石牟礼道子原作、志村ふくみが衣装を担当した、金剛流の能楽「沖宮」の際に着用された着物
1984年8月26日に滋賀県立近代美術館として開館した「滋賀県立美術館」。日本画家の小倉遊亀(滋賀県大津市出身)や染織家の志村ふくみ(滋賀県近江八幡市出身)のコレクションは国内随一を誇っています。2023年度末時点の収蔵件数は、日本画・郷土 1,291件、現代美術 567件、アール・ブリュット 731件の合計2,589件です。
本館では、しーんと静かにする必要はなく、おしゃべりしながら過ごすことができます。目が見えない、見えづらいなどの理由でサポートを希望される場合や、そのほか来館にあたっての不安をあらかじめ伝えていただいた場合には、事前の情報提供や当日のサポートの希望に可能な範囲で対応してくれるなど、鑑賞者に大変優しい美術館です。
そんな滋賀県立美術館にて、紬織の人間国宝である染織家、志村ふくみの生誕100年を記念して、故郷滋賀で約10年ぶりとなる個展「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」が、2024(令和6)年11月17日まで開催中です。
滋賀県近江八幡市出身のふくみは、30代の頃、実母の影響で染織家を志し、植物染料による彩り豊かな染めと、紬糸(節のある絹糸)を用いた紬織に出会います。特定の師にはつかず、自らの信念を頼りに道を進むうちに、生命力あふれる色の表現、文学や哲学といった多彩な芸術分野への探究心に培われた独自の作風が評価され、1990(平成2)年、紬織の人間国宝に認定されました。
本展では、国内屈指の規模を誇る滋賀県立美術館収蔵の志村ふくみ作品と館外からの借用作品、作家ゆかりの資料など合わせて80件以上を展示し、初期から近年までの歩みをたどります。合わせて、ライフワークである「源氏物語シリーズ」や、ふくみの心のルーツであり、制作においても重要な位置を占める滋賀をテーマにした作品を紹介します。
また、ふくみは染めや織りの仕事と共振させるかのように言葉を紡ぎ、第10回大佛次郎賞を受賞した初の著作『一色一生』(1982(昭和57)年)など、これまで20冊以上の著作を刊行しています。本展では随筆家としての活動にも注目し、染織作品や故郷、仕事への思いを語るさまざまな言葉をご紹介します。
ふくみは、本展に以下の言葉を寄せています。
「百歳を迎えた今、ゆかりの深い滋賀県立美術館で展覧会を開催していただくことは大きな喜びでございます。同時に染織家として責任も感じています。
私の生きた一世紀と、次の一世紀を思うとその違いに慄然といたします。
地球の環境全てが大きく変わってしまいました。
琵琶湖を藍甕(あいがめ)に例えるなら、この先も美しい色彩がそこから生まれ出ることを祈って止みません」。
次に、四章で構成される展示についてご紹介します。
第一章 近江八幡の水辺から
1924(大正13)年、琵琶湖畔の町である滋賀県近江八幡で小野元澄(もとずみ)、豊(とよ)の間に次女として生まれたふくみは、幼い頃に実父の弟、志村哲(さとる)夫妻の養女となりました。やがて自身の出自を知ったふくみは、かつて京都で民藝運動に携わったこともある実母の手引きによって、1955(昭和30)年より故郷で染織家としての活動を始めます。特定の師を持たず、素朴ながらも独自の感性に裏打ちされた作品が近江八幡の工房で生み出され、1957(昭和32)年、第4回日本伝統工芸展に初出品で初入選を果たします。
随筆家としてのふくみの歩みも、またかの地から始まったといえるでしょう。ふくみが最初にまとまった文章を発表したのは1954(昭和29)年、早世した実兄、小野元衞(もとえ)について記した「兄のこと」。近江八幡の実家で、元衛の枕元に寄り添った看病の日々が綴られています。
本章では、日本伝統工芸展に初出品し染職家として歩み始めた近江八幡時代の紬織作品と、関連する言葉を紹介します。
《方形文綴織単帯》が日本伝統工芸展に入選し、染職家としてのデビューを飾ったふくみでしたが、引き続き特定の師にはつかず、地元の職人に教えを乞いながら、手探りで技術を身につけようともがく毎日でした。そのような日々の中で、ふくみは緑濃い草むらや竹やぶの薄暗がりを思わせる1領を織り上げます。実母との何気ない会話の中から《鈴虫》と命名された本作は、晩夏の近江八幡の情景を思わせる、初期の代表作です。
第二章 広がる色と言葉の世界
1968(昭和43)年、ふくみは近江八幡から京都嵯峨に工房を移します。この時期、多くの交流や旅などを通してふくみの視野は一気に広がりました。やがて生命力あふれる色の表現、文学や哲学といった多彩な芸術分野への探究心に培われた独自の作風が評価され、1990(平成2)年には、いわゆる人間国宝である重要無形文化財保持者(紬織)に認定。2013(平成25)年には、染織を学ぶ場として「アルスシムラ」を設立し、後進の育成にあたるようになります。
旺盛な染織作品の制作と歩調を合わせるかのように、言葉による表現にも積極的に取り組みました。1982(昭和57)年に出版された随筆集『一色一生』(求龍堂)は、翌年に第10回大佛(おさらぎ)次郎賞を受賞。自身が興味を抱いたさまざまな領域を行き来しながら紡ぎ続ける言葉は、いまも多くの読者を魅了しています。
本章では、より独自性の強い作風へと展開を見せた、京都嵯峨の工房への転居後から現在に至るまでの作品を展示します。
何本かずつ束になったロウソクの一群が、藍の地の上に炎を揺らめかせています。イタリア旅行の際、ふくみは田舎の教会でミサが行われているところに遭遇しました。祈りを捧げる人々を取り囲むように、堂内を埋め尽くしたおびただしい数のロウソクの炎が印象的だったといいます。本作は、その旅行の体験をもとに制作されました。炎とロウソクには絣の技法が生かされ、炎の背後に白いぼかしを入れることで、炎の揺らぎを表現しています。
第三章 王朝の世界に遊ぶ 「源氏物語シリーズ」より
ふくみが京都で工房を構えた嵯峨には、歴史ある名刹が点在しています。『源氏物語』の主人公、光源氏のモデルと言われる平安時代の実在の人物、源融(みなもとのとおる)が眠る清凉寺もその一つです。ある日、散歩の途中に清凉寺を訪れたふくみは源融の墓所の存在を知り、遠い王朝の世界が一気に身近に感じられるようになったといいます。そもそも『源氏物語』は、作者である紫式部が近江石山寺に参籠(さんろう)し、琵琶湖に映る月を眺めていた際に物語の着想を得たことが執筆のきっかけと伝わります。古典文学への造詣が深く、滋賀と京都、両地ともにゆかりの深いふくみにとって、『源氏物語』が深く興味を惹かれるテーマであったことは想像に難くありません。
本章では、ふくみがライフワークとして織りつなぐ「源氏物語シリーズ」から9件を抜粋し、ご紹介します。
琵琶湖がテーマの「湖水シリーズ」の最初期に制作された、記念碑的な1領。ふくみが、「ふと後をふりむくと、湖全体に夕陽が映え、細波が黄金色にきらめいていた。山の端に入日するほんの数刻、湖は燃えるように茜色に染っていた。(「彩ものがたり 湖上夕照」『芸術新潮』1982年12月号)と回顧する琵琶湖の夕焼けの情景が、濃紺地に朱や茶などの色を織り込み表現されています。
第四章 近江 百年の原風景
「琵琶湖は私にとって単なる風景ではない。肉親や愛する人などの終焉の地であり、鎮魂の思いのする湖、いわば私の原風景というべきところである。」(「自然の風景、心象風景を織る」『伝書 しむらのいろ』求龍堂 2013年)と語るように、ふくみにとって琵琶湖は、実兄の元衛(もとえ)をはじめとする大切な人を見送り、人生の再出発を決意した祈りと鎮魂の地でもありました。故郷の近江をこよなく愛したふくみは、京都に工房を移転した後も制作に行き詰まると電車に飛び乗り、琵琶湖を眺めに出かけたといいます。
展覧会の結びとなる本章では、本年100歳を迎えたふくみの原風景である近江、琵琶湖がテーマの作品群をご紹介します。また、植物染料によって染められた「色糸(いろいと)」のインスタレーションも展示。ふくみが故郷で出会い心惹かれた、織り上げられる前の状態の糸の艶や質感をぜひ確かめてみてください。
以上、滋賀県立美術館にて開催中の、紬織の人間国宝である染織家、志村ふくみの生誕100年を記念した個展「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」をご紹介しました。経糸と緯糸が交差して織り出される紬織のように、色と言葉との出会いを美術館でぜひお楽しみください。
■滋賀県立美術館 開館40周年記念「生誕100年記念 人間国宝 志村ふくみ展 色と言葉のつむぎおり」
会期:【前期】10月8日(火)~10月27日(日)
【後期】10月29日(火)~11月17日(日)
※会期中に展示替えを行います。
休館日:毎週月曜日(ただし祝休日の場合には開館し、翌日火曜日休館)
開場時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
会場:滋賀県立美術館 展示室3
観覧料:一般1,200円(1,000円)
高校生・大学生800円(600円)
小学生・中学生600円(450円)
※お支払いは現金のみ
※( )内は20名以上の団体料金
※企画展のチケットで展示室1・2で同時開催している常設展も無料で観覧可
※未就学児は無料
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳をお持ちの方は無料
主催:滋賀県立美術館、京都新聞
特別協力:都機工房
後援:エフエム京都
企画:山口真有香(滋賀県立美術館 主任学芸員)
⽇本有数のビジネス街である⼤⼿町・丸の内・有楽町(⼤丸有)から、社会や経済の未来をアートによるビジョンメイキングを交えて考える都市型のカンファレンスイベント「FUTURE VISION SUMMIT 2024」が2024年11月15⽇まで、⼤⼿町・丸の内・有楽町といった⼤丸有エリアの丸ビル、国際ビル等の複数拠点にて開催中です。
環境問題や資本主義経済の行き詰まり、紛争に格差、予期せぬ疫病や自然災害など、私たちが考える様々な課題を乗り越え、社会経済の新たなモードを築いていくには、ヴィジョナリーやフューチャリストと呼ばれるリーダーたちに見られるクリエイティブ・マインドを持って、まだ見ぬ未来像を描く力が求められていると、FUTURE VISION SUMMITは考えています。その中で「アート」は問題提起力やヴィジョンメイキング、価値創造の源泉とも言え、今後の社会において必要不可欠と言えます。
このような背景において、より良き未来社会を考えていくべく、「アート」を軸に、SDGs、環境問題などの社会課題やこれからの経済について考え、学び合う都市型のイベントがFUTURE VISION SUMMIT 2024です。
東京の国際競争力向上のために、「ビジネスの集積地」である⼤丸有地区がどのような街づくりをするべきかを考えたとき、貨幣経済から共感経済への時代転換を見据え、才能ある尖った人材が惹き付けられる面白い街をつくることで、社会や企業のクリエイティビティやイノベーション力の向上を図りたいとのこと。
本イベントは、リーダーたちのヴィジョンが⽰される「カンファレンス」と、アートを媒介とした多彩な実践・実験的な取り組みを展⽰・ワークショップで紹介する「ショーケース」の2セクションで構成され、今回は「ショーケース」に着目してご紹介します。
1.『どうすれば都市で“ガラス”はサーキュレーションできる?』
普段意識することの少ない建築物のガラス。ですが、周りを見渡すと都市にはたくさんのガラスが使用されています。これらのガラスは建築物の解体後、どこにいくのでしょうか? 実は、建材ガラスのほとんどは埋め立てられています。
ガラスは何度でも同じガラスとしてリサイクル可能な素材であり、今都市づくりに取り組むにあたり、建築ガラスの循環を考えることは重要なアジェンダです。こうした課題認識をともに持つ、世界的なガラスメーカーAGCと丸の内エリア(⼤⼿町・丸の内・有楽町)というビジネス街で、アーティストの活動を呼び込みエリアのサステナビリティ向上に取り組む「有楽町アートアーバニズム (YAU)」は、「都市における素材サーキュレーション」を思索するプロジェクトを2023年秋にスタートしました。
本プロジェクトでは、鉱山や工場への訪問、長い歴史を持つガラスという素材の探求などを、アーティストの内海昭⼦、磯⾕博史とともに実施。このリサーチをベースにしたインスタレーションを展示しています。
2.『クリエイティブ・エコシステムが⽣み出す資本を超えた価値とは?』
ニューヨークにある美術館「NEW MUSEUM」の「新しい芸術、新しいアイディア」を軸とする活動から、2013年に設⽴された「NEW INC」は、アートやデザイン、テクノロジー、サイエンス、起業家といった領域横断的なインキュベーションプログラムを運営しています。これまで600組以上が参加し、27.3万ドルの資⾦調達に寄与してきたプログラムから、今回ナット・デッカーとアミーナ・ハッセンといった2⼈のアーティストを招き、その⼀端を展⽰で体感することができます。
⽇常⽣活において⾞いすを使⽤するナット・デッカーは、クィア、障害を持つアーティストとして、バーチャリティ・アクセシビリティを探究しています。集団的なケアのネットワークや解放から引き離された身体・精神の政治性に着目してリサーチを行い、作品を制作。よりアクセス可能で収容力を持つ実践としてテクノロジーを用い、コンピューターはそれを実現させるための補助的デバイス、また搾取と削除のパターンを映し出す方法に論争を要する、潜在的な空間として捉えています。
本作品は、障がい者の身体の動きと静止、親密なケアのダイナミクスをデジタル上で明らかにしています。肉体の記憶と日常的な動作の魅力を映し出すことで、単純に見えるケアが特に他者の手によって操作されるプラスチックや金属の義肢に具現化するとき、いかに親密さの形として現れるかを示しています。
アミーナ・ハッセンは、都市プランナー・エデュケーター・アーティストとして、様々な環境における公平性を前面に押し出したプロジェクトに情熱を注いでいます。2024年、ニューヨーク州よりクリーン・エネルギーの先駆者として指名され、恵まれないコミュニティにおけるクリーン・エネルギーのプロジェクト開発を専門とする独立系コンサルティング会社の創立者でもあります。
2023年6月、ニューヨーク市の空は、まるで黙示録を思わせるビビッドな琥珀色の「もや」に覆われました。制御不能となった山火事はカナダから瞬く間に流れ、煙は分厚く舞い上がって空気を乾燥させ、しばしニューヨークの上空は最悪な環境になりました。
本インスタレーションの焼けたような琥珀色のフィルムは、当時の記憶を呼び起こす視覚的装置になっています。カーラジオから流れる番組のような音声が、ニューヨーク市民の山火事の経験や空気との関わりを伝えています。
本作品は、大気汚染の主な原因である車社会のあり方へのジェスチャーであり、空気そのものの偏在性を通して、それに国境や統治はなく、私たちの空は繋がっていることを知らせてもいます。
3.《Air on Air》
インターネットを介して、遠隔地に「息」を届ける参加型インスタレーション。鑑賞者がデバイスに息を吹きかけると、離れた場所でシャボン玉が飛び出し、空へと舞う様子をリアルタイムの一人称視点で、画面で眺めることができます。
パンデミックを経て、移動や距離の捉え方が変化した今、この体験は画面の「向こう」に広がる世界との新たな繋がり方を示すとともに、空気や風といった見えない存在を再認識する機会となります。
4.《経験の共有》
昨年2023年度より、YAUはアーティストの田中功起とともに、「経験の共有」プロジェクトを進めています。⼤丸有にある様々な会社組織に所属するオフィス・ワーカーが、社会生活で出会う現実(育児、介護、災害、人間関係など)、普段ならば友人や同僚にも話さないかもしれない個人的な経験をインタビューを通して話してもらい、シナリオを制作。
本展では、そのシナリオをもとにAI音声を使用した作品を発表しています。「誰かの声は、僕の声でもあり、もしかするとあなたの声なのかもしれない」。
5.Mobillity ZERO / MAYU4X
グローバルな自動車部品メーカーの株式会社デンソーでは、先進的なシステム・製品を提供してきた企業として、AIなどの技術進化によって変容する未来のライフスタイルを考える「Mobillity ZERO プロジェクト」を、東京大学先端科学技術研究センターと共同して取り組んできました。
EV(電動車)や自動運転にとどまらず、移動の概念そのものを再定義するような技術開発もスコープにおかれています。
その試作機を、実証実験の一環として丸の内の「Personal Wellness Clinic Marunouchi」に設置。五感を刺激することにより、人の意識や行動の変容がどのように起こるかという研究からつくられた「MAYU4X」では、光環境変化から音声ガイドにそった心身の健康や、パフォーマンス向上を図るメディテーションプログラムを体験できます。
光による強い刺激と暗闇の交互の繰り返しで、日常から脱却しリラックスした状態で、音声ガイドに従い自身の心や身体に目を向けて客観視することで、ストレス軽減や集中力向上などを狙っています。所要時間は、約13分です。
アートを軸に未来社会を考える、ビジネス、サイエンス、エンジニアリングの交差点である「FUTURE VISION SUMMIT」。ぜひ、⼤丸有での本イベントに足を運んで、未来に向けてのポジティブ思考を実践してみてはいかがでしょうか。
■FUTURE VISION SUMMIT 2024
会期:2024年11⽉13⽇(⽔)・14⽇(⽊)・15⽇(⾦)
会場:丸ビル、国際ビル(YAU CENTER、1階エントランス、121区、124区)、三菱ビル、他
主催:「FUTURE VISION SUMMIT 2024」実⾏委員会
(構成団体:⼤丸有エリアマネジメント協会(リガーレ)、Forbes JAPAN、「有楽町アートアーバニズム (YAU)」実⾏委員会
特別協力:三菱地所株式会社
協力:東京藝術大学 芸術未来研究場
執筆者:遠藤友香
アートバーゼルとの提携および⽂化庁の協⼒を受け、⼀般社団法⼈コンテンポラリーアートプラットフォームが主催する、東京における現代アートの創造性と多様性を国内外に発信する年に⼀度のイベント「アートウィーク東京(略称:AWT)」が、2024年11⽉7⽇(⽊)から10⽇(⽇)まで開催中です。今年は東京を代表する53の美術館・ギャラリーが、それぞれ多様な展覧会と共に参加者を迎え、各施設を無料のシャトルバス「AWT BUS」がつなぎます。
会期中は「買える展覧会」である「AWT FOCUS」や映像作品プログラム「AWT VIDEO」、建築×⾷×アートのコラボレーションを感じられる特設の「AWT BAR」など、AWT 独⾃の企画も行われます。様々な体験を通じて東京のアートの「いま」を感じられる4⽇間です。
また、都内のアートアクティビティーの体験を創出する「アートウィーク東京モビールプロジェクト」を、東京都とアートウィーク東京モビールプロジェクト実⾏委員会の主催により実施します。
(左から)山本美月さん、鈴木京香さん
10⽉30⽇(⽔)に開催されたAWTの発表会では、AWTのアンバサダーに就任した俳優・鈴⽊京⾹さん、そしてスペシャルゲストとして俳優・モデルの⼭本美⽉さんを迎え、アートをテーマにしたトークセッションが実施されました。⼭本美⽉さんから⼤のアート好きである鈴⽊京⾹さんへ「アートを購⼊するにはどこを⼊⼝したらよいのでしょうか」という質問からトークが繰り広げられました。
アートを購⼊するきっかけ、気になる展覧会は?
鈴⽊京⾹さんは、「私は29歳のときに初めてオークションで絵を購⼊しましたが、アートを購⼊してみたいという⽅は、『アートウィーク東京』のような機会があれば、お散歩のついでに⾊んなギャラリーを巡って、新しいアーティストと出会い、気に⼊った作品を招き入れることができるんじゃないかなと思います。私たちの⼤好きな都市、東京がアート⼀⾊になる期間、ぜひ皆さんにも秋を満喫しながら、アートを楽しんでいただきたいです」と語りました。
⼭本美⽉さんは、「今回お招きいただいて、はじめて『アートウィーク東京』を知りました。アートはハードルが⾼いというイメージがあるけれど、この機会に⾊んな美術館やギャラリーを廻ってみて、アートをもっと近く、深く知っていけたらなと思います。託児所サービスがあって、ただ預かっていただけるだけじゃなく、アートに触れさせてもらえるというのが、⾃分だけじゃなく⼦供も⼀緒に楽しめて、とてもいいなと思いました」と述べました。
次に、アート、建築、⾳楽、ファッション、ダンスなど、⾒どころ満載のAWTについてご紹介します。
1.AWT BUS
会期中にアートスペースをつなぐ無料のシャトルバス「AWT BUS」(東京都庭園美術館)
AWTは、都内53の美術館・ギャラリーによる展覧会とAWTプログラムを⾃由に巡っていただくイベントです。会期中に参加施設を6つのルートで巡回する「AWT BUS」は、どなたでも無料でご利⽤になれます。
AWT BUSについて | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■「Berlin‒Tokyo Express」
東京都とベルリン市の友好都市提携30周年を祝し、AWT BUSでは「Berlin‒Tokyo Express」と題したエキシビションを開催。ルートごとに1⼈ずつ、東京やベルリンにゆかりのあるアーティストが作品を展開します。
2.AWT FOCUS
AWT FOCUS「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」 会場外観(⼤倉集古館、東京) Photo by Kei Okano. Courtesy Art Week Tokyo.
AWT FOCUS「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」 展⽰⾵景(⼤倉集古館、東京) Photo by Kei Okano. Courtesy Art Week Tokyo.
美術館での作品鑑賞とギャラリーでの作品購⼊というふたつの体験を掛け合わせた「買える展覧会」。2024年は森美術館館⻑で国⽴アートリサーチセンター⻑の⽚岡真実氏を監修に迎え、「⼤地と⾵と⽕と:アジアから想像する未来」と題した展覧会を開催します。⽚岡氏が全出展作家の解説を執筆した無料のカタログも必読です。
AWT FOCUS | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■キッズ・ユース向けガイドツアー&ワークショップ
「AWT FOCUS」を題材に、「親⼦向け(⼩学校低中学年)」「⼩学⽣向け」「中学⽣以上の⽅向け」の3種類のガイドツアーとワークショップを実施。ワークシートやガイドによる問いかけを通して⼦どもたちの⾃由な発想や想像⼒を引き出し、美術鑑賞の楽しみ⽅の発⾒をサポートします。
キッズ・ユース向けガイドツアー&ワークショップ | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■乳幼児向け臨時託児室
「AWT FOCUS」会場の⼤倉集古館地下1階に、乳幼児を対象としたバイリンガル対応の臨時託児室を開設。お⼦さまをただお預かりするだけでなく、アーティストが⼿がけた絵本の読み聞かせや作品づくりを通してアートと触れ合う機会を提供します。
乳幼児向け臨時託児室 | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
3.AWT VIDEO
2023年度の「AWT VIDEO」の解説の様⼦
AWT 参加ギャラリーのアーティストの映像作品を厳選して上映するビデオプログラム。2024年はニューヨークのスカルプチャーセンターのディレクター、ソフラブ・モヘビ氏が監修を務め、蜷川実花氏 with EiMや加藤翼氏ら13名のアーティストによる14作品を上映します。
AWT VIDEO | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
4.AWT BAR
⼾村英⼦氏による「ランドスケープがつくるBAR」の空間 © eiko tomura landscape architects
EMMÉ・延命寺美也氏によるフード
「AWT BAR」国内外のアートファンが集う憩いの場。ランドスケープアーキテクトの⼾村英⼦氏が設計を、「ゴ・エ・ミヨ 2023」でベストパティシエ賞を受賞した⻘⼭「EMMÉ」の延命寺美也氏がフードを⼿掛けます。 荒川ナッシュ医氏、⼩泉明郎氏、束芋氏が考案したカクテルも注⽬です。
AWT BAR | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
5.TOMO KOIZUMI×コンテンポラリーダンス
「TOMO KOIZUMI」デザイナーの小泉智貴氏
コンテンポラリーダンサー/振付家の⽔村⾥奈氏
ラッフルを⼤胆にあしらったドレスで知られるファッションブランド「TOMO KOIZUMI」と、コンテンポラリーダンサーで振付家の⽔村⾥奈氏が、「AWT BAR」を舞台にコラボレーション。AWTがアートバーゼルと共催するこのイベントでは、⽔村氏がTOMO KOIZUMIの⾐装をまとい、パフォーマンスを披露します。
TOMO KOIZUMI×コンテンポラリーダンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
6.サウンドインスタレーション
AWT BARを⾳で彩るサウンドインスタレーション。作曲はリズムアンサンブル・goatの主宰で電⼦⾳楽ソロプロジェクト・YPYとしても知られる⽇野浩志郎氏が手掛けます。会場に点在する14のスピーカーから流れる⾍や⿃の声は、フィールドレコーディングを使わず、すべて電⼦⾳や楽器⾳などで構成されています。⽇野氏が再解釈した「都市のランドスケープ」に⽿を澄ませてみてください。
7.パフォーマンス
11⽉9⽇(⼟)と10⽇(⽇)には、数回にわたってライブパフォーマンスが⾏われます。⾳楽家・打楽器奏者の⾓銅真実氏と⽇本とカナダをルーツにもつシンガーソングライターのジュリア・ショートリード(Julia Shortreed)氏が、ランドスケープとサウンドインスタレーションを使ったサイトスペシフィックなパフォーマンスを披露します。
場と人をつなげるサウンドインスタレーション&パフォーマンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
8.《TO SEE THE WIND》
Photo by Yuko Torihara
11⽉8⽇(⾦)と9⽇(⼟)には、東京都とベルリン市の友好都市提携30周年を祝したプログラム「Berlin‒Tokyo Express」の⼀環として、アーティストの上⽥氏が特別な茶会を開催。参加者が、まるで露地(茶室に⼊る前の庭)を歩いて⽇常を離れるかのような体験を提供します。
上田舞による茶会パフォーマンス | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
9.AWT TALKS
AWT TALKS | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■シンポジウム
スザンヌ・プフェファー氏 Photo by picture alliance/dpa
⽚岡真実氏 Photo by Akinori Ito
ソフラブ・モヘビ氏 Photo by Julian Abraham “Togar”
私たちは他者をどのように想像しているのか?そして、他者は私たちをどのように想像しているのか? AWT TALKのシンポジウムでは、フランクフルト近代美術館(MMK)館⻑のスザンヌ・プフェフ ァー氏、「AWT FOCUS」監修の⽚岡真実氏、そしてニューヨークのスカルプチャーセンターディレクターで今年の「AWT VIDEO」監修を務めるソフラブ・モヘビ氏が登壇します。
シンポジウム | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■オンライントーク
アーティストや美術史家、キュレーター、批評家、クリエイターなど、各分野の第⼀線で活躍する専⾨家らによるレクチャーやディスカッションをオンラインで無料で配信。2024年はこれが初となった村上隆氏と⼤⽵伸朗氏によるトークが公開されているほか、⽑利悠⼦氏とミン・ウォン氏によるトークと美術史学者の中嶋泉氏によるレクチャーを公開。
オンライントーク | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
■ミートアップ
現代アートの作品をコレクションしてみたい⼈を対象にした3セッション構成のプログラム。世界最⾼峰のアートフェアである「アートバーゼル」とのコラボレーションのもと、3⽇間にわたってアート鑑賞や購⼊の⽅法から世界のアートワールドの最新情報、コレクションの傾向までを⽴体的にとらえる⼿引きとなるツアーやトークを実施します。
ミートアップ | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
その他のプログラム
10.TOKYO HOUSE TOUR
「塔の家」設計:東孝光氏 © Nacása & Partners
「花⼩⾦井の家」設計:伊東豊雄氏 © Ohashi Tomio
東京の街に佇む名建築を巡る建築ツアー。コースの監修はプリツカー賞などの受賞歴をもつ建築ユニット「SANAA」の共同設⽴者で、東京都庭園美術館館⻑を務める建築家・妹島和世氏です。建築家・東孝光氏が1966年に設計した東京都⼼の住宅「塔の家」と、建築家・伊東豊雄氏が1983年に設計した東京郊外の住宅「花⼩⾦井の家」を訪ねます。
妹島和代氏コメント
「現在の東京には素晴らしい小住宅が多く存在しています。それらは戦後、個人事業として設計を営む建築家の設計によって建てられた庶民の家です。そうした小住宅群は、戦後の東京の暮らしをいまに伝える貴重な財産でありながら、同時に日本近代建築史の中で公共建築とともに存在感を示し、日本の近代建築を象徴する存在として世界で高く評価されてきました。住宅建築がこれほど多く集まる街は、世界的に見ても東京以外にありません。
しかし現在、高齢化をはじめとする様々な理由により、そうした建築物の維持が難しくなってきています。例えば、ヨーロッパでは戦後に建てられた住宅建築の多くは集合住宅であり、それらは地方自治体によって保存されながら現在も大切に使われていますが、日本の小住宅群はすべて民間で作られたものであるために、その保存と継承の困難さが現実的に大きな問題になっているのです。そこで、そうした小住宅に新たな使い方を与え、それらを東京の、そして日本の財産として継承し、みんなで守っていけたら良いのではないかと考え、このプログラムを企画するに至りました。
今回のツアーはその1回目のテストケースとして、建築とその保存継承、そして東京の暮らし全般に関心のある方たちを対象に、東京都心に建つ住宅と、まだ自然が残る郊外に建つ住宅のふたつを取り上げます」
TOKYO HOUSE TOUR | アートウィーク東京 | ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 7–10, 2024
以上、AWTについてご紹介しました。ぜひ、東京における現代アートの創造性と多様性を体感しに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■アートウィーク東京(略称:AWT)
会期:2024年11⽉7⽇(⽊)〜10⽇(⽇)(4⽇間) 10:00〜18:00
会場: 都内53の美術館/インスティテューション/ギャラリー AWT FOCUS、AWT BARほか各プログラム会場
主催: ⼀般社団法⼈コンテンポラリーアートプラットフォーム
提携: アートバーゼル(Art Basel)
特別協⼒: ⽂化庁 アートウィーク東京モビールプロジェクト
■アートウィーク東京モビールプロジェクト
会期: 2024年11⽉7⽇(⽊)〜10⽇(⽇)(4⽇間) 10:00〜18:00
主催: 東京都/アートウィーク東京モビールプロジェクト実⾏委員会
料⾦: AWT BUSの乗⾞無料。 参加ギャラリーの⼊場無料。参加美術館ではAWT会期中に限り所定の展覧会にてAWT特別割引適⽤。 AWT FOCUSの⼊場⼀般 1,800円、学⽣・⼦供無料。
執筆者:遠藤友香
株式会社ヘラルボニーが、初めて主催した国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ 2024)」。同社は、障害のある方がひとりの作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いを込めて、「HERALBONY Art Prize 2024」を創設しました。「国籍や年齢はアンリミテッド!」であるとし、世界中の障害のある表現者を対象として、今年1月31日「異彩(イサイ)の日」から3月15日の期間中、世界28カ国・924名のアーティストから総数1,973点の作品を応募。作家のキャリアを新たな高みへと押し上げ、従来の「障害とアート」のイメージを塗り替えていくとのことです。
《ヒョウカ》浅野春香
今回グランプリに輝いたのは、仙台市在住の浅野春香氏の作品「ヒョウカ」。グランプリ作品受賞作家には、創作活動を奨励する資金として賞金300万円が贈られるほか、ヘラルボニーと作家契約を締結し、今後さまざまなライセンス起用により国内外にその異彩を発信していくそうです。
グランプリをはじめとする各受賞作家と最終審査進出作家の総勢58名による全62点の作品を一堂に展示しているアート展「HERALBONY Art Prize 2024 EXHIBITION」は2024年9月22日(日)まで、三井住友銀行東館 1F アース・ガーデンにて開催中です(入場無料)。
浅野春香氏
浅野氏は、20歳で統合失調症を発症後、入退院を繰り返しながら闘病を続けています。本格的に絵を描き始めたのは29歳のとき。受賞作品である「ヒョウカ」は「評価されたい」という作家の純粋な感情から制作されたそうです。作家は以前までその欲求を「恥ずかしいこと」だと思っていましたが、ある人から「それもあなたの素直な気持ちの表れ」と言われたことをきっかけに、ありのままの気持ちを表現して良いのだと気づきました。本作は満月の夜の珊瑚の産卵をテーマに、切り広げた米袋に満点の星空や宇宙、満月などのモチーフが緻密に描かれています。母親の胎内にいた頃の情景や、珊瑚の研究者である父親のことなど、作家にとって大切な存在である両親からインスピレーションを受けているとのこと。
今回のグランプリの受賞を受けて浅野氏は、「バスに乗っているときに(グランプリ受賞に関して)メールで知らせを受けたのですが、嬉しすぎて何も感情が湧いてこなかったんです。それぐらい嬉しかったんです。
(作品制作は)まず最初に、30キロのお米の入った袋をハサミで開きます。開いたら、ペンでシワをなぞって、それをポスカでなぞります。その後、隙間を色を塗って埋めて、丸を描いていきます。作品制作は、7ヶ月かかりました。他の作品も大体7ヶ月くらいかかることが多いです。(作品の)中に動物が隠れてるので探して欲しいですね。お父さんも隠れてるので探してみてください。
今、友達の絵をオマージュした作品を制作しています。その作品は動物がいっぱい描いてあります」と語りました。
(左から)へラルボニー代表の松田崇弥氏、浅野春香氏、へラルボニー代表の松田文登氏
へラルボニー代表の松田崇弥氏は、本国際アートアワードに関して、「今回のプライズは、私自身が2023年の5月にフランスに行くタイミングがありまして、世界中の障害のある作家のギャラリストで、今回の審査員であるクリスチャン・バーストさんに接触させていただいたり、あとシャンゼリゼ通りで障害のある人たちが当たり前に働いているカフェが存在していたり、本当に世界で色々な福祉施設がある中で、やはりなかなか支援的な構造から脱却できないんですよ。
日本で考えられているような課題と非常に近しい部分を感じまして、これを世界のコンペティションとして大きく打ち出すような可能性っていうものはないんだろうかという思いを込めて、この度ヘラルボニー・アート・プライズというものを創設しました」と述べました。
2024年8月8日にパレスホテルにて開催された「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ)」の授賞式では、浅野氏の作品「ヒョウカ」について、ヘラルボニー代表の松田崇弥氏、文登氏より「作品タイトル『ヒョウカ』には、浅野さんが『社会で評価されたい』という強い思いが込められていると伺いました。障害のある方が『ピュア』とイメージされやすい一方で、評価されたい、自立したいという思いは、一人一人が持つ権利であると感じました。第1回のグランプリを浅野さんが受賞されたことをとても嬉しく思います。この賞が浅野さんにとって誇りとなるよう、私たちも努力して参ります」といったコメントが贈られました。
また、審査を通じて、グランプリ1作品の他、協賛企業によって選出された企業賞受賞作品として7作品、審査員特別賞受賞作品として4作品が選出されました。
【企業賞】JAL賞/《タイトル不明》水上詩楽
《タイトル不明》水上詩楽
幼少期にアニメのキャラクターを好んで描いていた水上詩楽氏は、やまなみ工房に通所し始めてから、部屋にあった画材(筆や線引き棒)を手に取ると模様を描き始めました。様々な色でいくつも描かれた扇形と点の模様。筆の動きや点の打ち方は規則正しく、同じ動作をゆっくりと繰り返します。画用紙上の線や点はイメージしているものがあるのか、色や動きを楽しんでいるのか、何を感じて描いているのかは不明ですが、気分のバロメーターのように、その時の彼の気持ちを線の筆使いや整列した点が表しているかのようです。
日本航空株式会社のコメント
社員投票でJALグループ社員の心を掴んだのは、多様性と自由な発想を感じる水上詩楽さんの作品です。様々な色の点は多様な人々が集い、つながる様子を象徴し、明るい色彩の扇形は未来へと羽ばたく姿を描き出しているように感じられます。まさに、空を飛び、世界をつなぐJALグループとの親和性を感じる作品です。
【企業賞】丸井グループ賞/《Blue Marble》フラン・ダンカン
《Blue Marble》フラン・ダンカン
フラン・ダンカンは、自己発見と受容、そして自身の筋痛性脳脊髄炎と側弯症という健康問題を含む逆境に立ち向かいながら、情熱を絶やすことなく表現に向き合い続けています。年齢や身体的制約に関係なく、自由と開放を見出したのがアルコールインクを使った作品です。その制作過程において、厳密にコントロールすることを許さないインクを、彼女は潜在意識に導かれながら相互的に協働する意識で制作しています。未知を受け入れ、予期しない美しさを見出すこの手法に、彼女なりの人生の教訓を重ねています。つまり、人生の複雑さを乗り越え、あるがままの自分を発見し尊重すること、そして創造性には限界がないことを、私たちに示してくれます。
株式会社丸井グループのコメント
丸井グループは共創投資先であるへラルボニーの描く未来に共感し、本プライズに協賛いたしました。企業賞選定にあたり丸井グループ全社社員にアンケートを実施し、1位に選ばれた作品が《Blue Marble》です。私たちが目指すインクルージョンの世界感を見事に表現し、躍動感あふれる本作品に丸井グループを授与いたします。
【審査員特別賞】日比野克彦(アーティスト/東京藝術大学長)/《Untitled》S. Proski
《Untitled》S. Proski
視覚障害のあるアーティスト S. Proskiは、盲目そのものを視覚の媒体として展開してきました。作家が盲目の世界で感じとる浮遊感や歪みに焦点を当て、切り取ったキャンバスの切れ端を手作業で丁寧に縫い合わせたり、コラージュしたりして、層状で触覚的な構成の絵画にしています。スケッチやコラージュを使ってイメージを構築し、解体し、再構築するーこの物質的で回り道とも言える手法は、見えない視覚の世界を理解するための手段であり、視覚ではなく触覚を通じて絵画を探求しようとする工夫に満ちています。リサイクルとリミックスの過程を用いて、 S. Proskiは能力主義や同化、そして絵画との関係によって生じた傷を癒そうと試みています。
日比野克彦氏(アーティスト/東京藝術大学長)のコメント
こんな作品を私も作りたいと素直に思った。憧れる作品はどうして生まれてくるのだろうか? 作者に聞いてみたい。制作のきっかけは? 何をイメージしながら? などなど作品制作の様子を見てみたい。そんなまだ会えぬ作者を想像するのが、憧れを深める時間。
【審査員特別賞】黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)/《落書き写真(タイル状の壁)》isousin
《落書き写真(タイル状の壁)》isousin
子供の頃から社会に対する不安や自己否定が強く、漠然とした生きづらさを抱えていましたが、写真と出会ってからは自己を受け入れられるようになり、自然と自由な自己表現としてのアートにも興味を持つようになりました。ある日、日が暮れて誰もいなくなった公園の砂場で、子供が描いたであろう落書きを見つけます。一人その場に佇み、食い入るように見つめた後、おもむろにスマートフォンのカメラでその落書きを一枚の写真に収めました。本作は、その時の写真をヒントに制作されています。カメラと画像編集ソフトを使用して写真を抽象的なイメージへと昇華させ、そこに別で撮影した地面や壁の写真を合成することで、不思議な造形を生み出しています。
黒澤浩美氏(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)のコメント
21世紀の人々はカメラという機械の眼によって、世界の断片を収集しているが、何を写し取るのかは、ひとえにシャッターを切る人の選択に拠る。写真が「現実と創造力の交差」と言われる所以だ。isousinは街中の建物や道路の一部に見られる模様に関心を寄せて、それらを写し取り、その上に別に撮影したイメージを重ねる。このレイヤーによって抽象化された被写体が、印画紙から浮き出すように存在感を増す。子供が地面に落書きをしていたのを見て思い立ったというが、そこから在るモノに被せる手法を思いつくとは驚きだ。小さめの作品サイズも功を奏し、作品それ自体、まるでパズル化された街の1ピースのように見える。秀作である。
■「HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition」
会期:2024年8月10日(土)~9月22日(日)
時間:10:00~18:00
料金:入場無料
会場:三井住友銀行東館 1F アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
主催:株式会社ヘラルボニー
8月12日から25日にかけて、アートイベント「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」が開催されています。
大阪(市内中心部、万博公園)と千葉(幕張新都心)の二か所で同時開催されており、日本最大級の都市型音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」(8/17~8/18)との連携が注目されています。
日本を文化芸術のグローバル発信拠点に
本プロジェクトは文化庁が推進するプロジェクトで、⾳楽とアートの融合による「新たな価値」を創造する作品をアーティストと産み出し、日本が文化芸術のグローバル発信拠点になることを目指すものです。
SUMMER SONIC 大阪会場を訪れた文化庁の都倉俊一長官は開催に寄せて、「国としてあらゆるアートを応援していきたい」そして官民一体となって文化芸術を「より大きな意味でのカルチャービジネスにしなければいけない」とコメント。
さらに本イベントを来年開催の大阪・関西万博への足がかりとして、万博を通じてアートの国際的発信に力を入れていく意気込みを語りました。
音楽ファンで賑わう万博会場に大型アート作品が登場
久保寛子《やさしい手》
8月17日・18日に開催された「SUMMER SONIC 2024」とのコラボレーションは本プロジェクトの大きな見どころです。大阪会場となった万博公園(吹田市)と周辺には、GOMA(ゴマ)・奥中章人・久保寛子の3名のアーティストによる大型作品が野外展示されました。
GOMA《ひかりの滝》
アーティストGOMAの《ひかりの滝》は、アートと自然、そして音楽との融合が感じられる作品です。
風に揺らめく作品のバックに聴こえてくるのは、空気を静かに震わせるような不思議な音色。オーストラリア大陸の先住民アボリジニの民族楽器、ディジュリドゥを使った楽曲でGOMAが作品と同時期に制作したものです。
もともと世界的なディジュリドゥ奏者として活躍していたGOMAが絵を描き始めたのは、交通事故がきっかけだったといいます。高次脳機能障害や記憶喪失などの後遺症に悩まされるなかで、絵は「自分を癒すために描いていた」と振り返ります。
《ひかりの滝》で描かれている世界は、GOMA自身が意識を失ってから再び意識を取り戻す際に必ず見ていたという光景を絵画として再現したものなのだそうです。
17日夜には、ドローンショーを企画・運営するクリエイティブ集団「REDCLIFF(レッドクリフ)」とともに空中アート作品《ひかりの世界・阪栄の火の鳥》をお披露目。
1000機のドローンが花火と融合して空に描いた「火の鳥」は、GOMAが手塚治虫の『火の鳥』に触発されて制作されたものなのだそうです。
奥中章人《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》
奥中章人の《INTER-WORLD-/SPHERE:The Three Bodies》は、作品に直接触れて体験できる作品。
農業用ポリエチレンを素材に使ったバルーン型彫刻は、見た目はまるで大きなシャボン玉のようです。手で押すと簡単に形が変わるほど柔らかで、内側に入ることもできます。作品に触れ、作品越しに太陽の光を見つめることで、光や空気、風など目に見えないものを可視化してくれます。
街のなかで誰もが出会えるアート
渋田薫《Singin’ in the Rain》《ミライムジーク》
REMA《The Ecosystem of Love from That Time》
大阪市内では、音を色や形でとらえるアーティスト渋田薫や、過去と未来、デジタルとアナログが交錯するREMA(レマ)など、若手アーティストの作品を中心に12カ所に作品が展示されています。
展示場所は、関西経済連合会や地元の関連企業の協力によって提供されており、ほとんどがビルのエントランスやロビーなどパブリックスペースにあり、誰もが自由に見ることができるのが特徴です。
いくつかの作品をピックアップしてご紹介します。
大谷陽一郎《はん/えい #1》《はん/えい #3》
中之島フェスティバルタワー・ウェスト(3階オフィシャルエントランスホール)には、大谷陽一郎の《はん/えい #1》《はん/えい #3》が展示されています。
“はんえい”は「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」の2024年のプロジェクトテーマ。
はん、えい、と発音する約50種の漢字が波紋のように広がる作品で、「反映」や「繁栄」といった既存の言葉を超えて、新しい文字の出会いや、そこから広がるイメージや言葉の意味に想いを寄せることができます。
檜皮一彦《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》
同ビルの地下1階では、檜皮一彦の《HIWADROME_TypeΔ_SPEC3》を見ることができます。
約70台の車いすが三角形の構造物として積み上げられ、圧倒的な存在感を放っています。車いすを使用する檜皮自身にとって三角形の構造物は乗り越えるべきものの象徴。そして同時に、社会の中で誰もが体験する偏見や障壁の象徴でもあるのだそうです。
いつもの大阪がアートで変わる
会期中は地図機能のあるスタンプラリーアプリケーションを使ったアート巡り企画『STAMP MAP ART』を実施しています。
街に点在するアートを巡ることで、普段見ている街の風景がアートによって変わっていく様子を目にすることができるでしょう。
アートをきっかけに、いつもは通らない道、訪れたことのない場所に連れて行ってくれるのもこのイベントの楽しさです。
■「MUSIC LOVES ART 2024 - MICUSRAT (マイクスラット) -」
会期:2024年8月12日(月)~25日(日)
会場:SUMMER SONIC 大阪会場及び周辺 8月17日(土)~18日(日)
大阪市内中心部の展示 8月12日(月)~25日(日)
※各展示場所により展示期間が異なります(以下、WEBサイトにて詳細を掲載)
Webサイト https://micusrat.com
執筆者:遠藤友香
森ビル株式会社が運営する、虎ノ門ヒルズにある「TOKYO NODE(東京ノード)」。2023年10月に開業した「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の最上部に位置する新たな情報発信拠点で、イベントホール、ギャラリー、レストラン、ルーフトップガーデンなどが集積する、約10,000㎡の複合発信施設です。 施設内には、ミシュランで星を獲得したシェフによるレストランや、イノべーティブなプレイヤーが集まり共同研究を行う「TOKYO NODE LAB」も併設。「NODE=結節点」という名のとおり、テクノロジー、アート、エンターテインメントなどあらゆる領域を超えて、最先端の体験コンテンツ、サービス、ビジネスを生み出し、世界に発信していく舞台となっています。
この度、「TOKYO NODE」では、2024年8月9日(金)~2024年10月14日(月・祝)まで、「身体性」×「テクノロジー」表現の最先端を歩み続け、本年9月に結成25年目に突入するアーティスト「Perfume」を取り上げた体験型展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」を開催中です。
さまざまな先端技術や舞台演出で時代を先取りしてきた、Perfumeのライブステージ。そのステージが成立する前提には、制御された演出と体の動きを完全に一致させることができる、メンバーらの身体性の高さがあります。本展は彼女たちの驚異的な「身体性」と、その舞台を支えるクリエイターたちの「テクノロジー」それぞれが研鑽されて生まれる“ 奇跡の同期(シンクロ) ”をテーマに、Perfumeが作り上げてきた表現への挑戦とステージの数々を再現。本展の総合監修には、Perfumeの振り付け・ライブ演出を手掛けるMIKIKO、インスタレーションには真鍋大度、クリエイティブコレクティブ「Rhizomatiks」など、“チーム・Perfume”に長年携わるメンバーが脇を固め、25年におよぶ取り組みをステージとその舞台裏の両面から紐解きます。
次に、展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」の見どころをご紹介します。
■Chapter-1.We are Perfume
光の粒子が軌跡を描く作品。Perfumeの3人の「Aポーズ」は、25年の一つのシンボルです。無数の光の粒子が集まり、3人の姿を浮かび上がらせます。
■Chapter-2.軌跡と奇跡
結成25年、Perfumeの3人が続けてきたその軌跡は、ライブステージを重ねるたび奇跡を紡いできました。それは3人だけが持つDNAレベルとも言える“ 同期(シンクロ) ”が生むパフォーマンスです。
結成当初から演出・振付をするMIKIKO、その中期からテクニカル演出として加わったRhizomatiksと共に作られる完成度の高いライブステージは、人とテクノロジーとの同期をも実現してきました。テクノロジーとはいえ、全て人が作るステージングとPerfumeの3人によるもの。テクノロジーと人がパラレルに進化し、新しい価値が創造されています。その研鑽によって、より美しい世界が築かれることを、3人のライブパフォーマンスが示しています。
このChapter-2では、これまで実現させてきた様々な同期の形を、実際に体験/鑑賞できるエリアです。ステージの体験を通じて、Perfumeの3人の姿をそこに見ることができるかもしれません。
■Chapter-3.IMA IMA IMA
1999年の結成から今まで、そして次のPerfumeは未だ誰も見たことのない、この未来のステージから始まります。一見誰もいないように見えるステージの上では、Perfumeが新曲「IMA IMA IMA」をバーチャル上で演じています。
この特別なセットを囲み、Perfumeの未来のステージに参加することができます。Perfumeのステージに携わる一人の「クルー」として、ステージの照明や映像、スイッチングを自在に操作しながら、各々が想像する未来のステージ演出に参加することができます。
最後にPerfumeの3人から届いたメッセージをご紹介します。
「私たちPerfumeの25年を振り返る展覧会、『Perfume Disco-Graphy』の開催が決定しました! 結成してから25年分のPerfumeの歴史、そしてライブ演出の軌跡が、一気に見られる展覧会です。ライブの演出の進化と共に、テクノロジーの進化も体感してきました。未知数の実験的な“人間とテクノロジーの挑戦”がそれぞれの努力と信じる力でピタッと合わさると身震いするような高揚感がやみつきになります。その何物にも代え難い感覚をぜひ体験して皆さんにぶっ飛んでほしいです。夏休みやシルバーウィークにも重なりますので、ぜひ全国の皆さんに遊びに来ていただけたら嬉しいです。今年の夏は、虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで会いましょう!」
以上、「TOKYO NODE」にて開催中の、「Perfume」を取り上げた体験型展覧会「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡」をご紹介しました。
会期中は、本展をさらに楽しむためのスペシャルコンテンツも多数登場。館内にはポップアップショップが出店し、本展限定のオリジナルグッズが販売されるほか、TOKYO NODE内のレストラン・カフェではPerfumeメンバーが監修したコラボメニューを提供します。さらにPerfumeの代表的な楽曲『チョコレイト・ディスコ』にちなみ、展示室内をディスコ会場にしたDJイベントも開催。
ぜひ、Perfumeの織りなす世界観を思う存分体感してみてくださいね!
■「Perfume Disco-Graphy 25 年の軌跡と奇跡 (パフューム ディスコグラフィ) 」
開催期間:2024年8月9日(金)~2024年10月14日(月・祝)/67日間
会場: TOKYO NODE GALLERY A/B/C (東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F)
チケット:オンラインでの日時予約制
一般 2,800 円(税込)
高校生・中学生 2,200 円 (税込)
小学生 1,000 円 (税込)
未就学児 無料
※チケットをお持ちの障がい者の方1名につき介助者1名まで無料で入場可
※購入後のキャンセル不可(日時変更1回のみ可)
※チケットは3期に分けて発売します。ご希望の来場日により販売開始日が異なりますのでご注意ください。
[第1期]7月2日(火)販売開始:8月9日(金)~ 9月1日(日)分まで(※こちら、販売を終了しています)
[第2期]8月13日(火)販売開始:9月2日(月)~ 9月29日(日)分まで
[第3期]9月10日(火)販売開始:9月30日(月)~10月14日(月・祝)分まで
執筆者:遠藤友香
株式会社マイナビを主幹事とするアートスクイグル実⾏委員会は、現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」を、2024年7⽉19⽇(⾦)から9⽉1⽇(⽇)までの 45 ⽇間、横浜・⼭下ふ頭にて初開催しています。
⼭下ふ頭は、明治維新から世界と⽇本を繋いで、⼈、モノ、そして⽂化が交差し続けてきた場所です。本イベントの会場である⼭下ふ頭・4号上屋もまた、⽇本の⾼度経済成⻑を⽀えてきた時代のアイコンであり、巨⼤な躯体を⽀えるトラス構造の建築は、昭和の建築技術の粋を集めた圧倒的なスケール感の内部空間を有しています。 ⼭下ふ頭は数年後に⼤規模な再開発が予定されており、本イベントは、歴史的にも貴重な建築物をアートとともに体験する試みでもあるといいます。
タイトルにも使われている「Squiggle(スクイグル)」という言葉は、「まがりくねった / 不規則な / 曲線」という意味を持ちます。直線的でなく予測不能な動きや形状を表すことから、この言葉は本展において、アーティストが創作活動中に経験する迷いや試行錯誤のプロセスを象徴しており、来場者もまた、まるで迷路のように構成された空間を好きな順序で辿りながら、アート鑑賞を楽しむことができます。
アーティストやコレクティブなど総勢16組による作品が展示され、その内8組が本イベントのために制作した新作を初披露します。会場は、空間デザイナーの西尾健史が空間設計を手掛けています。
株式会社MAGUS(マグアス)をはじめとする企画制作チームから、以下の言葉が寄せられています。
「アートは、私たちから遠い存在ではありません。私たちが生きる時代、社会、暮らしのなかのさまざまな経験や感情から生まれてくるものです。ここでは、テーマやコンセプト、制作プロセスに『Squiggle(スクイグル) = やわらかな試行錯誤』が見られる多様な作品を、アーティストのビジョンに寄り添った空間でご紹介しました。正しいアートの見方を提示するのではなく、ご来場のみなさまにも『Squiggle』するアート鑑賞を体験してもらうべく、ライブラリー&ラウンジや『アーティスト・ノート』をご用意しました。ここでのユニークな体験を日常にも持ち帰り、アートを少しでも身近に感じていただけましたらうれしいです」。
次に、本イベントでおすすめの作品を5点ピックアップします!
1.GROUP
建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、建築設計・リサーチ・施工をする建築コレクティブ「GROUP」。
こちらの展示は、約100平米の空間をサボテンのある広場にし、人間とサボテンが築くことができたかもしれない風景としたもの。航路を通じ、サボテンが日本に渡来したのは16世紀後半のこと。当時は鑑賞用のほか、薬用として紹介されていました(いずれも諸説あり)。そうした渡来経緯は今でも色濃く残り、もしそれとは違った出合い方をしていれば、サボテンとの付き合い方も今とは異なったのかもしれない―。GROUPはサボテンを見つめることで、テーブルや棚の一部として採用し、新しい家具の構造物としてサボテンを提案します。リサーチャー・原ちけい、音楽家・土井樹、植物に関する専門家・越路ガーデン(西尾耀輔)を迎え、建築の知見だけでなく多角的にサボテンを見つめ直しています。
GROUPの井上岳は「本展が開催される45日間で、(サボテンの)植物としての成長も予想しています。会期中にサボテンの世話をしながら、そうした変化過程も含めて展示にできればなと。そうすると、今とは全然違ったサボテンと人間の新しい関係が生まれるんじゃないかと期待しています」と述べています。
2.山田愛
山田愛《流転する世界で》(2024)Photo: Shinichi Ichikawa
1992年に京都府にて生まれた山田愛は、社寺建築や墓石を手掛ける石材店にて育ちました。2017年に東京藝術大学大学院美術研究科先端藝術表現専攻を修了。石やドローイングを用いたインスタレーションを主な手法とし、根源的な地点へ誘う鑑賞体験を目指しています。
こちらは、直径5メートルの円の中に無数の石が並ぶインスタレーション作品で、自身の好きな場所から思い思いに鑑賞可能です。一筆で円を描いた、始まりも終わりもない無限の世界や悟りの境地を表す禅の書画を意味する〈円相〉と名付けられたシリーズの新作です。
山田愛《流転する世界で》一部(2024)Photo: Shinichi Ichikawa
山田は平らにならした砂の上に、何度も洗い、汚れを拭き、本来の美しさを取り戻した、ひとつとして同じものがない石をそれぞれが在るべき場所に据えていきました。世界の縮図のようなインスタレーションには、私たち一人ひとりにも輝く場所が必ずあるという祈りのような思いが込められています。ここでの体験は、自身と向き合い、現在の立ち位置を見つめ直す時間となるでしょう。交平光平
3.川谷光平
東京を拠点に活動する写真家・川谷光平。近い距離感から色鮮やかに被写体を捉える独自の作風で、国内外から注目を集めています。
川谷の展示空間にはいくつかの新作のほか、パーソナルワークやクライアントワークで撮影し、当時は選ばなかったアザー写真や資料写真を含む、膨大なカットの中から選び直した写真が並びます。それぞれの写真が固有の作品性を保ちながらも、どれが、どこまでが作品の領域から明らかではありません。
本来、一直線上に進んでいくはずの写真家にとってのプロセス、すなわち、リサーチ→撮影→セレクト→編集→展示という流れが会場の中に視覚化され、そこを順行・逆行しながらぐるぐると考え直すことで、作品としてのイメージが「ゴールすること」について言及します。鑑賞者がこの場所で撮影した写真も、川谷の作品に内包され得るかもしれません。
4.中島佑太
2008年に東京藝術大学美術学部卒業以後、一貫してワークショップを用いた活動を続けている中島佑太。ルールやタブー、当たり前だと考えられていることなどに関心を持ち、遊びや旅といった軽やかなテーマを通して、その書き換えを試みています。近年は、保育施設に活動を拡張し、子どもたちやその周りにいる大人たちとの関わりから見えてくる社会の問題や課題をリサーチしながら、芸術と遊びの融合を模索しています。
こちらの作品は、かつて鉱山で働いていたという朝鮮人労働者たちのエピソードから着想を得たもの。石を砕き、砂に変える過程を手作業によって行い、砂場をつくるワークショップです。過酷さを連想させる砕石や採掘といった労働(Labor)によって、芸術作品(Work=仕事)に参加をし、遊びという人間の根源的な活動(Action)の場へと接続を試みます。
砂山にトンネルを掘る行為は、子どもの頃に誰もが体験した遊びのひとつなのではないでしょうか。遊びとは、遊ぶ主体である個人の内側に、誰からも指示・強制されることなく湧き起こるものです。ワークショップの名の下に強制された作業から、遊びは生み出せるのでしょうか。
5.河野未彩
視覚ディレクター/グラフィックアーティストの河野未彩。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始めました。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、現象や女性像に着目した色彩快楽的な作品を多数手掛けています。
《HUE MOMENTS》は、白い光の中に7色の影をつくるペンダントライト「RGB_Light」を開発する際のインスピレーションとなった、「光の三原色」の原理を再解釈したインスタレーション作品です。幅10メートル越えの空間に構造体があり、そこにR(Red:赤)、G(Green:緑)、B(Blue:青)の光源をミックスさせた光を3方向から当てることで、刻一刻と変化する影や色面をつくりだします。
色が移り変わる周期はそれぞれの光源で異なり、45日間一瞬も同じ色が現れることはありません。この作品には、河野の「鑑賞体験を通じて光と影の関係性や、そこにある多様性を感じるとともに、この瞬間にしか存在しない色相を目撃してもらいたい」という想いが込められています。
暑い夏にぴったり!ソフトドリンク&アルコールの販売も
イベント会場内(屋外)では、週末を中心にフードトラックも営業し、オフィシャルバーでは暑い夏におすすめのソフトドリンクとアルコールの販売を行っています。アルコールには、横浜市内で最も長い歴史を持つローカルビアカンパニーの「横浜ビール」や、90年の歴史を持つ台湾最大のビールブランド「台湾ビール」がラインナップ。「横浜ビール」からはグビグビ飲める味わいのIPAや、心地良い柑橘の香りが爽やかなピルスナーなどの横浜で愛されるビールを各種、「台湾ビール」からは、台湾でも大人気の「マンゴー(香郁芒果)」、「パイナップル(甘甜鳳梨)」をはじめとした台湾フルーツ果汁がたっぷり入った飲みやすいフルーツビールが楽しめます。
以上、現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」についてご紹介しました。主観と客観を⾏き来する思考プロセスを経て作られた多彩な作品群は、新しい視点や気づきを与えてくれることでしょう。ぜひ、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■「Art Squiggle Yokohama 2024 (アートスクイグルヨコハマ 2024 )」
会期日時:2024年7⽉19⽇(⾦)〜9⽉1⽇(⽇) (45⽇間開催)
平⽇・⽇・祝⽇ 11:00-20:00 (19:15 最終⼊場)/ ⾦・⼟ 11:00-21:00 (20:15 最終⼊場)
開催地:横浜⼭下ふ頭(神奈川県横浜市中区⼭下町)
⼊場料:当⽇ 2,400 円
⼤学⽣、⾼校⽣ 1,500 円
横浜市⺠割 当⽇ 2,200円
※中学⽣以下無料(⼊場時に受付にて学⽣証提⽰)
※障がい者⼿帳をお持ちの⽅と介護の⽅1名は無料
※⼤学⽣、⾼校⽣:⼊場時に受付にて学⽣証提⽰
※横浜市⺠割:横浜市内在住の⽅(⼊場時に受付にて要証明)は⼀般料⾦より200円割引
チケット販売:ArtSticker(Art Squiggle Yokohama 2024 | オンラインチケット販売 | ArtSticker)にて販売中
【主催】アートスクイグル実⾏委員会 (マイナビ、他)
【企画制作】MAGUS、博報堂DYメディアパートナーズ
【後援】横浜市にぎわいスポーツ⽂化局、横浜港ハーバーリゾート協会、J-WAVE
【協⼒】東急、カリモク家具
【公式サイト】ART SQUIGGLE YOKOHAMA 2024 | やわらかな試行錯誤 芸術と私たちを感じる45日間
【公式SNS】 Instagram @artsquiggle_official ART SQUIGGLE丨アートスクイグル(@artsquiggle_official) • Instagram写真と動画
チームラボ《人々のための岩に憑依する滝 》©チームラボ
執筆者:遠藤友香
森ビル株式会社がアートコレクティブ・チームラボと手がける「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)」。チームラボボーダレスは、アートコレクティブ・チームラボの境界のないアート群による「地図のないミュージアム」です。アートは部屋から出て移動し、他の作品と関係し影響を受け合い、他の作品との境界線がなく、時には混ざり合います。チームラボボーダレスは、そのような作品群による境界なく連続する1つの世界であり、来館者は境界のないアートに身体ごと没入し、「境界なく連続する1つの世界」のなかを「さまよい、探索し、発見」する唯一無二の体験ができます。
この度、チームラボボーダレスが、アメリカのニュース雑誌「TIME」が発表した「THE WORLD'S GREATEST PLACES 2024(世界で最も素晴らしい場所2024年度版)」に選出されました。(※「TIME」誌「THE WORLD'S GREATEST PLACES 2024」記事はこちらから)。麻布台ヒルズへ移転前のお台場では、2019年にも「TIME」誌で「World's Greatest Places 2019(世界で最も素晴らしい場所 2019年度版)」に選出されました。
「TIME」誌は1923年に創刊され、発行部数368万部、世界200カ国で読者数2,000万人にもおよぶ世界最大の週刊誌です。2018年から始まった本企画は、「TIME」誌が「今すぐ体験すべき世界100の新目的地」を選出したもので、全世界のTIME誌の編集者、特派員、専門家たちから募った、美術館、テーマパーク、レストラン、ホテルなど複数のカテゴリーの候補地の中から、クオリティ・オリジナリティ・持続性・革新性・影響力をもとに選ばれています。チームラボボーダレスは、特にクオリティ・オリジナリティの点で選ばれ、今年2月の開館からわずか半年での選出となりました。
「TIME」誌は、「チームラボボーダレスは、ソーシャルメディアの定番となった没入型アートから群を抜く、技巧を凝らした空間だ。息を呑むようなインスタレーション作品《人々のための岩に憑依する滝》は鑑賞者の動きによって流れが変化する。《Bubble Universe》や《Microcosmoses》は、球体に鑑賞者が近づくと反応し、二度と再現できない魅惑的な光の波紋を生み出す」と伝えています。
次に、主な作品を4つご紹介します。
1.《人々のための岩に憑依する滝》
チームラボ《人々のための岩に憑依する滝 》©チームラボ
「人々のための岩」に降り注ぐ滝は、岩と人々の存在、そして、この空間に入ってくる他の作品の影響を受け、変容し続けます。また、水の流れそのものが、この空間に入ってくる他の作品に影響を与えていきます。今この瞬間の絵は二度と見ることができません。
そして、滝が映し出された壁や床は、我々と作品との境界面にならず、滝の作品空間は、人々の身体のある空間と連続します。
2.《Bubble Universe: 光の球体結晶、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》
チームラボ《Bubble Universe: 光の球体結晶、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》©チームラボ
「認識上の彫刻」をテーマにした、インタラクティブな作品です。空間は無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中には、異なる光の存在が入り混じっています。
人が球体の近くで立ち止まりじっとしていると、最も近い球体が強く輝き音色を響 かせ、光はその球体から最も近い球体に伝播します。伝播した光は、最も近い球体に伝播し連続していきます。光は、空間内の球全ての球体を通る1本の光の軌跡になります。
そして、自分から生まれた光と、他者から生まれた光は交差していきます。
3.《マイクロコスモス:ぷるんぷるんの光、環境が生む光》
チームラボ《マイクロコスモス:ぷるんぷるんの光、環境が生む光》©チームラボ
奥行きのわからない無限の空間の中を、無数の光が走り続けます。
「構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、構成要素全体に異なった秩序が形成され、それらが重なり合う時、それは、 宇宙か?」を模索した作品です。
半球の中は、「ぷるんぷるんの光」と「環境が生む光」が重なり合います。ぷるんぷるんの光は、チームラボが創る「境界面の曖昧な空間彫刻」の一つで、認識世界に存在する彫刻です。
4.《スケッチオーシャン》
チームラボ《スケッチオーシャン》©チームラボ
この海は、みんなが描いた魚たちが泳ぐ海です。
来館者が紙に自由に魚の絵を描きます。すると、目の前の海でみんなが描いた魚と共に泳ぎだします。泳いでいる魚は触れることもでき、触れられた魚は、いっせいに逃げだします。エサ袋に触ることによって、 魚にエサをあげることもできます。
魚たちは部屋を出て、他の作品の境界を越えてチームラボボーダレスの中を泳ぎ始めます。中でもマグロは、ミュージアムの物理空間をも超えて、世界の他の場所で行われている展覧会へと泳いでいき、そこで描かれたマグロの群れを引き連れて帰ってきます。
以上、米TIME誌の「世界で最も素晴らしい場所」に選出された、チームラボボーダレスについてご紹介しました。ぜひ、夏休み期間中、お子さまと一緒に訪れてみてはいかがでしょうか。
■「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」
開館時間:9:00 - 21:00
※9月3日(火)は17時閉館(最終入館16時)
※最終入館は閉館の1時間前
休み:8月20日(火)、9月17日(火)
場所:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1
東京都港区麻布台1-2-4
チケット購入はコチラから。
執筆者:遠藤友香
東京都は、2040年代の都⽴公園のあるべき姿と豊かな緑を次世代につなぎ、国内外の⼈を惹きつける魅⼒を⽣み出し、⼀⼈ひとりのウェルビーイングに貢献する公園を目標に、都⽴公園全体の機能や価値を向上させるべく様々な取組を⾏っています。東京都江⼾川区にある葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園は⻑きにわたり、海と深いつながりを持ってきました。今年はその歴史を踏まえ、広⼤な敷地の魅⼒を全⾝で感じるアートインスタレーションイベント「海とつながる。アートをめぐる。―HarmonywithNature―」を、2024年8月18⽇(⽇)まで葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて開催中です。
本イベント会期中、葛⻄臨海⽔族園では「海とつながる」をテーマとして、⽔族園を象徴するガラスドームをミストが包み込み、海とつながる世界を⽣み出す演出を⾏っています。また、葛⻄臨海公園では「アートをめぐる」をテーマとして、蜷川実花 with EiMの作品が東京湾を⾒渡せる展望レストハウスであるクリスタルビューを彩り、落合陽⼀⽒、河瀨直美⽒、平⼦雄⼀⽒の作品が4万本の向⽇葵が咲くひまわり畑の中に溶け込み、 新たな景⾊を⽣み出しています。
2024年8⽉1⽇(⽊)に葛⻄臨海⽔族園、葛⻄臨海公園にて、「海とつながる。 アートをめぐる。― HarmonywithNature―」のメディア向け内覧会が開催されました。メディア向け内覧会にて、蜷川実花 with EiMによるアート作品 「Garden of Sky(空の庭園)」について、写真家・映画監督で、写真を中⼼として、映画、映像、空間インスタレーションも数多く⼿掛けている蜷川実花⽒から、以下の作品解説がありました。
【蜷川実花⽒による作品解説】
クリスタルビュー2階奥の展⽰室と外装、2つのインスタレーションで構成された「Garden of Sky(空の庭園)」。本作品のコンセプトについて蜷川⽒は「今回の企画のお話をいただいたとき、⼩さな頃から馴染みがあった⼤好きなクリスタルビューでの作品づくりを実施したいとお伝えしました。クリスタルビューは空が広く⾒える場所なので、空に溶け込むような作品と、建築の素晴らしさを活かすための表現⽅法を試⾏錯誤しました。」と述べました。
クリスタルを⽤いた新作については「ぜひ近くで細部まで⾒ていただき たいです。一つひとつ想いを込めてつくり続けたパーツを800本のライン状に繋ぎ、⽴体的に空間に配置しています。光を受けてキラキラと輝くため、朝と⼣⽅でも、また天気によっても⾒え⽅が変化する。そうやって⾃然を感じることができる作品です。瞬間の美しさを表現したいという気持ちは、⾃分のベースが写真家だからだと思います。瞬間の変化を感じ取って⼤切にしていく。この感覚を増幅させるようなつくりになっています」と解説。
続けて外装装飾について「ガラスに透過性フィルムを貼ることで、巨⼤なステンドグラスのようにした今回の作品は、これまでのアーティスト活動で最⼤規模の作品になりました。膨⼤な写真の中から美しい花々を選び、四季折々の景⾊が混ざりあった光景をつくっています。これは⾃分が⾒てみたい夢の⾵景、桃源郷のような世界です。遠くから⾒たときにも花々が空に向かって伸びていき、本物の空とグラデーションで溶け合っていく。実際の⾃然の⼀体化するようにつくっています」と語り、 最後に「この場所に来ていただくことでしか体感できない作品なので、 暑い中ではありますが、多くの⽅が来てくれるといいなと思います」と述べました。
続いて、ひまわり畑に場所を移し、植物や⾃然と⼈間の共存について、また、その関係性の中で浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を⾏うアーティストの平⼦雄⼀⽒から、アート作品「Wooden Wood 73」についての解説がありました。
【平⼦雄⼀⽒による作品解説】
作品のコンセプトについて平⼦⽒は「中⼼に位置する、⼈のような姿をした樹⽊の頭部を持つこの⽴体作品は、私達⾃⾝を投影する存在だと思っています。そしてその両側にある果物、観葉植物、猫も、私たちと⾃然の関係を象徴するものとして配置しました。これらの彫刻の⾜元には書物があり、これは私たちが築き上げた⽂明や社会を表しています。⾃然の状況や価値は、私たち⼈間の尺度により変化してきました。そしてこれからも、私たちの植物や⾃然に対する⾏動や姿勢は変化し続けるのではないかと思います。この作品を通じて⾃然との関わり⽅を考え、 新たな視点を開拓してもらいたいと願っています」と語りました。
【落合陽⼀⽒の作品について】
境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開する、メディアアーティストの落合陽⼀⽒の作品「リキッドユニバース :向⽇葵の環世界のコペルニクス的転回」は、脱⼈間中⼼の思考において、他⽣物のプリュリバーサルな環世界の転回を考えています。本作は、存在論的な境界の流動性を探求し、計算機⾃然が織りなす新たな知覚の地平を開く試みです。⾃然と⼈⼯物と⽣成AIの交差点に⽴つ本インスタレーションは、向⽇葵畑と観覧⾞という具象と、デジタルが⽣み出す抽象との間に⽣起する認識の揺らぎを体現しています。⽣成AIは、観客の存在をも包含した環世界のダイナミズムを、LEDの光の律動として具現化します。向⽇葵の光屈性は、⽣命の根源的な環世界との関わりを象徴しています。同時に、その動きをデジタル的に再解釈することで、我々は⽣命とテクノロジーの境界、そして知覚の本質に対する問いを投げかけます。本作は、計算機⾃然という新たなパラダイムにおいて、存在の多様性と相互連関性を探求しています。それは、⼈間中⼼主義を脱し、万物の絶え間ない⽣成変化の中に逍遙遊を⽣きる花と光による具現化です。
【河瀨直美⽒の作品について】
奈良を拠点に映画を創り続ける映画作家の河瀨直美⽒の作品「隠されたもう⼀⼈の私。ひまわり畑での問いかけ」は、「⾃分の中に⾒え隠れするもう⼀⼈の⾃分と出会う」がテーマとなっています。夏を象徴するひまわりの群れの中に突如現れるいくつかの問いかけは、まるで⼈⽣の分岐点に⽴たされたような感覚を与え、鑑賞者を内省と⾃⼰発⾒の旅へと誘います。不規則に並べられた問いかけは、⾃分⾃⾝との対話のきっかけとなり、今まで出逢えなかった潜在的な意識へと繋げてくれます。この対話によって気付かされるもう⼀⼈の私は、⾃分が認識している⾃分とは異なる存在であり、⾃⾝の隠された⾃⼰の深みに気付かせてくれる体験となるでしょう。
【ガラスドームのミスト演出について】
都では、葛⻄臨海⽔族園本館の保存・利⽤の検討や、⽔族園を象徴するガラスドームへの愛着を表現するイベントなどを「ガラスドームプロジェクト」と名付けて進めています。今回その⼀環として、東京のランドマークとしても親しまれている葛⻄臨海⽔族園のガラスドームをミストで演出します。また、 2024年8月11日(⽇・祝)〜8月14日(⽔)の特別イベント「Night of Wonder 〜夜の不思議の⽔族園〜」期間中は、霧にライトアップが追加されて幻想的な空間を演出します。海とドームの境界が曖昧になり海と⼀体化する中、 霧がかる幻想的でまばゆい海の中に没⼊する体験をお届けします。
■「海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ―」
会期:2024年8⽉2⽇(⾦)〜8月18⽇(⽇)
会場:葛⻄臨海⽔族園(葛⻄臨海公園内)および葛⻄臨海公園
⼊場無料・予約不要
※葛⻄臨海⽔族園のみ⼊園料が必要です
時間:葛⻄臨海⽔族園 9:30〜17:00(最終⼊園16:00)
葛⻄臨海公園 9:00〜20:30
【葛西臨海水族園・葛西臨海公園】海とつながる。アートをめぐる。― Harmony with Nature ― (tokyo-zoo.net)
執筆者:遠藤友香
©︎小池アイ子
2010年より毎年開催している京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。国内外の「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台芸術を創造・発信し、 芸術表現と社会を、新しい形の対話でつなぐことを目指しています。 演劇、ダンス、音楽、美術、デザインなど、ジャンルを横断した実験的な表現が集まり、 そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性をひらいていきます。
フェスティバルは、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」、「Shows(上演プログラム)」、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」といった3つのプログラムから構成されます。例えば、「Kansai Studies(リサーチプログラム)」は、京都発の国際フェスティバルとして、自分たちが立脚する「地域」について自覚的に捉え、フィールドワークを通して探求するプログラム。アーティストが中心となり、地域住民やプロデューサー、研究者と一緒に、京都や関西の文化を継続的にリサーチしていきます。活動を通じて生まれた思考の軌跡やプロセスは特設ウェブサイトに蓄積され、誰もがアクセスできるオンライン図書館として公開。未来のクリエイターや企画のためのナレッジベースや実験場、アイデアソースとなることを目指します。
「Shows(上演プログラム)」は、世界各地から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき舞台芸術作品を上演するプログラム。京都および関西における舞台芸術の変遷と動向に注目しながら、ダンス、演劇、音楽、美術といったジャンルを越境した実験的作品を紹介します。
そして、「Super Knowledge for the Future [SKF]( エクスチェンジプログラム)」は、とりわけ実験的な舞台芸術作品と社会を対話やワークショップを通してつなぎ、新たな思考や対話、フレッシュな問題提起など、未来への視点を獲得していくプログラムです。実験的表現が映し出す社会課題や問題をともに考え、議論し、現代社会に必要な智恵や知識を深めていきます。ここで獲得できるスーパー知識 (ナレッジ)は、予測不能な未来にしなやかに立ち向かうための拠り所となるはずです。
(左から)ジュリエット・礼子・ナップ氏、川崎陽子氏、塚原悠也氏(KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター)
2024年7月18日 (木)に開催された、「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」記者会見において、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクターの川崎陽子氏から、次のようなフェスティバルの概要説明がありました。
「2010年から始まったKYOTO EXPERIMENTでは、国内外の演劇、ダンス、音楽、美術など、ジャンルを横断した実験的な舞台芸術を創造、発信し、芸術表現を通して、社会に新しい形の対話を生み出すことを目指しています。今回のフェスティバルが15回目となります。
今年はプログラムから思考を生み出すきっかけとして、キーワードに「えーっと えーっと」という言葉を設定しています。今回「Shows」で紹介する多くの作品には、土地と人々の結びつきから生まれる芸能や文化とその検証、あるいは再構築、近代から現代における歴史の中の環境と人の関係性、政治史と個人史、国の記憶やその伝承など、様々な歴史、記憶やそれらを思い出す行為を見出すことができます。そうしたことをディレクターチームで話し合う中で、「えーっと」という言葉にたどり着きました。
何か思い出そうとするとき、私達は「えーっと」と言いながら、断片的な記憶を寄せ集めて言葉にすることが多いのではないでしょうか? それは空白を埋める言葉であり、何かを考えたり、探しているときの言葉でもあります。他者との間を埋めながら、記憶と対話を繋いでいくための言葉でもあるかもしれません。
毎日のように、ウクライナへのロシアの軍事侵攻や、パレスチナでの人道危機についてのニュースが流れ、選挙があれば、極右政権が支持を得るというのは珍しいことではありません。
このような時代において、私達はフェスティバルという場を通して、何ができるのだろうかということを考える中で、「えーっと」という言葉に行きつきました。何かを白と黒に分ける二項対立的な思考に陥るのではなく、「えーっと」という空白のスペースに立ち止まること、思考を再構成すること、過去との対話から明日を作っていくということをキーワードとして、フェスティバルのプログラムを通して皆さんと考えたいと思います」。
©みずの紘
また、記者会見に登壇されたアーティストの穴迫信一氏(劇作家・演出家・俳優)と捩子ぴじん氏(ダンサー・振付家)は、Shows(上演プログラム)に参加。穴迫信一×捩子ぴじん with テンテンコとして、「スタンドバイミー」を上演します。
北九州でブルーエゴナクを旗揚げし、現在は京都と東京も拠点に加えるなど、国内で縦横に活動を広げている劇作家・演出家の穴迫信一氏。麿赤兒氏率いる大駱駝艦で活動を開始し、その後自身のソロダンスや振付作品を発表すると共に、様々なアーティストと共同作業を行ってきたダンサー・振付家の捩子ぴじん氏。THEATRE E9 KYOTOのアソシエイトアーティストを務めた経験もある2人が、初めての共同演出に臨みます。今作では、両者がかねてから関心を寄せていた死生観をテーマとし、「自らとの関係が保留されている(現在の、あるいは 100年後の)死者の前に立つことができるか」の問いをもとに、穴迫氏が戯曲を書き下ろします。音楽性の高いリリカルな穴迫氏の言葉に、 捩子氏の身体性はどのように介入していくのでしょうか。音楽は、アイドルグループBiSで活動後、ソロプロジェクトを展開するエレクトロニクスミュージシャン・DJのテンテンコしが担います。死者同士の対話は、生者の現実以上にその風景をリアルタイムに生起させるかもしれません。そこから観客が見出す、死と生と、 そして現在とは、一体どのようなものなのでしょうか。
最後に、松井孝治京都市長のからのメッセージをご紹介します。
「国内外で活躍する新進気鋭のアーティストが京都に集う舞台芸術の祭典「KYOTO EXPERIMENT」は今回、記念すべき15 回目となります。芸術表現の最先端を走り続ける壮大な実験(EXPERIMENT)がこうして今年も開催できることを心から嬉しく思います。開催に御尽力いただいた山本麻友美実行委員長をはじめ、すべての関係者の皆様に深く敬意と感謝の意を表します。
本年のテーマは「えーっと えーっと」。私たちが何かを考えたり、記憶を思い出したりするときになじみの深い言葉です。 豊かな歴史と文化を有するここ京都は、過去、現在、未来が交錯する場所。アーティストの研ぎ澄まされた感性で紡ぎ出され る京都ならではの表現に期待が高まるばかりです。御来場の皆様は、今ここだけの作品との出会いを心ゆくまでお楽しみくだ さい。
本市としても、「古きをいつくしみ、新たな世を切り拓く」との方針で、伝統を大切に、多才な人々が集い、文化を支える強い経済の復活やさまざまな社会課題の解決につなげる。そして「突き抜ける魅力のある文化首都・京都」の実現に全力で取り組んでまいります。変わらぬ御支援と御協力をお願い申し上げます」。
以上、京都発の国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」についてご紹介しました。今や日本でも数少ないチャレンジングな国際舞台芸術祭として、世界中の芸術関係者から熱視線が注がれている「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」に、ぜひご注目ください。
■KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024
会期:2024年10月5日(土)~10月27日(日)
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、ほか
主催:京都国際舞台芸術祭実行委員会
[京都市、ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)、京都芸術大学 舞台芸術研究センター、THEATRE E9 KYOTO(一般社団法人アーツシード京都)]
一般社団法人KYOTO EXPERIMENT
ダンスプログラム共同主催 ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル