執筆者:遠藤友香
エイベックスのアート領域における事業「MEET YOUR ART」から、バカルディ ジャパン株式会社が輸入し、サッポロビール株式会社が販売するジンブランド「ボンベイ・サファイア」とコラボレーションし、「五感」をテーマに90年代以降のアーティストと共創する展示企画「5 SENSES」が、2024年6月29日(土)まで、港区・西麻布にあるWALL_alternativeにて開催中です。
本展では、今回のプロジェクトで共創する気鋭アーティスト、和泉侃氏(嗅覚)、菅原玄奨氏(触覚)、高山夏希氏(視覚)、布施琳太郎氏(聴覚)によるそれぞれの感性にまつわる作品を展示するほか、日比野菜穂氏(味覚)が和泉侃氏(嗅覚)とともに、この空間のためだけに開発したボンベイ&トニックのツイストカクテルのフードペアリングを無料で楽しむことができます。
次に、各アーティストの言葉をご紹介します。
和泉侃(嗅覚)
「本作品では、空間全体を香りで満たし、ボンベイ・サファイアの味わいの源となるボタニカルに、嗅覚からアプローチする実験工程にご参加いただきます。漂う香りは、ジンの世界ではまだ使用例の少ないレモンティーツリーやホーリーバジルなど、新たな素材を調香領域の視点からセレクトしました。柑橘類の爽やかさを彷彿とさせるリモネンの含有量が高い原料をメインに揃え、明るくビビッドな色彩を感じる、エネルギッシュな香りに仕上げました。嗅覚に焦点を当てる本作品を通じて、ボンベイ・サファイアのキャラクターをより深く感じ、新しいペアリングの可能性や楽しみ方を発見するきっかけになれば幸いです」。
日比野菜穂(味覚)
「嗅覚を担当する和泉さんの原材料をもとに、カクテルと一口菓子を制作しました。バーテンダー・齋藤隆一さんのお力添えをいただき、ボンベイ・サファイアと蒸留水を使用した爽やかなカクテルとともに、フードペアリングとして、和泉さんが蒸留したレモングラスの精油を、ボンベイ・サファイアで希釈した琥珀糖を制作しました。口にした瞬間、レモングラスの畑が目に浮かび、梅雨晴れのような清々しい気持ちになっていただくことをイメージして制作しました。味覚を通して、皆様に想像力が広がるような体験をしていただけると嬉しいです」。
菅原玄奨(触覚)
「『5 SENSES』では触覚性をテーマに、過去に制作した人物像や触覚的な手の痕跡を残したレリーフ作品『Tactile』シリーズ、近年実験的に取り組んでいる照明を展示什器に取り入れることで、表面のテクスチャーをよりフラットに可視化した近作を展示します。これらの作品は共通して、粘土原型段階の湿気と乾燥、型取り段階のネガとポジ、そして成型による内側と外側といった対極的な二つの要素の間に成り立っています。世の中の相反する様々な事柄や意見の間に、人々もまた、かろうじて立っているように思うのです」。
布施琳太郎(聴覚)
「視界を埋めつくす青い光に包まれながら『機械の音』を聞いてもらう作品。ボンベイ・サファイアとのコラボレーションということで、アルコールを舌につけるように鼓膜を敏感にしていただいて、複数の言語の間を泳ぐような時間を作りました」。
高山夏希(視覚)
「6月6日からの展示では、ブルーを基調にした大型作品を中心に、ボンベイ・サファイアとのコラボレーショングラス/ボトルボックスデザインに採用された作品を展示します。今後の作品に向けては、ボンベイ・サファイアの特徴的なボトルを溶かし、セラミック作品との融合で再生成します」。
以上、WALL_alternativeにて開催中の、「五感」をテーマに90年代以降のアーティストと共創する展示企画「5 SENSES」についてご紹介しました。五感にひらめきを与えてくれる本展に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
執筆者:遠藤友香
「PRADA(プラダ)」は、プラダ財団の企画による展覧会「MIRANDA JULY: F.A.M.I.L.Y.」を、2024年8月26日(月)までプラダ 青山店にて開催中です。
ミランダ・ジュライ:映画監督、アーティスト、作家。カリフォルニア州バークレーで育ち、現在はロサンゼルス在住。『ザ・フューチャー(The Future)』、『君とボクの虹色の世界(Me and You and Everyone We Know)』(カンヌ国際映画祭カメラ・ドール賞とサンダンス映画祭審査員特別賞受賞、2020年にクライテリオン・コレクション社から再リリース)の脚本、監督、主演を務める。直近の映画作品は『さよなら、私のロンリー(Kajillionaire)』(2020年)。アート作品は、ウェブサイト《Learning to Love You More》(ハレル・フレッチャー共作)、《Eleven Heavy Things》(2009年ヴェネチア・ビエンナーレのために制作されたスカルプチャー・ガーデン)、《Somebody》(ミュウミュウと共同制作したメッセージアプリ)、高級百貨店内の異宗教リサイクルショップ(Artangel提供)など。2022年にMACK Booksが直近の作品《Services》のリミテッドエディションを製作。現在までの活動のモノグラフが2020年4月に出版されている。著書には、『あなたを選んでくれるもの(It Chooses You)』、『最初の悪い男(The First Bad Man)』、『いちばんここに似合う人(No One Belongs Here More Than You)』(フランク・オコナー国際短篇賞受賞)などがある。ジュライの小説は23か国で出版され、『The Paris Review』や『The New Yorker』、『Harper’s』諸誌に掲載。小説最新刊『All Fours』は2024年5月にRiverhead Booksから発売予定。
アメリカのアーティストであり映画監督でもあるミランダ・ジュライ(1974年生まれ)は、30年以上にわたり、パフォーマンスやビデオ、インスタレーション作品を制作してきました。1990年代のパンククラブにおける初期のパフォーマンス作品から、舞台で行われる複雑なマルチメディア作品に至るまで、ジュライは力や脆さに対して私たちが抱く思い込みに疑問を呈する、想像力に富む社会的世界を創り出しています。ジュライの作品は様々なテクノロジーを取り入れ、時には意図的に誤った使い方を行いながら、コラボレーションやコネクションの新たな可能性を探求しています。
東京のプラダ 青山店で開催中の最新作《F.A.M.I.L.Y.(Falling Apart Meanwhile I Love You)》(2024)は、マルチチャンネルのビデオインスタレーションで、Instagramを介して、7人の見知らぬ人たちとのコラボレーションによるパフォーマンスで構成されています。ミア・ロックスのキュレーションによる本展は、東京で開催するジュライにとって初となる個展です。同時開催中のミラノのOsservatorio Fondazion Pradaを会場として、2024年10月まで行われる《MIRANDA JULY:New Society》は、ミュージアムで開く自身初の個展となります。
2020年に始まった《F.A.M.I.L.Y.》は、Instagramのプライベートチャンネルを通して、ジュライのプロンプトシリーズに返答した7人の参加者とのコラボレーションによって制作されたもの。ジュライは、ソーシャルメディアコンテンツ向けにデザインされた無料編集アプリの「切り抜き」ツールを使用し、ジュライと参加者が親密性と境界を探求する超現実主義的なパフォーマンスシリーズを生み出しています。ロサンゼルスにあるジュライのスタジオで流れている映像を背景に映し出される、拡大されたコラージュのポスターを手に取るよう、見る人たちを誘います。
(左から)ミランダ・ジュライ、ミア・ロックス
ジュライは「《F.A.M.I.L.Y.》で、私はInstagramで期待されている事柄の一つとして認識している、『自分の心が満たされるほど美しく素晴らしいと人の目に映ること』に労力をかけて、手作業で実現しようと試みています」と語っています。
キュレーターのミア・ロックスは「これは、ジュライが積極的に取り入れている作品形式で、ジュライ自らが開始し、ある程度支配し、やり取りはしますが、それだけではなく、他の人の望みや行動をその中に積極的に取り込んでいます。力と支配の共有を試行錯誤しているということであり、時には遊び心がある方法でそれを行っているのです」と述べています。
以上、プラダ 青山店にて開催中の展覧会「MIRANDA JULY: F.A.M.I.L.Y.」についてご紹介しました。気になる方は、ぜひ会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■「MIRANDA JULY: F.A.M.I.L.Y.」
場所:プラダ 青山店 東京都港区南青山5-2-6
会期:2024年5月9日~8月26日
時間:11時~20時(月曜日~日曜日)
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
執筆者:遠藤友香
世界を牽引するスイスの量子技術。スイスと日本は、科学・技術・イノベーションの分野で共通の目標を掲げ、この重要な戦略分野に投資しています。2023年10月には、量子科学を含むあらゆる研究分野において、スイスと日本の既存の関係を強化するための国際協力覚書(MoC)が交わされました。
在日スイス大使館科学技術部は、理化学研究所 量子コンピュータ研究センターと共に、本分野でのスイスと日本の専門家の連携をさらに進めるべく、2024年6月5日~7日に、東京大学、弥生講堂・一条ホールにて、3日間のシンポジウム「Swiss-Japanese Quantum Symposium 2024」を開催。
1460年に創立した、スイスで最も歴史のある名門大学 バーゼル大学のダニエル・ロス教授と、理化学研究所量子コンピューティング研究センター長の中村泰信博士が共同議長を務めたこのシンポジウムは、最先端の量子研究とイノベーションにおける、スイスと日本の専門家の協力関係を拡大することが目的でした。
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
また、スイスと日本の国交樹立160周年を祝う2024年、スイス大使館はバーゼルの音楽祭「Interfinity」と共に、最先端の量子物理学の世界を音楽と視覚で感覚的に体験するアート&サイエンス パフォーマンス「Tinguely Entangled(ティンゲリー・エンタングル)」の特別公演を、最終日の6月7日に東京大学、弥生講堂・アネックスセイホクギャラリーにて開催しました。
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
量子コンピューティングの基礎を分かりやすく紹介する「ティンゲリー・エンタングル」は、量子物理学の中心的概念である「重ね合わせ」「エンタングルメント」「コヒーレンス」「トンネリング」を、感覚的に音楽とビジュアルを用いて紹介するサイエンス×アートパフォーマンスです。
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
5人の物理学者が舞台や映像上でストーリーを語り、ライブミュージックとビジュアル・アートがその内容を補足します。鑑賞者は、サウンドとビジュアル・アート、舞台とエレクトロニック・ミュージックをミックスしたユニークな体験に身を委ねることができました。
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
本パフォーマンスは、スイス人ピアニストでInterfinityのディレクターのルーカス・ロス(Lukas Loss)が、バーゼル大学を拠点とするNCCR SPINの研究者ヘンリー・レッグ(Henry Legg)と共同で脚本を制作。物理学者のアリアンナ・ニグロ(Arianna Nigro)、ラファエル・エグリ(Rafael Eggli)、ヴァレリイ・コジン(Valerii Kozin)、リウ・ジョンチン(Jung-Ching Liu)らと共に制作した共同プロジェクトです。
Ayako Suzuki / 提供 在日スイス大使館
ヘンリー・レッグは「量子ビット」について、次のように説明しました。『量子ビットは今夜の主役です。しかし、まずは現代のデジタル世界全体の基礎である、その古典的なバージョンであるビットから始めましょう。電灯のスイッチのように、古典的なビットは単に「オン」か「オフ」です。しかし、何十億ものビットを組み合わせると、コンピューターやスマートフォンを作ることができます。人間が一生かけて行う計算を瞬時に実行できるものです。
では、量子ビットとは何でしょうか? 量子ビットは「オン」と「オフ」を同時に行うことができます。これを「重ね合わせ」と呼び、これは量子システムの基本的な特性です。シュレーディンガーは有名な例え話をしました。箱の中に猫を入れ、毒の入った小瓶をランダムに破裂させるとします。そして、ある時点で「猫は生きているのか、死んでいるのか?」と尋ねます。箱を開けて確認するまで、猫は死んでいるのと生きているのとでは異なります。
実際に、量子ビットを作るにはどうすればよいでしょうか? 1つの方法は、電子をトラップして、いわゆる「スピン」を使用することです。上または下を指す矢印を想像してください。上は「オン」を意味し、下は「オフ」を意味します。ただし、スピンは量子力学的特性であるため、「上」と「下」を好きなように組み合わせることもできます。つまり、量子ビットがあるのです」。
ヴァレリイ・コジンは「エンタングルメント」について、『もし量子ビットが2つあったらどうなるでしょうか? 1つの量子ビットの重ね合わせを、別の量子ビットの重ね合わせとリンクさせることができます。これが「エンタングルメント」と呼ばれるものです。
最初の量子ビットが「オン」の場合、2番目は「オフ」でなければなりません。猫の箱が別の猫の箱とエンタングルメントされている場合、猫番号2は、おそらく宇宙の反対側にいて、猫番号1を見つける方法に応じて、死んでいるか生きているかになります。アインシュタインはこれを「遠隔での不気味な動作」と呼びました。
または、2人の人が同じフレーズを完璧に同期して、何度も繰り返しているところを想像してください。もし彼らが「エンタングルメント」されているなら、たとえお互いの声が聞こえず、お互いが見えず、宇宙全体が彼らの間にあっても、同じフレーズを完璧に同期して何度も繰り返します。何十億もの量子ビットをエンタングルメントすれば、量子コンピューターを構築できます。量子コンピュータは、エンタングルメントの巨大な力により、最高の古典的なスーパーコンピュータでも、宇宙の年齢よりも長い時間がかかる計算を実行できます』と語りました。
以上、東京大学で開催された、量子物理学の核心に迫るアート&サイエンス・パフォーマンス「ティンゲリー・エンタングル」についてご紹介しました。アートを窓口に、難解で理解不可能にも思われる量子物理学の世界感に、観客全員が引き込まれていました。
■「Tinguely Entangled(ティンゲリー・エンタングル)」公演
日時:2024年6月7日 19時ー20時(開場18時30分)
会場:東京大学 アネックス セイホクギャラリー
主催:Interfinity、在日スイス大使館 / Vitality.Swiss
■Swiss-Japanese Quantum Symposium 2024
開催日:2024年6月5日ー7日
会場:東京大学 弥生講堂一条ホール
主催:在日スイス大使館 科学技術部 / 理化学研究所 量子コンピュータ研究センター
執筆者:遠藤友香
20世紀初めにポール・ポワレが嚆矢(こうし)となり、シャネルによって広く普及したコスチュームジュエリー。コスチュームジュエリーとは、宝石や貴金属を用いず、ガラスや貝、樹脂など、多種多様な素材で制作されるファッションジュエリーのこと。
素材から解放されて自由なデザインを提案できるコスチュームジュエリーは、ポール・ポワレ以降、シャネルやディオール、スキャパレッリなど、フランスのオートクチュールのデザイナーたちがこぞって取り入れました。やがてヨーロッパ、そして戦後は主にアメリカでコスチュームジュエリーは広く普及し、当時の女性たちに装う楽しみだけではなく、生きる活力、自由、そして自立の精神をもたらしました。
そんな20世紀初めから戦後に至るコスチュームジュエリーの歴史的展開を紹介する、日本初の展覧会 「コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより」が、2024年6月30日(日)まで愛知県美術館にて開催中です。
ムラーノガラス、ヴェネチアンビーズ、コスチュームジュエリーの研究家・コレクター 小瀧千佐子氏
ムラーノガラス、ヴェネチアンビーズ、コスチュームジュエリーの研究家・コレクターである小瀧千佐子氏による世界的に希少なコレクションから、ジュエリー約450点と、当時のドレスやファッション雑誌などの関連作品を展示。それらを通して、魅力溢れるコスチュームジュエリーの世界感を堪能することができます。
近年、日本ではファッションに関する展覧会が頻繁に開催されるようになりましたが、その多くはドレスが主役です。コスチュームジュエリーに焦点を当てて包括的に紹介する展覧会は今回が日本初であり、1 点もの、あるいはごく少数しか制作されなかったコスチュームジュエリーが⼀堂に会す貴重な機会となっています。
シャネルやディオール、イヴ・サンローランなど、よく知られているフランスのオートクチュールのファッションデザイナーから、サルバドール・ダリやマン・レイなど、シュルレアリストと親交を結んだエルザ・スキャパレッリ、日本で初めて紹介されるジュエリー・デザイナー、コッポラ・エ・トッポやリーン・ヴォートランなどによる、見ごたえのあるジュエリーが数多く展⽰されています。
本展監修者の小瀧千佐子氏は、「コスチュームジュエリーは常に時代を映す鏡であり、流行や世相を反映し流動的で、金やダイヤのように素材そのものに市場価値がないことから、流行の終焉と共に消え去る運命にある。しかし、時代の大きなうねりに流されず、二つの大戦を経てなお生き残ったコスチュームジュエリーがここにはある。それらには、デザインしたアーティストたちの先鋭的で独創的な、ゆるぎないスタイル(様式美)があったからだと、私は考えている。
1910年代フランスでオートクチュール用のジュエリーとして誕生し、ヨーロッパからアメリカへ伝わり華麗に開花したコスチュームジュエリー。20世紀初頭、貴金属偏重の価値観から解放され、女性の社会進出と深く関わり、多様な素材で“個性を表現するため”のアイテムとなった。職人の卓越した技術に裏付けされ独自の様式美を纏う作品群は、20世紀の誕生から100年を迎える今、アートとして認識されるべきであろう」と述べています。
会場の入り口を入ってまず出迎えてくれるのが、20世紀初頭から第一次世界大戦を挟んだ1920年代に『イリュストラシオン』紙に登場した、当時の新しい女性像の一端を知ることのできる映像です。
『イリュストラシオン』は1843年に創刊された、フランス初の挿絵入り週刊誌で、記事内容は政治、経済、国際情勢、文化芸術など多岐にわたっています。コスチュームジュエリーが生まれた20世紀初頭は、社会も人々の生活スタイルも大きく変わりました。女性の活躍の場が広がり、それとともに求められるファッションはより自由でシンプルなものに変化。そうした様子を『イリュストラシオン』は度々取り上げています。
Chaper 1. ポール・ポワレとメゾン・グリポワ
20世紀初めのヨーロッパでは、科学技術の発展とそれに伴う社会的イデオロギーの変革の中で、人々の生活スタイルが大きく変わりました。女性たちの活動の幅は広がり、遠方への旅行、自動車の運転、多様なスポーツへの参加など、活発な女性が新しい女性像となって注目され始めます。そうした変化に呼応して、コルセットに拘束された人工的な形態や過剰な装飾から解放され、動きやすく身体の自然な美しさに沿った衣服が求められるようになりました。そして、高価な宝石よりも気軽に身に着けられ、シンプルな衣服と調和するコスチュームジュエリーが生まれました。
ポール・ポワレ
フランスのファッションデザイナー、ポール・ポワレはこの時代のニーズを敏感に察知し、1906年にコルセットを使用しないハイウエストのドレスを発表しました。彼はまた自らがデザインするドレスにふさわしいジュエリーをビーズなどを用いて制作し、コスチュームジュエリーの先駆者となりました。
ポワレのコスチュームジュエリーの制作を担ったジュエリー工房の一つに、メゾン・グリポワがあります。19世紀後半にオーギュスティン・グリポワが創業したこの工房は、特に1920年代にガブリエル・シャネルとの出会いによって、模造パールの開発や特殊なガラスの技法で、一躍その知名度を高めました。
Chaper 2. 美の変革者たち
オートクチュールのためのコスチュームジュエリー、つまりクチュールジュエリーには、デザイナーの考案した生地や色を考慮し、コレクションのテーマを強調するという役割があります。ほとんどの場合がシーズン毎に数点だけ作られ、ドレスと同様にトレンドを追うのではなく、先取りしなければなりませんでした。
ガブリエル・シャネル
ガブリエル・シャネルは、“黒=喪服”のイメージを覆し、1926年にリトル・ブラック・ドレスを発表します。その革新的なドレスに合わせ、模造パールネックレスを何連にも重ね付けしました。
エルザ・スキャパレッリ
イタリア出身のエルザ・スキャパレッリは、強烈な色彩感覚をパリで研ぎ澄まし、1927年のデビューコレクションにて、シックで洗練された二色使いのセーターを発表します。その後、創作したクチュールジュエリーはシュールレアリスムの影響を受け、意表を突くデザインが多くみられました。
ポワレから始まったクチュールジュエリーはここに開花し、二人は激動の30年を駆け抜けます。バレンシアガ、ディオール、ジバンシィ、イブ・サンローランたちも、それぞれが新しいコレクションに挑み、アイコニックな夢のジュエリーを創り出していきました。
ジョン・ケネディ大統領とジャクリーン夫人
こちらは、エメラルドを模したガラスのカボションとビーズ、ダイヤモンドのようにブリリアンカットされたクリスタルガラスが美しい曲線で連なったジバンシィのネックレスを身に着けたジャクリーン・ケネディ。優雅なデザインは、上流階級の女性やハリウッド女優を顧客にしていたジバンシィのスタイルにふさわしいものです。模造パールの部分が、水色のトルコ石に代わる同デザインのネックレスをジャクリーン・ケネディが所有しており、彼女はこのネックレスを1963年1月21日に行われたケネディの大統領就任2周年記念式典のときに着用しました。
Chaper 3. 躍進した様式美
1920年代から1950年代にかけて華麗に開花した、グランメゾンによるクチュールジュエリーは、パルリエと呼ばれる卓越した職人、製造業者の手によって生み出されました。パルリエとは、帽子職人、刺繍職人、羽毛職人、ボタン職人、ジュエリー製造業者など、あらゆるアクセサリーや装飾品を製造する専門家を指します。大戦を挟んだこの時代に、メゾン・グリポワを代表格として、豊潤な職人がそれぞれのアトリエに存在していました。
コッポラ・エ・トッポの洗練された色使いのビーズネックレス、リーン・ヴォートランの不思議で詩的な世界、ロジェ・ジャン=ピエールの光輝くラインストーンの配色の妙、リナ・バレッティの秀逸な手仕事、シス(シシィ・ゾルトフスカ)のチャーミングなジュエリー。それぞれにいずれ劣らぬ様式美があり、作品の裏に刻印されたサインを見るまでもないほど、はっきりとしたスタイルが見て取れます。
Chaper 4. 新世界のマスプロダクション
ヨーロッパにおけるコスチュームジュエリーは当初、本物のジュエリーの代替品と見なされていましたが、新世界アメリカでは、王侯貴族による宝飾品の文化がそもそも存在しないため、砂地に水がしみこむように受け入れられていきました。
シャネルとスキャパレッリ、この二人のファッションデザイナーは、コスチュームジュエリーだけでなく、バッグから香水、帽子に至るまで、アクセサリー生産の大部分を、戦前からアメリカのデパートに輸出していました。彼女たちのおかげで、コスチュームジュエリーはアメリカでゆっくりと、しかし確実に浸透していきます。それをきっかけに、アメリカでもコスチュームジュエリーの生産が始まり、1935年から1950年の間にヨーロッパ的な宝飾品の模倣から解放され、アメリカ独自の製品が開発されるようになります。
ニューヨークにほど近いロードアイランド州プロビデンスには無数のメーカーがひしめき、大量生産によるコスチュームジュエリーを安価に販売することが可能になりました。ハリウッド映画のグレタ・ガルボなどのスターを彩るコスチュームジュエリーへの憧れもまた、アメリカの女性たちに広く普及した理由の一つと言えます。
売店では、展覧会図録やトートバッグ、チョコレートなどの販売も。
本展は、昨年12月に東京のパナソニック汐留美術館から始まった巡回展(その後、京都、愛知、宇都宮、北海道に巡回)です。愛知県美術館では広い展⽰スペースを活かして、コスチュームジュエリーのほかにポール・ポワレ、シャネルやディオール、イヴ・サンローランなどのドレスやスーツを展⽰。ドレスに合わせてコーディネートしたコスチュームジュエリーをともに展⽰する試みもみどころの⼀つです。さらに香水瓶やファッション雑誌、ファッションプレート(ファッション雑誌などの挿絵・図版)といった充実した関連資料を通して、コスチュームジュエリーやそのデザイナーを多角的に紹介しています。
以上、愛知県美術館で開催中の、 20世紀初めから戦後に至るコスチュームジュエリーの歴史的展開を紹介する日本初の展覧会 「コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ」をご紹介しました。ぜひ会場に足を運んで、美しいコスチュームジュエリーの世界感に浸ってみてはいかがでしょうか。
■コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより
会期:2024年4月26日(金)-6月30日(日)[57日間]
開館時間:10:00-18:00 ※金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日
会場:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
名古屋市東区東桜1-13-2
チケット:⼀般1,800(1,600)円/⾼校・⼤学生1,200(1,000)円 中学生以下無料
※( )内は前売券および20 名以上の団体料金です。
※上記料金で本展会期中に限りコレクション展もご覧になれます。
※身体障害者⼿帳、精神障害者保健福祉⼿帳、療育⼿帳(愛護⼿帳)、特定医療費受給者証(指定難病)のいずれかをお持ちの⽅は、各券種の半額でご観覧いただけます。また付き添いの⽅は、各種⼿帳(「第1種」もしくは「1級」)または特定医療費受給者証(指定難病)をお持ちの場合、いずれも 1 名まで各券種の半額で観覧可能です。当日会場で各種⼿帳(ミライロ ID 可)または特定医療費受給者証(指定難病)をご提⽰ください。付き添いの⽅はお申し出ください。
※学生の⽅は当日会場で学生証をご提⽰ください。
監修:小瀧千佐子
特別協力:ウィリアム・ウェイン(コスチュームジュエリー研究家/イギリス、ロンドン)
学術協力:ディアンナ・ファルネッティ・チェーラ(コスチュームジュエリー研究家/イタリア、ミラノ)
撮影:⼤野隆介
執筆者:遠藤友香
横浜で、3年に一度開催される現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」。2001年にスタートし、200を数える国内の芸術祭の中でも20年以上の長い歴史を誇っています。第8回となった横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」は、全78日の会期を経て、2024年6月9日(日)に無事閉幕しました。
今回、横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターの蔵屋美香氏と、アーティスティック・ディレクターのリウ・ディン氏(劉鼎氏)、キャロル・インホワ・ルー氏(盧迎華氏)より、みなさまのご来場とご協力に感謝するメッセージが届きましたので、ご紹介します。
1.横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長 蔵屋美香氏からのメッセージ
第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」は、6月9日、無事閉幕しました。アーティスティック・ディレクター(AD)を務めたリウ・ディンさんとキャロル・インホワ・ルーさん、31の国や地域から参加してくださった93組のアーティストのみなさま、ご支援、ご後援、ご助成、ご協賛、ご協力いただいたみなさま、アーティストの制作を助け、あるいは会場に立って大活躍してくだった市民サポーターのみなさま、そしてなにより足を運んでくださったたくさんの観客のみなさまに、心よりお礼を申し上げます。
また今回、「アートもりもり!」の名称で、「野草」の統一テーマのもと、BankART1929、黄金町エリアマネジメントセンター、象の鼻テラス、急な坂スタジオ他の連携先のみなさまと共に、市内に広がる大きなトリエンナーレをつくり上げることができたのは、何よりの喜びでした。
ADの二人は、約100年前、中国の作家、魯迅(ろじん)が絶望の中で書いた詩集『野草』からこの企画を発想しました。つらい時こそ創造の力が花開く。ふつうの人が暮らしの中で積み重ねる小さな実践が世界を変える。国と国ではなく個人と個人としてならわたしたちはわかり合える。ADが『野草』から引き出したこれらのメッセージが、とりわけ次の世界を担う若いみなさんの胸に長く残ることを祈っています。
2.アーティスティック・ディレクターのリウ・ディン氏(劉鼎氏)とキャロル・インホワ・ルー氏(盧迎華氏)からのメッセージ
第8回横浜トリエンナーレは、絶望についての文学作品をもとに企画されましたが、多くの来場者がお気づきの通り、希望をテーマにした展覧会です。希望は、思考、行動、感情、想像力、友情、失敗、対立、そして何よりも人間の主体性に宿ります。
この展覧会では、アートの人間的価値を重要視し、歴史と現代における個人の主体性の物語を数多く語り直しました。これらの個人の声や経験は、現代の私たちにとって重要なシグナルです。それらは、私たち自身の主体性を掘り起こして発揮し、あらゆる面で紛争や挑戦が激化している時代に希望の種を蒔くための隙間を見出すよう、私たちを鼓舞します。
「野草:いま、ここで生きてる」が終わりを告げるいま、この展覧会を希望のしるしや場所とするためにご尽力いただいたすべての方々に、心から感謝の意を表したいと思います。
横浜トリエンナーレのチームと密に協力してきた私たちは、当トリエンナーレが今後も、最先端の芸術的実験と真摯な知的言説を支援する重要な役割を果たし、アートの分野に真の貢献を果たすことを固く信じています。
(アーティスティック・デイレクター挨拶原文)
The 8th Yokohama Triennale was conceived based on a literary work thinking about despair, yet as many visitors have discovered, it is an exhibition about hope. Hope resides in thoughts, actions, emotions, imagination, friendship, failures, confrontations, and above all, human agency.
In this show, we have retold many stories of individual agency in history and from our contemporary times, foregrounding the humanistic values of art. These individual voices and experiences are important signals to us today. They inspire us to unearth and exercise our own agency, and to find cracks for planting seeds of hope in a time of escalating conflicts and challenges on all fronts.
At this moment of bidding farewell to the exhibition, we want to express our heartfelt gratitude to everyone who has contributed to making "Wild Grass: Our Lives" a sign and site of hope.
Having worked closely with the team of Yokohama Triennale, we firmly believe that it will continue to play a vital role in supporting cutting-edge artistic experiments and serious intellectual discourses, making a true contribution to the field of art.
LIU Ding and Carol Yinghua LU
Artistic Director, 8th Yokohama Triennale
閉幕に際して発信した動画は、コチラから。
■第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」
アーティスティック・ディレクター:リウ・ディン(劉鼎)、キャロル・インホワ・ルー(盧迎華)
会期:2024年3月15日(金)ー6月9日(日)
開場日数:78日間
会場:横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路
主催:横浜市、(公財)横浜市芸術文化振興財団、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会
連携拠点:BankART1929 黄金町エリアマネジメントセンター 象の鼻テラス 急な坂スタジオ
公式WEBサイト:https://www.yokohamatriennale.jp/
関連記事:『第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」が開幕! 災害や戦争、気候変動、経済格差、互いに対する不寛容など生きづらさを抱える世の中に、皆が共に生きていくための知恵を探る』は、コチラから。
執筆者:遠藤友香
オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器「ディジュリドゥ」奏者として名を馳せていたGOMA。彼は、2009年に交通事故に遭い、そこから絵画の才能を開花させました。そんなGOMAの展覧会「ひかりの世界」が、東京都渋谷区にある「GYRE GALLERY」にて、2024年6月29日まで開催中です。
プロフィール:GOMA。オーストラリア先住民アボリジナルの伝統楽器「ディジュリドゥ」の奏者、画家。1998年にオーストラリアで開催されたバルンガディジュリドゥ・コンペティションにて準優勝を果たし、国内外で広く活動。2009年交通事故に遭い高次脳機能障害の症状により活動を休止。一方、事故の2日後から緻密な点描画を描きはじめるようになり、現在では、オーストラリアBACKWOODS GALLERY(2016)、新宿髙島屋美術画廊(2018・2019)、PARCO MUSEUM TOKYO(2022)、PARCO GALLERY OSAKA(2023)、PARCO GALLERY NAGOYA(2023)など多数の個展を開催。2012年本人を主人公とする映画「フラッシュバックメモリーズ3D」に出演し、東京国際映画祭にて観客賞を受賞。2021年2020TOKYOパラリンピック開会式にて、ひかるトラックの入場曲を担当。2022年舞台「粛々と運針」の音楽監督と劇中のアートを手掛ける。
ディジュリドゥ奏者として世界的に評価されていたGOMAが突然絵を描き始めたのは、2009年に交通事故に遭った2日後のこととのことだそう。それまで職業としてはもちろん、趣味としても絵を描いたことがほとんどなかったのに、細かい点描で画面を埋めつくした独特の絵画を描くようになったといいます。また、事故後は記憶喪失や昏睡などの後遺症に見舞われるようになりました。原因究明には時間がかかりましたが、アメリカの研究所で「後天性サヴァン症候群」と診断されます。脳に傷を負ったときに美術や音楽、数学などの分野で特別な才能を発揮するようになる、極めてまれな現象です。
事故から十数年たって日常生活にはほぼ支障はなくなり、ディジュリドゥの演奏も再開したそう。しかし、今も一日の大半を絵画の制作に費やしています。それは、彼の頭の中に浮かんでくる景色を描きとめたもので、意識を失うと真っ白い発光体に包まれたような世界が現れます。そして、意識が戻るにつれて次第に色がついたものになっていくのだそうです。その「意識を消失した後に見る希望に満ち溢れた世界」を、彼は「ひかりの世界」と名付けました。
彼が描いているのは、事故の後遺症によって意識を失っているときに見た光景です。それは最初、白い発光体に囲まれた、ただひかりだけがあるような空間から始まります。そのときの彼には一切の感情がないといいます。恐怖心もなければ嬉しい、楽しいといった気持ちもありません。そして、次第にその発光体に色がついてきて「脳と体が合体する」のを感じると意識が戻るのだそうです。どのように色がついてくるのかはそのときどきによって様々だといいます。彼はその景色を絵画という平面で表現していますが、実際には奥行きがあり、流動体の中を運ばれていくような感覚を覚えるのだそう。意識が戻ると「また倒れて旅に出たのだな」と感じるといいます。
事故後、何十回も倒れて意識を回復するーその経験を経て、GOMAは自分が見ているものが「生と死の間にあるどこか」であると感じるようになりました。実際に臨死体験を研究している人々も、GOMAの絵と似た光景を見た人がいるといいます。音楽活動については曲を覚えるのに時間がかかり、何度も練習しないとできないといった状況に、GOMA自身も葛藤を覚えることはありました。しかし、今では「もっと気楽にディジュリドゥを吹けるようになったし、リフレッシュして絵の活力になる」といいます。音楽は、過去の自分と今の自分をつないでくれるものであり、未来へとつなげてくれるとGOMAは感じています。
会場内では「GOMA ひかりの世界」のCD販売も。18年ぶりのオリジナル・ソロ・アルバムで、3曲収録されています。各曲は約20分ほどの長さで、静寂と深みを感じさせ、瞑想や集中、リラックスしたいときに最適。
新たに挑戦した陶芸作品。一つひとつ違う個性豊かな形が愛おしいお皿とマグカップ。珊瑚の凹凸を出すために、幾重にも土を手作業で塗り重ねています。
次に、GOMAのインタビューをご紹介します。
Q1. GOMAさんにとって、音楽活動とアート活動は、生きる上でどんな役割を果たしていますか?
音楽は前の人生と今の人生を繋ぐ役割があって、アートの方は15年間前に意識が戻ってから急に始まったので、役割としては自分を癒すためにずっと描き続けています。
Q2. GOMAさんにとって、ひかりの世界はどのような意味を持っていますか?
ひかりの世界はすごくポジティブなエネルギーで、いい方向に自分を導いてくれています。毎回意識が戻るときに見る景色は一緒で、僕にとっては風景画なんです。最初の頃に描いていた絵を見ると、もう絵と呼べるものではないかもしれない。何か点を打ちたくて打っていたけど、それが徐々に体の再生とともに形になってきました。この10年間ずっと後遺症があって、倒れて、意識が戻ってっていうのを何十回と繰り返して、意識が戻ったときに、毎回同じようなひかりの残像が脳に焼き付いてくるのに気がつき始めて、そこからキャンバスに見てきた景色を描き残すようになっていきました。
絵画はアクリル絵の具で、MIXED MEDIAはヒマラヤの天然水晶で作っています。今回、陶器を初めて作ってみたんですが、日常の近くにひかりを感じれるようなものがあったらいいなと思ったんですね。僕はコーヒーが大好きで、コーヒーを飲むときに使えるコップやお皿があったらいいなと思って作ってみました。《ひかりの珊瑚》という作品をモチーフにしています。
Q3. 今後の目標・展望についてお聞かせください。
1回目の人生と2回目の人生が、今ようやくクロスしてきた感じがあって、アートと音楽が完全に二刀流になってきました。今回の展覧会では、アートに合わせた音楽を初めて作りました。一つのパッケージとして、音も映像もアートも全部自分で作ったっていうのが初めでで、今までも自分の音楽はかけてたんですが、昔作ったものをCDでっていう感じでした。今回は、この展覧会のために作った音楽を最適な環境できくことができるように、僕の音楽活動においてレコーディングやライブエンジニアもお願いしている会社に音響設計をお願いしてシステムごと全て持ってきてもらったので、サウンドインスタレーション的な要素もあります。
展望としては、今回音楽とアートの2つを軸にした世界観ができあがってきたなっていう感覚が自分の中にあるので、それをもうちょっとビルドアップして、それを持ってあちこち回りたいですね。アメリカとかヨーロッパも行ってみたいですし、最近ここに来たお客さんと話していたら、インドネシアも面白そうだなと思いました。あとは、やっぱり僕が演奏しているディジュリドゥの国でもあるオーストラリアは行きたいですね。そして、それを一緒にできるようなパートナーを探さないといけないなと思っています。そのパートナーはギャラリーなのか、団体なのか今はまだわからないのですが、そういう人たちと繋がりを持っていきたいと思っています。
以上、交通事故後に絵画の才能が開花したGOMAについてご紹介しました。彼の描く洗練された作品の数々の鑑賞とサウンドを体験しに、ぜひGYRE GALLERYを訪れてみてはいかがでしょうか。
■GOMA ひかりの世界
会期:2024年5月4日(土)ー6月29日(土)/11:00-20:00
会場:GYRE GALLERY | 東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
お問い合わせ:0570-05-6990 ナビダイヤル(11:00-18:00)
執筆者:遠藤友香
2023年に始まり、今年で2年目を迎える、大阪の街を巡りアートやデザインに出会う周遊型エリアイベント「Osaka Art & Design 2024(以下「OAD」)」。会期は、2024年5月29日から6月25日までの4週間です。
初年度は50組の出展者、150組のアーティスト・デザイナーが参加し、8万人を超える来場者で賑わいました。今年も開催される本イベントでは、より多くの賛同を得て、主催への参画団体も増え、規模を大幅にスケールアップして実施します。
OADは「感性百景」をコンセプトに、大阪の街を巡りながら、 アートやデザインに出会う周遊型エリアイベント。大阪という土地を象徴する、ユーモアに富み、コミュニケーションを楽しむ、人間味あふれる感性。そこに、世界水準の洗練さを持ちながら親しみやすさのあるアートとデザインが掛け合わさり、様々な人々が楽しめる新たなムーブメントが始まるーそんな大阪ならではの“共鳴”を創出するべく生まれました。
日々の暮らしに躍動感と彩りを与えてくれる作品との出会い。創造力を掻き立ててくれるクリエイティブなパートナーとの出会い。多彩な感性が広がり、つながることで、美しい風景と出会うように人生が豊かになっていく。大阪が持つパワーと、限りなく広がるアイデアで、世界に誇るクリエイティブシティ大阪を目指しているといいます。
大阪の梅田からなんばまで南北に縦断する主要エリアから、約50箇所のギャラリーやショップを舞台に気鋭なクリエイターが多彩なアートやデザインをお披露目。美術館を巡るように、アート作品や家具、ファッションなどを観ながら、本当に気に入ったものを購入できるチャンスもあります。
来たる2025年の大阪・関西万博の開催を前に、かつてないほど大阪の街が活気に満ち溢れています。大阪ならではのアイデンティティを発揮し、関西圏を中心に全国からクリエイターが集結。年に一度、キタからミナミまで百貨店やアートギャラリー、インテリアショップなどが連帯し、大阪のカルチャーを世界に発信するイベントを開催していくとのこと。
今年のテーマは「Resonance 〜共鳴の拡張〜 」。大阪の生命力溢れる街で、個々の力が相互に作用し、思いがけない化学反応(シナジー)を引き起こすことを目指します。率直な信念、抑圧からの解放、そして、逸脱を恐れない連帯が、新たなエネルギーを創出することでしょう。
展開されるプログラムは、阪急うめだ本店では、「HANKYU ART FAIR 2024」を通じて、名和晃平、大庭大介、品川美香などの著名アーティストや新進気鋭の作家の作品を展示・販売し、「アートと暮らすことが、当たり前」になるプラットフォームの創造を目指しています。
髙島屋 大阪店では、世界が注目する革新的な布作りを得意とする須藤玲子と話題のコンテンポラリーデザインスタジオ「we+」がコラボレーション。光をテーマにしたテキスタイルを通して、現代大阪の前進するエネルギーを展開します。
高遠まき《Hopeful monster》
例えば、南海なんば駅 2階 コンコースで展開される、高遠まきによる《Hopeful monster》は、神話や民族学的な観点から、人間と非人間、自然と技術、物理的な身体と非物理的な身体の間の境界を考察したパフォーマンスインスタレーション。かつて日本人は、違和感や畏れといった感情や不可解な現象に対し、「妖怪」というポップなキャラクターとして具現化しコミュニティーの中で共有することで、共感的関係を築いてきました。この作品では、妖怪というテーマを現代的にアップデートし、異なる生命体に変身する女性の神話を、クモやアリを思わせる造形で表現しています。
望月虹太《“GREEN SEED” 最終章 ~大樹とともに、また踏み出す。~》
また、大阪梅田ツインタワーズ・ノース 1階 南北コンコースでは、望月虹太の《“GREEN SEED” 最終章 ~大樹とともに、また踏み出す。~》が展開中です。初夏の大都会に、多様な植物が群生し共存する世界が出現。多くの人が行き交う梅田の街。その中心部を貫くコンコースの天井を、期間限定で彩る巨大装飾《GREEN SEED》。みずみずしく、力強く生い茂る植物に、“人と自然との融合”や“未来への希望”など様々な想いを込めて作り上げられたインスタレーションです。
その他、OAD2024のオフィシャルプログラム「HIZO market」は、クリエイターたちが試行錯誤し生み出した作品の原型や市場に出なかった秘蔵作品を展示販売することで、新しいクリエイティブマーケットを創出します。
OAD2024は、大阪のクリエイティブな魅力を世界に向けて発信し、関西圏のアート&デザインシーンを活性化させることを目指すそう。このイベントを通じて、人と作品、人と人、作品と作品との出会いや交流、そしてそこから生まれる共鳴やつながりを育んでいくとのこと。大阪が誇るクリエイティブシティのさらなる発展を目指す本イベントへ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
■Osaka Art & Design 2024(大阪アート&デザイン 2024)
期間:2024年5月29日(水)〜6月25日(火)
入場料:無料(一部有料イベントあり)
エリア:梅田、堂島、中之島、天満、京町堀、南船場、心斎橋、なんば 他大阪市内各地
出展会場:オープンスペース、ギャラリー、ショップ、百貨店、商業施設
執筆者:遠藤友香
2007年4月、ニューヨークを拠点に活躍したアーティストのキース・へリングを紹介する世界で唯一の美術館として、自然豊かな八ヶ岳の麓に位置する小淵沢に開館した「中村キース・へリング美術館」。
わずか31年という短い生涯ですべてを表現し、希望と夢を残したキース・へリング。アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアなどと同様に、1980年代のアメリカ美術を代表する一人として知られています。
中村キース・へリング美術館は、館長の中村和男が蒐集した、キース・へリングのおよそ300点の作品のほか、映像や生前に制作されたグッズなど500点以上の資料を収蔵しています。本館はキース・へリング・コレクションを公開するだけでなく、アートを通して社会に問題提起を行い続けたキース・へリングの作品と、彼の遺志を引き継いだ活動を行うことを目標にしているといいます。
八ヶ岳の美しい自然の中で、静かにキース・へリングの作品と向き合い、そのエネルギーを感じるとともに、現代を生きる私たちにとってリアルな課題であるHIV・エイズや感染症、SDGs、LGBTQ+、戦争と平和、子供の健やかで自由な成長、環境問題などをともに考える美術館を目指しています。
そんな中村キース・へリング美術館では、来年2025年に戦後80年を迎えることを受けて、キース・へリングの反戦・反核を訴える取り組みを辿り、作品に込められた「平和」と「自由」へのメッセージを改めて現代の視点から紐解く展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」を、2025年5月18日まで開催中です。
キース・へリングは、明るく軽快な作風で知られる一方、作品の根底には社会を鋭く洞察する眼差しがありました。彼は、時にユーモラスに、時に辛辣に社会を描写し、平和や自由へのメッセージを送り続けました。
本展は、キース・へリングが社会の動向に関心を抱くようになった経緯として、彼の幼少期のエピソードの紹介からスタートします。故郷を離れニューヨークへ移ったキース・へリングは、1980年代のアメリカを取り巻く社会情勢を背景に、反戦・反核運動に参画するようになります。それは徐々に、世界各国でのパブリックアート制作、医療・福祉団体との協働、子供たちとのコラボレーションへと発展していきました。今回の展覧会では、いくつかの事例を通してその変遷を辿ると同時に、中村キース・へリング美術館のキース・へリングのコレクションの中でも抽象的な作品を並置することで、社会的背景を踏まえた視点から、彼の抽象表現を鑑賞することを提案します。
次に、おすすめの作品をピックアップしてご紹介します。
キース・へリングが幼少期を過ごした1960年代は「スペース・エイジ」と呼ばれ、長期化する冷戦を背景に技術開発競争が活発化し、宇宙開発やインターネット普及の研究が進むなど、現代において欠かせなくなった情報技術の礎が築かれた時代でした。
普及したばかりのカラーテレビに映る原色の光景に衝撃を受けたキース・へリングは、「初めてテレビ放送された戦争」といわれるベトナム戦争を、ブラウン管を通して体験したことなどから、世界の動きに強い関心を持ち、雑誌などを通して好奇心のおもむくままに知識を深めていきました。
彼は1982年に次のように語っています。
「1958年に生まれた私は、宇宙時代の最初の世代であり、テレビ技術と容易に得られる満足感に満ちた世界に生まれた。私は原子時代の子供だ。60年代のアメリカで育ち、ベトナム戦争に関する『ライフ』の記事を通じて戦争について学んだ。白人中流階級の家庭で、暖かなリビングルームのテレビ画面越しに安全に暴動を見ていた」。
このポスターは、核兵器を含む世界的な軍事縮小が協議された「第3回国連軍縮特別総会」に合わせて、ニューヨークとサンフランシスコで行われた核に対する抗議活動のために、1988年に制作されました。ニューヨークでは、1982年の米国史上最大規模といわれる反核デモ以来の大規模な集会で、ニューヨークの国連本部のそばにあるダグ・ハマーショルド・プラザには、朝9時から大勢の人が集まり、反核を訴えるスピーチなどが行われました。
1961年、東西に分断されたドイツにおいて、東ドイツ政府が国民の流出を防ぐために建設したベルリンの壁。「チェックポイント・チャーリーの家(現:チェックポイント・チャーリー博物館)」より壁画制作の依頼を受けたキース・へリングは、1986年10月にベルリンを訪れました。
彼は、壁の100mほどの範囲を両国の国旗にちなんで黄色に塗り、その上に黒と赤で連鎖する人々を描きました。その後、この壁画はすぐに他のアーティストらによって上描きされ、1989年11月9日に壁が崩壊したため、この作品は現存しませんが、本展ではキース・へリングの活動を記録し続けたフォトグラファーのツェン・クウォン・チによる写真と当時のニュース映像より、制作風景や人々と交流するはキース・へリングの姿、そして分断された街の風景を紹介します。
《シティキッズ自由について語る》は、1986年にニューヨークの「自由の女神」完成100周年を記念して、キース・へリングとシティキッズ財団が開催したワークショップで制作された作品です。「CityKids Speak on Liberty(シティキッズ自由について語る)」の標語のもと、ニューヨークの1,000人の子供たちとともに制作したこの垂れ幕は、約27mの巨大なもので、本展では6mに縮小した再制作品と制作当時の記録写真、オリジナルの垂れ幕を映像で紹介します。
中村キース・へリング美術館では、キース・へリングと日本との関わりを主軸に調査活動を行ってきました。本展の企画にあたり、本館は1988年7月にキース・へリングが広島を訪れたことに着目。彼の広島訪問については、日記に記されている他に公式な記録がなく、同年に広島で行われたチャリティ・コンサート「HOROSHIMA ’88」のために、彼がメインイメージを手掛けたポスターやレコードが残るのみでした。日記を遡ると、壁画を制作することが広島への旅の目的であったことがわかりますが、実現には結びつかず広島にキース・へリングの壁画は存在しません。
次に、1988年7月28日の日記の一部を抜粋します。
「起きてロビーに行き、広島へ行くために福田夫妻と合流。空港まで車で移動し、飛行機で1時間半かけて広島に向かった。
(中略)
この後、私たちはみんなで広島平和記念資料館と平和記念公園を訪れた。そこは、広島の恐怖を生々しく記録している。この資料館を実際に訪れるまでは、爆撃の巨大さを想像することは不可能だ。
(中略)
資料館には、同じ時間帯に多くの子連れの家族がいた。もちろん、広島について読んだり写真を見たりはしていたが、これほどまでに感じたことはなかった。1945年に作られた爆弾がこのような破壊を引き起こし、その後核兵器のレベルと数が強化されているというのは信じがたい。
これが再び起こることを誰が望むだろうか? どこの誰に? 恐ろしいことは、人々が軍拡競争をおもちゃのように議論し、話し合っているということだ。彼らすべての男性は、安全なヨーロッパの国々の交渉のテーブルではなく、ここに来るべきだ。
(中略)
資料館を出てから、私たちは静かに公園を歩いた。誰もが理解し、話をする必要はなかった。平和記念公園と原爆ドームでは、いくつかの記念碑を巡った。ドームは爆撃後に部分的に残された建物で、巨大な破壊の記念として保存されている」。
中村キース・へリング美術館館長 中村和男氏
中村キース・へリング美術館館長の中村和男は「今の時代に何が起こっているのか、この核兵器というものに対して、僕らは鈍感になってしまって、今、ウクライナの中で戦術核を使おうといった動きもあるじゃないですか。そんな中、キース・ヘリングのあの素直に感じた感覚、それが広島にあったんです」と語っています。
以上、中村キース・へリング美術館で開催中の展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」をご紹介しました。キース・へリングの反戦・反核を訴える取り組みを通じて、ぜひ「平和」と「自由」への想いを、一人ひとりが強く持ち続けて欲しいと思います。
■「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」
会期:2024年6月1日(土)-2025年5月18日(日)
会場:中村キース・ヘリング美術館
山梨県北杜市小淵沢町10249-7
休館日:定期休館日なし
※展示替え等のため臨時休館する場合があります。
開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)
観 覧料:大人 1,500円/16歳以上の学生 800円/
障がい者手帳をお持ちの方 600円/15歳以下 無料
※各種割引の適用には身分証明書のご提示が必要です。
Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか|中村キース・ヘリング美術館 (nakamura-haring.com)
© Courtesy of GUCCI
執筆者:遠藤友香
世界のラグジュアリーファッションを牽引するブランドのひとつである、1921年にフィレンツェで創設された「GUCCI(グッチ)」。
ブランド創設100周年を経て、グッチは社長兼CEOのジャン=フランソワ・パルーとクリエイティブ・ディレクター サバト・デ・サルノのもと、クリエイティビティ、イタリアのクラフツマンシップ、イノベーションをたたえながら、ラグジュアリーとファッションの再定義への歩みを続けています。
グッチは、ファッション、レザーグッズ、ジュエリー、アイウェアの名だたるブランドを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループである「ケリング」に属しています。
そんなグッチは、2024年5月22日より、ブランドアンバサダーに就任したィギュアスケーターの羽生結弦さんにフィーチャーした写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」を、東京・銀座の「グッチ銀座 ギャラリー」にて開催中です。
グッチ銀座 ギャラリーは、ブランドのコアバリューであるクラフツマンシップやイノベーションを体験していただくダイナミックな空間として、また国内外のアーティストやクリエイターとのつながりを育む場として2023年6月にオープンし、そのオープニングを羽生結弦さんの初の写真展「YUZURU HANYU: A JOURNEY BEYOND DREAMS featured by ELLE」が飾りました。
グッチは2024年3月に、羽生結弦さんを新たなブランドアンバサダーとして迎え入れました。そして、グッチと羽生さんのコラボレーションのひとつが、この度の新たな写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」として結実します。本写真展では、ニューヨークを拠点にファッション、コマーシャル、アート、ユースカルチャーなど様々なジャンルを横断して活躍するフォトグラファーでありエモーショナルな作風で知られる小浪次郎氏が、被写体としての羽生結弦さんと向き合い、その「ありのままの今」をテーマに撮り下ろした作品が披露されています。
小浪氏は自身の作品について、「被写体の持つ個性や思想に自分が瞬間的にどう反応するのかが、写真の面白さ。そして被写体と向き合い続けるうちに関係性が変わっていく。だから1枚目と2枚目以降では全く違った表情になる」と語っています。その言葉の通り、人々はまるで被写体が目の前に存在しているかのような写真を通じて、これまでに見たことのない羽生結弦さんと出会うことができるでしょう。
写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」
会期:2024年5月22日(水)–6月30日(日) ※会期中無休
場所:グッチ銀座 ギャラリー 東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座7階
時間:11:00-20:00 (最終入場 19:00) 入場:無料(事前予約制)
※開催内容は予告なしに変更となる可能性があります。
来場予約
5月15日より グッチ LINE公式アカウント(@gucci_jp)からご来場予約が可能です。
グッチ LINE公式アカウントを友だち追加して予約へお進みください。
※予約メニューの表示に時間がかかる場合があります。あらかじめご了承ください。
2024年6月9日(日)まで開催中の第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」。本展覧会は、災害や戦争、環境破壊、経済格差、不寛容など、世界が抱えている多くの課題を私たちに投げかけます。
オープングループ《繰り返してください》(video still)Courtesy of the artists
例えば、こちらはウクライナのアーティスト「オープングループ」の作品です。この映像作品は、ロシアによるウクライナ侵略に伴って、リヴィウの難民キャンプに逃れた人々を取材したもの。国民に配布された戦時下の行動マニュアルに想を得ています。そこには、音によって兵器の種類を聞き分けた上で、いかに行動するべきか、という手引きが示されています。武器の音を口で再現する人々の姿は、生きるために新たな知識が必要となったウクライナの今ある現実を生々しく伝えています。
©2015Eiji OGUMA
この度、第8回横浜トリエンナーレにおいて、「野草の生きかた:ふつうの人が世界を変える」と題し、小熊英二監督 映画『首相官邸の前で』の上映と、小熊英二を招き蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長)によるスペシャルトークイベントが、5月26日(日)に開催されます。
小熊英二氏 撮影:生津勝隆
小熊英二は、慶應義塾大学総合政策学部教授で学術博士。社会学から日本近現代の研究に従事しています。主な著書に『単一民族神話の起源』(新曜社、1995年、サントリー学芸賞)、『<日本人>の境界』(新曜社、1998年)、『<民主>と<愛国>』(新曜社、2002年、大仏次郎論壇賞、毎日出版文化賞、日本社会学会奨励賞)、『日本社会のしくみ』(講談社、2019年)、A Genealogy of ‘Japanese’ Self-Images(Transpacific Press, 2002) などがあります。
蔵屋美香氏 撮影:加藤甫
横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターで横浜美術館館長の蔵屋美香は、千葉大学大学院を修了(教育学修士)後、東京国立近代美術館勤務を経て、2020年より横浜美術館館長/横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターを務めています。また、第55回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館(アーティスト:田中功起)ではキュレーターを務め、特別表彰されています。現在、多摩美術大学客員教授で、その他慶應義塾大学、東京藝術大学をはじめ、多数の大学でゲスト講師として活躍中です。
小熊英二監督によるドキュメンタリー映画『首相官邸の前で』は、2012年夏、ごくふつうの20万人の人びとが首相官邸前に集まり、原発にまつわる政策に抗議した、奇跡的な瞬間をとらえた作品です。ひるがえって、第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」は、中国の作家、魯迅(ろじん、1881–1936)の詩集『野草』(1927年刊)からタイトルをとっています。
魯迅はこの本の中で、わたしたち一人ひとりが日々の暮らしの中で小さな行為を積み重ねれば、世界は変えられる、と述べています。世界を変えるのは、特別な英雄ではなく、魯迅にとってもやはり野の草のような「ふつうの人びと」なのです。
先にも述べた通り、気候変動、災害、戦争、経済格差に不寛容など、私たちの時代は多くの生きづらさを抱えています。「ふつうの人びと」は、これらを変える力となりうるのでしょうか。映画の上映とトークイベントを通して、みなさんと共に考えたいとのことです。
【開催概要】
日時:2024年5月26日(日)13:30-16:30
会場:横浜美術館 レクチャーホール
定員:240名 ※定員になり次第、締め切ります。
参加費:無料
※事前予約不要、映画のみ、トークのみの参加も可能。
【プログラム】
・ごあいさつ(13:30~13:40)
・上映 映画『首相官邸の前で』(13:40~15:30)
2015年|日本|109分|企画・製作・監督:小熊英二|配給:アップリンク 休憩(10分)
・トーク「野草の生きかた:ふつうの人が世界を変える」(15:40~16:30)
小熊英二(慶應義塾大学総合政策学部教授)
蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長)
野草の生きかた:ふつうの人が世界を変えるー映画『首相官邸の前で』上映会 & トーク 小熊英二×蔵屋美香 | 第8回 横浜トリエンナーレ (yokohamatriennale.jp)