。より抽象的に解釈を踏まえながら、AIが出力するようになってきていて、だんだん人間が観てこれは写実的な風景絵画だなっていうことを理解しづらくなってきて、AIの風景感と人間の風景感かがちょっとずつずれてきているなということが感じられて、そこを記録しているんですね。
AIってバージョンアップされて、一度バージョンアップされると、元のアルゴリズムとか元の振る舞いに戻らないんです。なので、そのときにしか得られないAIの振る舞いっていうものを私は写真的に、この瞬間をキャプチャーしているというのがこの作品になります」。

プロデューサー 戸倉里奈氏
MASQのキュレーションを担当しているプロデューサーの戸倉里奈氏は、本展について次のように述べています。
「マイナビアートスクエアは去年の夏にオープンしまして、特に去年から今年にかけては、若手のアーティストをフューチャーして取り扱っています。今回は、JAPAN PHOTO AWARDさんにご協力いただいての共同キュレーションになります。JAPAN PHOTO AWARDさんは、現代アート写真家、特に若手の発掘に力を入れているアワードで、非常に魅力的なアート写真家を多く輩出しています。今回、その中でも苅部太郎さんに展覧会をお願いしました。
苅部さんの素晴らしいところは、現代アート写真という写真の枠にとどまらずに、もっと広い可能性を示しているところです。ご覧いただくとわかるかと思うのですが、写真というよりも本当にアート作品で、まるでペインティングのような世界観が展開されています。写真は苅部さんが表現したいものの一つのツールであって、写真を見せたいわけではなく、本当にアート作品を見せるのが軸にあるのだと思いました。
軽部さんは非常に経歴も面白くて、色々なことを経験して最後にたどり着いたのがアート写真で、それはどうしてですかと聞いたら、わからないこと、わからないシステムを探していくのが好きなんですと仰ったのが非常に心に残りました。アートというのはずっと問いかけをしながら作り続けていくものだと個人的に思っていまして、苅部さんの作品が魅力的なのは、ずっと問い続けて、そして答えを見つけようとするその姿勢にあるんだなというふうにものすごく感じました」。
以上、MASQで開催中の苅部太郎の個展 「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」についてご紹介しました。まるで抽象画のような写真作品は、観ている者の心に深く刺さってくるものがあります。ぜひ会場に足を運んで、ご自身の目でお確かめください。
会場内では、Art Book『あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean』の販売も。
■「あの海に見える岩に、弓を射よ / Aim an Arrow at the Rock in the Ocean」
会期 :2024年7月26日(金)〜8月31日(土)
・苅部太郎×徳井直生トークイベント | 8月22日(木) 19:00〜20:00
場所 :MYNAVI ART SQUARE(MASQ)
東京都中央区銀座4-12-15 歌舞伎座タワー22F
開館時間 :11:00〜18:00
休館日 :日・月・祝
サザビーズメゾン Courtesy of Sotheby’s
執筆者:遠藤友香
1744年に設立され、アートとラグジュアリー分野で世界的に知られる「サザビーズ」。サザビーズはオークションや即時購入チャネルを通じて、優れたアートやラグジュアリーオブジェへのアクセスと所有を促進しています。これにはプライベートセール、Eコマース、リテールが含まれます。長年蓄積された信頼に基づく我々のグローバルマーケットプレイスは、業界をリードするプラットフォームと、40カ国70カテゴリーにわたるスペシャリストのネットワークによって支えられています。これらのカテゴリーには、現代美術、近代美術、印象派美術、古典美術、中国美術、ジュエリー、時計、ワイン、スピリッツ、デザイン、そしてコレクティブルカーや不動産が含まれます。サザビーズは、アートと文化の変革力を信じ、業界をより包括的、持続可能、そして協力的にすることにコミットしています。

ササビーズメゾン、ランドマークチャーター Courtesy of Sotheby’s Photo credit : Stefan Ruiz
この度、サザビーズが2024年7月27日(土)に、アジアにおける新たなフラッグシップ拠点となる「サザビーズメゾン」を香港にオープンしました。メゾンは、ラグジュアリーブランドや世界的なコマーシャルギャラリーが立ち並ぶセントラル地区に位置するランドマークチャーターに開設されました。
ロッテルダムに本拠を置く建築スタジオ「MVRDV」によってデザインされた約2,230平方メートルに及ぶスペースは2フロアにわたり、独自のキュレーションの元、さまざまなカテゴリーのアートやラグジュアリーといった蒐集を探求する場として展開されています。先史時代から現代まで、20以上のカテゴリーを網羅するその価格帯は、5,000香港ドルから50百万香港ドルに及びます。2階のスペースには5つのサロンが設けられ、奈良美智の最も評価の高い作品群から「Agent Orange (In the Milky Lake)」や、塩田千春「State of being (Skull)」、平子雄一の「Tree Ring」など、日本人作家の作品を含む数百点にわたるファインアート作品やオブジェの販売を展開。オープニングでは、21世紀における最も衝撃的なオークションの瞬間のひとつとして記憶に新しいバンクシーの著名な「Girl with Balloon」が紹介されました。
サザビーズ・アジア・マネージングディレクターのネイサン・ドラヒは、以下のように語っています。
「サザビーズメゾンは長い年月をかけて築き上げてきたものです。私たちは香港のこの最先端のスペースが、世界中の訪問者にとって文化の中心地となること、あらゆる世代のアートやカルチャー愛好者が特別なオブジェや体験に触れ、インスピレーションが得られる場所となることを願っています。この香港の中心地にあるサザビーズの Another World を是非ご体験下さい」。

サザビーズ・サロン 上階 Courtesy of Sotheby’s
大通りに面するメゾンの1階スペースは3つの空間から成り、美術館級の展覧会やパフォーマンスに加えて、主要なオークションも展開される予定です。道教の教えとその具現化でもある岩の形にインスピレーションを受けたデザインは、自然との調和、絶え間ない変化と適応性を象徴し、過去と現在をつなぐ没入的で瞑想的な空間となっています。
グランドオープニングにおける展示では、ドイツのビジュアルアーティスト、ゲルハルト・リヒターの「Eisberg(Iceberg・氷山)」(1982年)と、中国の宋代の希少な汝窯陶磁器をユニークな視点から取り上げた「ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum」展、そして仏教芸術の発展を網羅した展覧会「Bodhi: Masterpieces of Monumental Buddhist Art」を開催。

ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum Courtesy of Sotheby’s
時空を超えた物語を展開する「ICE: Two Masterworks on Loan from the Long Museum」展では、現代美術が写真の時代を経て辿り着いた風景画の究極の形態の一つである、ゲルハルト・リヒターによる「Eisberg(Iceberg・氷山)」が、光り輝く青緑色の釉薬と織り交ぜられ、その氷のようにひび割れた美しい表情で歴代の皇帝や学者、人々を千年近くにもわたり魅了してきた稀有な汝窯の筆洗陶磁器と重ね合わされます。展覧会では英国の小説家、アンナ・カヴァンによる小説『氷』(1967年)の一節も参照されています。

Bodhi Masterpieces of Monumental Buddhist Art Courtesy of Sotheby’s ササビーズメゾン、ランドマークチャーター1階 Photo credit : Stefan Ruiz

BBodhi Masterpieces of Monumental Buddhist Art Courtesy of Sotheby’s ササビーズメゾン、ランドマークチャーター1階 Photo credit : Stefan Ruiz
また、古代ガンダーラから栄華を誇った明朝宮廷、北朝と南朝の激動の時代、そして二つの宋代まで、その二千年にも及ぶ仏教芸術の発展をたどる展覧会「Bodhi: Masterpieces of Monumental Buddhist Art」も同時開催。
同社は新たなメゾン開館を記念して、英国の著名俳優、チャールズ・ダンスがナレーションを務める特別映像「Another World」(2024年)も制作。そこでは複製技術を経た現代の世界にコピーのコピーが溢れている中で、それでも我々は「Another World(未知の世界)」を探求できると語られています。
サザビーズ・アジアの会長、ニコラス・チョウは次のように述べています。
「『Another World』は、私たちメゾンの哲学を体現しています。訪問者はこの場所において、数百万年の歴史と多様な文化や文明を反映したアートや収集品の数々を、その優れた美術館的要素を兼ね備えた空間で提供されるプログラムと共に、新たに創造された購入体験として365日楽しむことができます。
私たちの新しいメゾンは、歴史が語られ、創られる場であり、素晴らしい物語の数々が生き生きと蘇る場所になることを確信しています。
徹底したキュレーションや、現代的なパフォーマンス、ユニークなイベントを通じて、芸術体験の限界に挑戦します」。
サザビーズはまた、2024年9月に開催される「サザビーズ・モダン・コンテンポラリー・アートのイブニングセールスとデイセールス」を皮切りに、10月には「ラグジュアリー&アジアン・アートオークション 」も展開予定です。今後の展開も益々目が離せないサザビーズに、ぜひ注目してみてください。
■サザビーズメゾン
公式オープン日:2024年7月27日(土)
営業時間:
月~土|午前11:00~午後7:00
日|午前11:00~午後6:00
住所:LANDMARK CHATER, 8 Connaught Road, Central
sothebys.com/asia
世界屈指の文化芸術都市・京都を舞台に開催される、 アジアで最も大きな国際写真祭の一つである「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。 国内外の気鋭の写真家による作品展示を中心に、 子どもから大人、アマチュアからプロ写真家までを対象とする様々な教育プログラムも開催し、 写真を通して歴史や社会など関連分野にも造詣を深めていけるように取り組んでいます。 KYOTOGRAPHIEは、多くの観客、写真関係者、 多様な分野の第一人者たちが集い、 交流していくことで新たな創造性が生み出せるような、 国際的なプラットフォームの構築を目指しているとのこと。

この度、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭は、世界最古の写真祭「アルル国際写真フェスティバル」にて、「TRANSCENDANCE(超越)」展を、2024年9月29日(日)まで開催中です。本展では、写真の多様な言語を探求し、写真表現を肯定とレジリエンスへと昇華する 6 人の日本人女性写真家、細倉真弓、岩根愛、岡部桃、鈴木麻弓、殿村任香、吉田多麻希の作品が一同に会します。

(左から)仲西祐介、ルシール・レイボーズ(KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 共同創設者& 共同ディレクター)
「TRANSCENDANCE(超越)」展は、 第10回 KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭を記念し、ルシール・レイ ボーズ、仲西祐介、ポリーヌ・ベルマールの企画により2022年に開催された「10/10 現代日本女性写真家 たちの祝祭」展にインスパイアされ、同展に参加した写真家の数名の作品に焦点を当てています。彼女たち の作品に内在する親密性や集団社会における体験は、現代の日本社会の複雑性やその先にあるものを私たちに投げかけています。


「TRANSCENDANCE(超越)」展は、いわゆるグループ展ではなく、6人の写真家それぞれに光を当てる万華鏡のような展覧会とも言えるでしょう。写真の力を通して、ヴァルネラビリティ(脆弱性)、多様性の美しさ、そして自分の物語や歴史を新たに作っていく勇気を持つ女性たちの不屈の精神を讃えています。日本で制作された6名の作品は、KYOTOGRAPHIEが第1回からタッグを組んでいる小西啓睦のデザインによる洗練されたセノグラフィーにより展示されています。

展示会場となるVAGUEは、南フランスの古都アルルの閑静な通りに面した、自然光あふれる石造りの建造物で、日本出身のデザイナー兼クリエイティブ・ディレクターの柳原照弘がリノベーションを手掛けています。時を超越したこの空間では、建築、デザイン、現代アート、工芸が出会い、展覧会、ワークショップ、 フード・ポップアップ、マテリアルリサーチ、現代工芸、レジデンスなど、多様なコラボレーション・プロジェクトが生まれる場となっています。
■ケリング「ウーマン・イン・モーション」の協力
ファッション、レザーグッズ、ジュエリー製品を扱うメゾンおよびケリングアイウエア、ケリング ボーテを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループである「ケリング」。傘下のブランドは、グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、アレキサンダー・マックイーン、ブリオーニ、ブシュロン、ポメラート、ドド、キーリン、ジノリ1735。戦略の中心にクリエイティビティ(創造性)を掲げるケリングは、 サステナブルで責任のある方法により未来のラグジュアリーを築きながら、各ブランドがそれぞれの創造性を自由に表現することを可能にしています。
2015年、ケリングは映画界の女性に光を当てることを目的に、カンヌ国際映画祭にて「ウーマン・イン・ モーション」を立ち上げました。芸術分野における平等のための闘いは映画界に限ることなく、「ウーマン・ イン・モーション」は写真を始めとする他の芸術分野にもその取り組みを広げています。
2019年3月、ケリングはアルル国際写真祭とのパートナーシップを発表し、同写真祭での「ウーマン・イン・ モーション」プログラムをスタートしました。このパートナーシップは、女性写真家の認知度向上に貢献し、 同分野における男女平等を達成することを目的としています。ケリングは、2016年から支援しているマダム・ フィガロ・アルル・フォトグラフィー・アワードを通じて、才能ある次世代の女性写真家を支援し続ける一方で、 アルル国際写真祭にて「ウーマン・イン・モーション」ラボと「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを立ち上げました。同賞は象徴的な女性写真家のキャリアを称えるもので、受賞作家の作品を写真祭のコレクションとして購入するための賞金2万5000ユーロが含まれています。2019年はスーザン・ メイゼラス、2020年はサビーヌ・ヴァイス、2021年はリズ・ジョンソン・アルトゥール、2022年はバベット・ マンゴルト、2023年はロザンジェラ・レンノ、2024年は石内都が受賞しました。
日本でも、ケリングはKYOTOGRAPHIEを支援しています。2021年は、ヨーロッパ写真美術館 (MEP)による「MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展 ‐ フランスにおける写真と映像の新たな見地」、2022年に10名の日本人女性写真家の展覧会「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」、2023年は石内都・頭山ゆう紀「A dialogue between Ishiuchi Miyako and Yuhki Touyama |透視する窓辺」展、2024年は川内倫子・潮田登久子「From Our Windows」展を支援しました。
南仏に行かれる方は、世界最古の写真祭「アルル国際写真フェスティバル」にて開催中の「TRANSCENDANCE(超越)」展を、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
■「TRANSCENDANCE(超越)」展
出展作家:細倉真弓、岩根愛、岡部桃、鈴木麻弓、殿村任香、吉田多麻希
会期:2024年7月1日(月) - 9月29日(日)
会場:VAGUE ARLES(フランス・アルル) 14 Rue de Grille, 13200 Arles, France
会場時間: 10:00―19:30
入場料:€ 6
キュレーション:ルシール・レイボーズ、仲西祐介(KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 共同創設者& 共同ディレクター)
共同プロデュース:SIGMA
With the support of Kering | Women In Motion
Kongkea (Water)
2024
woven vines and dark green fabric
190.0 x 78.0 x 6.0 cm
©Khvay Samnang

Cholsa (Sea)
2024
woven vines and camouflage fabric
95.0 x 110.0 x 6.0 cm
©Khvay Samnang
執筆者:遠藤友香
日本を代表するコンテンポラリーアートギャラリーである「小山登美夫ギャラリー」。この度、小山登美夫ギャラリー天王洲では、カンボジアで最も重要なアーティストの一人である、クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」を2024年8月10日(土)まで開催中です。
クゥワイ・サムナン(1982-)は、カンボジアの深刻な社会問題を多大な時間を費やしてリサーチし、写真、ビデオ、インスタレーション、彫刻、パフォーマンスなど様々なアプローチによって、歴史、文化、様々な事象についての新たな視点、解釈を探求しています。
ユーモラスで重層的な作品は国際的にも高い評価を得ており、主な個展にジュ・ド・ポーム国立美術館(2015年、パリ、その後、CAPCボルドー現代美術館へ巡回)、ハウス・デア・クンスト(2019年、ミュンヘン、ドイツ)、Tramway(2021年、グラスゴー、スコットランド)、ifa(2022年、シュトゥットガルト,ドイツ)があります。その他の国際展では、現在開催中の第60回 ヴェネチア・ビエンナーレの公式関連展示「The Spirits of Maritime Crossing」に参加中、2017年にはドクメンタ14に参加。またアーティストコレクティブ「Sa Sa Art Projects」のメンバーとしても活動し、2018年の第21回シドニービエンナーレ(片岡真実キュレーション)や、2022年のドクメンタ15にも参加しました。
本展は作家にとって小山登美夫ギャラリーでの4度目の個展となります。今回、長年サムナンの活動を至近距離で支えてきたチュム・チャンヴィアスナがキュレーションを担当し、以下の言葉を寄せています。
■クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」のキュレーションを担当したチュム・チャンヴィアスナの言葉

Das Pralung (Rousing Spirits)
2024
single-channel HD video, color, sound, 22'29''
©Khvay Samnang
クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」では、「Pralung(プロルン)」と呼ばれる精霊を扱った新作シリーズを展開。本展では、クメール語とパーリ語で書かれた言葉をかたどった壁掛けの彫刻や、シングルチャンネル・ビデオとミステリアスな真鍮の彫刻を組み合わせた作品などを展示しています。「プロルン(精霊)」の概念は、カンボジアに広く伝わる複雑なアニミズム信仰の体系に由来するもので、今日の東南アジアの国境をはるかに越えて、「モンスーン・アジア」として知られるインド東部や中国南部にまたがる広大な地域の人々にも共有されています 。新作は、自然における人間と人間でないものの両方の側面、超自然的なもの、アニミズム、政治的・地理的な環境などに関わる、儀式や信仰に焦点を当てます。これは困難にみまわれた場所について身体をもって省察するという、サムナンの長年の関心を継続するものです。彼は抗しがたいほどの開発や、国際的な社会・政治の混乱、無秩序、領土紛争、戦争などにより、人間と自然は互いへの敬意をほとんど失ってしまっていると観察します。こうした要因や、自然と人間の間における敬意の喪失は、地球規模の気候変動においても深刻な影響を及ぼしています。
ギャラリーに足を踏み入れると、クメール語の「Mchas Teuk(水の主)」と「Mchas Dei(土地の主)」という言葉が訪れる人を迎え、これは迷彩布と撚り合わせて編まれた蔓によって制作されたものです。さまざまなプロルン(精霊)を想起させるこれらの言葉は、サムナンの新作を、アーティスト・ラン・スペース「Sa Sa Art Projects」を共に創設したアーティストたちと2022年にプノンペンで参加した、グループ展のタイトルと結びつけます。クゥワイ・サムナンは今日多くの国において、地政学的な状況だけでなく、人と自然との関係にも劇的な変化が起きていると捉えます。土地や環境は、以前にも増して欺瞞に満ちた、不透明で、不安定な方法で管理されているのです。こうした不確かさや、私たちを不可視化してしまうような変化の背後には、何かが存在していると思えてならないと作家は言います。今日における土地や水の主は、いったい誰なのでしょうか?現代の人々は、人間と土地の祖先である「Nak Ta(ネアク・タ)」や超自然的な守護者である「Mrenh Kongveal(マレン・コンヴィアル)」といったプロルン(精霊)を、変わらず信じているでしょうか?
ギャラリースペースの反対側には、パーリ語とクメール語の文字でそれぞれ「Kongkea(水)」、「Aki(火)」、「Thorani(土)」、「Khyal(空気)」という言葉を綴った4つの彫刻が2列に展示されています。これらは、人間、動物、植物、無生物を含む地球上のすべての生き物の誕生を支える4つの元素のメタファーとなっています。「モンスーン・アジア」のアニミズムの信仰体系においては、これらの要素が一緒に保たれている限りすべてが生かされる一方で、それらが切り離されると、すべてのものは即座に死んでしまうと言われます。
本展では、言葉をベースにした彫刻作品とともに、ギャラリー中央に設置されたシングルチャンネル・ビデオと真鍮のオブジェを鑑賞することができます。サムナンはこの映像作品のために、10年以上ぶりに自らの身体を使ってパフォーマンスを行う決意をし、3日間にわたり炎天下で1日数時間を過ごしました。ラタン(籐)の椅子に座り、真鍮のオブジェを叩いて、叩いて、振動する音を出すーその音は、カンボジア南部のコッコン州やコン・クラウ島、北部のメコン川沿いの小さな島々など、豊かな自然資源と希少な野生動物の宝庫である大森林に響き渡ります。世界の現状を目の当たりにしてサムナンは、ネアク・タやマレン・コンヴィアルをはじめとする森を守るプロルン(精霊)たちは、ぐっすり眠っているに違いない、と感じたと言います。真鍮のオブジェを叩くことで、彼はその精霊たちを目覚めさせ、地球が非常事態にある今、行動を起こさせようと試みます。自然は分断され、地熱的・政治的な現象の両方により、地球規模の気候危機を引き起こしています。サムナンの行動はプロルン(精霊)たちへ、どうか目覚めて団結し、自然環境と世界の地政図を修復するために力を合わせて介入して欲しい、と呼びかけます。

horani (Earth)
2024
woven vines and dark green and black fabric
199.0 x 190.0 x 7.0 cm
©Khvay Samnang
「Das Pralung (目覚める精霊たち)」の出展作品は、人間や人間でないもの、言語、そして自然の間の関係を結びつけ、再び想像するための新たな風景を訪れる人に提供します。本展は、カンボジアおよび広域の「モンスーン・アジア」における政治、経済、文化、伝統、生活、そして本質的な社会構造を形成し続けるアニミズム信仰を通して、元素や地理的・政治的環境の複雑な相互作用に光をあてます。この知識体系によれば、プロルン(精霊)やネアク・タ、マレン・コンヴィアルに対する信仰、地理的状況、政治的状況、気候変動といった、自然環境を構成する生態系の要素に何らかの危機が生じれば、目に見えるかに関わらず、生活や生態系にリスクや不規則性、不均衡が生じるとされます。
チュム・チャンヴェスナ
ロジャー・ネルソン氏への謝辞を込めて
この貴重な機会に小山登美夫ギャラリー天王洲に足を運んで、カンボジアで最も重要なアーティストの一人である、クゥワイ・サムナンの個展「Das Pralung(目覚める精霊たち)」をぜひご覧ください。
■クゥワイ・サムナン 「Das Pralung(目覚める精霊たち)」
会期:2024年7月20日(土)- 8月10日(土)11:00-18:00
休廊日:日、月、祝日
場所:小山登美夫ギャラリー天王洲
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex Ⅰ 4F
Tel:03-6459-4030
入場無料
Courtesy of Gucci
執筆者:遠藤友香
1921年、フィレンツェで創設された「GUCCI(グッチ)」は、世界のラグジュアリーファッションを牽引するブランドのひとつです。ブランド創設100周年を経て、グッチは社長兼CEO ジャン=フランソワ・パルー氏とクリエイティブ・ディレクター のサバト・デ・サルノ氏のもと、クリエイティビティ、イタリアのクラフツマンシップ、イノベーションをたたえながら、ラグジュアリーとファッションの再定義への歩みを続けています。
グッチ製品が日本で初めて正式に紹介されたのは1964年のこと。日本上陸60年目のアニバーサリーイヤーを迎えた今年、グッチは日本の皆さまへの感謝とともに、日本とのつながりを今後もより強く育んでいきたいという思いを込めて、さまざまなプロジェクトやイベントを展開しています。そのひとつとして、新たなアートプロジェクトを発表。これは日本の伝統工芸作家とコンテンポラリーアーティストが、ヴィンテージの「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグを用いて作品を創り上げるというスペシャルなコラボレーションを軸に、ヴィンテージバッグを発掘し、アップサイクルする過去に類のないプロジェクトです。
この度のプロジェクトに用いられるのは、主に1980年代から90年代に製造・販売された「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグです。時を重ねても、なおそのエレガントな美しさを保ち続けている60点のヴィンテージバッグを、グッチの専任アーキビストが厳選しました。そして、その一つひとつに新たな生命を吹き込むのは、彫金家で人間国宝の桂盛仁(かつら もりひと)氏と、その弟子の北東尚呼(あい なおこ)氏、塗師の渡慶次愛(とけし あい)氏、陶芸家の中里博恒(なかざと ひろつね)氏、写真家の森山大道(もりやま だいどう)氏、そして画家の八重樫ゆい(やえがし ゆい)氏と横山奈美(よこやま なみ)氏です。伝統工芸作家とコンテンポラリーアーティストが、自身の匠の技とクリエイティビティを通じて、グッチの職人たちの技の軌跡やそのバッグが過ごしてきた豊かな時間と対話しながら唯一無二の「グッチバンブー 1947」ハンドバッグを創り上げました。
作品として完成した60点の「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグは、2024年8月2日(金)から 9月23日(月・祝)まで、東京・銀座のグッチ銀座 ギャラリーにて開催される「Bamboo 1947: Then and Now バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」展にて一般公開され、アートピースとして販売される予定です。
グッチはこのプロジェクトを通じて、「グッチ バンブー 1947」ハンドバッグのタイムレスな美しさ、日本の職人による卓越したクラフツマンシップ、グッチと日本が数十年にわたって共有してきたクリエイティブな対話を掘り下げます。そして職人やアーティストとともに、ファッションとアートやカルチャーが交わる新たな次元で、グッチのアーティスティックなビジョンを体現し、伝統と革新の物語を紡ぎ続けるそうです。
■「Bamboo 1947: Then and Now Celebrating 60 years of Gucci in Japan バンブーが出会う日本の工芸と現代アート」展
会期 :2024年8月2日(金)– 9月23日(月・祝) ※会期中無休
場所 :グッチ銀座 ギャラリー 東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座6-7階
時間 :11:00-18:00 (最終入場 17:00)
※8月2日(金)– 4日(日)、6日(火)は17:00終了(最終入場 16:00)
入場 :無料・予約不要
※開催内容・時間は予告なしに変更となる可能性があります。
※作品の販売について
グッチ銀座 ギャラリーにて、60点の作品の展示販売会を開催予定です。
来場のお申し込みなどにつきましては、グッチクライアントサービス Tel. 0120-99-2177 までお問い合わせください。

執筆者:遠藤友香
建築へのこだわりとものづくりのノウハウがビジネス戦略の基礎となっている、イタリアのオフィス家具メーカー「UniFor」。この度、UniForが、「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョン 2024」の建築をサポートしています。
ロイヤル・アカデミーの設立以来の主要な活動のひとつは、「功績のあるすべての芸術家に公開される」毎年恒例の夏季展覧会を開催することです。この展覧会は1769年以来、途切れることなく毎年開催されており、新進気鋭の芸術家や著名な芸術家、建築家の作品を、国際的な聴衆に広めるうえで重要な役割を果たし続けています。
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョンでは、版画や絵画、写真、彫刻、建築など、有名なアーティストから才能あるアマチュアの作品まで、あらゆるスタイルのアートが展示されます。
第256回目となる今年のテーマは「Making Space(スペースを作る)」。スペースを与えても、それを逆に取り去っても誰かにとっての空間になる、という哲学的なアイデアを探究し、限られた空間に飾られた作品を通じて見る喜びをさらに高めることを目的としています。ほとんどの作品は購入可能で、収益はアーティストのサポートなどに使われます。
ロイヤル・アカデミーは毎年、展覧会内の優れた作品に対して数々の賞を授与しています。今年、UniForは、優れた建築作品に贈られる「Summer Exhibition Architecture Award 2024」を支援。 UniFor のCEOであるCarlo Molteni氏は、Vicky Richardson氏、Maria Lisogroskaya氏(Assemble RA)、Julian Robinson氏など、様々な分野の著名人で構成される権威ある国際審査員の一員でした。この賞は、自然史博物館のためのディプロドクス・カーネギーイ プロジェクトの構造ワークショップ(Cat 787) に授与されました。

この展覧会には、7月17日に開催された、世界的に有名な建築家でハーバード大学教授の森俊子氏との第1回「建築入門:16~25歳のためのフリートーク」も含まれました。この講義では、建築家が環境に対する建築の影響について話し合い、創造的思考の概念を探りました。
UniForは、2024年6月から8月にかけて行われる「ロイヤル アカデミー建築サマープログラム」を支援することで、次世代の建築家やデザイナーにインスピレーションを与えることができる文化活動の推進者としての役割を果たしていくといいます。
ぜひ、「UniFor」と「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ・サマー・エキシビジョン 2024」に、注目してみてくださいね!
執筆者:遠藤友香
2024年1月1日、石川県能登地方を震源とした「能登半島地震」が発生しました。未だ復興には程遠く、多くの市民の方々は避難生活を余儀なくされています。
この度、能登の伝統や魅力がわかる復興支援イベント「THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風」が、2024年7月26日から7月28日まで、東京・代官山「Studio 4N Daikanyama」にて開催されます。入場料は500円で、本イベントの売上はすべて支援活動の継続資金となり、能登半島の被災者支援のために使われます。
「能登半島からの風」の主催者である、現代における衣服デザインの本質を見つめ直すファクトリーレーベル「AUGUSTE PRESENTATION(オーギュストプレゼンテーション)」のデザイナー 大野知哉氏は、本イベントの趣旨について、以下のように述べています。
「2024年の年明け1月1日に能登半島は、かつてない地震災害に見舞われました。新年を祝う元旦ムードの市街地は、一瞬にして瓦礫と化し、多くの被災者たちを生みました。そんな中で、地元の若者を中心とする勇士が中心となりいくつものボランティア団体が立ち上がり、1月3日から支援活動がスタート、避難所への物資運搬から始まり、避難所への炊き出し、そして、販売活動が出来なくなった農家さんを中心とする、様々な商品の代行販売をこの7ヶ月間支援してきました。半年以上たった現在も、まだ復旧が進んでいない地域もあり、かつての活氣ある能登の街と人々の笑顔が戻ってくるには至っていません。
ただ、これを機会に能登の伝統や魅力を知ってもらい、それを復興支援に繋げることが出来ないか、という理想のもと、この度「能登からの風」と題して、復興支援イベントを開催する運びとなりました。地元の工芸、芸術家の皆さまのご協力のもと ”輪島塗漆器“など貴重な工芸品の数々の販売や、地元の食材の直販もさせて頂く予定です。是非、この機会に能登半島という、北陸の小さな半島の魅力を知ってもらい、そして、機会があれば訪れてみたいな、という氣持ちになってもらえたら本当にうれしいです。そして、その時は、能登の地でみんなが笑顔で皆さまをお迎えできるようになっていたい、強くそう思います」。
次に、本イベントに参加するアーティスト3名をご紹介します。
1. 桐本滉平/漆芸家

桐本滉平氏は、1992年石川県生まれ。江戸時代から輪島で漆に携わってきた桐本家。能登半島の輪島の地で、200年以上「木と漆」の仕事に携わってきました。いつもの暮らしの中に潤いのある木工と漆器を提供し続けています。
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桐本氏は、学生時代にパリで漆器販売を経験し、漆、麻、米、珪藻土を素材とした乾漆技法を用いて、「生命の尊重」を軸に創作を行っています。また、共同創作にも取り組んでおり、様々なジャンルの作品を生み出しています。
2.室谷文音/抒情書家

室谷文音氏は、1980年大阪府生まれ。お箸を持つより先に筆を持ちました。4歳の時、抒情書家の両親が「綺麗な山の水で墨を磨りおろしたい」との想いから、京都府美山町へ移住。10歳のときに読んだ本「緑色の休み時間」に感動し、イギリスへ行く夢を膨らませます。日本の管理教育に疑問を感じ、テレビのインタビューで自分が普通に思っていることを口にすると天才と扱われることにも違和感を感じ始め、13歳で単独渡英。バース、ヨークの街で中高学校へ行った後、2003年にセントラル・セイント・マーティンズ大学ファインアート科(ロンドン)を卒業しました。
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両親が石川県能登町に移住したことをきっかけに能登半島を訪れ、日本の原風景がそのまま残っているところに一目惚れ。現在は拠点を能登に置き、日本国内、ロンドン、ジュネーブ、ベルリンでも展覧会を開催。能登町ふるさと大使、いしかわ観光特使を務めています。
3.小森邦衛/漆芸家

小森邦衞氏は、1945年生まれ。 石川県輪島市出身の日本の漆芸家です。1977年には漆器産地初の重要無形文化財の指定を受け、その高い技術を保存し後世に伝えるべく、継承・発展に努力を重ねています。2006年「髹漆」の人間国宝として認定されました。
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小森氏は、下地から上塗りまですべての工程を行い、漆本来の持つ美しさを追求しています。「塗り」の最初から最後まで神経を使い、作品づくりを行っています。この職が「天職」と語る小森氏は、技と創意工夫で使い手を魅了し続けています。
以上、能登の伝統や魅力がわかる復興支援イベント「THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風」についてご紹介しました。一日も早く復興が進み、能登の方々が再び笑顔を取り戻すことを願ってやみません。
■THE ATMOSPHERE FROM NOTO vol.01 能登半島からの風
会期:2024年7月26日(金)~7月28日(日)
時間:11:00-18:30
場所:Studio 4N Daikanyama
東京都渋谷区猿楽町2-1 アベニューサイド代官山Ⅲ 3F
入場料:500円


執筆者:遠藤友香
森ビル株式会社等が、約300件の権利者の方々とおよそ35年かけて進め、2023年11月24日(金)に無事開業した「麻布台ヒルズ」。
「麻布台ヒルズ」は、“Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街”をコンセプトに、“Green & Wellness”人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街です。約8.1haの広大な計画区域には、約24,000㎡の圧倒的な緑が広がり、延床面積約861,700㎡の空間に、オフィスや住宅、商業施設、文化施設、教育機関、医療機関など、多様な都市機能が集積しています。
森ビルは、「都市には経済活動を支えるだけではなく、豊かな都市生活を実現するための文化的魅力が不可欠である」との強い想いから、「文化」を最も重要な要素の1つとして都市づくりに取り組み、ヒルズごとに個性的な文化施設をつくってきました。ウェルネスへの意識が高まってきた今、文化やアートは、人々の暮らしを心豊かなものにするものとして、より都市生活にとって大切な存在となっています。
「麻布台ヒルズ」では、「街全体がミュージアム」をコンセプトに、総施設面積約9,300㎡(約2,820坪)のデジタルアートミュージアムとギャラリーを中核として、オフィスや住宅、ホテルのロビーや広場など、街のあらゆる場所にパブリックアートを設置し、芸術・文化が一体となった街を創出しています。

「麻布台ヒルズ」の文化発信の中核となる場所が「麻布台ヒルズ ギャラリー」です。美術館仕様の施設・設備を備え、アート、ファッション、エンターテイメントなど、多様なジャンルの文化を発信。麻布台ヒルズ ギャラリーで、2024年9月6日(金)まで開催中なのが、アレクサンダー・カルダーによる、東京での約35年ぶりとなる個展「カルダー:そよぐ、感じる、日本」です。

本展は、アメリカのモダンアートを代表するカルダーの芸術作品における、日本の伝統や美意識との永続的な共鳴をテーマにしています。この展覧会は、ニューヨークのカルダー財団理事長であるアレクサンダー・S.C.ロウワーのキュレーションと、Paceギャラリーの協力のもと、カルダー財団が所蔵する1920年代から1970年代までの作品約100点で構成され、代表作であるモビール、スタビル、スタンディング・モビールから、油彩画、ドローイングなど、幅広い作品をご覧いただけます。
カルダー自身は生前日本を訪れたことはありませんでしたが、日本の多くの芸術家や詩人に受け入れられました。それは、今日、彼の作品20点以上が日本国内18箇所の美術館に収蔵されていることからも理解できます。
本展の会場デザインを担当し、長年のカルダー財団の協力者でもあるニューヨーク拠点の建築家、ステファニー後藤は、カルダーが同時代の偉大な建築家たちとコラボレーションしていた精神にならい、3:4:5 の直角三角形の幾何学にもとづいた設計で、日本建築の要素や素材をエレガントかつモダンに展示空間に取り入れています。

Calder with Armada (1946), Roxbury studio, 1947. Photograph by Herbert Matter
ここで、カルダーについてご紹介しましょう。1898年にペンシルベニア州ローントンにて生まれたカルダーは、20世紀を代表する芸術家です。古典的な芸術家の一家に生まれた彼は、針金を曲げたりねじったりすることで、立体的な人物を空間に「描く」という新しい彫刻の手法を編み出し、芸術活動をスタートさせました。吊るされた抽象的な構成要素が、絶えず変化する調和の中でバランスを保ちながら動く「モビール」の発明で最もよく知られています。カルダーは、動く彫刻であるモビールによって近代彫刻の概念を一変させ、最もその名を知られていますが、絵画、ドローイング、版画、宝飾品など、数多くの作品を制作し、幅広い分野で活躍しました。
次に、本展でおすすめの作品を5点ピックアップします!

Alexander Calder 《Fafnir》, 1968 Sheet metal, rod, and paint 112" × 184" × 46" (284.5 × 467.4 × 116.8 cm)
カルダーがアート作品をつくる以前は、彫刻は地面に付いていて動かないもの、静的なものというイメージが強かったのですが、カルダーが動く彫刻をアートの中で初めて生み出したことによって、動く彫刻が誕生しました。このことは、歴史的にも高評価を受けています。
こちらの作品は、本来屋外に置くためのパブリックアートの彫刻作品で、風があると鉄の部分がクルクル回るなど、気流や光、湿度、人間の相互作用に反応します。
この姉妹作品がパブリックアートとして一番最初に置かれたのが、名古屋市美術館です。名古屋市美術館では、姉妹作品が屋外に置かれています。
こちらの作品名《Fafnir》とは、北欧の神話の「龍」に由来します。後ろの部分が尻尾で、顔もあるように見えます。本作は、名古屋市美術館に置かれている姉妹作品という点と、日本との繋がりといったことを含めて、入口を入って一番最初に置かれています。

ここは、茶室をイメージした空間になっており、壁には桜の木を使っています。上の照明部分は、日本の庇(ひさし)を想定しています。カルダーの作品は動きがあるため、影も一緒に楽しめるのですが、ここはあえて影が出ないような空間構成になっています。

Alexander Calder 《Un effet du japonais》, 1941 Sheet metal, rod, wire, and paint 80" × 80" × 48" (203.2 × 203.2 × 121.9 cm)
こちらは《Un effet du japonais》という作品で、今回の展覧会の英語タイトルになっています。《Un effet du japonais》とはフランス語で、日本語に訳すと「日本の美学」という意味です。
本展をキュレーションしたサンディー曰く、黒と赤で構成されている本作は、見方によっては日本の歌舞伎の化粧や、また左右の部分が羽のようで鶴のようにも見えるとのこと。

Alexander CalderSword 《Sword Plant》, 1947 Sheet metal, wire, and paint 42-3/4" × 31-1/4" × 30-1/2" (108.6 × 79.4 × 77.5 cm)

こちらは、日本のいわゆる瓦を想起させる空間で、まわりは全て黒染めした和紙で囲まれています。よく見ると、和紙の上の2点だけが止まっており、その理由は、上にあるモビール作品がそよいだり、風で動くことを想起しているためです。ここの空間に風があると、和紙が揺らぐような形をイメージして、このようなデザインになっています。
作品を見ると黄色や青といった色味がパッと目に入ってきますが、近づいてみると小さなモビール作品は、実は赤だけではなく黒のモビールの要素も入っていることが見て取れます。黒の空間の中において、黒いモビールが空間と同化していますが、作品に近づくことで見えてくる色がある点が面白い。
カルダーの作品は、他の展覧会では基本的にホワイトキューブで展示することが多いのですが、展示空間を担当した後藤の意向もあって、興味深い空間構成になっています。

Alexander Calder 《Untitled》, 1956 Sheet metal, wire, and paint 35" × 120" × 64" (88.9 × 304.8 × 162.6 cm)
こちらは、カルダーの代表的なモビール作品です。カルダーの父アレクサンダー・スターリング・カルダーは高名な彫刻家で、母ナネット・レダラー・カルダーは油絵の画家というアート家系に生まれました。ただ、両親はカルダーがアートの道に進むことを好んでいませんでした。カルダー自身工学部で機械工学を専攻し、エンジニアとなりましたが、その後芸術家の道に転向したという経緯を持っています。
元々カルダーは工学部出身なので、こちらのモビール作品も計算されているのかと思いがちですが、キュレーションしたサンディー曰く、カルダーはモビール作品を本能的に作っており、全く計算されていないとのこと。
確かに見てみると、視点の部分が不均衡で、必ずしも真ん中に置かれているわけではなかったり、青と黄色の部分も、全く同じものが吊るされているわけではなく、人力で調整されて作られていることが理解できます。
現在、巷に出回っている赤ちゃんの知育玩具は、このカルダーのモビールが元となって誕生しているそうです。

Alexander Calder 《Black Beast》, 1940 Sheet metal, bolts, and paint 103" × 163" × 78-1/2" (261.6 × 414 × 199.4 cm)
記事冒頭でご紹介した作品《Fafnir》と同じタイプのスタビルという種類の作品《Black Beast》。屋外彫刻の作品の中では、初期の作品です。屋外彫刻作品なので、高さがあってもいいのですが、こちらは高さ2.8mです。ただ、重さが400kgあるといった、かなり重い作品です。
素材は鉄ですが、こういった屋外彫刻といった大きな作品を制作していた時期が、ちょうど第二次世界大戦中で、鉄が資源として限られてたので、廃材を使ってコーティングし直すなど、カルダーはサステナブルな姿勢を持っていました。
以上、カルダーによる個展「カルダー:そよぐ、感じる、日本」をご紹介しました。次に、麻布台ヒルズのパブリックアートをピックアップします!
「パブリックアート」日常生活とアートの境界をなくす
圧倒的な緑に包まれた広大な空間が広がる「麻布台ヒルズ」。その公共空間や生活環境にあるパブリックアートには、空間の壮大なスケール感とヒューマンスケールを融合し、人間と宇宙の繋がりを感じられ、「麻布台ヒルズ」で生成される自然界のエネルギーを可視化するような作品が、森美術館のキュレーションにより選定されています。
また、手仕事の痕跡が残された作品の表情や、さまざまな素材が五感を刺激し、人間本来の野性や芸術的感性が喚起されることも想像されています。さらには、「エプソン チームラボボーダレス」や「麻布台ヒルズギャラリー」など、「麻布台ヒルズ」の各アートスペースとも連動し、街全体でミュージアム・クオリティのアートを体験できるよう考慮されているといいます。パブリックアートでは、世界の現代アート界を牽引するアーティストの豪華な共演を楽しむことができます。
中央広場:奈良美智(日本) 《東京の森の子》2023年

奈良美智(日本) 《東京の森の子》2023年
目を閉じた《東京の森の子》は、アンテナを天高く伸ばし、宇宙と交信しているようにも、森の精として自然界の平安を祈っているようにも見えます。天空に向けて円錐状に立ち上がる本作は、2011年の東日本大震災の悲しみから、創造活動を再開する契機ともなった《ミス樅の子》(2012年)に続き、2016年以来、青森、那須塩原、ロサンゼルスなどに恒久設置されている《森の子》シリーズの8体目。都内に常設される奈良の野外彫刻としては初めてです。
粘土で作った原形をブロンズで鋳造し、ウレタン塗装を施した表面には、奈良の指跡が鮮やかに残り、作家の身体性や情動がリアルに伝わってきます。心の奥底に刻み込まれた記憶、感性、直感のままに制作されたこのシリーズには、奈良自身の葛藤、世界平和への願い、希望などが折り重なり、私たちの心の奥底に話しかけてくるようです。
中央広場:ジャン・ワン(中国) 《Artificial Rock. No.109》 2015年

ジャン・ワン(中国) 《Artificial Rock. No.109》 2015年
ステンレススチールで自然石を模した彫刻は、中国の彫刻家ジャン・ワンの代表的なシリーズです。中国で天然岩を鑑賞する文化「供石」は唐の時代に遡ります。自然石を鑑賞する文化は日本では「水石」と呼ばれ、14世紀に中国から伝来したと言われています。供石で愛でられる自然岩は主に石灰岩で、自然現象によって溶解した形が風景にも喩えられてきました。
ジャン・ワンは急速な経済発展や産業化の只中にある中国で、多くの知識人や趣味人を魅了してきた自然岩が連想させる伝統的な風景を、自然を模して近代的な素材で再現しました。自然とその模造の意味を問い掛けながらも、鏡面に仕上げられた表面は麻布台ヒルズで移り変わる四季の風景、さらには天空を写し出し、過去と未来を繋げます。
森JPタワー:オラファー・エリアソン(デンマーク) 《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》2023年

オラファー・エリアソン(デンマーク) 《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》2023年
連続する4つの彫刻は、ひとつの点がねじれながら移動する軌跡を描いたものです。人々の行動、求心力、自由に動くダンスなど、あらゆるものの運動を表現しています。螺旋状の彫刻は、窓や柱など空間にあるそのほかの要素とも相互に関連しあいながら、調和しているように見えます。徐々に複雑になるこれらの形は、振動を表すリサジュー曲線に着想を得て、そこからダイナミックな立体に転換されました。
細部に目を向けると、菱形、凧型、三角形で構成される十一面体を多数連続させることで全体が形作られていることがわかります。スタジオ・オラファー・エリアソンが長年続けてきた幾何学的形体の研究や地質学的な時間に対する概念的な問いに基づき、本作では再生金属が初めて使われています。
以上、「麻布台ヒルズ ギャラリー」で開催中の「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展と、麻布台ヒルズのパブリックアートについてご紹介しました。感性と知性が刺激される作品を鑑賞しに、ぜひ「麻布台ヒルズ」に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■「カルダー:そよぐ、感じる、日本」展
会場:会場麻布台ヒルズ ギャラリー
(東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)
会期:2024年5月30日(木)ー2024年9月6日(金)
※休館日:2024年8月6日(火)
開館時間:月/火/水/木/日 10:00-18:00(最終入館 17:30)
金/土/祝前日 10:00-19:00(最終入館 18:30)