キース・へリングの反戦・反核を訴える取り組みを辿り、「平和」と「自由」へのメッセージを紐解く展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」

2024/06/03
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香

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2007年4月、ニューヨークを拠点に活躍したアーティストのキース・へリングを紹介する世界で唯一の美術館として、自然豊かな八ヶ岳の麓に位置する小淵沢に開館した「中村キース・へリング美術館」。

わずか31年という短い生涯ですべてを表現し、希望と夢を残したキース・へリング。アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアなどと同様に、1980年代のアメリカ美術を代表する一人として知られています。

中村キース・へリング美術館は、館長の中村和男が蒐集した、キース・へリングのおよそ300点の作品のほか、映像や生前に制作されたグッズなど500点以上の資料を収蔵しています。本館はキース・へリング・コレクションを公開するだけでなく、アートを通して社会に問題提起を行い続けたキース・へリングの作品と、彼の遺志を引き継いだ活動を行うことを目標にしているといいます。

八ヶ岳の美しい自然の中で、静かにキース・へリングの作品と向き合い、そのエネルギーを感じるとともに、現代を生きる私たちにとってリアルな課題であるHIV・エイズや感染症、SDGs、LGBTQ+、戦争と平和、子供の健やかで自由な成長、環境問題などをともに考える美術館を目指しています。08.jpg?1717378052686

そんな中村キース・へリング美術館では、来年2025年に戦後80年を迎えることを受けて、キース・へリングの反戦・反核を訴える取り組みを辿り、作品に込められた「平和」と「自由」へのメッセージを改めて現代の視点から紐解く展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」を、2025年5月18日まで開催中です。

キース・へリングは、明るく軽快な作風で知られる一方、作品の根底には社会を鋭く洞察する眼差しがありました。彼は、時にユーモラスに、時に辛辣に社会を描写し、平和や自由へのメッセージを送り続けました。

本展は、キース・へリングが社会の動向に関心を抱くようになった経緯として、彼の幼少期のエピソードの紹介からスタートします。故郷を離れニューヨークへ移ったキース・へリングは、1980年代のアメリカを取り巻く社会情勢を背景に、反戦・反核運動に参画するようになります。それは徐々に、世界各国でのパブリックアート制作、医療・福祉団体との協働、子供たちとのコラボレーションへと発展していきました。今回の展覧会では、いくつかの事例を通してその変遷を辿ると同時に、中村キース・へリング美術館のキース・へリングのコレクションの中でも抽象的な作品を並置することで、社会的背景を踏まえた視点から、彼の抽象表現を鑑賞することを提案します。

次に、おすすめの作品をピックアップしてご紹介します。

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キース・へリングが幼少期を過ごした1960年代は「スペース・エイジ」と呼ばれ、長期化する冷戦を背景に技術開発競争が活発化し、宇宙開発やインターネット普及の研究が進むなど、現代において欠かせなくなった情報技術の礎が築かれた時代でした。

普及したばかりのカラーテレビに映る原色の光景に衝撃を受けたキース・へリングは、「初めてテレビ放送された戦争」といわれるベトナム戦争を、ブラウン管を通して体験したことなどから、世界の動きに強い関心を持ち、雑誌などを通して好奇心のおもむくままに知識を深めていきました。

彼は1982年に次のように語っています。

「1958年に生まれた私は、宇宙時代の最初の世代であり、テレビ技術と容易に得られる満足感に満ちた世界に生まれた。私は原子時代の子供だ。60年代のアメリカで育ち、ベトナム戦争に関する『ライフ』の記事を通じて戦争について学んだ。白人中流階級の家庭で、暖かなリビングルームのテレビ画面越しに安全に暴動を見ていた」。

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このポスターは、核兵器を含む世界的な軍事縮小が協議された「第3回国連軍縮特別総会」に合わせて、ニューヨークとサンフランシスコで行われた核に対する抗議活動のために、1988年に制作されました。ニューヨークでは、1982年の米国史上最大規模といわれる反核デモ以来の大規模な集会で、ニューヨークの国連本部のそばにあるダグ・ハマーショルド・プラザには、朝9時から大勢の人が集まり、反核を訴えるスピーチなどが行われました。

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1961年、東西に分断されたドイツにおいて、東ドイツ政府が国民の流出を防ぐために建設したベルリンの壁。「チェックポイント・チャーリーの家(現:チェックポイント・チャーリー博物館)」より壁画制作の依頼を受けたキース・へリングは、1986年10月にベルリンを訪れました。

彼は、壁の100mほどの範囲を両国の国旗にちなんで黄色に塗り、その上に黒と赤で連鎖する人々を描きました。その後、この壁画はすぐに他のアーティストらによって上描きされ、1989年11月9日に壁が崩壊したため、この作品は現存しませんが、本展ではキース・へリングの活動を記録し続けたフォトグラファーのツェン・クウォン・チによる写真と当時のニュース映像より、制作風景や人々と交流するはキース・へリングの姿、そして分断された街の風景を紹介します。

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《シティキッズ自由について語る》は、1986年にニューヨークの「自由の女神」完成100周年を記念して、キース・へリングとシティキッズ財団が開催したワークショップで制作された作品です。「CityKids Speak on Liberty(シティキッズ自由について語る)」の標語のもと、ニューヨークの1,000人の子供たちとともに制作したこの垂れ幕は、約27mの巨大なもので、本展では6mに縮小した再制作品と制作当時の記録写真、オリジナルの垂れ幕を映像で紹介します。

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中村キース・へリング美術館では、キース・へリングと日本との関わりを主軸に調査活動を行ってきました。本展の企画にあたり、本館は1988年7月にキース・へリングが広島を訪れたことに着目。彼の広島訪問については、日記に記されている他に公式な記録がなく、同年に広島で行われたチャリティ・コンサート「HOROSHIMA ’88」のために、彼がメインイメージを手掛けたポスターやレコードが残るのみでした。日記を遡ると、壁画を制作することが広島への旅の目的であったことがわかりますが、実現には結びつかず広島にキース・へリングの壁画は存在しません。

次に、1988年7月28日の日記の一部を抜粋します。

「起きてロビーに行き、広島へ行くために福田夫妻と合流。空港まで車で移動し、飛行機で1時間半かけて広島に向かった。

(中略)

この後、私たちはみんなで広島平和記念資料館と平和記念公園を訪れた。そこは、広島の恐怖を生々しく記録している。この資料館を実際に訪れるまでは、爆撃の巨大さを想像することは不可能だ。

(中略)

資料館には、同じ時間帯に多くの子連れの家族がいた。もちろん、広島について読んだり写真を見たりはしていたが、これほどまでに感じたことはなかった。1945年に作られた爆弾がこのような破壊を引き起こし、その後核兵器のレベルと数が強化されているというのは信じがたい。

これが再び起こることを誰が望むだろうか? どこの誰に? 恐ろしいことは、人々が軍拡競争をおもちゃのように議論し、話し合っているということだ。彼らすべての男性は、安全なヨーロッパの国々の交渉のテーブルではなく、ここに来るべきだ。

(中略)

資料館を出てから、私たちは静かに公園を歩いた。誰もが理解し、話をする必要はなかった。平和記念公園と原爆ドームでは、いくつかの記念碑を巡った。ドームは爆撃後に部分的に残された建物で、巨大な破壊の記念として保存されている」。

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中村キース・へリング美術館館長 中村和男氏


中村キース・へリング美術館館長の中村和男は「時代に起こっているのこの核兵器というものに対して僕らは鈍感になってしまっ今、ウクライナので戦術核を使おうといった動きあるじゃないですかんなキース・ヘリングあの素直感じ感覚、それ広島あっです」と語っています。

以上、中村キース・へリング美術館で開催中の展覧会「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」をご紹介しました。キース・へリングの反戦・反核を訴える取り組みを通じて、ぜひ「平和」と「自由」への想いを、一人ひとりが強く持ち続けて欲しいと思います。


■「Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか」

会期:2024年6月1日(土)-2025年5月18日(日)

会場:中村キース・ヘリング美術館

山梨県北杜市小淵沢町10249-7

休館日:定期休館日なし

※展示替え等のため臨時休館する場合があります。

開館時間:9:00-17:00(最終入館16:30)

観 覧料:大人 1,500円/16歳以上の学生 800円/

障がい者手帳をお持ちの方 600円/15歳以下 無料

※各種割引の適用には身分証明書のご提示が必要です。

Keith Haring: Into 2025 誰がそれをのぞむのか|中村キース・ヘリング美術館 (nakamura-haring.com)

「グッチ銀座 ギャラリー」にて羽生結弦にフィーチャーした写真展が開催中!

2024/06/01
by 遠藤 友香

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© Courtesy of GUCCI

執筆者:遠藤友香


世界のラグジュアリーファッションを牽引するブランドのひとつである、1921年にフィレンツェで創設された「GUCCI(グッチ)」。

ブランド創設100周年を経て、グッチは社長兼CEOのジャン=フランソワ・パルーとクリエイティブ・ディレクター サバト・デ・サルノのもと、クリエイティビティ、イタリアのクラフツマンシップ、イノベーションをたたえながら、ラグジュアリーとファッションの再定義への歩みを続けています。

グッチは、ファッション、レザーグッズ、ジュエリー、アイウェアの名だたるブランドを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループである「ケリング」に属しています。

そんなグッチは、2024年5月22日より、ブランドアンバサダーに就任したィギュアスケーターの羽生結弦さんにフィーチャーした写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」を、東京・銀座の「グッチ銀座 ギャラリー」にて開催中です。

グッチ銀座 ギャラリーは、ブランドのコアバリューであるクラフツマンシップやイノベーションを体験していただくダイナミックな空間として、また国内外のアーティストやクリエイターとのつながりを育む場として2023年6月にオープンし、そのオープニングを羽生結弦さんの初の写真展「YUZURU HANYU: A JOURNEY BEYOND DREAMS featured by ELLE」が飾りました。

グッチは2024年3月に、羽生結弦さんを新たなブランドアンバサダーとして迎え入れました。そして、グッチと羽生さんのコラボレーションのひとつが、この度の新たな写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」として結実します。本写真展では、ニューヨークを拠点にファッション、コマーシャル、アート、ユースカルチャーなど様々なジャンルを横断して活躍するフォトグラファーでありエモーショナルな作風で知られる小浪次郎氏が、被写体としての羽生結弦さんと向き合い、その「ありのままの今」をテーマに撮り下ろした作品が披露されています。

小浪氏は自身の作品について、「被写体の持つ個性や思想に自分が瞬間的にどう反応するのかが、写真の面白さ。そして被写体と向き合い続けるうちに関係性が変わっていく。だから1枚目と2枚目以降では全く違った表情になる」と語っています。その言葉の通り、人々はまるで被写体が目の前に存在しているかのような写真を通じて、これまでに見たことのない羽生結弦さんと出会うことができるでしょう。

写真展「In Focus: Yuzuru Hanyu Lensed by Jiro Konami」
会期:2024年5月22日(水)–6月30日(日) ※会期中無休
場所:グッチ銀座 ギャラリー 東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座7階
時間:11:00-20:00 (最終入場 19:00) 入場:無料(事前予約制)
※開催内容は予告なしに変更となる可能性があります。

来場予約
5月15日より グッチ LINE公式アカウント(@gucci_jp)からご来場予約が可能です。
グッチ LINE公式アカウントを友だち追加して予約へお進みください。
※予約メニューの表示に時間がかかる場合があります。あらかじめご了承ください。

第8回横浜トリエンナーレにて、小熊英二監督映画『首相官邸の前で』の上映会&小熊英二×蔵屋美香のトークショーを開催

2024/05/24
by 遠藤 友香
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2024年6月9日(日)まで開催中の第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」。本展覧会は、災害や戦争、環境破壊、経済格差、不寛容など、世界が抱えている多くの課題を私たちに投げかけます。

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オープングループ《繰り返してください》(video still)Courtesy of the artists


例えば、こちらはウクライナのアーティスト「オープングループ」の作品です。この映像作品は、ロシアによるウクライナ侵略に伴って、リヴィウの難民キャンプに逃れた人々を取材したもの。国民に配布された戦時下の行動マニュアルに想を得ています。そこには、音によって兵器の種類を聞き分けた上で、いかに行動するべきか、という手引きが示されています。武器の音を口で再現する人々の姿は、生きるために新たな知識が必要となったウクライナの今ある現実を生々しく伝えています。

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©2015Eiji OGUMA


この度、第8回横浜トリエンナーレにおいて、「野草の生きかた:ふつうの人が世界を変える」と題し、小熊英二監督 映画『首相官邸の前で』の上映と、小熊英二を招き蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長)によるスペシャルトークイベントが、5月26日(日)に開催されます。

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小熊英二氏 撮影:生津勝隆


小熊英二は、慶應義塾大学総合政策学部教授で学術博士。社会学から日本近現代の研究に従事しています。主な著書に『単一民族神話の起源』(新曜社、1995年、サントリー学芸賞)、『<日本人>の境界』(新曜社、1998年)、『<民主>と<愛国>』(新曜社、2002年、大仏次郎論壇賞、毎日出版文化賞、日本社会学会奨励賞)、『日本社会のしくみ』(講談社、2019年)、A Genealogy of ‘Japanese’ Self-Images(Transpacific Press, 2002) などがあります。

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蔵屋美香氏 撮影:加藤甫


横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターで横浜美術館館長の蔵屋美香は、千葉大学大学院を修了(教育学修士)後、東京国立近代美術館勤務を経て、2020年より横浜美術館館長/横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクターを務めています。また、第55回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館(アーティスト:田中功起)ではキュレーターを務め、特別表彰されています。現在、多摩美術大学客員教授で、その他慶應義塾大学、東京藝術大学をはじめ、多数の大学でゲスト講師として活躍中です。

小熊英二監督によるドキュメンタリー映画『首相官邸の前で』は、2012年夏、ごくふつうの20万人の人びとが首相官邸前に集まり、原発にまつわる政策に抗議した、奇跡的な瞬間をとらえた作品です。ひるがえって、第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」は、中国の作家、魯迅(ろじん、1881–1936)の詩集『野草』(1927年刊)からタイトルをとっています。

魯迅はこの本の中で、わたしたち一人ひとりが日々の暮らしの中で小さな行為を積み重ねれば、世界は変えられる、と述べています。世界を変えるのは、特別な英雄ではなく、魯迅にとってもやはり野の草のような「ふつうの人びと」なのです。

先にも述べた通り、気候変動、災害、戦争、経済格差に不寛容など、私たちの時代は多くの生きづらさを抱えています。「ふつうの人びと」は、これらを変える力となりうるのでしょうか。映画の上映とトークイベントを通して、みなさんと共に考えたいとのことです。

【開催概要】
日時:2024年5月26日(日)13:30-16:30 

会場:横浜美術館 レクチャーホール

定員:240名 ※定員になり次第、締め切ります。

参加費:無料

※事前予約不要、映画のみ、トークのみの参加も可能。

【プログラム】
・ごあいさつ(13:30~13:40)

・上映 映画『首相官邸の前で』(13:40~15:30) 

2015年|日本|109分|企画・製作・監督:小熊英二|配給:アップリンク 休憩(10分)

・トーク「野草の生きかた:ふつうの人が世界を変える」(15:40~16:30)
小熊英二(慶應義塾大学総合政策学部教授)
蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長)

野草の生きかた:ふつうの人が世界を変えるー映画『首相官邸の前で』上映会 & トーク 小熊英二×蔵屋美香 | 第8回 横浜トリエンナーレ (yokohamatriennale.jp)

粋な小さき美の世界が堪能できる、京都・細見美術館で開催中の「澤乃井櫛かんざし美術館所蔵 ときめきの髪飾り―おしゃれアイテムの技と美―」

2024/05/22
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香

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京都・祇園に生まれて芸妓となり、後に東京で料亭の女将として活躍した岡崎智予(1924-1999)は、40余年かけて3,000点以上もの櫛やかんざしを中心とした装身具を収集しました。

そして、そのコレクションをもとに、平成10(1998)年、銘酒「澤乃井」で知られる酒造元 小澤酒造株式会社の名誉会長である小澤恒夫が、東京・青梅に「澤乃井櫛かんざし美術館」を開館しました(現在休館中)。所蔵品は、江戸から昭和までの櫛と簪(かんざし)を中心に、紅板、筥迫(はこせこ)、かつら、矢立などを積極的に収集し、現在その数は4000点に達しています。 

この度、京都にある細見美術館で、2024年8⽉4⽇まで開催中の展覧会「澤乃井櫛かんざし美術館所蔵 ときめきの髪飾り―おしゃれアイテムの技と美―」では、岡崎の高い審美眼で収集された櫛やかんざしをはじめ、江戸時代のさまざまな髪型の模型や、筥迫、紅板、着物、さらには矢立や印籠など、日本工芸の技や粋が凝縮された作品を精選して紹介しています。

髪飾りに魅入られた女性-岡崎智予

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小説『光琳の櫛』(芝木好子著、1979年 新潮社)は2万点もの櫛を一夜にして手放した主人公が、その後料亭の女主人となり、再び櫛の蒐集を始め、並々ならぬ情熱を注ぐ話です。この小説のモデルとなったのが、岡崎智予です。

岡崎は、小説同様、膨大な数の櫛のコレクションを一度手放しています。しかし、櫛への思いを断ち切れず、取りつかれたように蒐集し直しました。

そして、それらのコレクションを引き取り、美術館を建設し、散逸させることなく保存・公開したのが、小澤酒造株式会社の名誉会長である小澤恒夫でした。

細見美術館の第一展示室では、岡崎の愛用の鏡、お気に入りの衣装、さらには交流のあった歌舞伎俳優・坂東玉三郎から寄贈された舞台衣装などが展示されています。

櫛の歴史

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日本の櫛の歴史は、古く縄文時代にまで遡ります。当時、櫛は髪をまとめるだけではなく、呪術的要素も持ち合わせていたといいます。奈良時代には大陸から櫛が輸入されており、正倉院には象牙の横長櫛も遣っています。

しかし、平安時代以降、江戸時代までの700年間、女性の髪型は主に垂髪であったため、実用的な梳き櫛以外の櫛ー飾り櫛は発展しませんでした。

そして、江戸時代前後から、上流階級、一般庶民、遊女といった身分を問わず、女性たちの髪型は結髪の時代を迎えました。

それ以降、櫛・簪・笄は、髪型の変化・流行に合わせて展開し、女性の髪を美しく飾り、そして慈しまれ続けました。

在銘の美

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櫛や簪の制作を手掛けたのは、絵師、蒔絵師、べっ甲や象牙の彫師、錺り(金物)職人など、他の調度や飾りものなども扱う工人たちでした。元々、注文に応じて作られ、納められるそうした道具類には、作り手の名が記されるということがほとんどありませんでした。

しかしエキスパートたちの仕事は、独特の意匠や巧みな細工が評判を呼び、多くの人々に望まれ、その名を記すことが求められるようになり、人気のブランドへと成長していきました。

憧れとトレンド

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多様な意匠を持つ、櫛や簪。大切な髪を飾るものなので、縁起のいい文様から王朝の物語、和歌に謳われた名所「歌枕」など、装う人の趣味や教養の高さをさりげなくうかがわせます。

そして、小さく限られた画面ではありますが、その制約を逆手にとって、構図の捉え方、モチーフのデフォルトやトリミングなど、様々な工夫が凝らされています。

現代の眼にも斬新なデザイン、意表をつく趣向は、当時の作り手と使い手双方のセンスが見事に反映されています。

こだわりの材質と技法

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簪の先から鎖や様々な小物を飾り提げた「びらびら簪」。江戸後期に振袖を着た若い女性たちの間で大流行しました。


櫛や簪をはじめとする様々な髪飾りは、それぞれ髪型を形作るための役割を担っており、その機能を果たしつつ、髪の美しさを引き立て、さらに華やかに飾るものです。

工芸品としても服飾品としても、ごく小さな髪飾りですが、そこには木地やガラス、さらに象牙、べっ甲、珊瑚や翡翠などの高価で貴重な素材、そして金銀の蒔絵・螺細・嵌装(がんそう)といった細緻な技が駆使されています。材質に適った細工、意匠にふさわしい素材が選び抜かれ、見事な芸術品が作り出されました。

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琳派の画家として知られる尾形光琳が図案を手掛けた鷺蒔絵櫛「法橋光琳(印)」銘。


古来、女性たちは美しく装い、自らを飾ることに情熱を傾けてきました。江戸時代は、現代ほどファッションやコスメの情報に溢れていたわけではありませんが、参詣・遊山の旅が庶民に普及したことや、出版の隆盛により、服飾や美粧の流行も広まりました。

当時の風俗を伝える浮世絵や版本をみていくと、女性たちの美しくなるための気合が伝わってきます。決まりやしきたりの中で、自分を美しく、素敵に見せようとするテクニックは、現代の女性より上手だったかもしれません。


以上、細見美術館で開催中の展覧会「澤乃井櫛かんざし美術館所蔵 ときめきの髪飾り―おしゃれアイテムの技と美―」についてご紹介しました。岡崎智予が熱き思いで収集したコレクションを散逸させることなく、見る人にときめきを届け続ける澤乃井櫛かんざし美術館の精華を、ぜひこの機会にご堪能ください。 


■「澤乃井櫛かんざし美術館所蔵  ときめきの髪飾り-おしゃれアイテムの技と美-」 
 会期:2024年4⽉27⽇(⼟)〜8⽉4⽇(⽇) 

 前期:4⽉27⽇(⼟)〜6⽉16⽇(⽇)/後期:6⽉18⽇(⽕)〜8⽉4⽇(⽇)

会場: 細⾒美術館 京都市左京区岡崎最勝寺町6-3

 開館時間:午前10時〜午後5時 

 休館⽇:毎週⽉曜⽇(祝⽇の場合、翌⽕曜⽇)

 ⼊館料:⼀般 1,800円  学⽣ 1,200円

京都 細見美術館 The Hosomi Museum Kyoto (emuseum.or.jp)

「百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス」の「LIVE ART 」“通底縁劇・通底音劇”に、櫻井和寿、スガ シカオ、宮本浩次、小林武史らが出演!

2024/05/08
by 遠藤 友香

01.jpg?1715144133698Photo by 岩澤高雄

執筆者:遠藤友香


市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市で開催中の、千葉県誕生150周年記念事業「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」は、 音楽を主とする「LIVE ART」にて、“通底縁劇・通底音劇” と題した小林武史プロデュースによるスペシャルライブを実施。

“通底縁劇・通底音劇”の通底という言葉は、アンドレ・ブルトンの『通底器』からヒントを得たもので、「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージしています。この通底という言葉には、歴史的な要因による戦争、自然災害による物理的な分断など、表面的には様々な分断が絶えないように見える現実に対して、本来、私たちは根底でつながりあえる(わかりあえる)のではないか? という想いが込められています。また、地理的な要因として、東京と内房総エリアはアクアラインで海の底で通底している、ということもあります。この通底を根底とした“通底縁劇・通底音劇” を表現する形として、小林武史プロデュースによるそれぞれ異なるスペシャルライブを開催しています。

今回は、4月20日(土)、21日(日)に木更津市のクルックフィールズで開催された、櫻井和寿、スガ シカオらによる「super folklore(スーパーフォークロア)」と、5月4日(土)、5日(日)に君津市民文化ホールで行われた宮本浩次らによる「dawn song(ドーンソング)」についてご紹介します!

1.櫻井和寿、スガ シカオらによる「super folklore(スーパーフォークロア)」

「super folklore(スーパーフォークロア)」では、櫻井和寿 / スガ シカオ / Butterfly Studio(guest vocal : Hana Hope / dancer : ⾼村⽉ / KUMI) / ⼩林武史(Key)/ FUYU(Dr)/ 須藤優(Ba) / 名越由貴夫(Gt) / 沖 祥⼦(Vl)のパフォーマンスと音楽、Butterfly Studioによる1000台のドローンを用いた、全く新しいLIVEパフォーマンスが披露されました。

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スガ シカオ氏 Photo by 岩澤高雄

オープニングでは前面の巨大スクリーンを使用して、“通底縁劇・通底音劇” の世界観を表現。会場が盛り上がったところでスガ シカオが登場し、「あなたへの手紙」の歌唱前に百年後芸術祭「LIVE ART」のテーマ“通底縁劇・通底音劇” について触れ、「自分の持つ力や勇気を自分のためではなく、 誰かのために使うと逆に自分が救われると感じています。今回のイベントのテーマと同じように、音楽を通じて誰かとつながっていけたら良いと思います」と語りました。

また、能登半島地震の後、現地に赴き、チャリティーライブを行ったといいます。通常、ライブは1日に1公演、多くても2公演だそうですが、能登では何と1日に4公演も行ったそう。「自分の為だけだったら頑張れないけど、人の為なら労力も苦にならない」と述べました。そして「Progress」や「夜空ノムコウ」など全7曲を披露し、会場を魅了しました。

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(左から)櫻井和寿氏、Hana Hope氏 Photo by 岩澤高雄


その後、Butterfly Studioのダイナミックなパフォーマンス、Hana Hopeの透き通る歌声で、会場を感動に包み込みました。そこに櫻井和寿が登場し、「to U」をHana Hopeとともに歌唱。

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櫻井和寿氏 Photo by 岩澤高雄

全15曲を披露し、「かぞえうた 」歌唱前は、⼩林武史が「“通底縁劇・通底音劇” のテーマに合わせてリクエストした歌です」と、選曲への想いについて語りました。それに対し、櫻井和寿は自身の東日本大震災の際の経験について触れ、「僕は震災の際、被災地に駆けつけることができませんでした 。そんな自分の情けなさ、弱さ、かっこ悪さがどうしようもなく悔しくて、どうにか自分を許す手立てがないかと思っていました。被災された方に想いが届くように、この曲を書きました。この歌がどんなに小さなことでも、誰かの悲しみに何らかの形で寄り添えれば」と、今回のテーマ“通底縁劇・通底音劇” に交えたエピソードを話しました。

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小林武史氏 Photo by 岩澤高雄

「365日」で、櫻井和寿はサックスを演奏し、会場を魅了。演奏後のトークで小林武史からの「突然のサックスでしたね(笑)」というコメントに対し、櫻井和寿は「人前でサックスを演奏するのは今回が初めてなんです」という掛け合いに会場が歓喜しました。

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Photo by 岩澤高雄


そして、ラストスパート「HANABI」の歌唱では、1000台のドローンの演出でも会場がさらに盛り上がりを見せ、アートと音楽が融合した、まさに「LIVE ART」の演出で圧巻のパフォーマンスを披露しました。

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また、クルックフィールズ内では、地域の食の魅力が集う「EN NICHI BA(エンニチバ)」も開催。37店舗の屋台が出店し、多様な千葉の食材を味わう多くの来場者で賑わいました。

2.宮本浩次らによる「dawn song(ドーンソング)」

「dawn song(ドーンソング)」では、宮本浩次 / 落花⽣ズ(ヤマグチヒロコ、加藤哉⼦) / dance︓浅沼圭 / ⼩林武史(Key)/ ⽟⽥豊夢(Dr)/ 須藤優(Ba)/ 名越由貴夫(Gt)/ ミニマルエンジン(四家卯⼤(Vc)、⽵内理恵(Sax))のパフォーマンスと⾳楽が融合した、LIVEパフォーマンスが行われました。

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落花⽣ズ Photo by 岩澤高雄

オープニングでは、“通底縁劇・通底⾳劇”とは何かを問いかけるセリフに合わせ、ダンサーの浅沼圭が布を纏いコンテンポラリーダンスを披露し、世界観を表現。続いて、舞台両端から落花⽣ズが加わり、透き通った伸びやかな歌声で会場を魅了しました。

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宮本浩次氏 Photo by 岩澤高雄


⼩林武史のキーボードが鳴り響き、スポットライトから宮本浩次が登場。「エヴリバディ︕︕」の掛け声とともに、観客から⼤きな拍⼿。⾃⾝のカバーアルバム「ROMANCE」の収録楽曲「⾚いスイートピー」「⽊綿のハンカチーフ」「あなた」等数々の名曲を⼒強く歌唱し、会場の熱気を⾼めました。

華やかなライトで煌びやかな演出の「東京ブギウギ」、「恋のフーガ」では観客もノリノリで、⼿を叩き⼀体感が⽣まれます。さらに、曲間で「君津ベイベー︕」と叫ぶと、盛り上がりが⼀気にヒートアップ。「ロマンス」では、ステージを縦横無尽に動き回りながら、ステージ上でも宮本らしい激しいパフォーマンスを披露。その後は⾊気たっぷりに「飾りじゃないのよ 涙は」「異邦⼈」を歌い、お客さん⼀⼈ひとりに想いを届けました。

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宮本浩次は「君津に来ることができて幸せです。こんなに盛り上がって最⾼の⼀⽇です」とコメントし、⼒の限り全⾝全霊で歌を届ける姿に、涙を流すお客さんもいました。クライマックスでは、エレファントカシマシの代表曲「悲しみの果て」を披露し、宮本⾃⾝もボルテージが上がり会場の観客は総⽴ちに。続けてカバー曲「Woman “W の悲劇”より」やオリジナル楽曲「夜明けのうた」を歌い上げ、アンコールには「冬の花」を熱唱。ステージからの拍⼿喝采に包まれながら、⼩林武史と熱い握⼿を交わし、⾼揚感のまま全24曲約2時間にわたるステージを締めくくりました。


「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」は、今後も様々なイベントやパフォーマンス、アート作品展⽰などを通じて、100年後について考え、100年後の未来を創っていくための共創の場を⽣み出していくといいます。ぜひ、今後の活動にもご期待ください。

⽇⽐⾕公園でアート体験を!⼤巻伸嗣、永⼭祐⼦、細井美裕の3名のアーティストによる「Playground Becomes Dark Slowly」

2024/05/08
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香

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日比谷公園 噴水広場の様子


東京都が主催し、エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社が制作、運営、PR事務局を務める「Playground Becomes Dark Slowly」が、2024年5⽉12⽇まで⽇⽐⾕公園にて開催中です。

東京都は、四季を通じた花と光の演出によって、公園の新しい楽しみ⽅を届ける「花と光のムーブメント」を実施しています。今回新たに、花と光に「アート」を掛け合わせ、「Playground Becomes Dark Slowly」と題したアートインスタレーションを展開。⼤巻伸嗣⽒、永⼭祐⼦⽒、細井美裕といった3名のアーティストによる企画や展⽰を通して、アート体験を楽しむことができます。

本イベントのキュレーターは⼭峰潤也が務め、コンセプトは「公園という都市の隙間の中で変化していく⽇の光を感じながら、⾃然への想像⼒を駆り⽴てること」。⽇中は永⼭祐⼦の《はなのハンモック》を中⼼としたプレイグラウンド、夜は光を放つ⼤巻伸嗣の《Gravity and Grace》、また細井美裕がサウンドスケープの視点から⽇⽐⾕公園の⾳を収集し、再構築した《余⽩史》など、⼀⽇を通して公園で新たなアートを体感できます。

2024年4月26日に行われたプレス内覧会には、山峰潤也、大巻伸嗣、永山祐子、細井美裕、東京都生活文化スポーツ局長の古屋留美、そしてスペシャルゲストとして西内まりやが登壇。

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古屋留美氏


古屋留美は「日比谷公園120設置された、非常歴史深い伝統ある公園です。この公園できたときは非常新しいチャレンジング取り組みたくさん重ねられ公園できました。都民新しい時代文化出会う、文化発信拠点して日比谷公園始まって、さん愛さいるそういう公園この公園できたよう都民さん新しい価値届けするっていうことやっいきたい思い、このムーブメント取り組みお願いしました

新しい取り組みいうアートですアートいうどなたにも入口なる素晴らしい要素思います。洋花、洋食、洋楽新しい要素都民価値して提供してきたこの公園新しくアートいうもの上乗せよりさん楽しんいただける公園したいーそういうことが、今回このプロジェクトお願いした趣旨です」と述べました。

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⼭峰潤也氏


⼭峰潤也は、今回のアートインスタレーションについて、以下のように語っています。

日比谷公園だけではなく公園いうもの自体皆さん記憶どのよう存在してある日常どういうふう存在しているということを思いながら今回二つ時間大きく考えました。

幼少、皆さん公園遊ば記憶あると思いますが、暗くなってくる帰るわけですね。そんな暗がりで、虫のだったりか、小さなさえずりだったりみたいものだんだん意識が向かっていく

また子供から大人へと変わっいく時間という暮れいくようだんだん進んいく。大人なってから、公園いうもの場所存在違っ見えくる。そういった意味では、公園には異なる時間そしてそれぞれたち物語がある場所思うです

そういったことを踏まえこのプレイグラウンド象徴するような、展開する絨毯永山さん作っていただきましたし、また暗がり輝く大巻さん作品あります。そして、またその二つ象徴的存在全く逆側ベクトルから、たくさんたち集合体拾っ集めるることによって、色々な人たちのナラティブを感じることできる細井さん作品など様々方向から展開考えて、このよう企画としました」。

次に、各アーティストによる作品について、みていきましょう。

1.⼤巻伸嗣《Gravity and Grace》(会場:草地広場)

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⼤巻伸嗣氏


「存在」とは何かをテーマに制作活動を展開する、アーティストの⼤巻伸嗣。環境や他者といった外界と、記憶や意識などの内界、その境界である⾝体の関係性を探り、三者の間で揺れ動く、曖昧で捉えどころのない「存在」に迫るための⾝体的時空間の創出を試みています。

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《Gravity and Grace》


⼤巻伸嗣は作品《Gravity and Grace》について、「この作品は、2016年の「あいちトリエンナーレ」からスタートした作品ですが、もっと言え震災原子炉問題私達関わらざる得ないエネルギー問題そういった社会における自分たち重力見えない重力その調たらしめるものだろうっていうその問いを、震災以降私達日常で認識するために作っ作品だったです

昨年、国立美術館大きな展覧会させいただいて、美術館いう展示することができました。そこやはり日常ではなく日常空間で、作品さんいただくことできました。その日常空間だからこそ日常もの考えたりするよう先ほど⼭峰さん二つ時間というおされましたが、違っその側面考えるきっかけしたい。

屋外公園日常自体に、日常アート作品関わったらどんな空間生まれるのだろうもしくは日常アートというもの美術館いうところしか成り立たないかもしれないですそういったもの美術館出てこの日常空間立ち現れときそれアートなる何かその問い生まれるまたその関わりどういうもの生み出しいくっていう挑戦ここではできるじゃないいうふう思っどんどんどんどんそういうも巡っいます」と語りました。

2.永⼭祐⼦《はなのハンモック》(会場:第⼀花壇)

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永⼭祐⼦氏


1975年東京⽣まれの建築家 永⼭祐⼦。1998年昭和⼥⼦⼤学⽣活美学科卒業。1998年⻘⽊淳建築計画事務所勤務。2002年永⼭祐⼦建築設計設⽴。主な仕事に、「LOUIS V UITTON 京都⼤丸店」「豊島横尾館」「ドバイ国際博覧会⽇本館」「JINS PARK」「膜屋根のいえ」「東急歌舞伎町タワー」など。主な受賞歴に、JIA新⼈賞(2014)、World Architecture Festival 2022 Highly Commended(2022)、i FDesign Award 2023 Winner(2023)など。現在、2025年⼤阪・関⻄万博にて、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」と「ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier」(2025)、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などの計画が進⾏中です。

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《はなのハンモック》


永⼭祐⼦は作品《はなのハンモック》について、「今回こういうお話いただいて、日比谷公園訪れに、普段建築設計してますので、ある意味敷地来たみたいどこ置くと、よりこの公園新しい体験することできるっていう目線で色々見て回りました。

一番最初入っこの広い芝生広場そこ何かが生えていて、お花その足元を覆っているようなだったですが、普段それどちらかいう遠くから鑑賞するものして置かてる思うですが、何かちょっと触れ合っみたい

例えば、お花畑あっ素敵思ってもその転がること多分できない思うですが何かこういったハンモックあれその花畑転がるみたいを、もしかすると体験できるじゃないかといったことから、中心花畑作って、その転がる体験作りたい思いました。

ハンモックは、の漁網リサイクルしたもので、ゴミ問題自然環境気候変動みたいな、そういうも私達身近問題してだんだん迫っている思うですそういった教科書伝えるのでなくて、例えば子供遊びを通して、このハンモック漁網を一度再生して作っものっていうストーリーまで、興味持っもらえると嬉しいです」と述べています。

3.永⼭祐⼦《はなの灯籠》(会場:⼼字池)

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《はなの灯籠》


永⼭祐⼦は、光の粒を携えた花⼀輪を、来場者の⽅々の⼿で⽔辺に浮かべてもらうワークショップ《はなの灯籠》に関して、以下のようにコメントしています。

この場所来たときに、⼼字池が最初入ってきたのですが、ただどうしても鬱蒼が生えているのでなかなか水辺寄れないですが、今回このセットして浮かべワークショップ予定していますがそういった体験ワークショップやることによって少し水辺近づくきっかけできるじゃないと思いました。

この公園はすごく色々なもの色々な場所に、すでにポテンシャル高い状態ありそれどうやっ作っ作品を通して新しく発見できるってことが、すごくやりたかっことです。そういう自分にとって公園みたいそれぞれ発見してもらいながら体験して、またそういった経験持ち帰っもらえたらいうふう思っています」

4.細井美裕《余⽩史》(サウンドインスタレーション)(園内各所)

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細井美裕氏


1993年⽣まれの細井美裕。マルチチャンネル⾳響をもちいたサウンドインスタレーションや、屋外インスタレーション、舞台作品、また、⾳を⼟地や⼈の記憶媒体として扱いサウンドスケープを再構築するなど、⾳が空間の認識をどう変容させるかに焦点を当てた作品制作を⾏っています。⻑野県⽴美術館、愛知県芸術劇場、NTT インターコミュニケーション・センター [ICC]、⼭⼝情報芸術センター[YCAM]、国際⾳響学会、⽻⽥空港などで作品を発表しています。

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《余⽩史》


細井美裕は《余⽩史》について「普段、作品作っまして、今回大巻さん永山さん圧倒的ビジュアル作品作られることを、参加する段階把握していたのでそうであれもう振り切っても大丈夫そうだ思いまし作品して日比谷公園アーカイブする、公的アーカイブするという、リサーチベースプロジェクトなっています。

具体的には、信頼しているもの見方している作家さんやサウンドエンジニア研究者方、公園含む研究方々といった、普段は音を使っない視点録音あってもいいじゃない思いました。

そういった方々1ヶ月くらいかけ日比谷公園色々なところ彼ら主観録音していただきました。将来的そのデータから環境状況分析する可能性っていう踏まえ人間可聴域ではない帯域、例えばものすごい低い振動ものすごい高いとか、にかく普段聞こえていないこの環境キャプチャーするためデータっていう収録あわせ行っまして、合計おそらく50以上に今回の録音参加していただきました。

アウトプットして公園園内放送スピーカーのみ使用することしました公園過去鳴らしきたこの瞬間重ね出せたらいい思いました」とコメントしています。

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西内まりや氏


スペシャルゲストとして登壇した西内まりやは「この歴史ある日比谷公園とい場所入っ瞬間、遠く見える皆さん作品に、何かいつも公園に来ている感覚とまた違う、ワクワクし気持ちになりました。

先程、実際ハンモックそべったのですが、そうやっ何歳なっ公園来て楽しめ空間ということ、またこういった機会が日本でももっともっと増えたらって思っていたので、とても嬉しかっですし、たくさん伝えいけたらっていうふう思いました」と述べました。


以上、⽇⽐⾕公園にて開催中の「Playground Becomes Dark Slowly」について、ご紹介しました。日の光と影の移り変わりをアートとして捉え、訪れる人々に新たな感動をお届する本プロジェクトを、ぜひ楽しんでください。


■「Playground Becomes Dark Slowly」
会期:2024年4⽉27⽇(⼟)〜5⽉12⽇(⽇)
会場:⽇⽐⾕公園(千代⽥区⽇⽐⾕公園)
時間:9:00〜22:00
⼊場:無料・予約不要
公式サイト:https://www.tokyo-park.or.jp/s...
※気象災害等により、イベントや⼀部サービスを中⽌・休⽌・変更することがあります。
※ご来園前に「Playground Becomes Dark Slowly」特設サイト・公園協会X(旧Twitter)にて最新情報
をご確認ください。

世界各国のアーティスト13名が、世界中で愛され続けている「スター・ウォーズ」のキャラクターたちを表現するアートプロジェクト

2024/05/07
by 遠藤 友香

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1977年の全米公開以来、40年以上にわたって世界中で愛され続けている「スター・ウォーズ」。銀河を巡る数々の伝説と、キャラクターが持つ無限の可能性への称賛は今なお根強く、何百万ものファンを魅了し続けています。

”光と闇の戦いを描く壮大なアドベンチャー“に、世代を超えて全世界の観客が熱中し、伝説の数々が生み出されてきました。

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そんな「スター・ウォーズ」シリーズに結び付く「PASSION/STRENGTH/POWER」をテーマに、世界各国のアーティスト13名が、様々な「スター・ウォーズ」のキャラクターたちを表現するアートプロジェクト「STAR WARS EXHIBITION ”PASSION STRENGTH POWER”」が、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の協力の下、渋谷PARCO 4F「PARCO MUSEUM TOKYO(パルコミュージアムトーキョー)」にて、2024年5月13日まで開催中です。本展のキュレーションは、株式会社NANZUKAが担当しています。

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本展にはスペイン人アーティスト、フリオ・アナヤ・キャバンディング(Julio Anaya Cabanding)、韓国人アーティスト、スティッキーモンガー(Stickymonger)とユーン・ヒュップ(Yoon Hyup)、 アメリカ人アーティスト、ヒブル・ブラントリー(Hebru Brantley)とダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)、フランスからはニコラ・ジュリアン(Nicolas Jullien)、イギリス人アーティスト、ジェームス・ジャービス(James Jarvis)、そして本展キービジュアルを担当した日本人アーティスト佃弘樹の他、パブリックアートを制作する大平龍一、中村哲也、YOSHIROTTEN、TOKI、そして空山基が参加しています。各アーティストたちは、それぞれに思い入れのあるキャラクターたちを、様々な手法、メディア、スケールで独自の作品として制作。

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「ミレニアム・ファルコン」


展覧会期と合わせて、大平龍一が制作した、「ダース・ベイダー」や「ミレニアム・ファルコン」の大型立体作品がパブリックアートとして登場しています。

度重なる特殊な改造によって、明らかに違法なレベルに達した「銀河系最速のガラクタ」宇宙船、「ミレニアム・ファルコン号」。「改造」「最速」をコンセプトに、大平がチェーンソーとバーナーを手に12分の1スケールで制作しました。渋谷 PARCO 1F公園通り側には「ミレニアム・ファルコン」、スペイン坂広場には象徴的な「ダース・ベイダー」と「ストームトルーパー」のパブリックアートが高さ3mスケールで登場。

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また、本展では展覧会開催を記念した展覧会記念商品、例えばポスターやポストカード、ステッカーの販売も行われています。

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その他、NANZUKAギャラリーに所属する中村哲也、佃弘樹、ジェームス・ジャービスの3名のアーティストが「スター・ウォーズ」の世界観を、スペシャルアートワークで落とし込んだ展覧会限定カラー・アディダス オリジナルスのシューズを数量限定で販売。ぜひ、お気に入りのアイテムを見つけてみてください。

本展のキービジュアルを制作した佃弘樹は、今回の作品について、次のように語っています。

『「スター・ウォーズ」のキャラクターのなかで一番好きなキャラクターは?と聞かれても多すぎて答えられませんが、「ダース・ベイダー」は別格です。「ダース・ベイダー」は、善と悪、生と死、親と子、それら全ての象徴でもあります。今回はそんな「ダース・ベイダー」が描けて光栄です』。


■「STAR WARS EXHIBITION ”PASSION STRENGTH POWER”」

会期:2024年4月26日(金)〜 5月13日(月) 

時間:11:00-21:00

※入場は閉場の30分前まで

※最終日18時閉場

※営業日時は変更となる場合があります。渋谷PARCOの営業日時をご確認ください。https://shibuya.parco.jp/

※会場での混雑状況により入場待機列の形成及び整理券の配布を行う場合があります。

会場:PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)

東京都渋谷区宇田川町15-1

入場料:一般 1,000円(税込)/小学生以下無料 ※その他、株主優待を含む割引対象外

滋賀県立美術館開館40周年記念! 精神障害者や独自のつくり手による作品が一堂に集結した「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。」

2024/05/02
by 遠藤 友香

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滋賀県立美術館の外観

執筆者:遠藤友香


1984年8月26日に滋賀県立近代美術館として開館した「滋賀県立美術館」。 2017年4月1日から、改修工事のため長期休館し、2021年4月1日付けで、時代や傾向を限定することになる「近代」を館名から外し、滋賀県立美術館という名称になりました。

2021年6月27日に再開館し、目指す姿として「リビングルームのような美術館」を掲げるとともに、開館以来の作品の収集方針である「日本美術院を中心とした近代日本画」、「滋賀ゆかりの美術・工芸等」、「戦後のアメリカと日本を中心とした現代美術」に、「芸術文化の多様性を確認できるような作品」といった柱が一つ加わりました。

美術館というと、静かに作品を鑑賞しなければならないといった固定観念がありますが、滋賀県立美術館では、しーんと静かにする必要はなく、おしゃべりしながら過ごすことができるので、小さなお子さんがいる方にもおすすめ。飲食可能なキッズスペースも完備されており、お子さんと一緒に本を読んだり、休憩することもできます。展覧会を観覧しなくても利用可能です。

また、目が見えない、見えづらいなどの理由でサポートを希望される方や、その他来館にあたっての不安をあらかじめ伝えていただいた場合は、可能な限り対応してくれるので、安心して作品鑑賞を楽しむことができます。

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そんな鑑賞者に優しい滋賀県立美術館で、開館40周年記念として2024年6月23日まで開催中なのが『つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人―たとえば、「も」を何百回と書く。』展です。日本語では、「生(なま)の芸術」と訳されてきたアール・ブリュット。1940年代、フランスの画家、ジャン・デュビュッフェが、精神障害者や独学のつくり手などの作品に心を打たれ、提唱した美術の概念です。本展では、2023年に日本財団より受贈した、45人の日本のアール・ブリュットのつくり手による作品約450点を展示します。

たとえば、「も」を何百回と書いたり、他人には読めない文字で毎日同じ内容の日記を記したり、寝る間を惜しんで記号を描き続けたり―冴えたひらめきや、ひたむきなこだわりを形にするため、出どころの謎めいた発想と熱量をもって挑む、そんな冒険的な創作との出会いを楽しむことができます。

45人の作品が滋賀県立美術館に収蔵されるまで

2010年、フランス・パリのアル・サン・ピエール美術館で「アール・ブリュット・ジャポネ(邦訳:日本のアール・ブリュット)」展が開催されました。この展覧会では、滋賀を含む全国各地でその才能を見出された障害のある人や独学のつくり手たちの作品が日本のアール・ブリュットとして紹介され、話題を呼びました。さらに、会期後日本に戻ってきた作品群による巡回展が国内各地で開催され、逆輸入的に日本でもアール・ブリュットが注目を集めるきっかけとなりました。

本展に出品される45人の作品は、「アール・ブリュット・ジャポネ」展に出展された後、日本財団により所蔵されていたのもので、2023年にさらなる活用を目的に、アール・ブリュットを収集方針に掲げる国内唯一の公立美術館である本館に寄贈(寄託を含む)されました。これにより、本館は世界でも有数のアール・ブリュット作品のコレクション(731件)を有する美術館に。

5つの構成からなる展覧会

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本展覧会は、「1.色と形をおいかけて」、「2.繰り返しのたび」、「3.冒険にでる理由」、「4.社会の密林へ」「5.心の最果てへ」といった5つのセクションで構成されています。

1.色と形をおいかけて

色と形、それはなにかをつくるとき、大切な要素です。本章の作品の中には、色と形をめぐる様々な試みをみることができます。まず、色。一つの色で描くのか、複数の色を用いて描くのか、配色に規則性を作るのか、それとも直感に従って画材を手にとってみるのか。

また形。モチーフの形に近づけていくのか、それとも離れていくのか、頭の中のとらえどころのないイメージを形にしてみるのか、いっそ手の動くままに任せてみるのか。

こうした思索や選択は、当然つくり手の内面ーひらめきや、気の迷い、動かす手の喜び、そういったものとも折り重なり、独自の色と形の表現が生み出されていくといえるでしょう。

本展の作品のなかにも、色と形をめぐる様々な試みをみることができます。その中には、つくり手のひらめきや、気の迷い、動かす手の喜びなどが透けて見えてくることでしょう。

村田清司

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京都府生まれの村田清司は、滋賀県にある福祉施設「信楽青年寮」で暮らし、活動を行いました。1987年に絵本作家である田島征三に出会い、彼の助言により、他の作業よりも絵を描くことを優先した日々を送るようになります。

初期はマジックペンを用いて点描をしていましたが、その後パステルで描くようになりました。ほとんどの作品の中央には、顔と思われるものが描かれていますが、周囲を取り囲む色や形と混じり合っているのが特徴的です。

大梶公子

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北海道生まれの大梶公子は、北海道深川市の福祉施設「あかとき学園」に所属し、制作を行いました。作品には、滲み重なり合った線で大小の人の顔が無数に描かれています。

彼女の作品の始まりは、無数に並んだ「丸」の中に「丸」を描き始めたことでした。それがいつしか目や鼻を思わせるものとなり、やがて手足や毛のような線が引かれるようになりました。しかし、作品が注目された途端に、彼女は「描かんよ」と宣言し、以後は制作しませんでした。

2.繰り返しのたび

本章では、繰り返しを中心とした作品を紹介します。繰り返されているものも様々で、自分の名前、お母さんの肖像、同じ内容の日記などなど……。

紙面を埋め尽くすかのような反復表現に、何か執念のような猛烈なエネルギーを感じる人もいるのではないでしょうか。ですが、例えば、日常の中で繰り返しに落ち着きを感じる、そんな経験はないですか? 梱包材の「ぷちぷち」を押し潰すことに夢中になったり、いつもの味噌汁の味にホッとしたり。

ここで紹介するつくり手たちの反復的表現には、人間にとって執念にも落ち着きにもなり得る繰り返しについて、考えるためのヒントを与えてくれることでしょう。

滋賀俊彦

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京都府生まれの滋賀俊彦は、滋賀県甲賀市の福祉施設「信楽青年寮」で暮らし、制作を行いました。滋賀の母によれば、母がかけている眼鏡が頻繁に描かれているとのことであり、おそらく滋賀は、自身の母の姿を描いていたものと考えられます。

紙の両端は黒く塗りつぶされ、人間のような顔は、茶碗形をした輪郭に付けられた髪の毛、大きく飛び出した目で描かれています。そしてまっすぐに伸びている身体や、ただの線で描かれた腕や脚など、描き方は全て同じであることが特徴的です。

齋藤裕一

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埼玉県生まれの齋藤裕一は、埼玉県川口市の福祉施設「工房集」に通い、制作していました。作品に描かれているのは「ひらがな」であり、例えば「も」や「はみ」が何度も繰り返されています。

文字はその日のテレビ番組が元となっており、「も」は「ドラえもん」で、「はみ」は「はみだし刑事」です。番組名に由来するひらがなを、何層にも重ねていくユニークな方法で、文字の集合とは思えないような、抽象的なイメージが生まれています。

3.冒険にでる理由

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本章では、つくり手たち自身を捉えた映像を観ることができます。45人のつくるフィールドの多くは、障害者福祉施設や精神科病院などの福祉的現場です。こうした背景からも推察できるかもしれませんが、彼らのほとんどは美術作品を手掛けているという意識はなく、むしろ自分らしく生きていくことの延長線上として、つくるという行為を営んでいるといえるのかもしれません。

4.社会の密林へ

路上に落ちていたモノを拾い集めてつくったオブジェや、独特に着飾った派手な服装で町中を行くパフォーマンス、また自分の知る人々の顔、乗り物の精巧な再現など、ここでは自らが生きる社会を構成する人やモノへの関心を感じさせる作品を展示しています。

アール・ブリュットのつくり手たちは、これまでむしろ社会との関係の希薄さを切り口に語られることが多かったといえます。人知れず、黙々とつくり続ける、そういうイメージが重ねられることもしばしばあったといえるでしょう。

しかし、ここで鑑賞できる作品群には、必ずしもそのような印象は当てはまらないといえます。作品からは、むしろこの世界と繋がろうとする想いが感じ取れることでしょう。

八島孝一

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大阪生まれ、大阪在住の八島孝一。八島の作品は、その材料の全てが「彼が拾い集めた物」でできています。大阪府大阪市の福祉施設「ぶるうむ此花」に所属する八島は、通所する施設の道すがら、拾ったものを持ち帰るという習慣があったようです。

1996年頃から、それらをセロハンテープで繋ぎ合わせて小さなオブジェをつくることを始め、2013年頃まで行っていたとされています。多数の素材を、それぞれの形状や特性を活用しつつミックスしたり、最小の組み合わせで的を射た形を表現したり、作品には八島の巧妙なアイデアが滲んでいます。

宮間英次郎

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三重県生まれ、神奈川県在住の宮間英次郎。宮間は、大きな帽子と派手な衣服を身に着け、主に横浜を拠点に繁華街を自転車でゆっくりと回遊するパフォーマンスをしていました。

60歳の頃、ふと思いついてカップラーメンの容器を頭に被ってみると人が振り返り、それに造花を刺すと、さらに多くの人が振り返ったそうです。

こうした体験を経て、帽子や衣装はどんどん奇抜さを増していきました。金魚が入った瓶のついた重い帽子を片手で支えつつ、自転車で人混みを縫うようにして走っていく宮間は、やがて「帽子おじさん」として注目されるようになりました。

5.心の最果てへ

激しい感情を表明したり、やすらぎを求めたり、過去の記憶を掘り起こしたり、我を忘れて何かに没頭したりー本章で鑑賞できる作品からは、そういった心の動きを感じ取ることができるでしょう。

また、本章の展示の中には、精神科病院での長い入院生活の中でつくり続けていた人たちも含まれています。

冒険といえば、外の世界に果敢に飛び出していくようなイメージがあるかもしれません。しかし、つくる冒険においては、私たちの内側にある心も無限に広がる冒険の舞台ともいえます。では、その最果てに何があるか。ここにある作品は、自分でも言葉にすることができないような心の果てへアクセスするための方法であったともいえるのかもしれません。

秦野良夫

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群馬県生まれの秦野良夫は、群馬県藤岡市の福祉施設「かんなの里」に所属し、制作を行いました。秦野の絵は、自宅に関する彼の古い記憶を描いたもの。しかし、本人があまり話さないため、彼の兄が作品を見るまで、誰も彼が何を描いているのか分からなかったようです。

彼は菓子箱を定規代わりに、ゆったりとしたペースで描きました。彼にとってこの絵を描くということは、頭の中にしか存在しない過去の自宅の景色を、紙の上に定着させていくような作業だったのかもしれません。

澤田真一

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滋賀県生まれ、滋賀県在住の澤田真一。滋賀県栗東市にある福祉施設「第二栗東なかよし作業所」に所属し、制作を行っています。

表面全体を小さなトゲと線刻が覆う、個性的で力強い造形の作品を制作しています。作品のサイズや形状が様々であり、出来上がった作品は、スタッフたちによって丸3日間ほど薪を燃やして窯で焼かれ、炎ならではの自然なゆらぎのある赤茶色に色付いていきます。

展示作品は、2007年付近の澤田の作風であり、彼の制作スタイルは時代によって変わっていくため、現在の作品の姿形はまた異なります。

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オープニングセレモニーの様子。(左から)保坂健二朗 滋賀県立美術館ディレクター(館長) 石川一郎 京都新聞社滋賀本社代表 吉倉和宏 日本財団常務理事 三日月大造 滋賀県知事


本展のオープニングセレモニーにおいて、滋賀県立美術館ディレクター(館長)の保坂健二朗氏は「今から11年2013年に、滋賀出身澤田真一さんヴェネチア・ビエンナーレの日本ではなくむしろそちらすごいですが企画展部門招待され大きな話題呼んことは、記憶いらっしゃる思います

ヴェネチア・ビエンナーレに出展されたことを始めして、例えば澤田さん作品始めする日本アール・ブリュットいうもの世界中美術館で、あるいはギャラリーあるいはコレクターによって注目の的になっており、欲しいとなっています。

国立近代美術館入っいるパリのポンピドゥー・センターは、2前の2022年に、900アールブリュット作品受贈しました。「ABCDコレクション」いう大きなコレクションあっ2008年当館そのコレクション展覧会開催しているのですがそのABCDコレクションを、パリ国立近代美術館受贈したです

これなかなかすごいことでし要するにパリ国立近代美術館ポンピドゥー・センターというは、いわば世界美術史作ろうしてきたところで、その美術館アール・ブリュット収蔵するいう、これまでのスタンダード変えいこう女性参加検証しようとかアフリカ黒人アートとか、色々なきちんと評価していこういう動きプロではない作り作品きちんと評価していこうではないいうことを、世界リーディングミュージアム考えいるいうこと示すわけです。

900点、ポンピドゥー・センター受贈したのですが、澤田さん作品含まいるいう4です。少ないじゃない思われるかもしれないですが、ポンピドゥー・センター4作品入るって結構すごいことです

ABCDコレクション場合には、元々3000点規模作品あって、そのうち900選んいるわけですが、そのうち4澤田さん作品いうところで、どれだけ彼ら澤田さん作品に注目している、また澤田さん限ら日本作家入っいるですが、そうしたこといただけると思います」と述べました。

以上、滋賀県立美術館開館40周年記念として開催中の『つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人―たとえば、「も」を何百回と書く。』展についてご紹介しました。生きるうえでの彼らのモチベーションにもなっているであろう制作された作品を鑑賞し、彼らの想いに寄り添ってみていただけますと幸いです。



■滋賀県立美術館開館40周年記念『つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。』

会期:2024年4月20日(土)〜6月23日(日)

休館日:毎週月曜日(ただし休日の場合には開館し、翌日火曜日休館)

開館時間:9:30-17:00(入場は16:30まで)

会場:滋賀県立美術館 展示室3

滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1

TEL:077-543-2111 (電話受付時間 8:30~17:15)

観覧料:
一般 950円(800円)
高校生・大学生 600円(500円)
小学生・中学生 400円(300円)
※お支払いは現金のみ
※( )内は20名以上の団体料金
※企画展のチケットで展示室1・2で同時開催している常設展も無料で観覧可
※未就学児は無料
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳をお持ちの方は無料

つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人 ―たとえば、「も」を何百回と書く。 | 滋賀県立美術館 (shigamuseum.jp)

「DESIGNART TOKYO 2024」のテーマとキービジュアルが決定!

2024/05/01
by 遠藤 友香

世界屈指のミックスカルチャー都市である東京を舞台に、デザイン、アート、インテリア、ファッション、テクノロジーなど、都内各所で多彩なプレゼンテーションを繰り広げる回遊型イベント「DESIGNART TOKYO」。8年目を迎える「DESIGNART TOKYO 2024」は、2024年10月18日(金)から10月27日(日)の日程で開催されます。昨年のべ21万人の来場者が訪れた日本最大級のデザイン&アートフェスティバルです。

今年のテーマは「Reframing -転換のはじまり-」

これまでの概念や枠組みにとらわれず、別の視点から見つめ直すーまだ誰も見たことのないものをつくるために、熟考を繰り返し、手を動かし続けることには、大きな価値があります。社会を前進させる画期的なアイデアや、自由で心躍るクリエイションは、その営みから生まれてくるのかもしれません。人々の感性に刺激を与え、日々に喜びをもたらすデザインやアートは、見る人の新たな視点を引き出し、次の時代を拓く原動力となるでしょう。手繰り寄せたい未来は、自分を信じて、動き続けた先に、いつもの日常を変える、「DESIGNART TOKYO 2024」が始まります。

フォトグラファー小川真輝によるキービジュアルを公開

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「DESIGNART TOKYO 2024」のキービジュアルは、今年のテーマ「Reframing -転換のはじまり-」をイメージソースに、スティルライフフォトグラファーとして様々な媒体や広告などで活躍する注目の写真家、小川真輝が撮影しました。

日用品やデザインプロダクトなどいつも目にしている被写体も、視点を変える(リフレーミング)ことで、新しい発見と美しく変貌する可能性を持っている、それに気付く感性と視点、追及し続ける姿勢へのリスペクトを、今年のテーマと重ねて4種のビジュアルで表現しました。本作品は会場のファサード、サインやツールなど多様な媒体に形を変えて、開催エリアに展開予定です。

小川真輝は「一度は目にしたことのある日用品やプロダクトを撮影しました。回転させる事で形や色に変化をもたらし、境界は曖昧になり、互いが混ざりながら新たにイメージをつくります。この残像は、見る人に普段とは異なる視点や気づきのきっかけになればと思い制作しました」と述べています。

PLAN A 、PLAN B・ PLAN C(第2期)出展エントリーを募集中

2024年3月1日よりエントリーを募集しておりますが、すでに多くの方にエントリーをいただいています。DESIGNART TOKYOでは現在、PLAN Aの募集を行っています。尚、 PLAN B・ PLAN C(第2期)につきましては、4月30日(火)が最終のエントリー締切でした。

エントリー期間:PLAN A 2024年3月1日(金)~ 5月31日(金)

エントリーページ DESIGNART TOKYO 2024 ENTRY – DESIGNART

オンライン個別相談 

実施期間 〜5月31日(金)まで  平日11:00ー18:00

DESIGNART TOKYOはオンライン個別相談も受け付けており、下記項目をご記入の上、exinfo@designart.jpまでご連絡ください。担当者より追ってご連絡します。

(お名前(フリガナ)、ご連絡先(メールアドレス、電話番号)、会社名(ブランド名)、URL(ウェブサイト・SNS)、ご希望日時(第1希望、第2希望)、ご相談内容)


世界から新しい叡智が集結する「DESIGNART TOKYO」に、ぜひご期待くださいね!


■DESIGNART TOKYO 2024  

会期:2024年10月18日(金)〜10月27日(日)の10日間  

エリア:表参道・外苑前・原宿・渋谷・六本木・広尾・銀座・東京

発起人:青木昭夫(MIRU DESIGN)/川上シュン(artless)/小池博史(NON-GRID・IMG SRC)/永田宙郷(TIMELESS)/アストリッド・クライン(Klein Dytham architecture)/マーク・ダイサム(Klein Dytham architecture)

オフィシャルウェブサイト:https://designart.jp/designarttokyo2024/

国立新美術館とM+(エムプラス)が国際連携に関する覚書に調印

2024/05/01
by 遠藤 友香

(左から)国立新美術館長 逢坂恵理子氏、M+館長 スハーニャ・ラフェル氏

M+ signs MOU with The National Art Center, Tokyo, Japan Photo: Winnie Yeung @ Visual Voices Courtesy of West Kowloon Cultural District Authority


執筆者:遠藤友香

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©国立新美術館
©The National Art Center, Tokyo


芸術を介した相互理解と共生の視点に立った新しい文化の創造に寄与することを使命に、2007年、独立行政法人国立美術館に属する5番目の施設として開館した国立新美術館。以来、コレクションを持たない代わりに、人々がさまざまな芸術表現を体験し、学び、多様な価値観を認め合うことができるアートセンターとして活動しています。具体的には、国内最大級の展示スペース(14,000㎡)を生かした多彩な展覧会の開催や、美術に関する情報や資料の収集・公開・提供、さまざまな教育普及プログラムの実施に取り組んでいます。

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The MOU signing ceremony at the Hong Kong Palace Museum raised the curtain for the Hong Kong International Cultural Summit 2024 Photo: Winnie Yeung @ Visual Voices Courtesy of West Kowloon Cultural District Authority


この度、3 月24日に国立新美術館長の逢坂恵理子は、WKCD(香港西九龍文化地区)で開催された香港国際文化サミット2024において、現代美術館M+(エムプラス)との国際連携に関する覚書に調印しました。

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M+, Hong Kong Photo: Kevin Mak © Kevin Mak Photo: Courtesy of Herzog & de Meuron


M+は、香港の西九龍文化地区に位置し、近現代の視覚文化を紹介するアジア最大級の美術館です。20世紀から21世紀にかけてのビジュアル・アート、デザイン、建築、ムービング・イメージ、香港のビジュアル・カルチャーの収集、展示、解釈を専門としています。

イギリスのテート、フランスのポンピドゥ・センターなど世界各地の主要な芸術文化機関と並び、国立新美術館は、今回M+とパートナーシップを締結する唯一の日本の機関です。このパートナーシップでは、両館のキュレーターが展覧会を共同企画いたします。1990年代から2000年代の日本の現代美術に焦点をあてた企画です。

今回のパートナーシップ締結に際して、逢坂は「この国立新美術館とM+共同企画では、両館のキュレーターが、海外と日本からの視点により、日本の現代美術の20年を振り返り検証します。グローバル化と内向化が加速したこの時代特有の現代美術を、複数の文脈から紐解く展覧会となるでしょう」と述べています。

本展覧会は、2025年秋より国立新美術館を会場に開催し、主催は国立新美術館、共催はM+となります。展覧会の会期等、詳細は2024年秋頃発表予定です。