執筆者:遠藤友香
昨年2023年に始まった、史跡が舞台となったアートプロジェクト 「アートサイト名古屋城」。名古屋城「秋の特別公開」として、6組のアーティストによる作品と史跡が交差する「アートサイト名古屋城 2024 あるくみるきくをあじわう」が、2024年12月15日(日)まで開催中です。会期中、夕暮れから夜間にかけて楽しめる3日間(12月6日(金)・7日(土)・8日(日))限定の特別イベント『ナイトミュージアム名古屋城』も行われます。
尾張藩の拠点として築かれて以来、名古屋の成長を見守ってきた名古屋城は、国内外より年間200万人以上もの人々が訪れる観光名所としても知られています。本プロジェクトでは、古くから人々が楽しんできた『観光』という行為そのものに着目。地域の重要な観光資源ともいえる名古屋城を舞台に、高力猿猴庵、蓑虫山人、狩野哲郎、久保寛子、菅原果歩、千種創一 + ON READINGといった古今の6組のアーティストによる「あるくみるきく」から出現する大規模な作品を通じて、名古屋城の魅力をまた違った角度から体感できるまたとない機会となっています。
民俗学者の宮本常一は「歩く」「見る」「聞く」を旅の基本とし、日本観光文化研究所を設立し、雑誌『あるくみるきく』を刊行しました。観光地としてよく知られる史跡名古屋城を会場とする本展は、宮本による「あるく」「みる」「きく」という態度に着想を得ています。
(左から)アートサイト名古屋城プロデューサー・プロジェクトマネージャー 野田智子氏、キュレーター 服部浩之氏
アートサイト名古屋城プロデューサー・プロジェクトマネージャーの野田智子氏は、「このアートサイト名古屋城は、去年からスタートしました。名古屋城主催で現代アートを紹介するというのは、初めての事業です。去年は『名古屋城 2023 想像の復元』というテーマで展覧会を開催し、名古屋城が長年取り組んできた改修や復元といったものに着想を得て行いました。実は名古屋城は年間200万人以上のものが人々が集まってくる、日本有数の観光地なので、今年はそういった観光や人間が観光する営みそのものを表現するような企画を考えました」と述べています。
キュレーターの服部浩之氏は「いわゆる美術館などの展覧会場ではなく、名古屋城というお城を観光で見に来る方が多い場所です。観光地として名古屋城を楽しんでいただく中で、同時に名古屋城内でのアート作品もご覧いただければと思います」と語っています。
次に、アートプロジェクト 「アートサイト名古屋城」の中でおすすめの作品を3つピックアップします。
1.狩野哲郎
植物や鳥など、人間以外のものたちへと目を向ける狩野哲郎氏は、屋外の水飲み場やバナナ(芭蕉)の木など、通常の観光ではあまり注目されない場所に立体作品を展開します。
さらに本丸御殿表書院内では、対面所の障壁や襖に描かれた動植物への応答ともなるような立体作品を四部屋にわたって展開しています。狩野氏は「ここには何らかの調度品が置かれていたと思うのですが、藩主たちがもしその時代に存在し得なかったこういったオブジェや物を見たときに、誰か面白がる人がいればいいなという思いで作品を制作しました。江戸時代には絶対になかったもので、現在もたくさんあるわけではないのですが、そういう時代のものを中心にチョイスしています」と語りました。
2.久保寛子
地域に伝わる神話や伝承、歴史などに着想を得て彫刻作品を制作する久保寛子氏は、本展では火災から城を守るとされるシャチホコに着目します。シャチホコのルーツは水を司る神獣マカラにあるとされ、さらにその起源を辿ると古今東西の神話に登場する龍へと行きつきます。
「私は、現代アートというジャンルで彫刻をやっていますが、古くていいものを見るたびに、そこには敵わないというか、圧倒的な敗北感みたいなものが常にあって、古いものの時間に支えられてきた歴史にすごくリスペクトがあります。
現代アートはすごく個人的な視座で作るものなので、大きな歴史に支えられたものと対比する上で、何を作ろうか考えました。私は彫刻をやっているので、今回しゃちほこをモチーフに選びました。シャチホコは、水害や火災の際の水の守り神として作られたという点を踏まえ、ルーツを探っていきました。
日本にはシルクロードを通って、龍という形が伝えられてきたといいます。そこを手掛かりに、何とか自分のやってきたことと、名古屋城の歴史に接続したいという思いで作品を作りました」と語っています。
3.菅原果歩
2000年生まれの菅原果歩氏は、名古屋城に棲まうカラスに着目します。昼間は観光客で賑わう名古屋城ですが、夜にはたくさんのカラスが舞い戻ります。菅原氏はカラスたちの様子をサイアノタイプという日光を用いた写真とフィールドノートにより記録しています。
菅原氏は「名古屋城内にテントを張らせていただいて野営しながら、カラスとともに寝て、カラスととも起きる生活をずっとしていました。
太陽とカラスというのは密接な繋がりがあるということが、今までリサーチの中でわかりました。太陽とカラスの繋がりは、神話、伝承とか、日本人だけでなく、中国、韓国、またギリシャ神話の中でも数多く残されています。青写真という技法を使って、日光を利用した制作をカラスと結びつけることができないかと思い、日光写真を使った制作を始めました。
カラスには、黒といった不吉なイメージもあって負の印象が強いのですが、それに対して、幸せの青い鳥というワードもあります。青い鳥に黒い鳥を変換させてみたら、カラスの見え方がどう変わるんだろうといった実験的な意味も込めて制作しました」と述べています。
以上、名古屋城が舞台となった「アートサイト名古屋城 2024 あるくみるきくをあじわう」についてご紹介しました。江戸幕府初代将軍、徳川家康によって1615年(慶長20年)に築城された名古屋城の歴史を感じながら、アート作品の数々に酔いしれてみてはいかがでしょうか。
■アートサイト名古屋城 2024 あるくみるきくをあじわう
会期:2024年11月28日(木)~12月15日(日)
開園時間:9:00ー16:30(閉門 17:00)
作品観覧時間:10:00ー16:30
・西の丸御蔵城宝館、乃木倉庫、本丸御殿への入館は16:00まで
・天守閣には現在入場できません
・12/6、7、8は「ナイトミュージアム名古屋城」に併せて夜間公開します
■ナイトミュージアム名古屋城
会期:2024年12月6日(金)・7 日(土)・8 日(日)
開園時間:9:00ー19:30 (閉門 20:00)
作品観覧時間:10:00ー19:30
・西の丸御蔵城宝館への入館は 16:00 まで
・乃木倉庫、本丸御殿への入館は 19:00 まで
・天守閣には現在入場できません
顧剣亨「Tortoise Mountain TV Tower, Wuhan」2022 ©Kenryou Gu, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.
執筆者:遠藤友香
創業以来、美術品、ワイン、映像フィルムなどの専門性の高い保存保管事業を手掛けている寺田倉庫。1975年に美術品保管サービスの提供を開始し、美術品修復・梱包・輸配送・展示など、芸術家の情熱や美術品に込められた価値を未来に受け継ぐためのサポート事業も広く展開してきました。2020年12月、作家やコレクターから預かっている貴重なアート作品を中心に公開する芸術文化発信施設としてオープンしたのが、現代アートのコレクターズミュージアム「WHAT MUSEUM(ワットミュージアム)」です。作家の思いはもちろん、コレクターが作品を収集する際のこだわりとともに作品を展示しており、コレクションごとに様々な分野の背景が織り交ざっているのが特徴のひとつ。
「WHAT MUSEUM」では2025年3月16日(日)まで、コレクターの高橋隆史氏の現代アートのコレクションに焦点をあてたT2 Collection「Collecting? Connecting?」展と、美術家・奥中章人氏による体験的なバルーン状のインスタレーション作品を展示する奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展を同時開催中です。
T2 Collection「Collecting? Connecting?」展は、株式会社ブレインパッドの共同創業者であり、ビッグデータ・AI領域で活躍する高橋隆史氏が、約6年前から収集してきた現代アートのコレクションです。本展では、高橋氏がコレクターとして歩みはじめて最初に購入したベルナール・フリズの作品をはじめ、宮島達男、名和晃平、和田礼治郎など、近年惹かれているコンセプチュアルな作品を中心に約36点を紹介しています。
現代を生きる作家が、社会や芸術、文化、政治などのテーマを取り上げながら、自身のメッセージを多様な形で表現していることが特徴でもある現代アート。同じ時代を生きている私たちが作品と向き合うことで、自分自身との繋がりや新たな視点を発見することができます。
高橋氏もコンセプトやビジョンを世界に問うという点で、作家と起業家に共通する側面を見出し、コレクションを始めたといいます。特に作家が新たな挑戦として制作した作品や、若手作家による作品のコレクションに力を入れているとのこと。コレクションしていく中で、作家・コレクター・アート関係者とのコミュニティが生まれ、作品を集めることだけでなく、さまざまな人や価値観、思考とコネクトすることが喜びだと感じているそう。そして、総体として振り返ると、それら点と点の繋がりが思いがけず星座のように意味を為すことがあるといいます。
次に、T2 Collection「Collecting? Connecting?」展の中でも、おすすめの作品を5点ピックアップします。
1.宮島達男《Painting of Change - 003》
宮島達男「Painting of Change - 003」, 2020
宮島達男 Painting of Change - 003 2020 180 x 128.4 x 3 cm キャンバスに油彩 協力:SCAI THE BATHHOUSE
宮島達男氏は、デジタルの数字をアート作品として発表することで有名なアーティストですが、実はパフォーマンスアートが原点になっています。通常、そのままのデジタルを使って作品を作ることが多いのですが、今回初めての試みとなる、鑑賞者がサイコロを振り、その出目によって学芸員が数字を変えていくといったデジタルとアナログが組み合わさった作品となっています。
鑑賞者は、作品を鑑賞するのみならず実際に参加でき、これは宮島氏のルーツを辿る作品とも言えるでしょう。数字が変わると、展示室の雰囲気も変わっていくという面白い作品です。
2.堀内正和《平面 N-A》
こちらの3点の作品は、コレクターの高橋氏が今後のコレクションの方向性をどうしていくのかを示唆するようなものになっています。高橋氏はコレクションをしていくとき、何か方向性を考えてコレクションするのではなく、出会った方や作品の意図、作家の伝えたいメッセージ等から作品を集めていくことが大きな特徴です。
高橋氏は約6年間コレクションを続けてきて、今後どうしていくのかを熟考している最中だといいます。実は、現代アートの世界で美術館のキュレーターの育成や批評家の育成といったソフトの面でも応援していきたいという気持ちがあり、コレクションを今後続けていくのか迷っている状況だそう。このような大きな展覧会を公にするのは、最初で最後になるかもしれないと述べています。
3点の中でも右の作品、堀内正和氏の《平面 N-A》に注目してみましょう。彼は、発注芸術を最初期に日本で行ったアーティストとして知られています。発注芸術とは、作品の制作において、素材を加工する過程を芸術家が第三者に発注する芸術のこと。この作品に関しては、堀内氏の特徴が非常に出ている作品になっており、鉄を素材に制作をしはじめた初期は線と面を組み合わせた形が多くありましたが、後の時代になると大変ユーモラスな作品を数多く生み出しています。
60年代の作品《平面 N-A》は、堀内氏の初期の特徴とその後の特徴が融合した作品となっています。タイトル通り、横から見るとNが見え、また上から見てもNが見えてきます。反っている形は、まるで舌を出しているようにも見えます。時代が進むと作品の酸化が進み、色の変化が表れるなど、表情がどんどん変わっていく作品となっています。
3. 松山智一《Baby, It's Cold Outside》
松山智一「Baby, It's Cold Outside」2017 ©Tomokazu Matsuyama
松山智一氏は、NYにおいて今大変活躍している世界的アーティストの一人です。20年以上前に、単身NYに渡りました。ちょうど同時多発テロの直後だったといいます。
松山氏は、元々アーティストを目指していたわけではありませんでした。最初は大学で経済学を学んでおり、その後何かを作りたいという思いから、グラフィックデザイナーを目指しました。ですが、グラフィックデザインはクライアントの要望に応えなければならないといった、実は何かを自由に表現できる職業ではないということに気がつき、そこで絵を描き始めました。
20年間NYで暮らしていく中で、NYは文化や人種、宗教、価値観、考え方など、色々なものが混ざり合った街であると感じたといいます。日本人としてマイノリティとして、NYで活動していくうえで、松山氏は自分をどう表現していくべきかを模索しました。彼にとって、それはまさに闘いでした。
松山氏の作品の特徴として、アジアと欧米のニュアンスといったものからインスピレーションを得た作品が数多く存在しています。今回展示している作品は2017年もので、この展覧会のためにアメリカから持ってきた作品となっています。よく見ると、動植物が多く描かれていて、非常に色鮮やかで綺麗な作品ではありますが、描かれている3名の人物は無表情です。
男性の足元には白い紙のようなものが描かれていますが、これは鑑賞者自身が自由に解釈し、自分なりのストーリーを作ってほしいという思いが込められているのかもしれません。松山氏自身がストーリーをどうしても伝えたいというよりも、色々な断片的なものを組み合わせて、鑑賞者の持つバックグラウンドや価値観で見て欲しいと考えています。
4.長田綾美《floating ballast》
長田綾美「floating ballast」2022 ©Ayami Nagata
長田綾美氏の作品はインスタレーション作品で、卒展で制作されました。コレクターの高橋氏は、今後色々な面でのアートの支援育成にも非常に興味を持っているといいます。この長田氏の作品は非常に特徴的で、高橋氏は本作を購入しています。ですが、作家に自由に展示して欲しいという考えから、作家のもとに作品を置いています。高橋氏の姿勢がうかがえる作品になっています。
この作品《floating ballast》は、不織布とバラス石が組み合わさって作られています。近くで見ると非常に細かい作業であることが理解できます。不織布はマスクにも使用されますが、繊維を織らずに絡み合わせただけの破れやすい布です。バラス石は、船の底を安定させるために敷き詰める石です。
安定と不安定を象徴している素材を使用し、安定と不安定が共存する世界を表現しています。バランスの取れたものは、実は均衡がすぐに崩されやすいといった点も見て取れます。
5. 顧剣亨《Tortoise Mountain TV Tower, Wuhan》
顧剣亨「Tortoise Mountain TV Tower, Wuhan」2022 ©Kenryou Gu, Courtesy of Yumiko Chiba Associates.
こちらは、写真とカメラを用いて制作した作品を揃えて展示しているスペース。本展をWHAT MUSEUMがキュレーションする中で、高橋氏のリストを見ていくうちに、実はカメラや写真を使用した作品が多数あることに気づいたといいます。それを高橋氏に伝えたところ、本人は全くそれに気づいていなかったそうです。それを踏まえ、今回写真をテーマとした部屋を作っているとのこと。
各作品、カメラや写真を用いて、それぞれの作家が自分のコンセプト、テーマ、メッセージを昇華させて作品に反映しています。中でも、顧剣亨氏の作品《Tortoise Mountain TV Tower, Wuhan》に着目したいと思います。
全体を見た後、近くに寄って見てみると、色々な線が入っていることがわかります。縦にも横にも線が入り乱れて入っています。実は、4方向に撮影した写真を1枚に重ね合わせて、その後、顧氏がPCで自分の手で写真をピクセル単位で分解し、それらを織物のように編み込んでいます。顧氏がアナログでその作業を行っているので、消えているように見えるところがすごくまだらになっています。
よく見てみると、白く消えているように見えるもの、すごく細く消えているような場所があり、それは顧氏の身体性が作品に反映していることが見てとれます。顧氏はこの技法を「デジタルウィービング」と呼んでいるといいます。非常に細かい作業によって、幻想的な世界感を描き出している作品です。
次に、奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展についてみていきましょう。
WHAT MUSEUM 展示風景 奥中章人「Synesthesia-アートで交わる五感-」展 ©Akihito Okunaka
奥中氏は、「空気と水と光」を題材に巨大な作品を制作し、鑑賞者の感覚を揺さぶる体験を生み出してきました。 展覧会タイトルである「Synesthesia(シナスタジア)」とは共感覚を意味しますが、奥中氏はこの言葉を独自に解釈し作品に落とし込みました。感覚することが、自然・社会・人を繋げる可能性になるのではないかと考え、作品も従来の形から有機的な形へと変貌しています。
WHAT MUSEUM 展示風景 奥中章人「Synesthesia-アートで交わる五感-」展 ©Akihito Okunaka
本展では、今回のために特別に制作された、最大直径12メートルにもおよぶバルーン状のインスタレーション作品を発表します。展示室いっぱいに膨らみ、さまざまな色に変化する作品の内側には、大きな水枕が置かれています。空気と水と光という「形のない」ものを媒介に、人々の感覚を呼び起こし響きあいます。形を持たないはずの存在を感覚することで、他者と身体的感覚を超えた「つながり」をも感じることでしょう。
奥中氏は、科学技術社会学の分野を中心に活躍した哲学者ブリュノ・ラトゥールの影響を受けています。元々学んでいた教育学と社会学に、自然と社会の二元論を支柱とした近代のあり方を見直すことを提唱するラトゥールの思想が加わっています。本展示では、奥中氏の哲学的思考から生まれた作品の背景や、作品に落とし込むプロセスの一端も展示資料でご覧いただけます。
実際に作品に触れ、中に入り、寝転びながら、五感を交えた体験をしていただくことで、自然や社会、他者との「つながり」を感じるきっかけになることでしょう。車椅子の方もバルーン状のインスタレーションの中に入ることができるので、ぜひ体感してみてください。
<高橋隆史(たかはし たかふみ)氏プロフィール>
株式会社ブレインパッド共同創業者/取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、外資系コンピューター会社を経て、2000年より起業家に。ビッグデータ及びAI活用を推進するブレインパッドは2社目の起業にあたる。 以来、日本におけるデータ活用の促進のために、様々な活動を展開。 現代アートの購入は、友人の誘いで2018年から開始し、多くの喜びを得る。現在はその楽しさを広げ若いコレクターを増やすために、起業家の集まりであるEOにおいて現代アート同好会を発起して幹事を務める。その他、アート業界のジェンダー不平等を解消に取り組む米国National Museum of Women in the Arts (NMWA) の日本支部の委員など、現代アート業界における様々な課題解消のための活動にも積極的に参加している。
<奥中章人(おくなか あきひと)氏プロフィール>
1981年京都府に生まれる。同地在住。美術家/あおいおあ共同代表/木津川市山城総合文化センター体感アート講座主宰。
静岡大学教育学部卒業後、幼児/美術教育を専門に静岡県立美術館ならびに障がい者施設にて美術あそび講師を務めたのちに、近現代の思想を学び美術家となる。野村財団、朝日新聞文化財団などの助成を得て、フランス・韓国・中国にて特別研究員として研鑽を積む。ヒト・モノ・コトのダイナミズムを水・空気・光の性質や在り方を通して追求することをテーマに、各地の地域アートにてワークショップを多数開催し、体験的な巨大作品を国内外で発表している。
以上、コレクターの高橋隆史氏の現代アートのコレクションに焦点をあてたT2 Collection「Collecting? Connecting?」展と、美術家・奥中章人氏による体験的なバルーン状のインスタレーション作品を展示する奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展についてご紹介しました。現代アートの世界感を味わいに、ぜひ会場に足を運んでみてくださいね。
■T2 Collection「Collecting? Connecting?」展
会期:2024年10月4日(金)~2025年3月16日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1階SPACE1 / 2階(東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:火~日 11:00~18:00(最終入館17:00)
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始
入場料:一般 1,500円、大学生/専門学生 800円、高校生以下 無料
※同時開催の展覧会 奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展の観覧料を含む
※チケットはオンラインにて事前購入可
※本展会期中に何度でも入場できるパスポートを販売
展覧会パスポート 2,500円(本展と同時開催中の展覧会が鑑賞可能)
主催:WHAT MUSEUM
企画:WHAT MUSEUM
特別協力:高橋隆史
URL:https://what.warehouseofart.or...
■奥中章人「Synesthesia ーアートで交わる五感ー」展
会期:2024年10月4日(金)~2025年3月16日(日)
会場:WHAT MUSEUM 1階SPACE 2(東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:火~日 11:00~18:00(最終入館17:00)
休館日:月曜(祝日の場合、翌火曜休館)、年末年始
入場料:一般 1,500円、大学生/専門学生 800円、高校生以下 無料
※同時開催の展覧会の観覧料を含む
※チケットはオンラインにて事前購入可
※本展会期中に何度でも入場できるパスポートを販売
展覧会パスポート 2,500円(本展と同時開催中の展覧会が観覧可能)
主催:WHAT MUSEUM
企画:WHAT MUSEUM
協力:木津川市山城総合文化センター アスピアやましろ、住化積水フィルム株式会社、株式会社寺岡製作所、株式会社ホロ
グラムサプライ
URL:https://what.warehouseofart.or...
執筆者:遠藤友香
野村不動産株式会社と、東日本旅客鉄道株式会社は、共同で推進している国家戦略特別区域計画の特定事業である「芝浦プロジェクト」の街区名称を「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」に決定しました。「水辺ならではのライフスタイルを創造し、これを広め、東京のベイエリアをつないでいく」ことを目指し、更なる成長が期待できるベイエリアから、東京の発展に寄与していくとのこと。
本プロジェクトでは、浜松町ビルディングの建替事業として、高さ約230mのツインタワーの建設を予定しています(S棟:2025年2月竣工予定、N棟:2030年度竣工予定)。区域面積約4.7ha、延床面積役55万㎡の、オフィス・ホテル・商業施設・住宅を含む、約10年間に及ぶ大規模複合開発です。
本プロジェクトの開発意義は、ベイエリアと東京都心部の結節点「つなぐ“まち”」の創出にあるといいます。「東京ベイエリア」は、複数の大規模開発が控え、今後の成長が期待されています。都心有数の舟運ターミナルである「日の出ふ頭」や、芝浦エリアを流れる「芝浦運河」と近接しており、この立地を活かし、舟着場整備および舟運の新航路開拓等を行うことで、新たな交通手段として注目される舟運の活発化や水辺のにぎわい創出に取り組み、ベイエリア各地の水辺をつなぐそう。
また、羽田空港から都心部への玄関口である「浜松町駅周辺エリア」は、今後複数の大規模開発が進むことで、観光客等の来街者および就労人口の増加が見込まれる注目すべきエリアです。2025年春頃には、本プロジェクトと「浜松町駅との緑のアプローチ」が開通し、利便性が向上します。主要鉄道駅から水辺へのアクセスを改善することにより、ベイエリアと東京都心部をつなぐことを実践していくとのことです。
本プロジェクトの建築デザインは、槇総合計画事務所による建築計画によるもので、世界最大の水都であった江戸の歴史を踏まえ、東京の陸と海の調和を取り戻す開発を目指すことにあります。特徴的な2つのタワーと、開かれた低層部にそれぞれポイントがあります。
芝浦プロジェクトの少し形態の異なった2本のタワーは、「ふたつでひとつ」といったまるで夫婦のような考えのもと、抽象的で力強い彫刻的表現をつくり出すデザインとなっています。離れた場所から見ても、その2本のタワーのシルエットは見る角度により様々な姿に変化し、スケールを消し去ったミニマリズムな彫刻のように見え、一度見たら忘れられないシルエットになることでしょう。カーテンウォールの外壁は、水面のように情景を捉えて周囲の空を映し出します。
高層ビルの複合開発において懸念材料となるのは低層部であり、スパンの短いタワーの柱が地上まで降りてきてしまうのが一般的です。それによって、内部と外部が分断され、内部と一体性がないプラザ等が形成されがちです。そのため今回のプロジェクトでは、その問題を解決するための特殊構造により、18mの柱スパンを実現させ、内部と外部が連続した広がりのあるプラザを創りあげています。
東京はこの100年間で、関東大震災と東京大空襲で2度も壊滅的な状況になり、記憶喪失な都市とも言われています。そういった中でも、注意深く観察していくとその場所には何かしらの記憶があり、それを発見して後世に引き継ぐことが重要だと、野村不動産株式会社と東日本旅客鉄道株式会社は考えています。
江戸時代には世界有数の水都であり、芝浦プロジェクトの敷地は、海に面したものでした。しかしこの半世紀の国土開発によって埋め立てが進み、東京の都市自体、内陸側を中心に開発され、海に背を向けたような状況になってしまいました。
この度の芝浦プロジェクトでは、その重心を再度海側に向かせるきっかけになることを期待しているそう。また、すぐ近くには、日本の伝統的な文化遺産である旧芝離宮恩賜庭園があります。江戸時代からその周りの建物は時代と共に多様に変化してきましたが、旧芝離宮恩賜庭園自体は変わることなく、昔のままの姿を保っています。それはまさしくサステナビリティの存在と言えるでしょう。
(左から)株式会社 野村不動産 芝浦プロジェクト企画部長 四居淳氏、アーティスト 鈴木康広氏、槇総合計画事務所 代表取締役 亀本ゲーリー氏、「BLUE FRONT SHIBAURA」アート&カルチャー プロデューサー 小林裕幸氏
2024年11月26日には、「BLUE FRONT SHIBAURA」を設計する槇総合計画事務所のトークイベント「CULTURE FRONT」が開催されました。槇総合計画事務所 代表の亀本ゲーリー氏、まちに作品を展開するアーティストの鈴木康広氏をお招きし、プロデューサーを務める小林裕幸氏とともに、東京ベイエリアの文化とライフスタイルの可能性についての考察がありました。
亀本氏は「都市の中のリビングルームのような環境をつくり出せれば、産業地域が人を中心にしたまちづくりの核になってくれるのではないかと考えました。この計画によって、歴史的な420年前の芝離宮と浜松町駅を挟んで、2棟のタワーの間に大きな広場を取り、敷地全体が公園のような環境をつくり上げれば、コミュニティをつくる第一歩になるのではないかといった発想で設計を進めてきました。
そして、建築とは違うアートと文化といったものをオーバーレイしていくと、人々にもう少し親しみやすいような計画になるのではないかと思いました。今回、芝浦にまた新たな文化のファーストステップとして、素晴らしいアーティストの鈴木さんとコラボレーションできるというのは、非常に喜ばしいことだと感じています。
槇総合計画事務所の創立者 槇文彦が『建築は発明ではなく発見である』という言葉を残しており、この場所での歴史から始まり、未来に対するプロジェクトの可能性を感じていただければと思っています」と語りました。
鈴木氏は「そこに新しい場所をつくるというとき、すでに地球はあって、大地はあって、空気はあって、海があって、川が流れていたりなど、元々あるものの魅力を発見するということが、僕の創作活動の最初のきっかけでした。
大海原に繋がるこの入口の部分をどう人と繋げるか、ということがとても重要だと思っています。大自然の中で、あるいは程よい自然の中で人が過ごす時間、この都市だからこそ、この都市の中に潜んでいる自然を自ら見つけていけるような、そういう発想ですね。僕も東京に出てきて初めて気づけたことが多くあったと思っていまして、そういった現代の人たちが、もう一度都市の中でこそ発見できる自然みたいなことを、逆にじかに感じられるといった装置を作っていきたいというふうに思っています」と述べました。
以上、「BLUE FRONT SHIBAURA」についてご紹介しました。ぜひ、東京ベイエリアの文化とライフスタイルの可能性について考えるきっかけになれば幸いです。
執筆者:遠藤友香
芸術を介した相互理解と共生の視点に立った新しい文化の創造に寄与することを使命に、2007年、独立行政法人国立美術館に属する5番目の施設として開館した「国立新美術館」。以来、コレクションを持たない代わりに、人々がさまざまな芸術表現を体験し、学び、多様な価値観を認め合うことができるアートセンターとして活動しています。
国立美術館では、「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」展を、2024年12月16日(月)まで開催中です。荒川ナッシュ医は1998年にニューヨークへ渡り、2000年代半ばから美術館やギャラリーを舞台としたパフォーマンス・アートの発展に精力的に関わってきました。欧米ではニューヨーク近代美術館(2011、2012、2013年)やテート・モダン(2012、2021年)をはじめ、数多くの美術館でパフォーマンスを披露しています。その一方で、日本国内では、越後妻有アートトリエンナーレ(2006年)や横浜トリエンナー(2008年)において彼の初期活動は紹介されていたものの、美術館での個展はこれまで開催されたことがありませんでした。今回の展覧会は、国立新美術館にとって初めてのパフォーマンス・アーティストの個展です。多様な世代の人々の参加を促す本展は、荒川ナッシュの全方位の活動を示す新しい形式の展覧会と言えます。
本展では、一人のアーティストの個展でありながら、荒川ナッシュが敬愛する画家たちの絵画が会場内に登場します。それぞれの絵画を存在感のあるポップスターと見做し、その絵画のアティチュード(姿勢)から発案された幾つもの協働プロジェクトを発表します。その他、音楽家や文筆家の作品も登場します。また、誰でも美術館の床に絵が描ける作品など、入場無料でどなたでも楽しめ、絵画とパフォーマンスの近しい関係を探る新しい試みとなることでしょう。
今回、子ども、絵画、歴史、音楽、身体、会話、そしてユーモアがアンバランスに作用しあう荒川ナッシュの展覧会の中から、おすすめの作品を5点ピックアップします。
1.絵画と公園
かつて「美術の墓場」と呼ばれた美術館は、21世紀では公共の場として大きく開かれつつあります。日本の公共の場でアートを提示した先駆的作品として、1956年に芦屋公園で披露された吉原治良の《どうぞご自由にお描きください》(1956年)があります。荒川ナッシュはこの作品に敬意を表して、2021年にテート・モダンで《メガどうぞご自由にお描きください》を発表しました。美術館の床がカンヴァスとなり、子どもたちの水性絵具による無作為の振る舞いによって、床にコンポジションが表れます。子どもたちの際限のない描く行為によって、再三にわたり埋め尽くされていきます。
展覧会の始まりの章では、この《メガどうぞご自由にお描きください》が登場。お子さんと一緒になって、大人の方も床に自由に絵を描くことができます。いつもは作品を観る美術館で、作品の中に入って絵を描く、楽しい特別な体験となるはず。荒川ナッシュと一緒にくるくるまわったり、ルンルン歩いたり、ポップに踊るパフォーマンスも実施します。
2.絵画と子育て
人生はパフォーマンス・アートではありませんが、しかし時折、人生の転機がパフォーマンス・アートになり得ます。荒川ナッシュとその夫フォレストは、アメリカで卵子提供と代理出産を経て、双子の子どもを授かる予定です。
作品のカウントダウンは帝王切開予定日の2024年12月30日を示していますが、もし双子が34週で生まれた場合、会期終了前にこのカウントダウンは終了します。今、展覧会にあわせて荒川ナッシュは来日していますが、出産を迎えることになった場合、彼はここにはいないでしょう。
アーティストとしての活動と子育ての両立は、荒川ナッシュの重要なテーマであり、美術史では女性アーティストによって最初に提起されたジレンマです。本セクションでは、今まさに子育てに励むアーティストたちの作品、そして子育てを主題とした作品を紹介します。
3.絵画といわき
2000年代前半のニューヨークのアートワールドには、白人男性を中心とした排他的な雰囲気が漂っていました。2008年のリーマンショック後にようやくアートワールドが倫理的な変化を迎えていた中で、2011年3月11日に東日本大震災が起こりました。福島県いわき市出身の荒川ナッシュにとって、福島第一原発事故の報道は抽象的かつリアルなものであり、地元に住む家族とニューヨークのアートワールドという乖離していく2つの現実のはざまで、彼はこれらを接続する必要に駆られました。
荒川ナッシュは、料理好きの母親や日焼けサロンを経営していた兄にアート活動に加わってもらうことで、プロフェッショナルであることが前提とされるアートワールドの機構に対して、一定の距離を置きました。非プロフェッショナルな人々の介入によって、アートそれ自体が失敗するかもしれないという危うさも、また荒川ナッシュのパフォーマンスが企図するところです。
4.絵画と音楽
荒川ナッシュは2013年から作曲家と協働し、知られざる文脈を題材としたポップなミュージカルを美術館や芸術祭を舞台に演じてきました。例えば《パリスとウィザード》(2013年)では、ニューヨーク近代美術館のビデオを専門とするキュレーターが、1970年代後半に京都を訪れ同地のアーティストと交流した事実を、キャッチーなメロディとともに演じました。
「絵画が歌う」というコンセプトのこのセクションでは、荒川ナッシュのニューヨークの友人であるミュージシャン、キム・ゴードンや、本展のために依頼した日本のミュージシャン、松任谷由実、松任谷正隆、寺尾紗穂 、ハトリ・ミホといった4名の協力を得て、ポップ・ミュージック、近代絵画、現代美術といった領域を横断する4つのインスタレーションが実現しました。実際の絵画作品の前に立ちながら楽曲を聴くという総合的な体感は、本展期間中のみ感じることができる儚い特権といえるでしょう。これら4つのプロジェクトには、音楽、戦争、そして平和のテーマが通底しているのも特徴です。
5.絵画とパスポート
2024年の終わりにアジア系アメリカ人の子どもを授かる荒川ナッシュは、日本という概念に執着してしまう自身に焦燥感を覚えるといいます。2010年代の数年間、彼はパフォーマンス・アーティストとして1年のうち180日近くをアメリカ国外で活動していました。そのため、彼は実利的な理由から2019年にアメリカ国籍を取得し、法的に日本人であることを辞めました。国籍を変更して日本人としての固定観念を拭い取ることで、移民第一世代である親としての自分と、来るべき子どもたちとの間の良好な関係を築くことができると考えたのです。
本セクションでは、日本国外で活動した日本にルーツを持つアーティスト、ミヨコ・イトウ、桂ゆき、河原温、国吉康雄、ルイス・ニシザワの作品を介して、ジャパニーズ・ディアスポラについて考察します。会期中に行われる荒川ナッシュのパフォーマンスでは、アメリカのアーティストの労働条件を取り扱います。
最後に、荒川ナッシュのインタビューをご紹介します。
荒川ナッシュ医氏
「コラボレーションするときに私はあるグループ、例えばLGBTQIA+やいわきのコミュニティ、震災や原発の文脈、はたまた移民やアジアの文脈など、色々な共同体に関わります。それらの社会的な状況を観察し、どの部分に私は関与していて、どの部分に関与していなかったかということを考えます。その同一であることと非同一であることの繰り返しに、私はパフォーマンスを認識します。今回展覧会に9つ以上の色々なグループがあるのですが、そういった色々なグループの境界を観客と移動していく行為、群像劇が、私のパフォーマンス・アートと言えるでしょう。
ちなみに12月8日(日)には、ニューヨーク在住の美術史家の富井玲子さんと、美術のカタログデザイナーの森大志郎さんがトークイベントをします。普通のトークではなく、何もないがらんどうの展示空間での特殊なイベントなので、ぜひお見逃しなく」。
国立美術館では、本展会期中の毎週日曜日に、ファミリープログラム「家族で! みんなで! メガメガサンデー」を開催しています。「メガメガサンデー」のサンデーの主役は子供たちとファミリー。子どもから大人まで、誰もが気兼ねなく美術館を楽しめる特別な日曜日です。
また、本美術館は、子育て中の方の育児支援および展覧会をご覧いただく方への来館者サービスの一環として、「託児サービス」を月3回実施していますが、2024年12月まで月10回に拡充して実施中です。利用者からは「久しぶりにゆっくり美術鑑賞ができて嬉しかった」「価格もお手頃で有難い」「また利用したい」といった好評の声をいただいています。育児中で美術館が久しぶりの方や初めての方も、ゆっくりと美術館を楽しむことができます。
以上、「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」展についてご紹介しました。国立新美術館においては、2007年の開館以来初となるパフォーマンス・アーティストの個展をぜひご堪能ください。
<荒川ナッシュ医プロフィール>
1977年福島県いわき市生まれ。1998年からニューヨーク、2019年よりロサンゼルスに居住する米国籍のクィア・パフォーマンス・アーティスト。様々なアーティストと共同作業を続ける荒川ナッシュは、「私」という主体を再定義しながら、アートの不確かさをグループ・パフォーマンスとして表現している。現在、ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン、大学院アートプログラム教授。近年の主な個展に次の会場でのものがある。クンストハレ・フリアール・フリブール(フリブール、2023年)、テート・モダン(ロンドン、2021年)、アーティスツ・スペース(ニューヨーク、2021年)等。グループ展に次の会場でのものがある。センター・フォー・ヘリテージ・アーツ&テキスタイル(CHAT)(香港、2024年)、ジャン大公近代美術館(ルクセンブルク、2021年)、ホノルル・ビエンナーレ(2019年)、ミュンスター彫刻プロジェクト(2017年)、ベルリン・ビエンナーレ(2016年)、光州ビエンナーレ(2014年)、ホイットニー・ビエンナーレ(ニューヨーク、2014年)等。パブリックコレクションに、ハマー美術館(ロサンゼルス)、ニューヨーク近代美術館、ルートヴィヒ美術館(ケルン)、セラルヴェス現代美術館(ポルト)、ワルシャワ近代美術館等。
■「荒川ナッシュ医 ペインティングス・アー・ポップスターズ」展
会期:2024年10月30日(水) ~ 2024年12月16日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室2E
東京都港区六本木7-22-2
主催:国立新美術館
協力:タカ・イシイギャラリー、株式会社中川ケミカル
観覧料:無料
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
執筆者:遠藤友香
東京大学とソニーグループ株式会社が連携して進める「越境的未来共創社会連携講座(通称:Creative Futurists Initiative、以下CFI)」は、講座内の実践研究プロジェクトの成果発表展として、2024年11月23日(土)~25日(月)の3日間、東京大学本郷キャンパスにおいて、テクノロジーを取り巻くバイアス「Tech Bias(テックバイアス)」をテーマにした「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?―」展を開催しました。
CFIは、アート・デザイン・工学を通じた創造的アプローチを用いて、未来に向けた問題提起と課題解決を行う「クリエイティブ・フューチャリスト(Creative Futurist)」を育成し、社会課題に向けた批評的かつ分析的な実践研究を推進することを目標に掲げています。
東京大学大学院情報学環 筧康明教授
CFIの目標を達成すべく、2024年2月より10か月間に渡って進められてきたのが、「テックバイアス」プロジェクトです。テックバイアスは、情報学環の教員とソニーの担当者とでプロジェクトの方針を定め、運営を行いました。東京大学からはマテリアル・エクスペリエンス・デザインが専門の筧康明特任教授、フェミニズムとカルチュラル・スタディーズが専門の田中東子特任教授が、ソニーからは戸村朝子氏、大西拓人氏、小薮亜希氏、細谷宏昌氏の4名が中心となり、参加する学生およびソニーの社員と共に企画は進められました。
テックバイアスプロジェクトは、テクノロジーの開発や実装化、使用に際してバイアスのある状態を零度に設定してしまうことで不可視化され、認識の外に放り投げられ、顧みられることのないまま、あたかも標準的なものであるかのような顔をして大手を振るっている「不完全な技術/テックバイアス」を、それぞれのグループが見つめ直し、洗い直し、作り直していく試みです。
現在、私たちは日常的に多くのテクノロジーに取り囲まれて生活しています。むしろ、取り囲まれていることに気づくことさえなく、それらに依存しながら暮らしています。そして、私たちは無意識のうちにテクノロジーは便利なもの、生活を助けてくれるもの、人間にとって善きものであると考えてしまっていると、CFIは述べています。
「しかし、私たちを取り囲む様々なテクノロジーは、本当に善きものなのでしょうか? テクノロジーが開発される際に、私たちが中心に捉え、基準とし、標準化している人間像とは一体どのようなものなのでしょうか? それは、ある種のジェンダー的特性、年齢や体のサイズ、人種、『できること』を前提とした、『標準化された身体』を伴った人間像なのであり、それ以外の様々な人たちを知らず知らず排除してしまう人間像なのではないでしょうか?」と疑問を呈しています。
プロジェクトを進めて行く際に運営側が望んでいたのは、専門性の違い、ジェンダー的な差違、社会人と学生の視点の違い、年齢の違い、言語的差違、できること・できないことの違い、得意・不得意の違いなど、様々な「差違」や「違い」の間に生じる葛藤や紛糾や理解の齟齬、そこから生じる格差や溝といったものへの感受性を研ぎ澄ましてもうらうことだといいます。その研ぎ澄まされた感覚に基づいて、テクノロジーを取り巻く見えないバイアスを発見し、それらを可視化することのできる作品を制作することで、新しい作品が出来上がったそうです。
今回、中でも3つのプロジェクトに注目してご紹介します。
1.《聴こえないのは誰なのか?》白木美幸、劉カイウェン、香川舞衣、Tang Muxuan、増田徹、百田竹虎、甲林勇輝
作品《聴こえないのは誰なのか?》は、私たちが「ふつう」にあるべきとされるコミュニケーションの絶対不可能性をテーマにしています。一見「円滑」に進むコミュニケーションは、実際には特権性を内包する規範の連関によって成り立っていると、作家の白木美幸氏、劉カイウェン氏、香川舞衣氏、Tang Muxuan氏、増田徹氏、百田竹虎氏、甲林勇輝氏は考えています。そこには、「言い聞かせる」特権者と、「聴こえない」「聴かれることができない」立場に置かれる弱者が存在していると指摘します。
例えば、なぜイヤホンで音楽を聴き、スマホで情報を取り入れる私たちは、自分が補助されている存在であることに気づかないのでしょうか? それは、ある種の身体がすでに「ふつう」「規範的」と措定され、他の身体経験が「障害のある」と規定されているからではないでしょうか。「男性はこういった服を着るべき」「女性はそういった話し方で会話すべき」など、私たちは常に身体に装着する器官=義肢の「正確な」使い方によって、ふつうの日常が担保されています。そして、その「正確さ」から逸脱する瞬間、私たちはこの「規範」が内包するいびつさや矛盾に気づくはずだと、作家たちは述べています。
テクノロジーは、障害を抱える人々に様々な利便性をもたらしています。しかし、それのみで障害が解消されると考えるのは、既存のバイアスを再生産し、新たな社会的障害を生み出す可能性を孕んでいると、作家たちは考えています。補聴器や音声認識アプリといったメディア=義肢は、情報保障が必要な人々にとって確かに「補助」となり得ますが、「聴こえないなら使いなさい」と命令したり、「使っているから聴こえるはずだ」と決めつけたりするとき、それは「個人モデル」の認識枠組みを維持しながら、利用者に負担を強いるに他なりません。むしろ、こうした障害のある身体を「ふつう」のコミュニケーションの仕方に適応させる構図で、多数の補助デバイスの開発が進められている現状が危ういと、作家たちは危惧しています。
2.《scored?》高橋宙照、Yating Dai、山本恭輔、Hao Cao、松本翔太、菅野尚子
私たちが日頃目にする様々なWEBサイト。そのWEBサイトが、どのような人に向けられて作られているか意識することはあるでしょうか? あるいは、皆さんがWEBサイトを制作するとなったときに、どのようなことに気をつけてそのサイトをデザインしますか?
山本恭輔氏
作品《scored?》は、テクノロジーに隠されたジェンダー的な偏りをAIによって視覚化させる作品です。画面に表示されているWEBサイトは、作家たちが男性/女性らしさの基準でAIにスコアリングさせ、点数順に並べたものです。鑑賞者はダイアルを回すことで、AIが持っているジェンダーバランスを体感することができます。
集められた700以上のWEBサイトを、今流行っている3種類の生成AI(ChatGPT、Gemini、Perplexity)によって分析して、それぞれの特性を抽出しながら特定のWEBサイトをジェンダーの観点でスコアリングしています。
AIの視点を導入することで、制作メンバーが持っている個々のバイアスが作品に入り込むことを回避しつつも、これまでの人類のアウトプットをデータベースとして、質問への回答を作り出すAIに分析をさせることで、これまでの人類の総和としてもバイアスにWEBサイトを採点させます。
この作品では、日々私たちが目にするジェンダー表象のあり方を再考し、日常に浸透するテクノロジーの中に潜む「隠れた偏り」を体感的に問いかけます。
3.《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》李若琪、毛雲帆、西澤巧、梅津幹、熊暁、小松尚平、石坂彰、中岡尚哉、管俊青
1995年に誕生したプリクラ(PRINT CLUB/プリント倶楽部®)は、テクノロジーと表象文化の文脈から見るとき、極めて興味深い歴史的背景が存在すると、作品《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》の作家、李若琪氏、毛雲帆氏、西澤巧氏、梅津幹氏、熊暁氏、小松尚平氏、石坂彰氏、中岡尚哉氏、管俊青氏は述べています。
この画期的な写真機を開発したのは、RPG『真・女神転生』『ペルソナ』シリーズで知られるアトラス社です。一見すると、人間とは異なる存在との物語を描くダークファンタジーRPGと、若者たちの記念写真機という取り合わせには違和感を覚えるかもしれません。
誕生から長らく誰もが自由に使用できたこの空間では、近年多くの店舗において、防犯の観点から男性単独での入室が禁止されています。この制限は単純は排除ではなく、むしろプリクラという場が持つ複雑な社会的機能を浮き彫りにします。一方では、利用者が安心して自己表現できる場を確保するための措置でありながら、他方では新たな境界線を引くことになるこの制限は、現代社会が直面する本質的なジレンマを体現していると、作家たちは考えています。実際、一部の店舗では制限を撤廃し、代わりに設置場所の工夫や死角の除去といった空間設計による解決を模索しています。
技術による自己表現の可能性と限界を見つめ直すとき、私たちはより根源的な表象の問題に立ち返る必要があります。古来より、人間は動物に様々な意味を付与してきました。威厳、優美さ、自由さーこれらは単なる生物学的な特徴の描写を超えて、人間社会の価値観や理想を投影した表層として機能してきました。しかし、このような動物の性質についての物語は、あくまでも人間が作り上げた文化的な構築物に過ぎません。
本作は、「ジェンダライズプリマル」という名で、こうした文脈の中でプリクラの持つ性質を、より根源的に再解釈する試みです。「プリマル」は「プリクラ」と「アニマル」を組み合わせた造語であり、プリクラ文化と動物表象の融合という本作品の特徴を表すことを意図しています。
《ジェンダライズプリマル:動物鏡像儀式》はプリクラ撮影ができる作品で、ライオン、オオカミ、犬、猫、ウサギ、羊、イルカ、ペンギン、ドラゴン、カラス、クジラ等、好きな動物の中から4つプリクラに使用したいものを選択して撮影するというもの。
例えば、女性的・男性的な動物イメージが伝統的な男女役割のステレオタイプを反映しているのに対し、ノンバイナリー表現の動物イメージには、海洋や多様な環境に生息する動物が多いことが特徴として見られるといいます。
「ノンバイナリー表現に使われる動物」には、柔軟性や多様性、ジェンダーフルイドなどの表現があります。ドラゴンは年齢を重ねた多くの人に選ばれています。
「女性的な表現に使われる動物」には多様なイメージが見られ、独立や優雅さを象徴する動物が選ばれています。生命力と美しさ表すチョウチョは、年齢に関わらず多くの女性が選択しています。
「男性的な表現に使われる動物」に、若年男性はアニメ『ライオン・キング・シンバス』の影響を受けることが多く報告されました。勇気やリーダーシップを象徴するライオンを選ぶ傾向が強いといいます。
以上、東京大学とソニーグループの混成プロジェクトチームが、これまで行ってきたリサーチ、実験、および実践的な取り組みを通じて得られた知見を共有した「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?―」展についてご紹介しました。バイアスに対する理解を深めるとともに、テクノロジーがどのようにして公正な社会を実現するための力となり得るのか、考察の一助になれば幸いです。
■Creative Futurists Showcase #1「Tech Bias —テクノロジーはバイアスを解決できるのか?」
日時:2024年11月23日(土)~25日(月)11:00~18:00
会場:東京大学情報学環オープンスタジオ
入場料:無料(申込不要)
主催:東京大学×ソニーグループ 越境的未来共創社会連携講座
Photo by Yasuyuki Takaki
Photo by Yasuyuki Takaki
執筆者:遠藤友香
銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」では、2024年12月25 日(水)まで「HEAVENLY GIFT -宇宙からの贈り物-」をテーマに、アート&カルチャーを中心としたクリスマスが繰り広げられています。グラフィックアーティストの伊藤桂司氏が創り出す多様なコラージュヴィジュアルが、クリスマスムードを盛り上げ、GINZA SIXの館内各所を彩っています。「天からの」と「すばらしい」の2つの意味を持つHEAVENLYをテーマに、日常を忘れ、今日あることの「かけがえのなさ」に感謝し、祝福するクリスマスを表現。
グラフィックアーティスト/京都芸術大学・大学院教授 伊藤桂司氏
伊藤氏は「いつもの日常が特別な光を纏い、祝祭的な空間に変わるクリスマス。一説によると、古代ヨーロッパでは太陽が弱まり闇の支配が強くなるこの時期に、死者たちの霊がこの世を訪れたそうです。彼らを歓迎するために贈り物を用意した風習が、クリスマスの原型なのだとか。今回のミッションは、僕にとっての『HEAVENLY GIFT』。幼少期にクリスマスの飾りつけで感じたドリーミーな高揚感に包まれながら臨みました。願わくば、このワクワクが皆さまにも届きますように!」と述べています。
Photo by Yasuyuki Takaki
また、館のシンボルである中央吹き抜けアート「BIG CAT BANG」を手掛けるヤノベケンジ氏の最新作が、伊藤氏のグラフィックとともにエントランスに登場。平和をもたらす「SHIP’S CAT」が宇宙からの贈り物を届けてくれるように、銀座の街を行き交う人々の幸せを祈ります。
現代美術作家/京都芸術大学教授 ヤノベケンジ氏
ヤノベ氏は「館内インスタレーション『BIG CAT BANG』から世界に平和をもたらすべく飛び出した猫たちがサンタとトナカイに扮し、雪の世界に降り立ちました。すべての人々の心に明かりを灯す、宇宙からの幸せの贈り物を届ける思いで制作しました」とコメントしています。
Photo by Yasuyuki Takaki
そして、銀座で“宇宙に最も近い”場所に位置する屋上庭園のスケートリンクとして毎年好評の「Rooftop Star Skating Rink」が、今年も2025年1月26日(日)までの期間限定で登場しています。
by Yasuyuki Takaki
銀座エリア最大の面積(4,000㎡)を誇るGINZA SIX ガーデン内の「水盤エリア」と「芝生エリア」(約320㎡)にお目見えしたスケートリンクの中央には、ヤノベ氏の巨大な最新作「SHIP’S CAT(Ultra Muse / Red)が登場し、伊藤氏によるヘヴンリーなグラフィックとともに、宇宙からの贈り物に思いをはせる空間に。
伊藤桂司監修グッズ(会場限定) HEAVENLY GIFT T シャツ 各6,600 円(予定価格)
ヤノベケンジ「SHIP’S CAT」グッズ(新作) (上) SHIP’S CAT(Flying)/クリスマスオーナメント (下) LUCA 号/クリスマスオーナメント 各1,100 円(税込)
12月には、伊藤氏監修のオリジナルグッズや、ヤノベ氏の最新グッズなど、ここでしか手に入らないアイテムを取り揃える「HEAVENLY GIFT SHOP」もオープン予定です。
ヤノベ氏は、「『冬の天使』と名付けられたインスタレーションは天使の様な翼をたずさえたSHIP’S CAT (Ultra Muse / Red)とともに宇宙に思いをはせながら人々が集う、愛溢れる幸福な空間を作りたいと考え構想しました」と語っています。
その他、地域の方々にもスケートを楽しんでいただくため、近隣小学校の生徒を対象としたスケート教室や、地域と連携したイベント等も予定。電気を使わない、樹脂を使用したエコなリンクであり、転んでも服が濡れない嬉しいメリットも。お子さまも安心して滑ることができるスケートリンクです。
この冬、GINZA SIX でしか体験できないひとときをぜひお楽しみください。
■Rooftop Star Skating Rink
期間:2024年11月16日(土)〜 2024年1月26日(日) まで
時間:平日 14:00〜21:00、土日祝 11:00〜21:00 最終受付 20:30
※12月23日(月)~2025年1月3日(金)は土日祝扱い
※12月31日(火)は11:00〜18:00(最終受付17:30)、元旦は休業
場所:GINZA SIX ガーデン(屋上庭園)
滑走料:大人(高校生以上) 2,000円、 小人(中学生以下) 1,500円、付添料金300円
※貸靴料含む ※未就学児は保護者同伴 ※3歳以下は滑走不可
割引:①GINZA SIXカード・アプリ会員は200円引き
②館内レストラン・カフェ利用の方に200円引きのチケットを配布(①、②の併用は不可)
その他: 手袋は着用必須 (持参可。会場にて、大400円、小300円でも販売)
ヘルメットは貸出無料(10歳以下は着用必須)、その他プロテクターも無料貸出
最大収容人数:75名
※荒天時など当日の天候により、営業時間や開催内容が予告なく変更・中止になる場合があります。
(左から)ヘラルボニー代表 松田文登氏、松田崇弥氏、金沢21世紀美術館 チーフ・キュレーター/株式会社ヘラルボニーアドバイザー 黒澤浩美氏
執筆者:遠藤友香
株式会社ヘラルボニーは、障害のあるアーティストたちの輝かしい才能を称える場として、東京建物株式会社をプラチナスポンサーに迎え、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」を、2025年5月31日(土)〜2025年6月14日(土)まで、三井住友銀行東館 1F アース・ガーデンにて開催します。
ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに、アートを起点に新たな価値や文化の創造を目指す企業です。国内外の主に知的障害のある作家の描く2,000点以上のアートデータのライセンスを管理し、さまざまなビジネスへ展開しています。支援ではなく対等なビジネスパートナーとして、作家の意思を尊重しながらプロジェクトを進行し、正当なロイヤリティを支払う仕組みを構築しています。アートを纏い社会に変革をもたらすブランド「HERALBONY」のほか、商品や空間の企画プロデュース、取り組みを正しく届けるクリエイティブ制作や社員研修プログラムなどを通じて企業のDE&I推進に伴走するアカウント事業、あたらしい"常識"に挑戦する盛岡のアートギャラリー「HERALBONY GALLERY」の運営を行うアート事業など、多角的に事業を展開。さまざまな形で「異彩」を社会に送り届けることで、「障害」のイメージを変え、80億人の異彩がありのままに生きる社会の実現を目指しています。
2024年、障害のあるアーティストたちの輝かしい才能を称える場として「HERALBONY Art Prize 2024」を初開催し、世界28の国と地域から1973点の応募がありました。
「HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition」は 2024年9月22日(日)に43日間の会期を終え、盛況裡に閉幕し、会期中の来場者数は累計1万人に達しました。JAL賞を受賞した、水上詩楽氏の作品「タイトル不明」はJAL全路線の機内紙コップに採用され、11月より一部路線のビジネスクラスアメニティに起用、空の旅を彩りました。
また、トヨタ自動車賞を受賞した澁田大輔氏の作品「クジラの群れ」はラリーカーに花を添え、9月「TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge in 利府」で出走するなど、異彩が発露する機会となりました。
「HERALBONY Art Prize 2024」の感動を胸に、「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」では「限界はない。障壁を越え、創造性を解き放て!」をテーマに掲げ、さらなる高みを目指します。そして、グランプリ作品は、東京だけでなく、ヘラルボニー本社のある岩手、そしてフランス・パリの3都市での作品展示を行い、国際アワードしての存在感を打ち出していきます。
(左から)ヘラルボニー代表 松田文登氏、松田崇弥氏
2024年11月13日(水)に開催された「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」 記者発表会において、ヘラルボニー代表の松田崇弥氏と松田文登氏は、「世界の国々によって、障害そのものが持つ概念や価値観といった感覚は全然違うと思うのですが、ただ間違いなく課題があるということは事実です。アートというフィルターを通じて、それをフラットに感じ取ってもらって、本当に心からいいなって思える形を社会が作っていくことによって、障害そのもののイメージが緩やかに変わっていけるような、そういった啓発機能を持った存在でありたいというのが意識としてあります。
ヘラルボニーは、切り取り方とか捉え方とか伝え方とか、単純にその作品がどういうストーリーで、どういうコンテキストで、どういう歴史的なフックに乗っているのか、今までの既存の価値とはまた違う、フラットにそれを見ることによってどう思うかということも含めて、新たな鑑賞体験を作っていけるような、そういう枠組みにもチャレンジしていきたいなと思っています。
今回のヘラルボニーアートプライズでも、結構作品名が《無題》というものが多かったのですが、それって私達側に委ねられているということです。その説明を本人がすることがなかなか難しい作家も中には存在していて、そこも含めた色々な対応が必要なのですが、作品そのものがあることによって、何だか色々な感情をもらえるって、すごくこの世に生まれてきて豊かなことだと思いますし、スポットが当たる当たらないを超えて、その作品に出会えたことそのものが、自分の思考を豊かにする行為だと思っているので、そんないろんな発見がある展覧会であれたら嬉しいなと思います」と述べています。
開催決定に併せて、2024年11月13日(水)より応募作品の募集を開始しています。ヘラルボニーは本アワードを通じて、応募者が障害者ではなく、ひとりの作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけることを強く望んでいるとのこと。
浅野春香氏
「HERALBONY Art Prize 2024」にてグランプリを受賞された浅野春香氏は、以下のようにコメントを寄せています。
「私は浅野春香と言います。普段は自宅の寝室兼、リビング兼、アトリエの部屋で制作しています。ご飯を食べるための大きなコタツで、あぐらをかいて制作しています。ずっとあぐらをかいているので、スジが痛くなります。たまに接骨院に行ってほぐしてもらいます。
私はへラルボニーアートプライズ2024に参加しました。数カ月前のことです。今でも夢のようです。私はキラキラした世界にいました。夢のような、綺麗な場所で、いろんな人に会って、皆んな私に注目してくれて、私は綺麗な服を着て、綺麗なホテルに泊まって。すごかったです。
夢のような場所から帰ると私は、スランプに陥りました。『ヒョウカ』よりいい作品を描かなきゃと思ったからです。『ヒョウカ』よりいい作品を描いてまた夢のような場所に行きたかったのです。でも、そういう気持ちが強すぎると絵が描けなくなります。
『ヒョウカ』は人から評価されたいって気持ちの絵です。でも、よこしまな評価されたいって気持ちがあると、絵は描けなくなります。私は人からちやほやされたかったのです。結局私は、『ヒョウカ以上の絵は描けない。でも、自分の描きたい絵を描きたいように描く』という所に落ち着きました。私はまた毎日絵を描いています。私は成長しました。
へラルボニーアートプライズ2025に応募しようとしている皆様、私が皆様に思うことは、まず応募してみてくださいということです。何事もチャレンジしてみてください。種まきをしてください。結果はついてくるかもしれないし、ついてこないかもしれません。でも、チャレンジすることはとても大事なことです。
頑張れば自信がつきます。種まきをすれば、もしかしたら芽が出るかもしれません。もしかしたら、皆様の絵が飾ってもらえるかもしれません。そしたらたくさんの人に見てもらえます。もしかしたら、皆様の絵が商品のデザインになるかもしれません。そしたら、とても嬉しいと思います。皆様、ぜひチャレンジしてみましょう!」
金沢21世紀美術館 チーフ・キュレーター/株式会社ヘラルボニーアドバイザー 黒澤浩美氏
審査員を務める、金沢21世紀美術館 チーフ・キュレーターで株式会社ヘラルボニーアドバイザーの黒澤浩美氏は、以下のように語っています。
「一般論として、色々なところで皆さんが目にする社会的動向として、欧米、白人、男性というのが非常にパワフルにアート界でも長く君臨してきた事実があります。アートヒストリーをどこから書き込むかということは議論するところではありますが、皆さんが書店で手に取られるアートの教科書をご覧になっていただいて、今回の審査員の方々が手掛けているアール・ブリュットというのは、本当に少ないページしか割かれていませんし、ものによっては書いてもない本がほとんどです。
これは別段不思議はなく、アートの世界ではやはり研究、アカデミックのラインと、それからそれを必要とする人たちとの間でのやり取りがほとんどですから、それが主流となって残ってきたのがアートヒストリーです。
全然そういうアートは取り上げられていないかというと少し語弊があるのが、一般的に障害があるということを、誰が決めてるのかということもあると思うんですね。今まで障害者ということを外の人たちが決めている状況なので、それを作家ファーストで作家が作ったものであれば、障害があるかもしれないけれど、それは作家の作品として評価するという視点の入れ替えですね。それが必要なんじゃないかなと思います」。
「誰もが正当に『評価』される社会へ向けてー異彩が放つ輝きが未来を照らす、その第一歩を共に歩みましょう」という言葉を、松田崇弥氏、松田文登氏は述べています。ぜひ、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」に注目してみてください。
■「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」
会期:2025年5月31日(土)~2025年6月14日(土)
会場:三井住友銀行東館 1F アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
主催:株式会社ヘラルボニー
応募要項/審査基準/賞について
・応募資格
1. 国内外で活躍を目指す、障害のある作家を対象とします。
(国内在住)障害者手帳をお持ちの方
(海外在住)自治体/行政機関/医療機関の発行した「障害の内容が明記された」内容の書類をお持ちの方
※一次審査通過者は本人確認書類として上記書類のコピーを提出いただきます。
2. 作家本人または所属団体等による応募申し込みが可能です。
以下のいずれかに該当する方
①作家本人 ②親権者(作家が未成年の場合) ③親族・保護者 ④後見人 ⑤作家が所属する福祉施設その他団体
3. 国籍・年齢・性別及びプロフェッショナル・アマチュアを問いません。
・応募方法
公式ウェブサイト上の専用応募フォームからご応募ください。
特設サイト(日/英):
日版:https://artprize.heralbony.jp/ 英版:https://artprize.heralbony.jp/en/
・応募期間
2024年11月13日(水)17:00~12月30日(月)23:59まで(JST)
応募の詳細は、「HERALBONY Art Prize 2025 Presented by 東京建物|Brillia」特設ウェブサイトをご参照ください。
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執筆者:遠藤友香
2010年から3年ごとに開催され、今回で6回目を迎える国際芸術祭「あいち2025」。国内最大規模の芸術祭の一つとして知られ、国内外から多数のアーティストが参加する芸術祭です。「あいち2025」は、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなかを主な会場として、2025年9月13日~11月30日の全79日間開催予定です。
フール・アル・カシミ芸術監督 ©SEBASTIAN BÖTTCHER
テーマは「灰と薔薇のあいまに」。芸術監督には、シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/国際ビエンナーレ協会(IBA)会長のフール・アル・カシミ氏が就任されています。開催目的として、新たな芸術の創造・発信により、世界の文化芸術の発展に貢献すること、現代美術等の普及・教育により、文化芸術の日常生活への浸透を図ること、そして文化芸術活動の活発化により、地域の魅力の向上を図るといったことが掲げられています。現代美術を基軸とし、舞台芸術なども含めた複合型の芸術祭で、ジャンルを横断し、最先端の芸術を「あいち」から発信します。
フール・アル・カシミ氏は、以下の言葉を寄せています。
「モダニズムの詩人アドニスは、1967年の第3次中東戦争の後、アラブ世界を覆う灰の圧倒的な存在に疑問を投げかけ、自身を取り巻く環境破壊を嘆きました。アドニスの詩において、灰は自然分解の結果生じるものではなく、人間の活動による産物、つまり無分別な暴力、戦争、殺戮の結果なのです。環境に刻まれた痕跡を通して戦争を視覚化することで、アドニスは、直接的な因果関係や現代的な領土主義の理解ではなく、地質学的かつ永続的な時間軸を通して戦争の遺産を物語ります。したがって、アドニスにとってそれはただ暗いばかりではありません。消滅の後には開花が続くからです。
この感情は、再生と復活のためには必ず破壊と死が先行するということ、そして人類の繁栄のためには、恐怖を耐え忍びながらその道を歩まなければならないという、一般的な心理的概念を表しています。アドニスは、希望と絶望の感情と闘いながら、新たな未来、現在と過去に結びつく恐怖から解放された未来を思い描きます。戦争を国家、民族、部族、人間中心的なものよりも、集合体としての環境という視点から理解しようとすることで、アドニスは戦争の多様な顔を強調します。すなわち、人類が引き起こした戦争、地球に対する戦争、私たち自身の内なる戦争、他者との戦争、ヒエラルキー・服従・抑圧・飢饉・飢餓・搾取をめぐる象徴としての戦争、資源とエネルギーをめぐる戦争、所有権や著作権をめぐる戦争、希望・夢・想像力をかけた戦争などです。
観察者、目撃者として戦争と破壊を経験したアドニスがこの詩を書いた政治的背景は、私たちの現在の経験にも根差しており、この芸術祭ではそれをさらに拡張しています。「 灰と薔薇のあいまに」というテーマにおいて、私は人間が作り出した環境の複雑に絡み合った関係を考えるために、灰か薔薇かの極端な二項対立も、両者の間の究極の境界線も選ばないことにしました。むしろ、啓蒙思想の知識文化から受け継がれた両者の境に疑問を投げかけ、人間と環境が交わる状態、条件、度合いを想定します。今回の芸術祭では、戦争と希望という両極のいずれでもなく、その間にある私たちの環境の極端な状態を受け止めながら、人間と環境の間にあると思われている双方向の道を解体する可能性を探ります。
(中略)
第6回となる国際芸術祭「あいち2025」では、人間と環境の関係を見つめ、これまでとは別の、その土地に根差した固有の組み合わせを掘り起こしたいと考えました。農業が機械化され領土が金融化される以前には、世界の至るところで共同体が自然を管理し、環境景観との相互関係を発展させていました。そうした共同体は、自然の権利や保護を意識し、それを取り巻く動植物の生息地との間に親近感を感じて、互いに信頼し、育み、補い合う道を築いていました。この芸術祭では、そのような枠組みを現代的な芸術実践の一部として歓迎します。
(中略)
人間は、原材料を収奪できる空間へと環境を均す専門技術を持ったエンジニアであるだけでなく、人類の間に存在する不平等を再強化してもいます。今日私たちが占有している環境は、ある共同体が他の共同体よりも恩恵を受け、その生活の質が高まるように、異質化され、細分化され、分類され、モデル化されています。現在のグリーンエネルギー化の言説もまた、片方の半球にいる人々のためのものであり、他方で環境回復のために欠かせない方策の恩恵を受けることのできない共同体が、世界中至るところに存在しているように思われます。このように、今日の人間と環境にまつわる実践の多くは、人種、社会、差別についての知識や考え方を何度も繰り返しているのです。
(中略)
今回の芸術祭では、現在の人間と環境の関係に関する一筋縄ではいかない物語や研究を念頭に置きながらも、私たちが直面している極端な終末論も楽観論も中心としないことを目指しています。私は、環境正義に関する対話に複雑さを重ねることによってのみ、私たちが自らの責任に向き合い、不正義への加担に気づくことができるのだと考えています。ヒエラルキーの押しつけや偏った読み方を避けるために、世界中からアーティストやコレクティブを招き、私たちが生きる環境について既に語られている、そしてまだ見ぬ物語を表現するのです。アドニスが想像したように、試練を乗り越えて死や破壊に耐えるからこそ自然は回復力を持つのでしょうか。それとも、生命を奪われ機械化された空疎な気候フィクションが表現するディストピア的で黙示録的な未来像が、今まさに私たちが生きる現実なのでしょうか。愛知県に根差した今回の芸術祭には、灰と薔薇の間にある日本独自の環境に対する想像力も組み込まれます。愛知県は陶磁製品の産地として、瀬戸市は「せともの」の生産地として知られています。周囲の環境から得た素材や資源を用いるこれらの地場産業は、アーティストたちの新作の中にも立ち現れてくるでしょう。こうした産業は、地域の誇りの源であり、人間と環境の関係についての新たなモデルを模索する本芸術祭の支柱となります。たとえばこの地では、歴史的な写真や資料で目にする陶磁製品の生産によって作り出された灰のような黒い空は、環境の汚染や破壊よりも、むしろ繁栄を意味していました。このように普遍主義的な人新世という人間中心の批評の視点から脱却する時、技術、地域に根差した知識、帝国の歴史、環境に対する想像力について、どのような思考が浮かび上がってくるのでしょうか。地場産業や地域遺産は、人間と環境の複雑に絡み合った関係について、新たな、幅を持った思考への道を開くのでしょうか。
芸術祭ではさらに、手塚治虫の『来るべき世界』を始め、日本の大衆文化、小説、映画、音楽のさまざまなシーンや事例もまた参照します。手塚の物語では、アメリカ合衆国とソビエト連邦になぞらえた国同士の緊迫した関係が原爆の開発競争ーそれは日本の現代化と環境の状態に深く絡んだ歴史でもありますーを招き、偶然にも「フウムーン」と呼ばれる突然変異の動物種を生み出してしまいます。フウムーンは人間を超える能力と知性を持ち、多くの動物と少数の人々を地球から避難させる作戦を考えます。自然と人間の副産物であるフウムーンが、窮地を救うためにやって来るわけです。
『来るべき世界』は、今回の芸術祭のテーマとアドニスの詩に共鳴しつつ、終末と開花の間を横断します。愛知県という地域性、アドニスや手塚といった作家への参照、そして参加アーティストたちが共に示すのは、「灰と薔薇のあいまに」を掲げるこの芸術祭が、幅を持った考え方、有限なもの、そして中間にある状態を採り入れることによって、当然視されてきた位置づけやヒエラルキーを解きほぐせるということなのです」。
次に、新たに発表された国際芸術祭「あいち2025」の参加アーティスト32組(現代美術26組、パフォーミングアーツ6組)の中から、一部の方をご紹介します。
■現代美術
1.バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ
《May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us》 2020–22 Photo: Christian Øen © Astrup Fearnley Museet, 2023. Installation view of May amnesia never kiss us on the mouth: only sounds that tremble through us, 2022, Basel Abbas / Ruanne Abou-Rahme. An echo buried deep deep down but calling still
バゼル・アッバスとルアン・アブ゠ラーメは、サウンド、映像、文章、インスタレーション、パフォーマンスなど、様々な分野で共に活動するアーティストです。二人の取り組みは、パフォーマティビティ、政治的イマジナリー、肉体、仮想世界の横断にあります。二人のアプローチの特徴として、サウンド、映像、テキスト、オブジェなど、既存の素材や自作の素材をサンプリングし、それらを全く新しい「台本」に再構築することが挙げられます。その成果として、マルチメディア・インスタレーションやサウンドと映像のライブ・パフォーマンスという形で、サウンド、映像、テキスト、サイトが持つ政治的、情緒的、物質的な可能性を追求する表現を展開しています。
2.ジョン・アコムフラ
《Vertigo Sea》 2015 © Smoking Dogs Films; Courtesy of Smoking Dogs Films and Lisson Gallery.
アーティスト、映画制作者として著名なジョン・アコムフラは、記憶、ポスト植民地主義、一時性、美学を探求し、世界中に存在する移民に着目して、しばしばディアスポラをテーマにしています。1982年にはロンドンで、デヴィッド・ローソンやリナ・ゴポールらとともに、影響力を持つブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブを設立。ローソン、ゴポールとの協力関係は今なお続いており、アシティー・アコムフラを加えたスモーキング・ドッグ・フィルムズとして活動しています。記録映像、スチール写真、撮り下ろし、ニュース映画を組み合わせた多層的な視覚様式で制作した画期的なマルチチャネル映像のインスタレーションは、国際的に注目を集めています。
3.ミネルバ・クエバス
《The Trust》 2023 Courtesy of Kurimanzutto Mexico, New York.
ミネルバ・クエバスは、サイトスペシフィックなアクションや作品を通して、社会圏の実像を描写するリサーチ型のプロジェクトを展開するアーティスト。資本主義体制とその社会的帰結に内在する価値、取引、資産の概念を研究し、日常生活に潜む反逆の可能性を探っています。インスタレーション、動画、壁画、彫刻、公共空間への介入など幅広いメディアを介して、ブランドロゴに見る身近な視覚表現をもじって、人々の政治的虚像に根付く概念に疑問を投じ、ソーシャル・コミュニケーションの活性化を狙っています。主な研究分野は、エコロジー運動、人類学、企業史です。1998年にMejor Vida Corpを、2016年にInternational Understanding Foundationを設立しました。
4.ウェンディー・ヒュバート
《Hunting Place》 2024
ウェンディー・ヒュバートはインジバルンディの長老であり、無形文化財保持者、アーティスト、言語学者でもあります。ピルバラ(西豪州)のレッドヒル・ステーションで生まれ、その後ミンダルー・ステーション、オンスローを経てロウバーンに定住。その地での地域保健活動を通じて夫と出会い、3人の息子を授かりました。2019年にジュルワル・アート・グループで絵画制作を始め、幼少期に見ていた風景やインジバルンディとグルマ・カントリーの重要な場所を描いた風景画で知られるアーティストとなります。「私は自分の故郷(カントリー)とその掟を知っています。インジバルンディの守り手として、老いてもその考え方と生き方を貫いています。」(ウェンディー・ヒュバート 2021年)
5.加藤泉
《無題 Untitled》 2023 Photo: 岡野圭 Cortesy of the artist / ©︎2023 Izumi Kato
加藤泉の絵画や彫刻には、未分化な原始生物、胎児、動物、またはそれらのハイブリッドのような存在が表象されています。人間、自然、環境をめぐる根源的な関係が見出される彼の作品は、胎内回帰を想起させながら、新たな神話的物語を紡ぎ出しているようでもあります。2007年の第52回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「Think with the Senses ̶ Feel with the Mind. Art in the Present Tense」に選出されたのをきっかけに、国内外で精力的に発表を行っています。近年では、木彫に彩色を施した従来の彫刻に加え、ソフトビニール、プラモデル、石、布地、アルミニウム、ブロンズも素材に加わり、加藤の絵画の意識はソフト・スカルプチャーやインスタレーションへと拡張しています。
6.シェイハ・アル・マズロー
《Accordion Structure》 2022
シェイハ・アル・マズローは、シャルジャ大学美術デザイン学部を卒業。2014年にロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツで芸術修士号を取得し、MFA学生賞を受賞しました。その後、母校シャルジャ大学で彫刻の授業を担当、現在は、ニューヨーク大学アブダビ校にて准教授を務めています。アル・マズローの彫刻における実験と探究は、物質性の表現、すなわち形式と内容の緊張関係と相互作用を表わしており、同時に素材とその物理的特性の直感的で鋭敏な理解でもあります。アル・マズローは、色彩理論から幾何学的抽象主義に至るまで、フォルムと素材に焦点を当てた現代のアートムーブメントの概念を統合・進化させています。
7.ダラ・ナセル
《Adonis River》 2023 Commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist
多様な素材を用いて、抽象概念とオルタナティブなイメージを表現する芸術家 ダラ・ナセルは、絵画、パフォーマンス、そして映画などのジャンルを横断した作品を手掛けています。ナセルの作品は、資本主義と植民地主義的な搾取の結果として悪化していく環境、歴史、政治的な状況に、人間と人間以外のものがどのように関わり合っているかを探求しています。ナセルは、伝統的な風景画の広大な視点とは対照的に、土地をインデックス的に捉えた絵画で、政治や環境における侵食に焦点を当てています。彼女は自らの作品を通して、人間の言葉が届かない中で環境がゆっくりと侵され、侵略せし者が搾取を行い、インフラが崩壊する様子を、人間以外のものの視点から表現しています。
8.沖潤子
《anthology》 2023 FUJI TEXTILE WEEK, Photo by Kenryou Gu
生命の痕跡を刻み込む作業として、布に針目を重ねた作品を制作する沖潤子。下絵を描く事なしに直接布に刺していく独自の文様は、シンプルな技法でありながら「刺繍」という認識を裏切り、観る者の根源的な感覚を目覚めさせます。古い布や道具が経てきた時間、またその物語の積み重なりに、彼女自身の時間の堆積をも刻み込み紡ぎ上げることで、新たな生と偶然性を孕んだ作品を生み出しています。存在してきたすべてのもの、過ぎ去ったが確かにあった時間。いくつもの時間の層を重ねることで、違う風景を見つけることが制作の核にあります。
9.マイケル・ラコウィッツ
《The invisible enemy should not exist (Lamassu of Nineveh)》2018 Photo: Gautier DeBlonde ©Courtesy of the Mayor of London.
マイケル・ラコウィッツは、問題の解決と発生が交差するような場において、多領域を横断しながら活動するアーティストです。植民地主義や地政学的対立など、様々な形での強制排除によって文化財や人々が居場所からの退去を強いられていることに着目し、日用品に新たな意味を与えたり型破りなアプローチを取り入れ、問題の周知を図ります。2018年には、ハーブ・アルパート芸術賞を受賞し、ロンドンのトラファルガー広場の第4の台座に作品を展示する名誉を得ました。2020年にはパブリック・アート・ダイアローグ賞、およびナッシャー賞を受賞。現在、ハーグ市からの委嘱で、考古学と移民の流れをテーマとした公共プロジェクトを手掛けています。
10.ヤスミン・スミス
《FOREST》 2022 Photo: THE COMMERCIAL, SYDNEY Courtesy of the artist and THE COMMERCIAL, SYDNEY.
ヤスミン・スミスは陶芸と釉薬技術を駆使した彫刻による大規模なインスタレーションを制作し、徹底した現地調査、地域社会との協働、スタジオ制作を通して特定の土地を探求しています。科学と芸術を融合し、釉薬の造形美を通して、生態系がもつ知性に形を与えています。スミスは、労働、採取主義、植民地化、政治生態学などについてのコンセプチュアルな調査を含む幅広い素材研究において、植物、灰、岩石、石炭、塩、自然土などの有機物や無機物を用いています。展覧会のため海外に長期滞在して、新作に取り組むこともあります。作品の多くは豪州の公的機関に収蔵されています。ザ・コマーシャル(シドニー)での2022年制作の《Forest》は、豪州各地の石炭火力発電所から採掘した石炭灰による釉薬に関する4年間の調査の成果であり、深い地質学的な時間軸を表現したものでした。
■パフォーミングアーツ
1.AKNプロジェクト
『喜劇 人類館』 2022 Photo: 小高政彦
『人類館』によって沖縄出身で初めて岸田戯曲賞を受賞した劇作家・知念正真(1941–2013年)の作品を継承するために、娘の知念あかねにより2020年に発足。コザ(現・沖縄市)を拠点に活動した演劇集団創造によって初演された『人類館』は、1903年の大阪・第5回勧業博覧会会場近くで“人間の展示”を行った「学術人類館」に発する「人類館事件」を出発点に、日本語、沖縄口、沖縄大和口を織り交ぜ、場面展開にも実験性を持たせた、沖縄演劇史にとって記念碑的な作品です。クラシック音楽の演奏家でもある知念あかねのAKNプロジェクトは、父の作品を『喜劇 人類館』として演出し、これまで2021年にコロナ禍での配信上演、2022年には那覇文化芸術劇場なはーとにて沖縄「復帰」50年特別企画として上演しました。
2.クォン・ビョンジュン
「”We Will Have a Serious Night” by Ghost Theater」2022、HongDong Reservoir Photo: ARKO
クォン・ビョンジュンは、1990年代初頭にシンガーソングライターとして活動を開始しました。オルタナティヴ・ロックからミニマル・ハウスまで幅広いジャンルの音楽アルバムを6枚発表し、さらに映画のサウンドトラック、演劇、ファッション・ショー、モダン・ダンスなど多様な分野にわたる作品を手掛けています。2000年代末にはオランダに渡り、アートサイエンスを学ぶ傍ら、ライブパフォーマンス用の電子楽器を開発するSTEIMでハードウェア・エンジニアを務めます。2011年韓国に帰国後は、新しい楽器や舞台装置を開発・活用してドラマチックな「シーン」を生み出す音楽、演劇、美術を包括したニューメディア・パフォーマンスを制作。アンビソニックス(没入型3Dオーディオシステム)を活用したマルチチャンネル・サウンドインスタレーションの第一人者として知られています。ロボットを用いた感覚刺激的なパフォーマティブ・インスタレーション作品で、Korea Artist Prize 2023を受賞しました。
3.態変
Photo: Hikaru Toda
「身体障碍者の障碍じたいを表現力に転じ未踏の美を創り出すことができる」という金滿里の着想に基づき、1983年に創設された「態変」。作・演出・芸術監督を、自身がポリオの重度身体障碍者である金が担ってきました。その方法は、身体障碍者がその姿態と障碍の動きとをありのままに晒すユニタードを基本ユニホームに、健常者社会の価値観では醜いとされるその身体から、従来の美醜観を掻き回すような表現を引き出します。従来、身体表現に求められてきたコントロールと再現性に真っ向から反する、一期一会の表現だと言えるでしょう。その舞台を通して、観客も自身の日常を超え、いつしか非日常のパフォーマーの身体を共に生き、自身の身体を解放させ、命に触れるのです。
以上、国際芸術祭「あいち2025」についてご紹介しました。ぜひ、来年2025年の開催を楽しみにお待ちください。
■国際芸術祭「あいち2025」
会期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間]
主な会場:愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか
主催:国際芸術祭「あいち」組織委員会(会長 大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長))
助成:文化庁、公益社団法人企業メセナ協議会 社会創造アーツファンド
Photo: Ryohei Tomita
テープカットセレモニーの様子(左から)一般社団法人 京橋彩区エリアマネジメント 代表理事 髙橋康紀氏、京橋一丁目東町会 会長 西野文人氏、戸田建設株式会社 執行役員副社長 戦略事業本部長 植草弘氏、京橋一之部連合町会 会長 冨田正一氏 、戸田建設株式会社 代表取締役社長 大谷清介氏、中央区 副区長 吉田不曇氏、戸田建設株式会社 代表取締役会長 今井雅氏、京橋一丁目西町会 会長 末吉康祐氏、東京中央大通会 副会長 森静雄氏
江戸町火消による木遣りと纏振り
執筆者:遠藤友香
戸田建設株式会社は、東京都中央区京橋一丁目にて開発を進めていた超高層複合ビル「TODA BUILDING」を、2024年11月2日(土)に開業しました。これにより、2016年に都市計画決定の京橋一丁目東地区計画が完了し、街区「京橋彩区」もグランドオープン。オープニングセレモニーでは、中央区副区長、地元町会長並びに京橋彩区エリアマネジメント代表理事、戸田建設株式会社 代表取締役社長 大谷清介氏によるテープカットセレモニーのほか、江戸町火消による木遣りや纏振りなどの演舞が執り行われました。
「TODA BUILDING」について、戸田建設株式会社 大谷清介氏は「多様な価値を生み出し続けることはもちろん、これからも京橋の街とともに歩み、新たな文化を創出して参ります」と述べ、アートの力に満ちた新たな門出を賑やかに盛り上げました。
Photo: Ryohei Tomita
「TODA BUILDING」は、本社ビル建替えを機に、隣接街区と共同して都市再生特別地区制度(以下、特区)を活用し、特区テーマを「まちに開かれた、芸術・文化拠点の形成」と「街区再編、防災力強化、環境負荷低減」として、それぞれが超高層複合用途ビルを建設する大規模プロジェクトとして開発を進めてきました。
ビル共用部でのオフィスワーカーと芸術文化エリア利用者の交流を意図し、8~27階をオフィスフロア、1~6階を芸術文化施設と商業施設で構成する地下3階地上28階建ての超高層複合用途ビルとなっている「TODA BUIDLING」。「人と街をつなぐ」をコンセプトに、ミュージアム、ホール&カンファレンス、ギャラリーコンプレックス、創作・交流ラウンジ、ギャラリー&カフェを設けるほか、アート事業を含む様々なアートプログラムやイベントを展開することで、オフィスの枠を超えたアートとビジネスが交錯する場所を創出します。「TODA BUILDING」は、新たな芸術文化の発信地として、江戸期より多くの芸術資産が息づく京橋の文化的価値醸成に貢献し、街に開かれたビルとして、オフィスワーカーへの「アート&ウェルネス」を提供していくとのこと。
また、「TODA BUILDING」開業とともに、パブリックアートプログラム「APK PUBLIC Vol.1」がスタート。「APK PUBLIC」は、新進アーティストやキュレーターによる都市の風景を担う大規模な作品発表の場として、「TODA BUILDING」の共用空間を活用し、更新性のあるパブリックアートを展開するプログラムです。来街者やオフィスワーカーが日常的に作品のある空間を体感し、クリエイティビティが刺激されることで、視野の拡張をもたらし日々の生き方や働き方を豊かにしていくことを目指しています。
第1回は、国内外で活躍するキュレーターの飯田志保子氏を迎え、不確かな時代の閉塞感を未来志向のポジティブな展望に転換できるよう「螺旋の可能性ー無限のチャンスへ」をコンセプトに作品を展開します。
【開催概要】
会期:2024年11月2日(土)~2026年3月(会期終了日は未定/ビル休館日はご覧いただけません)
時間:7時~20時
会場:TODA BUILDING 広場、1-2Fエントランスロビー(東京都中央区京橋1-7-1)
入場:無料
主催:戸田建設株式会社
アーティスト:小野澤峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子
キュレーター:飯田志保子
■TODA BUILDINGオープニングイベント
<第1弾>Tokyo Dialogue 2024 トークセッション
開業直前の「TODA BUILDING」の工事仮囲を舞台に、今年10月に開催された屋外写真展「Tokyo Dialogue 2024」を、出展アーティスト、キュレーターと共に振り返ります。写真と言葉による対話を通して、変わりゆく都市の姿を描き出すこのプロジェクトも最終回を迎えた今年、改めてプロジェクトを通して私たちが思い巡らせてきた都市の過去、現在、未来へのつながりについて、それぞれの対話を通して考えてみたいとのこと。
【開催概要】
日 時:2024年11月30日(土) 14:00~16:30(受付13:30)
会 場:3F APK ROOM
登壇者: 今井智己(写真家)、堂園昌彦(歌人)、上田 良(写真家)、青柳菜摘(アーティスト・詩人)、鈴木のぞみ(写真家)、藤井あかり(俳人)
モデレーター: 小髙美穂(キュレーター)
定員:会場30名 ※オンライン配信あり
参加費:有料/作品集付き
主催・企画:T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO、戸田建設株式会社
オープニングイベント Tokyo Dialogue 2024 トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
<第2弾>APK PUBLIC Vol.1 トークセッション
「TODA BUILDING」の共用スペースでパブリックアート作品を展開するプログラム「APK PUBLIC Vol.1」の開催にともない、トークイベントを開催します。4名の参加アーティスト、キュレーターが一堂に介し、企画検討から作品制作、設置、展示にいたる過程の様々な試行錯誤の様子など、ここでしか語れない制作秘話を語り合います。
【開催概要】
日 時:2024年12月7日(土) 13:30~16:00(受付13:00)
会 場:4F TODA HALL & CONFERENCE TOKYO・カンファレンスルーム401-402
登壇者:小野澤 峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子(すべてAPK PUBLIC Vol.1 参加アーティスト) モデレーター: 飯田志保子(キュレーター)
定員:80名
参加費:無料 ※申込は11月7日開始予定。
オープニングイベント APK PUBLIC Vol.1 トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
<第3弾>APK STUDIES トークセッション
2025年2月にメンバー募集、6月に第1期がスタートする「APKSTUDIES」のプログラム紹介を兼ねてトークイベントを開催します。APK STUDIESのファシリテーターと、ロゴ制作に関わったデザイナーと共にロゴ制作の経緯を振り返り、「広報」の仕事をしているAPK STUDIES 第1期のゲストを加えて、参加者も共にコミュニケーションデザインや運営チームの共通認識に関する悩みを話し合いたいそうです。
【開催概要】
日 時:2025年1月18日(土) 14:00~15:30(受付13:30)
会 場:3F APK ROOM
ゲスト:大西隆介(direction Q 代表取締役/APK アートディレクション)、中田一会(APK STUDIES 第1期ゲスト)
モデレーター:青木 彬(APK STUDIESファシリテーター)
定員:20名
参加費:無料 ※申込は12月より開始予定。
オープニングイベント APK STUDIES トークセッション | EVENT | ART POWER KYOBASHI - アートパワー京橋
安藤忠雄が美術館として建築、1994年に竣工した「大阪文化館・天保山」
執筆者:遠藤友香
2025年4月13日から10月13日の期間に開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の会期に合わせて、安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山、黒川紀章建築の大阪国際会議場・中之島、西成、 船場、JR大阪駅エリアなど、大阪・関西地区の様々な場所で展覧会やアートフェア、アートプロジェクトを展開する国際アートイベント「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」が、2025年4月6日から10月13日まで開催予定です。
文化芸術・ 経済活性化や社会課題の顕在化を意味する「ソーシャルインパクト」をテーマに、大阪市内一帯を利用した関西発の文化芸術を世界に向けて発信するほか、ドイツや韓国、アフリカ諸国の機関とコラボレーションしたプロジェクトなど、アートを通じた国際交流を行います。また本芸術祭の財源の一部として、文化芸術分野への民間資金の活用促進を図るため、地方自治体と連携し、企業版ふるさと納税を活用します。
関西地区は、古くは千利休や江戸時代の上方文化など、芸術文化と産業でその歴史を牽引してきました。しかしながら近年、東京に文化リソースが集中しており、文化庁が「関西元気文化圏推進・連携支援室」を開所するなど、日本文化が集積・保存されている関西からの文化振興の必要性が唱えられています。2023年3月には文化庁が東京から京都に移転され、「地方創生」の一環として、新たな文化行政への展開を進めるうえで、関西地方は重要な役割を担っています。
2025年に開催される大阪・関西万博には、現在161の国や地域が参加を表明。大阪・関西地区に世界中から多くの人々が集う万博開催期間と並行して芸術祭を開催することで、日本の文化芸術を世界に広め、文化芸術立国の樹立に寄与すると共に、アートを通じた地域活性化や文化の発展に貢献したいと考えています。
「Study:大阪関西国際芸術祭」は、先にも述べたように、文化芸術・経済活性化や社会課題の顕在化を意味する「ソーシャルインパクト」をテーマとした大規模アートフェスティバルの開催を目指し、その実現可能性を検証するためのプレイベントとして、2022年より過去3回国際芸術祭を開催してきました。このアートの力は観光コンテンツとしての活用など、大阪・関西のみならず日本全国の地域経済活性化に寄与できるものです。
■地方創生の財源として松原市と連携し企業版ふるさと納税を活用
企業と地方双方にメリットがあり、最大で約9割の法人関係税が軽減
今回の芸術祭を活用した地方創生の財源として、松原市(大阪府)の企業版ふるさと納税が活用されます。企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は、国が認定した自治体の地方創生プロジェクトに対し企業が寄附を行った場合に、税制上の優遇措置が受けられる仕組みです。2020年度税制改正により、税額控除額の申請手続きの簡素化など大幅な見直しが実施されました。これにより寄附を行う企業の法人関係税の負担割合は最大約9割軽減されることとなり、今後、制度を活用する企業が増え、地方創生事業への民間資金の活用が進むと想定されます。また、大阪府松原市が窓口になることによって大阪市をはじめ、全国の企業も寄付することが可能なものとなります。
今回の芸術祭は、大阪・関西を起点にアートを世界に発信するという点で松原市に賛同いただきました。澤井宏文松原市長は、全国666市区町村が参加する万博首長連合会長及び、近畿の111市で構成される近畿市長会会長として、アートを通して地域活性化を目指しています。本取り組みを通じて、文化芸術産業を関西から盛り上げていけるような芸術祭の実現を目指します。
■安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山、黒川紀章建築の大阪国際会議場、そして、これまでの西成エリア、船場エリア、JR大阪駅エリアなど大阪一帯を会場に「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」 を開催
1. 安藤忠雄建築の大阪文化館・天保山では、ドイツの研究機関と共に、「人間とは何か。」を問う“Reshaped Reality(仮)”を開催
建築家・安藤忠雄が美術館として建築、1994年に竣工した「大阪文化館・天保山」(旧サントリー・ミュージアム)会場ではドイツの研究機関 ”Institut für Kulturaustausch - The Institute for CulturalExchange”と共に、「Reshaped Reality〜ハイパー・リアリスティック彫刻の50年〜(仮)」展を、2025年4月より開催します。
ハイパー・リアリスティック彫刻は、人体や身体の一部の形態、輪郭、質感をリアルに表現し、それによって鑑賞者を視覚的錯覚に陥らせます。1960年代後半から、さまざまな現代アーティストが、モデリング、鋳造、ペインティングといった伝統的な技法を駆使して、人体の物理的な実物そっくりの外観に基づくリアリズムの表現によってもたらされる哲学的な発想や新しい芸術体験に挑戦してきました。
本展では、過去50年間におけるハイパーリアリスティック彫刻における人物像の発展を展示し、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博年に「人間とは何か。」を考察します。
2. 黒川紀章建築の大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて日韓合同の国際アートフェア「Study × PLAS : Asia Art Fair」を開催
日本・韓国の国交正常化60周年を記念し、韓国で2016年に誕生した現代アートフェア「Plastic Art Seoul(通称、PLAS)」と株式会社アートローグが共同開催する国際アートフェア「Study × PLAS : Asia Art Fair」を、黒川紀章建築の大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて開催します。本アートフェアを開催する同じ週には、1000年以上の歴史を誇り、毎年130万人もの人が訪れる日本三代祭の一つ「天神祭」が大阪天満宮・大川を中心に開催されます。
また、複数フロアで展開する同会場では、前回に続きクリエイティブエコノミー領域のスタートアップを対象としたビジネスコンテスト『StARTs UPs』を開催するとともに、これまで、フランス、ドバイ、メキシコなど海外開催で旋風を巻き起こしているNFTイベント「TOKYO SOLID」を主催するNOX Galleryが国内で過去最大級の国際的大型NFTカンファレンス「NFT.OSAKA(仮)」を開催します。音楽とデジタルアートに包まれるようなイマーシブ空間でのショー、AI、ジェネラティブアート、Web3など最先端のテクノロジー表現の展示・販売や、Web3分野の国内外のトップランナーによるカンファレンスやネットワーキングの場となります。
3. 大阪の歴史を紡ぎ出す西成エリア・船場エリアもこれまでに引き続き芸術祭を開催
釜ヶ崎芸術大学のアートに出会う日常に宿泊できる“Our Sweet Home”
森村泰昌(美術家)× 坂下範征(元日雇い労働者、釜ヶ崎芸術大学在校生)
かつて高度経済成長期の肉体労働に従事するために集まってきた労働者たちが住まう場所だった釜ヶ崎(西成エリア)は、近年は高齢化や外国人の増加、あるいは不動産投資による地価上昇など、さまざまなソーシャルな事象に向き合っているエリアです。本芸術祭では、立ち上げ当初から、このエリアのアートの力に注目し、多様な出会いを生み出してきました。
2025年、本芸術祭の会期中も、NPO法人「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」が運営する釜ヶ崎芸術大学、および「kioku手芸館 たんす」を拠点に展開するファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」等と連携し、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博年に、新しい出会いと創造の場が日常になるような活動を生み出していきます。
また、かつて物流の拠点となり全国から人と富と情報そして、文化芸術が集積する問屋街として栄えた船場エリアにある船場アートサイトプロジェクトの拠点「船場エクセルビル」(大阪市中央区久太郎町3-2-11)。地域の共創的なまちづくりと連動しながら「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」の重要な拠点として活用します。
4. JR西日本グループと横断的なワーキングチームを発足、本芸術祭の多様なプロジェクトへの活用を検討
本芸術祭.vol3 の「ルクアイーレ」展示風景。野原邦彦作品《雲間》
「拡張される音楽 Augmented Music」の佐久間洋司
前回開催の本芸術祭.vol3では、JR西日本グループと協力し、JR大阪駅直結のランドマーク「ルクアイーレ」施設内にてアーティスト・野原邦彦氏の大規模インスタレーションや、万博大阪パビリオンディレクターの佐久間洋司氏キュレーションによる「拡張される音楽 Augumented Music」展を開催し、領域をこえて幅広い層に大きな反響がありました。人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かし、魅力的なまちづくりと持続可能で活力ある未来を目指すJR西日本グループと本芸術祭は、2025年の開催に向けて横断的なワーキングチームを発足。JR西日本グループの多様な事業の施設や空間を本芸術祭の会場やプロジェクトに活用していく予定です。
次に、「Study:大阪関西国際芸術祭2025」の第1弾アーティストをご紹介します。
「大阪・関西万博」と「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」の開催半年前、第1弾として28組のアーティストを発表
Patricia Piccinini, The Comforter,2010 ©Patricia PiccininiCourtesy of Olbricht Collection and the artist
©TonyMatelli Courtesy of the artist and Institute for Cultural Exchange, Tübingen
「Study:大阪関西国際芸術 2025」の参加アーティストとしては、実物と遥かに異なる大きさの作品で見る者に違和感を植え付ける”ロン・ミュエク(オーストリア)”、異種交配によってつくり出されたかのような見たこともない生命体をリアルな存在感で表現する”パトリシア・ピッチニーニ(シエラレオネ )”、ユーモラスでありながら現代社会の矛盾を喚起する視点を投げかける”マウリツィオ・カテラン(イタリア)”らが参加します。
以上、いよいよ5カ月後に迫った「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」についてご紹介しました。アートを起爆剤として大阪・関西地区が盛り上がっていく様に、ぜひご期待ください。
■「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」
開催期間: 2025年4月6日~10月13日
会場:大阪・関西万博会場内、大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)・ベイエリア、中之島エリア(大阪国際会議場)、船場エリア、西成エリア、JR大阪駅エリア、他(2024年10月時点)
【主催】大阪関西国際芸術祭実行委員会
概要 | Study:大阪関西国際芸術祭 2025
【協力・後援】 ※前回実績
大阪府・大阪市、公益社団法人関西経済連合会、大阪商工会議所、一般社団法人関西経済同友会、 一般社団法人 関西領事団、公益財団法人大阪観光局、辰野株式会社、他
総合プロデューサー:鈴木大輔(株式会社アートローグ代表取締役CEO)