「線のアート」で知られるキース・ヘリングが、なぜ彫刻という表現手法に挑んだのか。 その経緯を辿る「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」展

2025/10/18
by 遠藤 友香

Photo: Tseng Kwong Chi ©Muna Tseng Dance Projects Inc Art: ©Keith Haring Foundation

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All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


山梨県北杜市にある中村キース・ヘリング美術館では、2026年5月17日(日)まで、キース・ヘリングの没後35年を記念し、彫刻作品に焦点を当てる展覧会「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」を開催中です。

本館が新たに収蔵した全長5メートル超の彫刻《無題(アーチ状の黄色いフィギュア)》を中心に、本館所蔵の全13点の彫刻作品を一挙公開する本展は、「線のアート」で知られるヘリングがなぜ彫刻という表現手法に取り組んだのか、その経緯を辿る本館初の試みとなっています。

1980年代のアメリカ美術を代表する存在であるヘリングは、人や犬といったモチーフを輪郭線のみで描く独自のスタイルで知られています。1979年、地元ペンシルベニア州からニューヨークに移住した直後から、地下鉄構内の広告板にチョークで描く「サブウェイ・ドローイング」を開始。親しみやすさと強烈なインパクトを併せ持つ描線により、一躍国際的な注目を集めるようになりました。

ヘリングは生涯を通じて「誰にでも届く視覚言語」の可能性を追求しました。彫刻はその到達点のひとつであり、線が自立し、永続的な存在感を持つ表現となりました。彼は1988年のインタビューで次のように語っています。

「絵画というものは、ある程度まで、依然として素材の幻想です。でも、イメージを切り出した瞬間、それは現実のものになります。もし崩落すれば、人を殺すかもしれません。そうした力は絵画にはありません。(中略)それは恒久的で、実在する感覚を持ち続けます。私が生きているよりも、はるかに長く存在し続けることでしょう。」

ヘリングは作品の永続性を「不死性(immortality)」と呼び、制作行為そのものを、自らの存在を未来へ残す手段として捉えていました。

1985年より取り組み始めた彫刻作品は、絵画表現とは異なる公共性と永続性に対する信念に基づいて制作されました。鋼鉄やアルミニウムを用いて立体化された線は、都市景観や自然の風景に溶け込みながら、社会とアート、また人と人とをつなぐ立体表現となりました。

本展では、展示室内および屋外空間に彫刻作品を展示し、時間帯や天候によって変化する光の中で、生命力あふれる造形表現を体感することができます。


本展のみどころ

1. 彫刻家としてのキース・ヘリングを探る

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トニー・シャフラジ・ギャラリーとレオ・キャステリ・ギャラリーで同時に開催された個展のポスター、1985年 All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.


ヘリングは、1985年、米国コネチカット州のリッピンコット鋳造所で初めて彫刻制作に挑みました。ギャラリストのトニー・シャフラジから「君のアルファベットを風景に置いてみたらどうだ」という提案を受け、自身の描いてきた人物や動物のモチーフを三次元化し、空間に拡張させる新たな表現を開拓します。

その後ドイツでも彫刻を制作し、1987年には国際芸術祭「ミュンスター彫刻プロジェクト」へ出品。鋼鉄やアルミニウムによる彼の彫刻は、都市景観や自然風景の中に生命感を宿し、人々の体験の場を創出しました。

本展では、新たに収蔵した全長5メートルを超える大型作品《無題(アーチ状の黄色いフィギュア)》をはじめ、全13点の彫刻作品を展示。ヘリングが彫刻を通して追求した公共性と永続性、そして生命へのまなざしを体感可能です。


2. 蛍光塗料による作品の期間限定ライトアップ

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2018年のインスタレーションの様子 All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.


1983年に蛍光塗料を用いて制作されたペインティング《無題》および版画作品《無題》を、期間限定でブラックライトのもとでの特別展示を行います。本館では約5年ぶりとなる本作品のライトアップ展示は、会期中の毎週土曜日・日曜日および祝日の13:00〜14:00に行います。80年代ニューヨークのサイケデリックな空気を想起させる幻想的な光の中で、ヘリングの作品世界をご堪能ください。


3. 会場限定ブックレットを販売

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「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」展ブックレット 

All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection.

ページ数:24ページ サイズ:A5 価格:500円(税込)

販売期間:本展会期中(2025年6月7[土]ー2026年5月17日[日])

販売場所:中村キース・ヘリング美術館 受付


本展では、展示作品の理解をさらに深めてもらうため、会場限定ブックレットを販売しています。このブックレットには、本展に出品される約80点の作品および資料から厳選された16点の作品を掲載。ヘリング自身の言葉と書き下ろしの作品解説を通じて、彼の造形表現に込められた美意識や哲学に迫ります。

表紙には、1983年に制作された蛍光塗料を用いた《無題》を使用。躍動的な線のエネルギーを感じさせるデザインが、ブックレット全体の世界観を象徴しています。ヘリングの作品に触れ、より深くその魅力を知るための一冊を、ぜひこの機会にお手に取ってご覧ください。


以上、「線のアート」で知られるキース・ヘリングの彫刻という表現手法についての理解が深まる「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」展についてご紹介しました。ぜひ、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。


「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」

会期:2025年6月7日(土)ー 2026年5月17日(日)

会場:中村キース・ヘリング美術館

山梨県北杜市小淵沢町10249-7

開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)

休館日:定期休館日なし

※臨時休館についてはウェブサイトをご確認ください。

観覧料:大人:1,500円 /16歳以上の学生:800円/ 障がい者手帳をお持ちの方:600円

15歳以下:無料 

※各種割引の適用には身分証明書のご提示が必要です。

観覧券購入所:美術館受付のみで販売

お問い合わせ:https://www.nakamura-haring.com/contact

現代アートと史跡が交差する「アートサイト名古屋城 2025 結構のテクトニクス」

2025/10/18
by 遠藤 友香

「アートサイト名古屋城2024」展示風景 撮影: ToLoLo Studio


執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


国内屈指の城郭として国の特別史跡に指定されている「名古屋城」。この度、名古屋城において2025年10月19日(日)まで、現代アートと史跡が交差する「アートサイト名古屋城 2025 結構のテクトニクス」を開催中です。

本展は、地域の新たな「文化創造の場」へと開き、創造的に活用することを目指して、2023年にスタートし、今年で3回目を迎えるアートプロジェクト。アーティストが名古屋城の歴史、文化、地理などをリサーチし、ここでしか生まれない鑑賞体験を創出しています。

以下、本プロジェクトキュレーターの服部浩之氏の言葉をご紹介します。


「アートサイト名古屋城」では、名古屋城が取り組んでいる「保存・活用」に着目し企画を進めてきました。2023年には「保存」活動に着目し「想像の復元」というテーマのもと、名古屋城の復元作業に着想を得た作品群を展開し、2024年には「活用」に力点を置き旅の達人・宮本常一の「あるくみるきく」を出発点として、江戸時代から現代まで多彩なアーティストによる旅の表現を紹介し、名古屋城ならではの現代アート展を実施してきました。

3回目となる 2025年は再び「保存」に注目し、400年続く名古屋城を形成する素材、築城の技術、そして長年の継承から学ぶことで、新たな創造を導くことを提案します。素材・構造・技術の関係性を、美学・文化的側面から捉える構造の表現をテクトニクスといい、積み上げた礎石の上に木造建築物がのる日本の城郭はまさに独自のテクトニクスの賜物と言えるでしょう。また、善美を尽くして物を作ることを「結構」といい、アーティストの創作活動はまさに結構なのです。

絵画や彫刻という形式にとどまらない現代アートの作品には、多種多様な素材が用いられています。いわゆる美術とは縁がなさそうな、さまざまな技術が投入され、アーティストたちは歴史化された過去の表現を継承することで新たな作品を生み出してきました。

「結構のテクトニクス」と名付けられた本プロジェクトでは、最善を尽くして制作された芸術作品(= 結構)の根本的な構造表現の美(=テクトニクス)を堪能いただける場を生み出します。フレスコ画を中心に古典から現代まで様々な描画技法を探求してきたアーティストの川田知志が本丸御殿障壁画をモチーフに、大規模な屋外作品を展開する予定です。

9日間という限られた時間のなかで、制作プロセス、完成された作品、そこで起こるイベント、そして作品が別のかたちへと姿を変えるまでをお楽しみください。


次に、本展のみどころをご紹介。

1/1スケールの本丸御殿が御深井丸(おふけまる)に浮かび上がる
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撮影: ToLoLo Studio

これまでフレスコ技法を軸に、壁画の制作・解体・移設を行ってきた川田知志氏は、本丸御殿の障壁画に着目しました。本丸御殿の障壁画は、1945 年の名古屋空襲で焼失を免れた襖絵や天井絵などが重要文化財に指定され、大切に保管されています。また、それらを復元模写することで、後世へ継承する取り組みも行われています。

川田氏はその中でも、空襲で失われた「壁貼絵」 に焦点を当て、当時描かれたモチーフを独自の解釈で描き直します。そして、フレスコ画のストラッポ(引き剥がし)技法を用い、名古屋城の北西に位置する広大な御深井丸の地形に沿って、本丸御殿を 1/1スケールで写しとり展開した空間に「壁貼絵」を配置します。さらに、本丸御殿を支える「礎石」は、かつて御深井丸の北側(今の名城公園北園を中心とする二之丸北部の場所)にあった下御深井御庭(したおふけおにわ)で焼かれていた御深井焼(おふけやき) に倣った陶板へと置き換えられます。

「壁貼絵」と「礎石」をたどることで、素材や構造、技術をふまえた意匠の美しさや文化的な意味に光を当て る<テクトニクス>の視点から、本丸御殿を想像の中に立ち上がらせます。名古屋城の自然環境と歴史的背景を併せもつ御深井丸という特別な場に創出する大規模なインスタレーションをぜひご覧ください。


作品/名古屋城を深めるためのコミュニケーションプログラム「ひろば KEKKO」
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「結構のテクトニクス」制作風景(2025) ©Satoshi Kawata

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「結構のテクトニクス」プランスケッチ(2025) ©Satoshi Kawata


テーマ「結構のテクトニクス」を紐解く手がかりとして、川田知志氏へのインタビュー映像の展示やトークイベント、参加者が手を動かしてものづくりを行う工作ワークショップなどを企画します。

また、「アートサイト名古屋城」の初回から山城大督が継続して行っている、城内に自生する「カヤの木」をモチーフに〈香り〉を巡るプロジェクトでは、蒸留イベントやトークイベントも開催します。秋の心地よい空の下で、学びを深めるラーニング体験をお楽しみください。

10/18(土)
13:30~15:30 トーク 3「樹木医から診る名古屋城のカヤの木 2025(精油蒸留の実演付き)」
出演:寺本正保(岩間造園株式会社 取締役 営業部長、樹木医)
聞き手:山城大督(コミュニケーションプログラムディレクター)

10/19(日)
14:00~15:00 パフォーマンス「サウンドのテクトニクス」※ゲスト調整中

【WORKSHOP】
「KEKKO なハンカチ」
作品を鑑賞したあとは手を動かしてみよう!カラフルな色を配置してオリジナルのハンカチがつくれます。(有料・毎日開催・受付 10:30~15:30)

【CAFE&SHOP】
御深井丸に飲み物やオリジナルグッズを取り扱う小さなショップをオープン。


川田知志(かわた・さとし)プロフィール

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川田知志の制作風景 撮影:福永一夫 提供:東京都現代美術館  (c)Satoshi Kawata 

川田知志(かわた・さとし)/2013 年京都市立芸術大学大学院絵画専攻修了。京都府在住。

時代ごとに変化する建築と空間芸術の関わりを、フレスコ技法を軸にした壁画の制作、解体、移設により可視化する作品制作を行なう。主な個展に「築土構木」京都市京セラ美術館ザ・トライアングル(2024)、「彼方からの手紙」アートコートギャラリー(2022、大阪)。主なグループ展に「MOT アニュアル 2024 こうふくのしま」東京都現代美術館(2024)、「ホモ・ファーベルの断片―人とものづくりの未来―」愛知県陶磁美術館(2022)。主な受賞歴に京都府文化奨励賞(2025)、第 2 回絹谷幸二賞大賞(2025)。


■「アートサイト名古屋城 2025 ART SITE in NAGOYA CASTLE
結構のテクトニクス Exquisite Tectonics」

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「アートサイト名古屋城2024」ナイトミュージアム 撮影: fujico


アーティスト|川田知志 Kawata Satoshi
キュレーター|服部浩之 Hattori Hiroyuki
会場|名古屋城 御深井丸 Nagoya Castle Ofukemaru
会期|2025年10月11日(土)ー 10月19日(日)
開園時間|10月11日(土)ー 17日金)9:00 ̶ 19:30(閉門 20:00)
10月18日(土)・19日(日)9:00 ̶ 16:30(閉門 17:00)
作品観覧時間|10月11日(土)ー 17日(金)10:00 ̶ 19:30
10月18日(土)・19日(日)10:00 ̶ 16:30
*西の丸御蔵城宝館への入場は16:00 まで
*本丸御殿への入場は19:00 まで、17(金)-19(日)のみ16:00 まで
*天守閣には現在入場できません
観覧料|大人:500 円 中学生以下:無料
*10/18(土),19(日)は名古屋まつりのため無料開放
*名古屋市内高齢者(敬老手帳持参の方):100 円
*障害者手帳をご提示の方:無料(付き添い 2 名まで)
*名古屋城の観覧料で「アートサイト名古屋城」をご覧いただけます
ウェブサイト|https://nagoyajo.art/

既成概念にとらわれない「⼈間の存在」への寡黙で奥深いまなざし。伊藤慶二展 「沈黙と空間」

2025/10/18
by 遠藤 友香

場 Place 1993 ceramic h.14.5x w. 43.3  x d.33.5cm ©Keiji Ito photo by Katsuhiko Kodera


執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


1996年に東京都江東区佐賀町に開廊し、2016年より六本木に拠点を移した「小山登美夫ギャラリー六本木」。開廊当初から海外アートフェアに積極的に参加し、日本の同世代アーティストを国内外に発信してきました。日本における現代アートの基盤となる潮流を創出したことで知られています。



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ストーリー Story 2005 ceramic 15.5 x 32.5 x42.5 cm ©Keiji Ito photo by Katsuhiko Kodera


この度、「小山登美夫ギャラリー六本木」にて、伊藤慶二展「土の人「沈黙と空間」が、2025年10月15日(水)~11月15日(土)まで開催中です。

今年卒寿(90歳のお祝いのこと)を迎えた、アーティスト・伊藤慶⼆(1935-)。陶、油彩、⽊炭、インスタレーション、コラージュなど、様々な素材、手法を既成概念にとらわれず⾃由に扱い、「⼈間とはいかなる存在か」という本質的な追求を作品上で表現。

そこには、伊藤氏独自の鋭敏な感性と幅広い視点が影響しています。幼少期聞いた戦争の惨状が心に刻まれたことからの祈りへの想い、武蔵野美術学校(現、武蔵野美術大学)で油画を学び、モディリアーニ、ピカソや、明日香の巨大石造物、飛鳥大仏や薬師寺講堂の廃仏などの東西美術への興味、デッサンの重要性を説くその視座は、新たな作品世界として展開される基となりました。

また、岐⾩県陶磁器試験場に籍を置き、陶磁器デザイナーでありクラフト運動の指導者の⽇根野作三との出会いに強い影響を受けます。そこで、平⾯での意匠のみでは実際の⽴体とのつながりに限界を感じたのが、⾃らやきもの制作を⼿がけるきっかけとなったといいます。

伊藤氏の制作に対して、豊田市美術館長の高橋秀治氏は次のように述べています。

「粘土を手で感じて形作るというより、視覚的にそのプランを想定されたうえで、つまり極端に言えば、二次元でものを考え、それを組み合わせて三次元の形を構成しているように感じるのである。これは優劣の問題でなく、その作家が持っているテイストのようなものだと思うのである。」

伊藤氏の寡黙で奥深いまなざし、力強い作品群は長年高い評価を得てきましたが、90歳の現在でも精力的に制作を続け、国内外でますます意欲的に発表し続けています。今年6月から9月に岐阜県現代陶芸美術館で開催された「伊藤慶二 祈・これから」では、今までの足跡と創作の現在地を表し、大きな評判を呼びました。

ぜひ、伊藤氏の持つ、既成概念にとらわれない「⼈間の存在」への寡黙で奥深いまなざしを感じ取りに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。


■伊藤慶二展「沈黙と空間」

会期:2025年10月15日 (水)ー11月15日(土)

会場:小山登美夫ギャラリー六本木

東京都港区六本木6-5-24 complex665  2F

時間:11:00 - 19:00 (日月祝休 入場無料)

海や宇宙の記憶を呼び覚ます「青」と、色彩の次元から解き放たれ超越的な広がりへと導く「空」に魅せられた、廣瀬智央展「From Sky to Sky」

2025/10/18
by 遠藤 友香

Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 25.5 x 33.0 cm ©︎Satoshi Hirose

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Installation view ©︎Satoshi Hirose


執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


群馬県前橋市のアートスポット「まえばしガレリア」内にある「小山登美夫ギャラリー前橋」にて、廣瀬智央展「From Sky to Sky」が、2025年10月4日(土)から11月16日(日)まで開催中です。

2013年、前橋市に誕生した現代美術館アーツ前橋の開館を機に、コミッションワークとして生まれたのが、美術作家・廣瀬智央氏による屋上の看板作品「遠い空、近い空」です。この作品は、前橋市の母子支援施設に暮らす子どもたちと、半年間にわたり空の写真を交換し合う対話のなかから生まれました。そこから前橋との深い縁が始まり、やがてグループ展「表現の森」(2018)への参加や、個展「地球はレモンのように青い」(2020)の開催へとつながっていきます。

現在も19年間にわたり続ける母子支援施設とのワークショップのため、廣瀬氏は毎年前橋を訪れて活動を重ねています。今回の小山登美夫ギャラリー前橋(まえばしガレリア2)での展覧会では、原点へと立ち戻り、前橋とのつながりを結び直しながら、廣瀬氏が探究してきた「空」と「青」を軸に、未発表作と新作を中心とした展示を行っています。

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Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 31.1 x 22.5 cm ©︎Satoshi Hirose


1991年、日本からイタリアへ渡った廣瀬氏は、はじめて空に向けてシャッターを切った瞬間に「空」の作品シリーズを歩み出しました。それ以来30年以上にわたり、「青」 と「空」をめぐる長い旅を続けています。それは単なる色や風景の再現ではなく、感覚と存在を深く開いていくための実践にほかなりません。 

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Untitled 2024 Acrylic color on paper and cardboard 31.1 x 22.5 cm ©︎Satoshi Hirose


「青」は、顔料や紙の表面に確かに息づきながら、同時に手の届かない深遠へと私たちを誘います。海や宇宙の記憶を呼び覚まし、沈潜と解放を一度に経験させる色。その青を通して、有限の身体が無限の広がりへと触れる瞬間を描き出そうとしてきたといいます。

 「空」は、廣瀬氏が撮影し、描き、構成するイメージのなかに現れます。しかしそれは単なる風景ではなく、私たちを常に包み、同時に通り抜けていく場そのものです。そこでは個と個が交わり、世界と私が境を失う。仏教の「空性」 が示すように、すべての存在は相互依存の網の目のうちに立ち現れます。「青」と「空」は呼応し合い、青は空の深みを物質としてここに呼び寄せ、空は青を色彩の次元から解き放ち、超越的な広がりへと導く。両者は、物質と非物質、有限と無限、想像と現実を架橋する通路なのです。 

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Untitled (Into the deep sleep) 2024 marble, wool, plastic, iron ball, painth.3.2 x w.15.5 x d.15.5 ©︎Satoshi Hirose


この展覧会では、青と空が交差する瞬間、有限と無限、可視と不可視が触れ合い、観る人が青に包まれ、空に開かれながら、自らの身体と感覚を越境していく経験の共有を願っているとのこと。それは廣瀬氏自身が作品を通じて幾度となく求めてきた、「世界と新たにつながる方法」でもあります。

展覧会タイトル「From Sky to Sky(空から空へ)」は、2001年に刊行した空の写真集『Viaggio』に寄せられた、美術批評家アンジェロ・カパッソ氏による深遠なエッセイ の題名です。25年ぶりに廣瀬氏はその文章を読み返し、彼の歩みや思索をすでに見事に言い当てていたことに気づき、改めて深い共感を覚えました。その響きこそ、この展覧会に ふさわしいものと考え、タイトルとして掲げるに至ったそうです。


廣瀬氏は、作品のコンセプトに関して、以下のように語っています。


『私にとって「青」と「空」は、単なる主題ではなく、存在の根源に触れようとする行為であり、またアートを通して生を思考するための原点です。私は長いあいだ制作を続ける中で、繰り返しこの二つのイメージに立ち戻ってきました。青と空をめぐる往還こそが、私にとって作品を生み出す呼吸そのものであるからです。  

青は、絵具や写真の中で物質として立ち現れる一方で、重ねるごとに「不可視の深み」へと変わっていきます。その瞬間、青は単なる色ではなく、触れられない存在の気配を帯び始めます。そこには有限な身体を持つ私が、無限に触れようとする試みがあります。スピノザ的に言えば、それは「延長」と「思惟」とが並行する運動であり、 青を描くことは、私の身体と精神が自然全体と共鳴するひとつの様態となることです。  

空もまた、私の制作の中心にあります。空は背景や風景ではなく、私たちを包み込み、呼吸とともに生成し続ける「場」そのものです。ドローイングや写真のなかに刻まれる空は、固定された形象ではなく、ベルクソンが語る「持続」のように、流れ、変化し、絶えず生成する時間の運動体です。空を見つめるとき、私はその瞬間が、過去と未来を抱え込む「いま」であることを感じます。  

この「空」という経験は、仏教の空性の思想とも響き合っています。あらゆる存在は固定的な実体としてあるのではなく、関係性と縁起によって成り立つ。空を見ることは、実体を掴むのではなく、むしろ「存在が関係性の網の目として現れること」を見ることです。私にとって空の表現は、その「無」による否定ではなく、「縁起的な開け」による肯定なのです。青や空のイメージは、私の作品において、その関係性の網の目を感覚的に可視化するひとつの試みです。  

この探究は、美術史的な文脈とも複雑に交差しています。サイ・トゥオンブリーが地中海の光の中で西洋美術史の形式的な重さを「軽やかに戯れる線」として再生し、人間の精神に触れようとしたように、私もまた「形式を超える詩的実践」として異なる文化や素材を遊戯的に結び直し、詩的な場を創出しようとしています。フォンタナの「切り口」による空間への開口は、私にとって「空」への入り口を思わせるものでした。加えて、若冲や北斎に見られる群青の表現は、色彩が再現を超えて精神性を帯び、遊戯的な広がりを示しており、私の「青」と「空」は西洋と東洋の双方の伝統を横断しています。 

  「青」と「空」は互いに呼び合い、響き合い、往還を繰り返します。青は空を呼び寄せ、空は青を無限へと解き放つ。その往還のただなかに、私は有限な存在として身を置きつつも、哲学的にも美学的にも「生成の運動」を受肉させようとしているのです。

私は、絵画やドローイングにおいて、青を重ねる行為を通じて、有限な身体が無限に触れようとする瞬間を探り続けています。また、空を撮影し描き写すことで、時間と呼吸の痕跡を可視化しようとしています。こうした営みは、美術史の長い系譜に連なりながらも、私自身の日常から始まるものです。つまり私は、歴史の厚みを背負いながら、同時に最も個人的で具体的な瞬間から「青」と「空」を立ち上げているのです。  

私にとって「青」と「空」とは、色であり、風景であり、哲学であり、呼吸であり、そして生きることそのものです。作品を通じて観る人に開かれるのは、私だけの青や空ではなく、それぞれの存在が抱える「無限への入口」なのかもしれません』。


■廣瀬智央展「From Sky to Sky」
会場:小山登美夫ギャラリー前橋

群馬県前橋市千代田町5丁目9-1(まえばしガレリア内 Gallery 2)

会期:2025年10月4日(土)-11月16日(日) 

11:00 - 19:00  月火祝 休

入場無料

印象派の巨匠クロード・モネ晩年の大作が豊田市美術館に集結した! 究極のモネ展「モネ 睡蓮のとき」

2025/10/17
by 遠藤 友香

クロード・モネ《睡蓮》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


印象派を代表する画家の一人として知られるクロード・モネ(1840-1926)。光と色彩をとらえる鋭敏な眼によって、自然の移ろいを画布にとどめることに努めました。しかし後年になるにつれ、その芸術はより抽象的、かつ内的なイメージへと変容してくことになります。

モネの晩年は、最愛の家族の死や自身の眼の病、第一次世界大戦といった多くの困難に直面した時代でもありました。そのような中で彼の最たる創造の源となったのが、ノルマンディー地方の小村 ジヴェルニーの邸宅を買い取り、その庭に造られた睡蓮の池に、周囲の木々や空、光が一体と映し出される水面でした。この主題を描いた巨大なカンヴァスによって部屋の壁面を覆いつくす大装飾画の構想が、最期に至るまでモネの心を占めることになります。

豊田市美術館にて、2025年6月21日(土)~9月15日(月・祝) の間に開催されていた「モネ 睡蓮のとき」。本展の中心となったのは、この時期に描かれた大画面の〈睡蓮〉の数々です。会場には、パリのマルモッタン・モネ美術館のコレクションから日本初公開となる重要作品を含んだおよそ50点と、日本国内の美術館等が所蔵する作品が並びました。日本では過去最大規模となる〈睡蓮〉が集う貴重な機会となりました。 


第1章 セーヌ河から睡蓮の池へ

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クロード・モネ《睡蓮、夕暮れの効果》1897年 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB

1890年、50歳になったモネは、7年前に移り住んだジヴェルニーの土地と家を買い取り、これを終の棲家とします。それはまた、彼が同一のモティーフを異なる時間や天候のもと繰り返し描く、連作の手法を確立した時期でもありました。

やがて画家の代名詞ともなるジヴェルニーの自邸の庭を描くことは、すぐに作品へと結実したわけではありません。1890年代後半に主要なモティーフとなったのは、モネが3年連続で訪れたロンドンの風景や、彼の画業を通じて、つねに最も身近な存在であったセーヌ河の風景でした。

とりわけ、この時期に描かれたセーヌ河の水辺の風景は、しばしば水面の反映がかたちづくる鏡像に主眼が置かれており、のちの〈睡蓮〉を予見させます。

1893年、モネは自邸の庭の土地を新たに買い足し、セーヌ河の支流から水を引いて睡蓮の池を造成します。この“水の庭”が初めて作品のモティーフとして取り上げられたのは、それから2年後のことでした。

さらに、池の拡張工事を経た1903年から1909年までに手掛けられたおよそ80点におよぶ〈睡蓮〉連作において、画家のまなざしは急速にその水面へと接近します。周囲の実景の描写はしだいに影をひそめ、ついには水平線のない水面とそこに映し出される反映像、そして光と大気が織りなす効果のみが画面を占めるようになりました。

その後、セーヌ河を流れる水は睡蓮の池へと姿を変え、晩年のモネにとって最大の創造の源となっていきました。


 第4章 交響する色彩

モネの絵画は、その色彩が生む繊細なハーモニーゆえに、同時代からしばしば音楽にたとえられました。1921年に洋画家の和田英作が松方幸次郎らを伴いジヴェルニーのアトリエを訪れた際、〈睡蓮〉の近作をして「色彩の交響曲」と評したところ、モネが「その通り」と答えたという逸話も知られています。

しかし、1908年ごろからしだいに顕在化しはじめた白内障の症状は、晩年の画家の色覚を少なからず変容させることになりました。悪化の一途をたどる視力に絶えず苦痛を訴えながらも、モネは1923年まで手術を拒み、絵具の色の表示やパレット上の場所に頼って制作を行うことさえあったといいます。

1918年の終わりごろから最晩年には、死の間際まで続いた大装飾画の制作と並行して、複数の独立した小型連作が手掛けられました。モティーフとなったのは、“水の庭”の池に架かる日本風の太鼓橋や枝垂れ柳、“花の庭”のばらのアーチがある小道などです。

これらの作品は、不確かな視覚に苛まれる中にあって衰えることのない画家の制作衝動と、経験から培われた色彩感覚に基づく実験精神を今日に伝えています。画家の身振りを刻印する激しい筆遣いと鮮烈な色彩は、のちに1950年代にアメリカで台頭した抽象表現主義の先駆に位置づけられ、モネ晩年の芸術の再評価を促すことになります。 

 エピローグ さかさまの世界

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クロード・モネ《睡蓮》1916-1919年頃 油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ
© musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB

「大勢の人々が苦しみ、命を落としている中で、形や色の些細なことを考えるのは恥ずべきかもしれません。しかし、私にとってそうすることがこの悲しみから逃れる唯一の方法なのです。」大装飾画の制作が開始された1914年に、モネはこう書いています。

折しもそれは、第一次世界大戦という未曾有の戦争が幕を開けた同年のことでした。1918年に休戦を迎えると、時の首相にして旧友のジョルジュ・クレマンソーに対し、戦勝記念として大装飾画の一部を国家へ寄贈することを申し出ます。その画面に描かれた枝垂れ柳の木は、涙を流すかのような姿から、悲しみや服喪を象徴するモティーフでもありました。

モネがこの装飾画の構想において当初から意図していたのは、始まりも終わりもない無限の水の広がりに鑑賞者が包まれ、安らかに瞑想することができる空間でした。それはルネサンス以来、西洋絵画の原則をなした遠近法(透視図法)による空間把握と、その根底にある人間中心主義的な世界観に対する挑戦であったとも言い換えられるでしょう。

画家を最期まで励まし続け、その死後1927年の大装飾画の実現に導いた立役者であるクレマンソーは、木々や雲や花々が一体となってたゆたう睡蓮の池の水面に、森羅万象が凝縮された「さかさまの世界」を見出します。モネの〈睡蓮〉は、画家が生きた苦難の時代から今日にいたるまで、人々が永遠の世界へと想いを馳せる、心のよりどころとなりました。


■「モネ 睡蓮のとき」

会期:2025年6月21日(土)~9月15日(月・祝) 

休館日:月曜日(9/15は開館) 

開館時間:午前10時~午後5時30分(いずれも入場は閉館の30分前まで) 

会場:豊田市美術館
愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1

調香とフレグランスの魅力を多角的に体験できる特別展「調香ミュージアム~香りで紡ぐ、秘密の世界」が、2026年1月31日まで開催中

2025/10/17
by 遠藤 友香
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執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


公益社団法人 日本アロマ環境協会(略称:AEAJ)は、調香とフレグランスの魅力を多角的に体験できる特別展「調香ミュージアム~香りで紡ぐ、秘密の世界」を、2026年1月31日(土)まで「AEAJ グリーンテラス」にて開催中です。

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AEAJ グリーンテラスは、世界大規模のアロマテラピー団体である「公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)」が、アロマテラピーの魅力をより多くの方々に体感してもらい、香り豊かな「アロマ環境」を守るための情報発信を行う基幹施設として、2023年2月にオープンしました。

植物の恵みである精油がもつ力と可能性を、さまざまなコンテンツを通してご紹介。国産ヒノキの組積構造が印象的な空間は、建築家・隈研吾氏によるもの。ここに集う人々の健康と快適性、そして未来の地球環境のため、CO₂の削減や資源の循環、生物多様性などにも配慮しています。2024年1月に、ウッドシティ TOKYO モデル建築賞「最優秀賞」を受賞しました。

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そんなAEAJ グリーンテラスにて開催されている本展では、香り創りに関する様々な体験を通じて調香への理解を深めるとともに、香りが紡ぎだす鮮やかな世界に足を踏み入れることができます。

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展示では、歴史に残る名香や、平安時代の香り文化、香りを組み合わせることによって生まれる魅力などを実際に体験しながら楽しむことができます。また、自分好みの香りを創出できる「調香 Bar」や、調香師による調香レッスンなどのワークショップも実施されています。

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■展示コンテンツ

1.香りの歴史

香料の発展と香りの文化、フレグランスの歴史をたどります。

2.レジェンドと呼ばれる名香

代表的な 7つの香調が誕生するきっかけとなった「名香」の香りを体験できます。

3.平安の香り文化 ー 千年の時を超えて

平安貴族たちのステイタスでもあった薫物の中でも、特に人気だった香りの処方を再現して展示。
当時の香りの文化を体験することができます。

4.個性的な香りの魅力

単独では使用用途が限られるような個性的な香りが、他の香りと組み合わせることで発揮する力と、
調香の奥深さを実体験できます。

5.調香 Bar

3種の香調をベースに自分だけのフレグランスを作れるワークショップ(有料)。会期中の火・水曜に限定開催しています。

その他、天然精油のみで創られたフレグランスの展示や、調香に関連した各種セミナーなども行っています。


調香とフレグランスの魅力を多角的に体験できる又とない機会。ぜひ。会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。


「調香ミュージアム~香りで紡ぐ、秘密の世界」

【会期】2025年8月5日(火)~2026年1月31日(土)
【開館時間】13:00~18:00
【休館日】日曜・月曜・祝日 ※その他 AEAJ グリーンテラスの閉館日に準ずる。
【会場】AEAJ グリーンテラス 1F
東京都渋谷区神宮前 6-34-24
JR 原宿駅東口より徒歩 7 分
東京メトロ明治神宮前駅 7 番出口より徒歩 3 分
【入館料】大人:500 円(税込)
*AEAJ 会員、高校生・18 歳未満、障害者手帳をお持ちの方は無料
【予約方法】https://reserva.be/aeajgreente...
【主催】公益社団法人 日本アロマ環境協会(AEAJ)
【後援】フランス貿易投資庁―ビジネスフランス
【特別協力】日本調香技術普及協会
【協力】グラフィック社、コティジャパン、サンタ・マリア・ノヴェッラ・ジャパン、
日本香堂、NOSE SHOP、柳屋本店

中村キース・ヘリング美術館を設計した建築家・北川原温の「宇宙」に迫る体験ができる「北川原温 時間と空間の星座」展

2025/10/17
by 遠藤 友香

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《ヴィラ・マラルメ》コンセプトモデル、1991 Photo by ©Kenya Chiba

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


山梨県・小淵沢にある中村キース・ヘリング美術館では、本館を設計した建築家・北川原温氏の模型やドローイングなどの資料を通じて建築家独自の美学と設計哲学を紹介する、美術館における初個展「北川原温 時間と空間の星座」展を2026年5月17日(日)まで開催中です。

北川原氏は、渋谷の映画館ライズ(1986)で都市の虚構性を建築に表現し、その後も独創的な建築を生み出し続け注目を集めてきました。 本展では北川原氏の創作のソースを「星」、建築を「星座」に見立て、その方法論や生成の過程を探ります。

中村キース・ヘリング美術館を構成する6つの要素「さかしまの円錐」「闇」「ジャイアントフレーム」「自然」「希望」「衝突する壁」を軸に、模型や資料を通じて建築のプロセスを紹介。さらに、隣接するホテルキーフォレスト北杜では五感を通じた体験型の展示、JR小淵沢駅では八ヶ岳山麓のプロジェクトと地域の魅力を紹介します。本展を通じて、中村キース・ヘリング美術館をはじめとした北川原建築を歩むことにより北川原氏の「宇宙」に迫る体験を提供しています。

「北川原温 時間と空間の星座」展 3つの見どころ

1. 建築家・北川原温の「内宇宙」を未公開資料とともに体験するインスタレーション

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《マラルメの庭と家》(部分)、制作年不詳


1978年の「ナジャの家」で建築家としてデビューし、1986年の「ライズ」で国際的な地位を得た北川原温氏は、ポストモダンの建築家の1人として知られてきました。北川原氏はデビュー以来、一貫して個人の作家性を重視し、自身の創作について固定化された方法論を語らず、それぞれの建築にもたらされる物語性を重視して創作を続けてきました。

本展では、まるで星空の中に物語を見出し星を繋いで星座を描くように生み出されていく北川原氏の建築のプロセスを、記憶や文学、詩、哲学、自然科学、美術などさまざまな要素から物語を生み出すように建築を生み出す北川原氏の独自性を探求します。

中村キース・ヘリング美術館の展示室では、これまで公開されることのなかった幼少期に集めた蝶の標本、長年にわたって描き続けたドローイング、建築模型、影響を受けた書籍などを、北川原氏が影響を受けたステファヌ・マラルメの散文詩のようにひとつの「空間」の中に漂うインスタレーションとして表現します。

中村キース・ヘリング美術館という「星座」を描く北川原氏の思考の軌跡が浮かび上がり、北川原氏自身が旅する「内宇宙」を体感し、この空間でしか体験できないイメージを結ぶことができるでしょう。


2. 中村キース・ヘリング美術館が生み出された軌跡を、初公開資料を含むドローイングや貴重な手稿の数々によって紐解く

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中村キース・ヘリング美術館ドローイング、2000年代


中村キース・ヘリング美術館は、2004年から3年をかけて館長・中村和男氏との対話の中で大きく姿を変えながら生み出されました。本展では、北川原温氏が構想を練る中で描き続けた未公開のドローイングや、インスピレーションを書き溜めたノートの手稿、重ねられるスタディの数々を「時間軸」に沿って紹介します。それらの資料から、美術館が生まれるまでの過程を追体験できます。

どのようにして「星座を描く」ように建築が組み上げられていったのか、構想がどのように形になっていったのか、その思考のプロセスを紐解きます。


3. 北杜市に点在する3つの北川原建築を結び、八ヶ岳南麓における創作活動を辿る

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ホテルキーフォレスト北杜、2015年竣工 Photo by ©Shigeru Ohno

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小淵沢駅舎・駅前広場、2018年竣工 Photo by ©Kenya Chiba


山梨県北杜市は日本有数の自然景観を誇る地であり、建築家・北川原氏の作品が6つ集中する唯一の場所です。それら6つの建築はどれも八ヶ岳の火山地形、豊かな森と水、縄文文化や馬の文化など八ヶ岳南麓の環境と深く結びついており、小淵沢駅周辺を題材に東京藝術大学の学生とプロジェクト制作を行うなど、長年この地域に関わってきた北川原氏が、それらをどのように結びつけて個性が異なる建築を作り上げたのかを3つの建築を通して体感できます。

ホテルキーフォレスト北杜では、小淵沢と関連するプロジェクトの模型や資料、写真家と北川原建築とのコラボレーション作品も展示。また、ホテルロビーと中村ウィスキーサルーンでは、北川原氏が創作のインスピレーションを得ている音楽や香り、味といった日常の身体感覚を体験できる企画を行います。小淵沢駅では、特徴的な窓で八ヶ岳の山岳景観を効果的に見せている交流スペースを会場に、北杜市に点在する北川原建築の魅力を紹介する展示を開催します。


北川原温プロフィール

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北川原温/建築家。1951年長野県千曲市出身、飯田高校から東京芸術大学へ。

グッドデザイン賞金賞を受賞した山梨県の工業団地アリアの都市計画・ランドスケープ・建築のトータルデザイン、3.11東日本大震災で福島県最大の避難場所となった国際コンベンションホール・ビッグパレットふくしまなど、公・民問わず多くの設計に携わる。2019年3月まで母校の東京芸術大学で教鞭を執り、学生達とともに「劇場型都市計画」などの研究に従事。

日本建築学会賞、村野藤吾賞、日本建築大賞、日本芸術院賞、米国建築家協会ジャパンデザイン賞など数々の賞を受賞。模型やドローイングなど27点がパリのポンピドゥーセンター(仏国立近代美術館)に収蔵されている。MET(旧北川原温建築都市研究所)フェロー。東京芸術大学名誉教授。

<中村キース・ヘリング美術館 建築賞受賞歴>

2007 山梨県建築文化賞受賞

2008 アメリカ建築家協会優秀賞受賞、村野藤吾賞受賞

2009 JIA日本建築大賞受賞

2010 日本藝術院賞(建築)受賞

2016 山梨建築文化賞受賞、アメリカン・アーキテクチャー・マスタープライズ(ホスピタリティ部門)金賞受賞


「北川原温 時間と空間の星座」

会期: 2025年6月7日(土)~ 2026年5月17日(日)

会場: 

・中村キース・ヘリング美術館 9:00-17:00(最終入館16:30)

山梨県北杜市小淵沢町10249-7

・ホテルキーフォレスト北杜 

山梨県北杜市小淵沢町10248-1

11:00-17:00 ※一般観覧者は1Fロビーのみ、駐車場は美術館と共通

・JR小淵沢駅2階交流スペース 

山梨県北杜市小淵沢町1024

※駅付近の市営駐車場をご利用ください


中村キース・ヘリング美術館基本情報

住所: 山梨県北杜市小淵沢町10249-7

お問い合わせ: https://www.nakamura-haring.co...

開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)

休館日:定期休館日なし

※臨時休館についてはウェブサイトをご確認ください。

観覧料: 大人:1,500円 / 16歳以上の学生:800円 / 障がい者手帳をお持ちの方:600円

15歳以下:無料

※各種割引の適用には身分証明書のご提示が必要です。

観覧券購入場所:美術館受付のみで販売

https://www.nakamura-haring.co...

小森紀綱×山田康平による2人展「空白の翼廊」が、渋谷区神宮前の「HENKYO」にて開催中

2025/09/06
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


小森紀綱山田康平による2人展「空白の翼廊」が、渋谷区神宮前にあるギャラリー「HENKYO」にて、2025年9月27日(土)まで開催中です。

「翼廊(よくろう)」とは、建築物において鳥の翼のように左右に張り出した部分のこと。日本建築における主な例として、「平等院鳳凰堂」、「平安神宮 神門(応天門)」、「護国神社」などの主要部分に付け加えられています。

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©️Akitsuna Komori.Courtesy of HENKYO

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©️Akitsuna Komori.Courtesy of HENKYO


以下、ステートメントをご紹介します。


■ステートメント

男は彫刻家だった。昔は祖父に憧れて建築家を志していた時期もあったのだが、気づけば彫刻に魅せられていた。

自身の作品に建築に通ずる美意識を見出し、木や石を削り続けて長い年月を過ごしてきた。だが、いつからか男は違和感を抱いていた。作品は何か(或いは誰か)のために作り続けてきたはずだったが、その「何か」が思い出せない。

ある日、男は夢を見た。柱が立ち並び、アーチが交差し、壁が果てしなく続いていた。見上げれば天井はなく、壁には扉も窓もないのだが、どこからともなく光が降り注いでいた。いや、壁ではなかった。それは果てしなく続く書架だった。書架には無数の書物が並び、そのどれもが彼が彫刻のために描き溜めたデッサンや設計図といった記録だった。中には男の知らない記録まで混ざっていた。やがて、一人の通行人が現れ男に尋ねた。

「これは何の記録ですか?」

「わからない。ただ、書き続けている。」

通行人は本を一冊手に取り、ぱらぱらとめくる。

「これは記録ではなく、空白ですね。」

男は答えなかった。

「あなたの仕事は、いつ終わるんです?」

「終わりはない。」

「では、あなたも書架の一部になっていくんですね。」

目が覚めると、男は奇妙な焦燥感に駆られた。何かを作らなければならない。だが何を作るべきか分からない。

ただ、夢の中の世界がどこかに存在するような気がしてならなかった。

六十歳を目前にしたある日、男が丘の上でデッサンをしていると頭上から二羽の鳥が落ちてきた。

いや、鳥ではない。見事な鳥が彫られた石だった。石は男のすぐ目の前にぼてっと落ち、

一方の鳥の片翼は砕けていた。男は頭を上げてみたがそこに広がるのは広大な青空だけだった。


小森 紀綱/Akitsuna Komori

1997年生まれ

諸宗教の宗教的対象や古典絵画のアトリビュート(特定の人物や神々に帰属する対象物)を“シミュレーショニズム” という絵画系譜の中で引用することで形而上学的絵画を制作している。小森の絵画制作は図像解釈や理論構成、宗教倫理などエピステーメから出発しており、絵画の骨組みとなる要素を複雑に張り巡らせ、時にはちぐはぐに入れ替えることでコードを集積させて超現実的な絵画を構築している。異なる宗教や様式をコラージュするように織り交ぜることで事物に内在していた共通項や相違が紡ぎ出されている。主なコレクションに大原美術館(岡山)。

【主な個展】

2024 「文化と文明」HENKYO (東京)

【主なグループ展】

2025 「Drawings」HENKYO(東京)

2024 「Metamorphosis: Japan’s Evolving Society」WKM GALLERY(香港) 

2023 「ART FAIR HENKYO 2023」HENKYO(東京)

2022 「VOCA展 2022」(東京)- 大原美術館賞 -

【主なアートフェア】

2024 「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2024」(福岡)

2023 「ART FAIR ASIA FUKUOKA 2023」(福岡)


山田 康平/Kohei Yamada

1997年大阪生まれ

キャンバスと紙にたっぷりとオイルを染み込ませることから始まる山田の制作は、起点や輪郭となる黒の線をひき、絵の左上には光に見立てている黄色をのせ、それから強く鮮やかな色で一気に画面を覆います。筆を重ねることでキャンバスの表面は更に滑らかに整えられ、面と面がぶつかる場所から浮かび上がる色は強さを増し、何層にも重ねられたレイヤーから山田作品特有の奥行きが絵画空間に生まれます。2020年に武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻を卒業、2022年に京都芸術大学修士課程美術工芸領域油画専攻を修了し、現在は東京を拠点に活動。

【主な個展】

2025 「支える軽さ」隙間(東京)

2025 「Borderline」Arario Galery Seoul(ソウル)

2023 「Strikethrough」タカ・イシイギャラリー(東京)

2022 「それを隠すように」biscuit galery(東京)

2022 「線の入り方」MtK Contemporary Art(京都)

2022 京都岡崎 蔦屋書店ギャラリースペース(京都)

2021 「road」代官山ヒルサイドテラスアネックスA(東京)

【主なグループ展】

2025 「Fluid in Forms」Arario Galery Shanghai(上海)

2024 「Everywhere It Goes」Mai 36 Galerie(チューリッヒ)

2024 「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」東京都現代美術館(東京)

2024 「コレクション展示:新収蔵作品紹介」群馬県立近代美術館(群馬)

2024 「Abstraction (re)creation―20 under 40-」Le Consortium(ディジョン)

2021 「biscuit galery Opening Exhibition II」biscuit galery(東京)

アートフェア「ARTISTS’ FAIR KYOTO」京都文化博物館別館(京都、2021年、2020年)に参加。

主な受賞は、CAF賞(2020年)入選。

子どもから大人まで”ワクワク”が止まらない! 人気絵本作家「ザ・キャビンカンパニー」の関西初大規模個展が、滋賀県立美術館にて開催中

2025/09/05
by 遠藤 友香

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滋賀県立美術館外観(撮影:大竹央祐)


執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


1984 年に滋賀県大津市に開館した「滋賀県立近代美術館」。日本画家の小倉遊亀(滋賀県大津市出身)や染織家の志村ふくみ(滋賀県近江八幡市出身)のコレクションは国内随一を誇っています。

2021年6月に館名から近代が外れてリニューアルオープンした「滋賀県立美術館」。展示室の中で「シーン」と静かにする必要はなく、おしゃべりしながら過ごすことができるので、小さなお子さんがいる方も安心して過ごすことができます。

また、目が見えない、見えづらいなどの理由でサポートや展示解説を希望される場合や、来館にあたっての不安をあらかじめ伝えていただければ、事前の情報提供や当日のサポート希望に可能な範囲で対応してくれるなど、鑑賞者に優しい美術館です。

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(左から)阿部健太朗氏、吉岡紗希氏 2023年 撮影:橋本大


大分県由布市の廃校をアトリエとして、絵本や絵画、立体作品、イラストレーションなど、日々さまざまな作品を生み出している阿部健太朗(1989- )と吉岡紗希(1988- )による二人組のアーティスト「ザ・キャビンカンパニー」による企画展「ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展〈童堂賛歌〉」が、2025年9月7日(日)まで開催中です。

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ザ・キャビンカンパニー『ゆうやけにとけていく』 2023年


2009年のユニット結成以来、40冊以上の絵本を発表し、2024年に『ゆうやけにとけていく』(小学館)で「第71回産経児童出版文化賞産経新聞社賞」、「第29回日本絵本賞大賞」を受賞するなど、高い評価を得ていることで知られています。

2人の活動は絵本の分野にとどまらず、新国立劇場ダンス公演Co.山田うん『オバケッタ』の舞台美術(2021年)を手がけたり、「NHKおかあさんといっしょ(Eテレ)しりたガエルのけけちゃま」のキャラクターデザインと美術制作、歌手あいみょんの「傷と悪魔と恋をした!」ツアーパンフレットの表紙および本文挿絵の制作を担当。さらに、2023年から3年にわたり「こどもの読書週間」ポスターの絵を担当するなど、多方面に活動の場を広げています。

展覧会のタイトル〈童堂賛歌〉とは、本展のためにつくられた言葉です。「飽きることなく何十回でも何時間でもすべり台で遊び続ける、子どもの時間のとらえ方や感覚に象徴される「童」と、本屋や薬局、駄菓子屋などの店名にも使われ、「万物を受け入れる」という意味の「堂」が組み合わされています。

本展では、活動初期から現在までの絵本原画の数々に加え、立体造形、映像作品などを一堂にご紹介。展覧会は7つのテーマの部屋で構成され、まるで空間が大きな1冊の本になったようなしかけが満載です。エネルギーに満ちた、ザ・キャビンカンパニーの世界を身体全体で楽しむことができます。

次に、本展の見どころをご紹介します!

1.「ザ・キャビンカンパニー」関西初の大規模個展は、お子さんと楽しめる!

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ザ・キャビンカンパニー《アノコロの国》 2024年 撮影:吉森慎之介


40冊以上の絵本を発表し、数々の賞を受賞するなど、企業やキャラクターとのコラボレーションも話題となっている「ザ・キャビンカンパニー」。結成から16年目を迎える2人の公立美術館初の巡回大規模個展です。

ザ・キャビンカンパニーの世界を全身で感じられる本展は、お子さんが楽しめること間違いなし! また、大人にとっても刺激的な体験になることでしょう。


2.原画はもちろん、アニメーションに巨大立体造形、さらには会場に廃校(アトリエ)も?!

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ザ・キャビンカンパニー《オボロ屋敷》 2020年 撮影:橋本大


活動初期から現在までの絵本原画の数々に加え、影絵あそびから着想を得た映像作品《オボロ屋敷》、段ボールや板、紙粘土などで作られた、大小様々な立体作品で構成された大型インスタレーションを展示。

さらには、2人の活動拠点である大分県由布市の元廃校のアトリエの様子もご紹介。魅力的な作品が生まれるその背景にも触れることができます。


3.けけちゃまに、あいみょん、ポケモンも! お馴染みのキャラクターや企業とのコラボが多数登場

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ザ・キャビンカンパニー《しりたガエルのけけちゃま》 おかあさんといっしょ (NHK-Eテレ) 2023年 ©NHK


「ザ・キャビンカンパニー」は、これまで様々なアーティストや企業とコラボレーションを行ってきました。NHK-Eテレ『おかあさんといっしょ』に登場する「しりたガエルのけけちゃま」のキャラクターデザインの原画や、ミュージシャン・あいみょんのツアー「傷と悪魔と恋をした!」のパンフレット原画、そして絵本『ポケモンのしま』原画など、貴重なコラボ資料の数々をご覧いただけます。


4.滋賀県立美術館限定! 本展に合わせた新作を披露

展覧会会場の中間地点に位置する「ソファのある部屋」において、本展に合わせた新作を発表します。部屋から見える素敵な日本庭園の風景と、「ザ・キャビンカンパニー」の詩が融合する作品となっています。この機会に本会場でしか観ることのできない作品です。


5.塗り絵などが楽しめるワークショップコーナー

展覧会の最後には、鑑賞者がいつでも参加できるワークショップコーナーを設置。「ザ・キャビンカンパニー」の塗り絵が体験できるほか、絵本の読み語りができる小さなステージなどもあり、展覧会とあわせて楽しむことができます。


■「ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展〈童堂賛歌〉」
会期:2025 年6月21日(土)~9月7日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし祝日の場合には開館し、翌日火曜日休館)
開場時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
会場:滋賀県立美術館 展示室3ほか
観覧料:一般 1,200 円(1,000 円)
高校生・大学生 800 円(600 円)
小学生・中学生 600 円(450 円)
※( )内は 20 名以上の団体料金
※企画展のチケットで展示室1・2で同時開催している常設展も無料で観覧可
※未就学児は無料
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳をお持ちの方とその介護者
は無料

ダウン症や知的障害があるアーティストの作品を通じて、国境を超えた共感と対話を促進。シンガポール×日本のアート展示イベント「重い線、軽やかなタッチ」を「パティーナ大阪」にて開催中

2025/09/05
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


シンガポールを拠点に、世界有数のラグジュアリーホテルを手掛ける「カペラホテルグループ」の日本第一号店として、2025年5月1日(木)に開業した、難波宮跡と歴史ある大阪城の間に位置するパティーナ大阪」。

この度、シンガポールの主要経済セクターの一つである観光について、主導的に発展させることを担う政府機関「シンガポール政府観光局」および、障害のある方々(PwDs)に対して、芸術を通じた学びと就業の機会を提供することを目的に活動を行っている、1993年に設立されたシンガポールのNPO団体「ART:DIS」とタイアップしたアート展示イベント「重い線、軽やかなタッチ」を、2025年8月23日~9月7日の間、「パティーナ大阪」1階のギャラリースペースにて開催中です。

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岡元俊雄氏


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フェーン・ウォン氏


「重い線、軽やかなタッチ」は、日本人アーティストの岡元俊雄氏と、シンガポール人のフェーン・ウォン氏による共演であり、両者の独自の表現が『ジェスチャー』『リズム』『注意力』について静かな瞑想をもたらします。

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岡元氏の力強い墨のドローイングは、床に寝転び音楽を聴きながら描かれる、重なり合う線の集積から生まれたものです。一つひとつの線が繰り返しと動きを通じて形を生み、作品全体に独特のリズムと躍動を与えています。人物や風景、雑誌、画集などをモチーフに、墨汁と割り箸を用いて制作。全体像を素早く捉えて描いた後、線の上を何度も塗り重ねることで、飛び散る墨の滴や擦れた線が、豊かな表情とエネルギーを作品に加えています。

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対照的に、ウォン氏の作品は、廃棄された掲示用紙を繊細な切り絵へと昇華させる、緻密な技術と詩的な感性が光ります。色彩や遊び心、丁寧な手仕事が融合した作品群には、彼女ならではの個性と直感的なデザインセンスがあふれています。

シンガポール出身の彼女は、その鮮やかで洗練された表現により高く評価されており、2023年には「第1回 UOL × Art:Dis アート賞」にてグランプリを受賞。翌2024年には初の回顧展を開催し、約20年にわたる創作の軌跡をたどる約40点の作品が披露されました。

またウォン氏の作品は現在、「2025年大阪・関西万博」のシンガポールパビリオン内のインスタレーションとしても展示されていて、その光と音のショーの創造的なインスピレーションとなり、多くの訪れる人を魅了しています。

本展では、両作家の制作の根底にある感性に鑑賞者が耳を傾け、一筆の線や一回の切り込みといった些細に見える行為が持つ大きな表現力について考える機会を提供します。

このコラボレーションは、障害のあるアーティストをはじめ、多様な背景を持つクリエイターたちに表現の場を提供するとともに、文化や国境を超えた交流を促進することを目的としています。アートを媒介に、互いの違いを理解し、尊重し合うきっかけを生み出すことで、インクルーシブで多様性を重んじる社会の実現を目指しているとのことです。


■「重い線、軽やかなタッチ」

期間:2025年8月23日(土)~9月7日(日)

会場:パティーナ大阪 1階ギャラリースペース(入場無料)

主催:ART:DIS 

後援:シンガポール政府観光局、パティーナ大阪 

協力:やまなみ工房、国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)