テープカットの模様。(左から)高橋恭市富津市長、粕谷智浩袖ケ浦市長、石井宏子君津市長、小出譲治市原市長、「百年後芸術祭」名誉会長 熊谷俊人千葉県知事、小林武史「百年後芸術祭」総合プロデューサー、渡辺芳邦木更津市長
執筆者:遠藤友香
千葉県誕生150周年記念事業の一つとして行われる、100年後を考える誰もが参加できる芸術祭「百年後芸術祭」。自然や文化資源などが豊かな千葉を舞台にした、新しい未来をつくっていくためのサステナブルなプラットフォームです。
その中で行われる「百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス」は、市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市が連携し、官民協同による初の試みとして開催される芸術祭です。
総合プロデューサーは、本芸術祭の会場の一つである「クルックフィールズ」(木更津市)を営む音楽家の小林武史、アートディレクターは「いちはらアート×ミックス」(市原市)など、地域に根ざした芸術祭を数多く手掛ける北川フラムが務めます。
本芸術祭は、「LIFE ART」と「LIVE ART」の2本柱で構成され、「LIFE ART」では17の国と地域から総勢77組の国内外のアーテイストによる91点(うち新作/新展開作品60点)の作品が内房総の各地に展示されます。「LIVE ART」では音楽、映像、ダンス、テクノロジーが融合したライブパフォーマンスが開催されます。また、食をテーマとした体験型プログラムも展開。
小林武史「百年後芸術祭」総合プロデューサー
本芸術祭の開会式において、総合プロデューサの小林武史は、「小林さんにとっての100年後というのはどんな展望なんですか、というインタビューを受けたのですが、僕は意外とオプティミスティック、つまり楽観主義、楽観的な人間でして、100年後は何とかなるんだろうと思っているんです。その理由は、僕らには想像力があるからなんです。
僕が子供の頃からずっと思っていることなんですが、ここにも様々な命があって、土の中にも、僕らの体の中にも微生物とかも色々なものがいて、それらはこの果てしない宇宙の一端でもあります。このことを僕らは想像することができるんですね。想像ができる種は、僕らが知ってる限り、僕ら人間だけなんです。
東京からこれだけ近い距離の中、ここで新しい実感というものが生まれていきます。命、テクノロジー、アートなど色々なものが重なり合って、この場所を見てもらっても何となく伝わるかと思いますが、ここからこの芸術祭を通して新しい実感が生まれていく、それを皆さんとともに作り上げていきたいと思ってます」と語りました。
「百年後芸術祭」名誉会長 熊谷俊人千葉県知事
本芸術祭の名誉会長である熊谷俊人千葉県知事は、「あいにくの雨ではありますが、自然にとって雨というのは欠かすことのできないものですので、新たな芸術祭の始まりが雨でスタートするというのも一つの象徴ではないかなと思っています。
100年後芸術祭は昨年より県内各地で実施していまして、千葉県誕生150周年記念事業の一環として行っています。アート、映像、音楽などにSDGsの視点やテクノロジーを取り入れて、100年後の未来を考える、我々千葉県ならではの芸術祭です。
100年後芸術祭は県内6地域で開催されますが、この内房5市が連携をして開催される内房総アートフェスが最も規模が大きく、注目されるものです。本日から北川フラムアートディレクターによるアート作品展示を主とする「LIFE ART」、そして小林武史総合プロデューサーによる音楽を主とした「LIVE ART」、この二つを軸に開催されます。この二つのアートが混ざり合い、そして生まれる新たな表現を楽しみにしています。
この芸術祭をきっかけに、多くの方々にこの内房総に足を運んでいただき、アートの魅力に触れていただきながら、千葉の魅力を感じる機会にしていただきたいと考えています」と述べました。
次に、各市ごとにおすすめのアート作品をピックアップします!
■市原市
県内で最も広い市域を有し、市域の南北を養老川と小湊鉄道が縦断します。
市北部の埋立地は全国上位の工業製品出荷額を誇る工業地帯。市南部の里山では、これまでの「いちはらアート×ミックス」の成果を継承し、「アート×ミックス2024」として展開します。
近年、約77万年前の地磁気逆転現象が世界中で最もよく観察できる場所として、養老川田淵の地磁気逆転地層が国際基準となり、地層年代「チバニアン」が命名されました。
<旧里見小学校>
1.豊福亮《里見プラントミュージアム》
豊福亮《里見プラントミュージアム》
市原の原風景である里山に、市原の工場夜景をモチーフとしたミュージアムをつくり出しています。1960年代から市原の湾岸部につくられた工業地帯は、60年以上にわたって休まず、たゆまず、動き続けてきました。これら工場群は、今では市原の象徴的風景の一つです。
原田郁《HOUSE #001》
体育館には、角文平のドラム缶に積み上げられたオブジェが、絶えず中身を循環させる作品や、栗山斉の大気圧と真空でつくられたトンネルの構造を観測する作品、原田郁の仮想空間におけるユートピアをモチーフに描かれた作品など、5人の作家による工業的なエッセンスをもった作品も展示されています。
2.エルヴェ・ユンビ《ブッダ・マントラ》
エルヴェ・ユンビ《ブッダ・マントラ》
アジアの精神である仏教と、アフリカで今も重要視されている祖先崇拝の要素を対話させることにより、違いを受け入れる寛容さと友愛を称える作品。
空間の中央には木製の仏陀像のレプリカが置かれ、周囲を15種類の仮面が囲んでいます。彫像とマスクには、アジアとヨーロッパの両方で生産され、特にアフリカの美術品に重用されてきたガラスビーズが用いられています。
3.EAT&ART TARO《SATOMI HIROBA》/《おにぎりのための運動会!》
EAT&ART TARO《SATOMI HIROBA》
旧里見小学校の校庭に新たにつくられる《SATOMI HIROBA》は、地元の人や来訪者が集える場所です。アーティストのEAT&ART TAROがディレクションし、シェフの塩田済が提供する手作りのベーコンを使ったフォカッチャサンド、房総の豚肉の揚げたてカレーパン、その場で自分でつくれる生いちごミルクなど、房総の恵みを思う存分味わうことができます。天気の良い日はピクニックや焚き火を行います。
3月30日(日)、4月27日(土)、5月18日(土)には、おにぎりを一際美味しく食べることを目的とした運動会《おにぎりのための運動会!》が行われます。ラジオ体操や綱引き、おにぎりころがしなど、参加者が紅白2組に分かれて競います。
様々な世代の参加者が入り混じり、白熱した後の昼食には、お目当てのおにぎりが配られます。気になる方は、ぜひ参加してみては?
■木更津市
東京湾アクアラインの玄関口である木更津市金田地区には、全国屈指のアウトレットモールをはじめ、様々な大型商業施設が進出し、休日には首都圏などから観光客が来訪します。
木更津駅周辺の情緒ある街並みや、東京湾に残された貴重な自然の海岸である盤洲干潟、農業・食・アートを一度に体験できる施設「クルックフィールズ」の3カ所でアート作品を展開します。
<クルックフィールズ>
4.草間彌生《新たなる空間への道標》
草間彌生《新たなる空間への道標》
真っ赤なオブジェに、白い水玉模様が施された草間彌生の作品《新たなる空間への道標》。草間は、以下のコメントを寄せています。
「赤い炎の色から、全世界と宇宙の中で私たちの未来を暗示するこの作品は、我々に無限大の未来を与え続けているいま。我々は道標の強い生命の輝きを永遠に讃歌し続け、深い感動をもって世界中に多くのメッセージを送り続けていくその素晴らしさ。そのことを全人類の人々は心の中で永遠に持ち続けてやまないことを私は信じきっている。この素晴らしい彫刻に対する大いなる感動を、毎日語り続けていく我々の人生観を忘れない。すべて万歳。彫刻よ万歳。赤い彫刻よ万歳」。
5.アニッシュ・カプーア《Mirror (Lime and Apple mix to Laser Red)》
アニッシュ・カプーア《Mirror (Lime and Apple mix to Laser Red)》
アニッシュ・カプーアは、ヨーロッパのモダニズムと仏教やインド哲学などの東洋的世界観を融合させ、シンプルな形と独自の素材の選択により、虚と実、陰と陽など両極端な概念を共存させた彫刻作品で知られています。
見る角度によって色彩も形状も表情が変わって見える本作《Mirror (Lime and Apple mix to Laser Red)》は、異世界への入り口を思わせる神秘性を持つ一方、いまここに命を宿しているかのようでもあり、太陽の光や熱、人間の臓器や血液などを想起させ、その手触りを伝えてくれるようでもあります。
6.島袋道浩《ツチオとツチコ:55年後のBED PEACE》
島袋道浩《ツチオとツチコ:55年後のBED PEACE》
1990年代初頭より国内外の多くの場所を旅し、その場所やそこに生きる人々の生活や文化、新しいコミュニケーションのあり方に関するパフォーマンス、映像、彫刻、インスタレーション作品などを制作している島袋道浩。詩情とユーモアに溢れながらもメタフォリカルに人々を触発するような作風は、世界的な評価を得ています。
こちらの作品《ツチオとツチコ:55年後のBED PEACE》に関して、島袋は「遠く離れた二つの場所の土をそれぞれ人の形に置いてみた。土と土の出会い。土のハネムーン。その様子を眺めながら、ふと『人は死んで土に還る』という言葉を思い出した。この土の二人は本当に人だったかもしれない。また、この二人をいつかどこかで見たことがあることにも気づく。1969年、アムステルダム、ヒルトンホテルのジョンとヨーコ。ちょうど僕が生まれたあの年はベトナム戦争の最中だったけれど、50数年たった今もウクライナやガザ、そして世界のあちらこちらで戦闘が続いている。55年後のBED PEACE。100年後を考えるにはその半ば、50年後あたりが大切だと思う。50年後に誰かが引き継ぐ、語り継げば100年後にもきっと伝わる。届く。50年後、そして100年後、まだ戦いは続いているのだろうか?」とコメントしています。
■君津市
1960年代に製鉄所が進出して町の風景が一変、全国各地からの移住で人口が急増しました。八重原周辺は、移住者増加による強い影響を受けた地域の一つで、数多くの団地が建設されましたが、現在は住宅街に置き換わりつつあります。
大きく発展した市街地に対し、内陸部には房総丘陵の大自然が広がっており、豊富な湧き水が数多くの酒蔵や全国有数の「水生カラー」の生産などを支えています。
<八重原公民館>
7.深澤孝史《鉄と海苔》
深澤孝史《鉄と海苔》
海苔の養殖で栄えた君津ですが、1961年の製鉄所稼働開始に合わせて漁業権が放棄され、北九州の八幡を筆頭に各地の製鉄所から2万人規模の労働者が移住しました。
また、初期の海苔の養殖では「ヒビ」と呼ばれる漁具を使って海苔を収穫しており、その素材に用いられていた「マテバシイ」も、元は九州南部や南西諸島に自生する日本固有種です。海苔も鉄も人間の生活のための産業で、偶然にもマテバシイと労働者は九州地方から移動して土着し、やがて君津の風景の一部となりました。深澤孝史の作品《鉄と海苔》は、その年月を想起させます。
8.佐藤悠《おはなしの森 君津》
佐藤悠《おはなしの森 君津》
一枚の絵を書きながら、その場にいる全員で即興の「おはなし」をつくるパフォーマンス「いちまいばなし」。「何がどうした?どうなった?」と参加者へ順番に続きを聞いていき、答えた内容を一枚の絵に描き足していきます。
「面白い『おはなし』は、既に参加者の中にある」とし、それらを紐解きながら取り出していく作品です。3人以上の希望者が集まれば、そこからパフォーマンスが始まる、と佐藤悠は述べています。
■袖ヶ浦市
アクアラインで都心へのアクセスが飛躍的に向上し、袖ヶ浦駅海側地区はここ数年の開発で大規模な住宅地が形成され、急速に発展しています。四季の花が咲き香る袖ヶ浦公園周辺に作品を展開し、地域の歴史を学べるスポットがアート空間へと様変わりします。
<袖ヶ浦公園>
9.大貫仁美《たぐり、よせる、よすが、かけら》
大貫仁美《たぐり、よせる、よすが、かけら》
千葉県は全国でもっとも多くの貝塚を有しています。こちらの展示場所付近にも山野貝塚をはじめ多くの古代の痕跡があり、出土された多くの「断片」からは、先祖たちの息遣いを感じることができます。
大貫仁美は「一つひとつは無為な断片であっても、確かな日常がそこにはある」と考え、旧家に佇むガラスの「断片」で継がれた衣服やかけらによって、この地を生きた人の気配、痕跡の可視化を試みています。
10.東弘一郎《未来井戸》
東弘一郎《未来井戸》
東弘一郎は西上総地方の小櫃川、小糸川流域で開発、発展した井戸掘り技術である「上総掘り」のダイナミズムに着目し、それを自身を代表する大型の金属作品と重ね合わせて表現。
作品は実際に掘削機能を兼ね備え、訪れる人々が自らの手で作品を体験すると、同時に穴が掘られていきます。会期が進むにつれて穴の深さが増していき、伝承技術の新たな歴史となって、人々の記憶に刻まれていくことでしょう。
■富津市
南北約40kmの海岸線の多くが自然海岸で、東京湾に突き出た富津岬が代表的です。岬先端の富津公園には、明治百年記念展望塔やジャンボプールなどがあります。周辺では、潮干狩りや海水浴などのレジャー、県下最大の生産量を誇る海苔の養殖や、潜水士による貝類の採取も行われており、そうした海の要素を取り入れたアート作品を展開します。
<富津公民館>
11.中﨑透《沸々と 湧き立つ想い 民の庭》
中﨑透《沸々と 湧き立つ想い 民の庭》
埋立地に立つ富津公民館を中心とした、中﨑透の巡回型インスタレーション作品。地域に所縁のある4人にインタビューを行い、富津の漁業や岬周辺の公園、海や街についての話を聞き、その言葉から引用した20~30のエピソードを会場内に配置。エピソードとオブジェクト(制作した作品や備品、残置物を組み合わせたもの)をたどりながら、富津にまつわる物語を体験できる作品です。
<下洲漁港>
12.五十嵐靖晃《綱の道》
五十嵐靖晃《綱の道》
およそ50年前に行われた埋立開発は海の風景・漁場、人々の営みを変えてきましたが、ここ富津の海では、海苔漁が受け継がれて今の姿があります。
五十嵐靖晃の作品《綱の道》は、この地で先代を含んだ漁師たちと協働で海苔綱の道を編み、これからの50年に向けて50年前の志気を編みつないだもの。富津岬を挟んだ南北2つの網の道を歩き、水際の風景を眺めながら、地域社会の変容を体感すると共に、人と海の関係の100年後を想像してみてください。
以上、千葉県誕生150周年記念事業の一環として開催中の「百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス」についてご紹介しました。小林武史は「経済合理性に強く引っ張られる都市だけに未来を委ねるのでは危ういことが明らかになっているいま、百年後芸術祭がこれから続いていく未来に対して、何かのきっかけになり、役割を果たしていけることを願っています」と述べています。100年後を思うことは「利他」そのもの。最初で最後の本芸術祭にぜひ足を運んで、100年後の未来に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
■「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」LIFE ART
開催期間:2024年3月23日(土)〜5月26日(日)
※火・水曜日定休(4月30日・5月1日は除く。一部施設は通常営業)(全49日)
開催時間:10時〜17時 ※作品によって公開日・公開時間が異なる場合があります。
当日パスポート:2024年3月23日(土)〜5月26日(日)
価格:一般 当日 3,500円
小中高 当日 2,000円
小学生未満 無料
※芸術祭の全会場へ各1回入場可能(ただし、有料イベントや有料体験ワークショップなどは別料金)
※2回目からは個別鑑賞券が必要。
■「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」LIVE ART
・4月6日(土) 富津公園ジャンボプール(予定)
「不思議な愛な富津岬」
出演:アイナ・ジ・エンド/ 東京 QQQ(アオイヤマダ/かんばらけんた/ Kily shakley /KUMI/ 高村月/ちびもえこ/平位蛙 /MONDO/山田ホアニータ) 小林武史&スペシャルバンド
衣装:ひびのこづえ
・4月20日(土)、21日(日) クルックフィールズ(木更津)
「super folklore(スーパーフォークロア)」
出演:櫻井和寿/ スガ シカオ/ Butterfly Studio(guest vocal : Hana Hope/ dancer:KUMI/ 高村月/ dance: 浅沼圭 小林武史(Key)/ FUYU(Dr)/ 須藤優(Ba)/ 名越由貴夫(Gt)/ 沖 祥子(Vl)
・5月4日(土)、5日(日) 君津市民文化ホール
「dawn song(ドーンソング)」
出演:宮本浩次/ 落花生ズ(ヤマグチヒロコ、加藤哉子)/ dance:浅沼圭 小林武史(Key)/ 玉田豊夢(Dr)/ 須藤優(Ba)/ 名越由貴夫(Gt)/ ミニマルエンジン(四家卯大(Vc)、竹内理恵(Sax))
・5月12日(日) 袖ケ浦市民会館
「茶の間ユニバース」
出演:綾小路翔 / 荻野目洋子/ MOROHA/落花生ズ(ヤマグチヒロコ、加藤哉子) and more 小林武史&スペシャルバンド トータルプロデュース:小林武史
■芸術祭を楽しむためのモデルコース
〇車で巡るモデルコース①(市原市、木更津市、袖ケ浦市)
晴れの日に、里山・街中を散策しながら作品を鑑賞するコース。合計49作品ご覧いただけます。
【行先】上総牛久駅周辺→旧里見小学校→月出工舎→クルックフィールズ→木更津駅周辺→袖ケ浦公園周辺
〇親子で楽しめるモデルコース(車)
体験型アートなど、子供も大人も楽しめる作品を中心に車でゆったり巡るコース。合計27作品ご覧いただけます。
【行先】内田未来楽校→千田泰広「アナレンマ」→旧里見小学校→富津公民館・富津埋立記念館→クルックフィールズ
〇無料周游バスで巡るモデルコース①
海沿いの富津~市原市南部の里山の広範囲を走破するコース。合計40作品ご覧いただけます。
【行先】富津公民館・富津埋立記念館→クルックフィールズ→市原湖畔美術館→月出工舎
※他のコースやタイムテーブルなどの詳細は、コチラをご覧ください。
■「月夜のアートキャンプ」
GW最後の日は、月出の森でいつもとはひと味違う体験をしてみませんか?10年かけて開拓した森の中に身を投じ、ちょっとドキドキな闇夜の中でアート作品を鑑賞したり、焚き火をしたり、季節の食材で燻製を作ったりなど、都会では味わえない「LIFE ART」を!
5月5日(日・祝)日没から(目安19時)、月出工舎(市原市月出1045)、参加費無料、申込不要
詳細はコチラから。
執筆者:遠藤友香
日本はかつて、17世紀から19世紀までの約200年間、政策により海外との交わりを断っていた歴史を持っています。ヨーロッパ諸国やアメリカ、ロシアの要請で開国することになったとき、最初に設けられた5つの港のうちの一つとなったのが横浜でした。1859年のことでした。以来横浜には、新しい文化が次々と流入し、時に衝突を孕んで混じり合う特別な場所として今日まで発展してきました。
そんな横浜で、3年に一度開催される現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」。2001年にスタートし、200を数える国内の芸術祭の中でも20年以上の長い歴史を誇っています。第8回目となる今回は、北京を拠点として国際的に活躍するアーティストとキュレーターのチーム、リウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー (盧迎華)をアーティスティック・ディレクター(AD)に迎えます。
全体テーマは「野草:いま、ここで生きてる」で、これは中国の小説家である魯迅(1881~1936年)が中国史の激動期にあたる1924年から1926年にかけて執筆した散文詩集『野草』(1927年刊行)に由来します。『野草』は、当時魯迅が向き合っていた個人と社会の危機に満ちた現実を、抽象的に描き出しています。『野草』には、魯迅の宇宙観と人生哲学が込められています。
本芸術祭は、横浜駅から山手地区におよぶエリアを使って、ADが手がける国際展「野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路の5会場)と、 地域の文化・芸術活動拠点による展示やプログラム「 アートもりもり!」の2本柱で構成されています。「野草」展には93組の多様な国/地域のアーティストが参加。このうち新作を発表するアーティストは20組、日本で初めて紹介されるアーティストは31組です。
第8回横浜トリエンナーレ総合ディレクター/横浜美術館館長の蔵屋美香
記者会見において、第8回横浜トリエンナーレ総合ディレクター/横浜美術館館長の蔵屋美香は「横浜は160年近くの間、国際貿易港として栄えてきました。その歴史を踏まえて、本芸術祭は国際性を大きな特徴の一つにしています。31の国と地域からアーティストが参加をしており、世界の声を横浜に一堂に集めてご紹介する機会となります。
私達の暮らしは考えてみますと、災害や戦争、それから気候変動や経済格差、そして互いに対する不寛容など、かなり生きづらさを抱えています。今回の展覧会は、この生きづらさがどうして生じてきたのかということをたどりながら、みんなで手を携えて共に生きていくための知恵を探る企画となっています。
国際展「野草:いま、ここで生きてる」と「 アートもりもり!」といったテーマで手を結ぶことによって、国際性からローカルに根ざすものまで、様々なアートが横浜に息づいている様を、街歩きを楽しみながらご覧いただける企画になっています。
もう一つの特徴は、色々な人を歓迎するトリエンナーレであるということです。横浜美術館は3年の間工事休館をしていましたが、この横浜トリエンナーレを持ってリニューアルオープンします。エレベーター、多機能トイレ、授乳室など、バリアフリーの設備を完備しています。
例えば、小さい子供がいる、あるいは体力に自信がない、足が悪いなど、街歩きを楽しむのはちょっと辛いなという方にも、美術館会場で安心してたくさんの作品を楽しんでいただける優しい作りになっています。そして、今回親子が安心して楽しめる子供のアート広場「はらっぱ」というスペースもご用意しています」と述べています。
※「つくる・あそぶ・くつろぐ」ために用意された美術館内のスペース「はらっぱ」では、スタンプを使って創作したり、展覧会の感想を書いたり、休んだり、いろいろな過ごし方ができます。乳幼児を連れて休憩できるコーナーもあります。
ADのキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)
また、ADのキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)は「この度、2年以上に及ぶ入念な準備を経て、ついに「野草:いま、ここで生きてる」を皆様にお届けできることを大変光栄に思います。
1902年4月4日、当時21歳の魯迅は、高い志を胸に中国から横浜に降り立ち、その後7年にわたる日本留学を開始しました。当初医学の勉強を目的としていた魯迅でしたが、まもなく文学の追求にその目的を切り替え、帰国後、魯迅は1910年代後半から、中国の知識人界の第一人者となりました。魯迅は厨川白村を始めとした日本の重要な文学者から着想を得ました。
今回の「野草」というタイトルは、魯迅の同名の文学作品『野草』に由来しています。『野草』は、あらゆる制度や規則、規制、統制、権力に超然と立ち向かい、個人の生命の抗いがたい力を、高潔な存在へと高めた内容となっており、希望ではなく絶望を出発点としています。
ビエンナーレやトリエンナーレのような大規模な国際展は、資本やアウトマーケットなどが大きな力をふるう一方で、単なるスペクタクルとなってしまっており、歴史的な深さの欠如や現実との乖離といった課題を抱えていることに気づきました。私達はこれらの問題に取り組みたいと考えています。私達はこのトリエンナーレに今日私達が置かれている複雑な歴史的状況を反映させたいと思っています。私達は人間社会の活動や経験、歴史をつぶさに見つめ、私達自身や隣人、そして友人の歴史から学ぶことができると信じています。英雄のように成功した人物の人生だけではなく、多くの一般的な庶民の人生を描きたいと考えています。
近年の様々な危機の連鎖は、人間の存在の脆弱な状態を明らかにしただけではなく、20世紀に考案された政治制度や社会組織のモデルの様々な限界を露呈させています。社会主義体制の衰退と、東西冷戦の終結に続く現代の世界秩序は、新自由主義経済と保守性と保守政治の支配によって特徴づけられています。新自由主義体制は、市民ではなく消費者を、共同体ではなくショッピングモールを生み出します。新自由主義体制は、個人が互いに阻害され、自己認識が道徳的に破綻し、社会化が弱体した原子化した社会を作り出しました。
私達は、今日の経験を芸術的なアプローチで表現する必要性を感じており、このトリエンナーレで、今日版の『野草』を構成したいと考えています。アーティストの作品を通して、私達は20世紀初頭からの歴史的瞬間、出来事、人物、思想の傾向のいくつかを辿ります。歴史的な作品と、現在を直接的に扱った作品を並置することで、時間の境界を曖昧にし、歴史と現在が互いに鏡のように映し出されるようにします。本トリエンナーレのテーマは、新しい社会関係を創造し、個に立脚した国際主義を呼びかけるというビジョンを持って、個人の主体性や謙虚なヒューマニズム、勇気、レジリエンス、信念全体を語っています。ぜひ、ご紹介した展覧会のアイデアをご自身で探索してみてください」と語りました。
次に、「野草:いま、ここで生きてる」展で展開されているアート作品をご紹介します。
■横浜美術館
1.オープン・グループ《繰り返してください》
オープン・グループ(ユリー・ビーリー、パヴロ・コヴァチ、アントン・ヴァルガ)《繰り返してください》2022年
ウクライナのアーティスト6人によって2012年に結成されたオープン・グループ。うち3人を軸に編成を変えながら、コミュニティへの関与や協働、対話や討論をもとに作品を制作しています。
この映像は、ロシアによるウクライナ侵攻にともなって、リヴィウの難民キャンプに逃れた人々に取材したもの。国民に配布された戦時下の行動マニュアルに想を得ています。そこには、音によって兵器の種類を聞き分けたうえで、いかに行動するべきか、という手引きが示されています。武器の音を口で再現する人々の姿は、生きるために新たな知識が必要となったウクライナの今ある現実を生々しく伝えています。
2.志賀理江子《霧の中の対話:火ー宮城県牡鹿半島山中にて、食猟師の小野寺望さんが話したこと》
志賀理江子《霧の中の対話:火ー宮城県牡鹿半島山中にて、食猟師の小野寺望さんが話したこと》2023-2024年
志賀理江子は2008年に宮城県に移住して以来、その地に暮らす人々と触れ合いながら、人間と自然との関わりをメインテーマとした作品を制作し続けています。
回廊に並んだ11点の写真は、主に宮城県の牡鹿半島で撮影されました。そこに作家自身の手で書き込まれたテキストは、牡鹿半島の鹿猟師、小野寺望へのインタビューの記録です。「誰の杓子定規で物事を考えるか」と小野寺が問うとき、東日本大震災からの「復興」と原発再稼働を巡る議論に抜け落ちた視点があらわになる、と志賀は言います。私達の体内に流れる血としての「赤」によって可視化された光景は、人間・社会・自然の間を循環するより根源的なエネルギーの存在を示しているかのようです。
3.志賀理江子《緊急図書館》
志賀理江子《緊急図書館》2024年
志賀は、3階の回廊に展示された写真作品とあわせて、小さなライブラリーを開室しています。名付けて「緊急図書館」。小説、紀行文、詩集、哲学書、科学書、社会学の本など、著名/マイナー、国外/国内を問わず、オールジャンルの本が書棚に並びます。これらは回廊の写真作品に書き込まれた小野寺望のインタビューの内容に沿った15にキーワードにしたがって、ゆるやかに分類されています。その書籍も各々の視点から、私達の生活を取り巻く待ったなしの課題、危機に対処するヒントを与えてくれます。
4.厨川白村『象牙の塔を出て』
厨川白村『象牙の塔を出て』
厨川白村は、約100年前の大正時代に活動した英文学者・文芸評論家です。この時代の日本では、資本主義が勃興し、経済的、政治的な対立が激化していました。その中で厨川は『象牙の塔を出て』(1920年刊)を発表しました。そして、芸術家は「象牙の塔」に閉じこもらず、現実に起きている問題と密接な関係を持たなければならないと主張しました。
また、関東大震災で亡くなった後に出版された『苦悶の象徴』(1924年刊)では、人間の生命力が抑圧されたときに生まれる苦悶を表現するものこそ芸術である、と説きました。魯迅は『野草』の執筆と同時にこの本の翻訳を進めており、『苦悶の象徴』は『野草』の思想にも影響を与えたと言われています。
5.尾竹永子《福島に行く》
尾竹永子《福島に行く》(2014ー2019)
尾竹永子は2014年から2019年にかけて、福島第一原子力発電所周辺を5回にわたって訪れました。この映像作品は、その際に写真家のウィリアム・ジョンストンが撮影した写真と、尾竹による文章で構成されています。
災害や戦争で家を追われ、あてもなくされてしまう。私達はこうした事態を遠くのことと捉えがちです。しかし実際には横浜から電車で3時間半ほどの場所に、3.11の後、今も人が戻ることのない地域が広がっています。尾竹の身体は直立することなく、うずくまったり地面に寝そべったりしています。打ちのめされたようにも、傷ついた大地に寄り添うようにも見えます。
6.サンドラ・ムジンガ《出土した葉》
サンドラ・ムジンガ《出土した葉》2024年
赤い浮遊物と、地面に立つ茄子色の物体。そのかたちは恐竜やSFに登場する怪獣を思わせます。鉄を用いた骨組みは、ロボットやサイボーグを連想させるかもしれません。まるで古代と未来が複雑に重なり合うようです。
サンドラ・ムジンガは、遠い過去または遥かな未来において、今より厳しい環境に生きる「自分ではないもの」になってみたらどう感じるかを想像するのが好きだ、と語ります。では、私達もこれらの「怪獣」の身になって、例えば自分が地球環境の変化により死の脅威にさらされていると想像してみましょう。すると、表面の皮膚だけでできたその姿が、私達を包み、外の世界から守ってくれる衣服のようにも思えてきます。
7.イェンス・ハーニング《Murat》
イェンス・ハーニング《Murat》2000年/2024年プリント
現在、市場主義を重視し、公共サービスや福祉を切り詰める「新自由主義」が世界に広がっています。イェンス・ハーニングは1990年代から、そうした社会で生じる排除や包摂、境界や越境といったテーマを扱ってきました。
この作品は、コペンハーゲンに住む移民一世を撮影したものです。ファッション系の雑誌やSNSでよく見る、「街角で見つけたおしゃれな人のスナップ」手法を真似て、モデルが着ている服のブランド名や値段が書かれています。しかし一般的に流行を語る際、ランウェイでトレンドが生み出されることが圧倒的で、ここに写るような人々が取り上げられることはあまりないと言っていいでしょう。作者は、社会的に見えなくなっている排除の現実を私達に突き付けます。
8.岡本太郎《題不詳(縄文土器)》
岡本太郎《題不詳(縄文土器)》1956年
第二次世界大戦後、日本は荒廃した社会の再建に全力を尽くしました。その一方で、多くの知識人が「帝国日本」の権力システムや、近代化の過程で信奉し取り入れてきた西洋の合理的な知の在り方に鋭い批判の目を向け、「主体性」の確立を主張しました。こうした知の在り方や権力システムを無自覚に受け入れてきたことが、人々を戦争に導いたという確信と反省があったのです。
日本の芸術の分野では、このような内省を踏まえ、古代天皇制が確立するより遥か前の古い伝統に、戦前戦中のナショナリズムに代わる新たな文化的アイデンティティを求める傾向がみられました。1950年代の日本芸術にみられた「縄文ブーム」はその傾向のひとつです。岡本太郎、児島善三郎など、欧米留学から帰国した当時の日本の前衛芸術家は、縄文時代(紀元前12,000年頃から紀元前300年頃)の遺物、美学に目を向け、その中に創作の源泉を見出そうとしました。彼らは、縄文土器の巨大なエネルギーに、人類が進歩の過程で失ってしまったものを見出し、文化そのものを再構築するにあたって重要な示唆を得たのです。
1930年にヨーロッパへ渡った岡本太郎は、パリで抽象絵画に目覚め、また民俗学も学びました。帰国した岡本は、日本における前衛芸術運動の中心人物として活動する一方、戦後の1951年、東京国立博物館における「日本古代文化展」で、縄文土器の美を発見します。1956年には、自ら撮影した土器の写真と「縄文土器論」を収めた『日本の伝統』を刊行します。民俗学の知識と強烈な発信力を兼ね備えた岡本は、こうして縄文ブームの火付け役となりました。その影響は、美術、建築、デザインなど幅広い分野に広がりました。
■BankART KAIKO
9.クレモン・コジトール《ブラギノ》
クレモン・コジトール《ブラギノ》2017年
ブラギヌ一家はシベリア東部、北方性針葉樹林(タイガ)地帯に住んでいます。都会を離れ、自給自足の暮らしをしているのです。しかし、美しい自然に囲まれたその日常は、決して平穏ではありません。一家は、川の対岸に住むキリヌ家と、土地や資源の分配を巡って長年対立しています。
資本主義の世から逃れて新しい生き方を始めたはずなのに、そこに生じたのは一層激しい所有欲と、そして憎悪でした。両家の唯一の接点は、子供達の遊び場である川の真ん中の小島です。子供達は、互いへの好奇心と親から教えられた憎しみの間で揺れ動いています。次の世代を担う彼らは、果たして共に生きるための別のルールを見出すことができるでしょうか。
■旧第一銀行横浜支店
10.プック・フェルカーダ《根こそぎ》
プック・フェルカーダ《根こそぎ》2023年ー2024年
アーティストのプック・フェルカーダ
気候変動や環境破壊は、人間の未来や生存に関わる深刻な問題です。自然界が人間の思い通りにならないだけでなく、人間自身が自らに不適切な自然環境をつくり出しています。人間が生き延びるためのヒントは、自然を改変することにではなく、むしろ自然を見習うことにあるのではないでしょうか。
作家はこの新作で、多くの種類が同じ土に共存し、柔軟に形を変え、依存しあって生きる植物の性質に注目しました。そんな植物のように、私達も、常に変わりゆくものとしての世界を受け入れ、凝り固まった考えや旧態依然とした社会の仕組みを打ち破ることができれば、その時、この映像の主人公であるヒューマノイドもはじめて安住の地を見つけるかもしれません。
次に、「 アートもりもり!」の展示作品をピックアップします。
■BankART Life7「UrbanNesting:再び都市に棲む」
11.佐藤邦彦《Retouch》
佐藤邦彦《Retouch》
横浜には、日本の近代の歩みを示す様々なモニュメントがあります。土地の歴史を語り市民に誇りを持たせてくれる一方で、今日注視する人は多くありません。そこで改めてモニュメントに注目し、そこから歴史と現在、そして写真との関係を考えてみたい、と佐藤邦彦は語ります。
写真シリーズ《Retouch》は、横浜にあるモニュメントを撮影し、画像加工で碑文を削除したもの。モニュメントを、言葉のない物体の写真とキャプションとして再構成しています。
■黄金町バザール2024 ―世界のすべてがアートでできているわけではない
12.井上修志《日和山の階段を新しい視点まで延長してみる》
井上修志《日和山の階段を新しい視点まで延長してみる》2021
宮城県石巻市にある日和山の山頂まで続く大きな階段。2011年3月11日に起きた東日本大震災では、多くの人々が津波から逃れるために、この山に登り生還しました。作家もその一人でした。
山頂から一望できる被災した街は、強固な防潮堤の建設や土地のかさ上げなど、震災からの復興真最中の工事現場となっていました。科学技術の進歩と共に更地になった街は、新たな姿へと変化していきました。
井上修志は作品として、日和山の階段を延長しました。これまで多くの人が見ていた風景を少し高い視点から臨み、新たな視点から現在を俯瞰して考えてみたそう。その行動は、次の世代へと伸びる階段の新たな一段を作るものになるでしょう。
■みなとみらい線馬車道駅コンコース
13.石内都「絹の夢―silk threaded memories」
石内都《絹の夢―silk threaded memories》2011年
写真家の石内都
馬車道周辺は、かつて横浜開港から近代の礎を築いた「生糸貿易」に携わる商館や検査所が置かれ、関東甲信越一円から集積された生糸が欧米へと輸出されました。この絹に縁ある地に石内都は《絹の夢―silk threaded memories》として、紡がれた空間を立ち現します。
《絹の夢》で撮影されているのは、主に「銘仙」と呼ばれる着物で、くず繭の糸を平織りした絣(かすり)の絹織物です。横浜に運び込まれた高級な輸出用の絹とは対極的な、むしろその副産物であったとも言えます。一方でデザインは、ヨーロッパの前衛的な動向を取り入れた斬新な柄物が多くみられ、日本の近代化を支えた女性たちの普段着として愛用されていました。
今回の展示では、この《絹の夢》のシリーズから銘仙の着物地と共に、繭や生糸、石内の生まれ故郷である群馬県の製糸工場など、絹が煌びやかな織物になる過程にもフォーカスしています。
■みなとみらいぷかり桟橋
14.中谷ミチコ《すくう、すくう、すくう2024》
中谷ミチコ《すくう、すくう、すくう2024》2024年
アーティストの中谷ミチコ
《すくう、すくう、すくう2024》(「掬う、救う、巣食う」の意からくる)は、奥能登芸術祭2020+で発表された作品20点のうちの6点を再構成した作品です。
当時、展示会場となった石川県珠洲市飯田町に住む様々な老若男女20人に、水を掬う仕草の両手の写真を撮影していただき、データで受け取った画像をもとに、水粘土で原型を制作、石膏で型取りし、雌型の空洞に透明の樹脂を流し込んだ彫刻作品群を制作しました。県を跨いだ移動の自粛が呼び掛けられた時期に、送られてきた写真データを頼りに、遠方で生きる他者の気配をたぐり寄せる試みだった、と中谷ミチコは語ります。
私達は自然災害や戦争を含む厄災に幾度となく翻弄され、それでも日々は続き、何度も挫けながら平穏を取り戻すためにまた働き、生きています。
2024年の元旦に発災した能登半島地震によって、モデルとなってくれた方々の住む珠洲市も大きなダメージを受けました。今回の展示にあたり、この作品の購入者を募り、収益は能登半島地震義援金として珠洲市に寄付/返還するとのことです。
以上、第8回横浜トリエンナーレについてご紹介しました。知識欲が刺激され、またかなり思考力が深くなる芸術祭です。気になる方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
■第8回横浜トリエンナーレ
会期:2024年3月15日(金)-6月9日(日) 開場日数:78日間[休場日:毎週木曜日(4月4日、5月2日、6月6日を除く)]
開場時間:10:00–18:00(入場は閉場の30分前まで)
6月6日(木)–9日(日)は20:00まで開場
チケット:「野草:いま、ここで生きてる」鑑賞券
横浜美術館/旧第一銀行横浜支店/BankART KAIKOの3会場に入場可能(別日程も可)
一般:2,300円
横浜市民:2,100円
学生(19歳以上):1,200円
セット券:鑑賞券と「BankART Life7」「黄金町バザール2024」のパスポートがセットになったチケット
一般:3,300円
横浜市民:3,100円
学生(19歳以上):2,000円
フリーパス:すべての会場に何度でも入場できます(取扱場所は横浜美術館のみ)
一般:5,300円
横浜市民:5,100円
学生(19歳以上):3,000円
チケット購入方法:オンライン
公式WEBサイトにアクセスしてください。
「野草:いま、ここで生きてる」会場
・横浜美術館
・BankART KAIKO(ショップエリア「横浜クリエイティブCOOP」内 )
セット券プログラム 会場
・BankART Station (みなとみらい線新高島駅B1F)
・黄金町バザールインフォメーション 「高架下スタジオSite-Aギャラリー」(横浜市中区黄金町1-6先)
※「野草:いま、ここで生きてる」会場の、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKOでは、チケットは購入できません。
※フリーパスは、「横浜美術館」会場のみで購入できます。オンラインの取り扱いはありません。
執筆者:遠藤友香
2005年の初開催以来、日本および世界の優れたアートギャラリーが集う日本最大級の国際的アート見本市「アートフェア東京」。2024年3月8日(金)から10日(日)(7日は招待制のプライベートビュー)にかけて、東京国際フォーラムにて開催中です。
18回目を数える2024年のアートフェア東京は、大きく変化する世界のアートシーンの影響も鑑みながら、引き続き日本独自のさらなるマーケット醸成に寄与するため、お客様とギャラリーの間での良き作品との出会いの場を創造していきます。
国内で展開されている多彩なジャンルー例えば、現代美術や日本画、洋画、工芸、古美術などを一つの会場で鑑賞できる機会は、現在このフェアが日本国内で唯一のものとなっています。
今年のアートフェア東京の出展ギャラリーは、国内外35都市より156軒(内初出展19軒)となり、海外フェアにも出展している日本の主要ギャラリーを中心に、アフターコロナでの海外ギャラリーの出展も目立ち始めました。また海外でも注目されている工芸のギャラリーの初参加が多くなっています。
”The Project Yugen”
セッションは、ギャラリーズ、クロッシング、プロジェクツ、パートナーズで構成され、リニューアルされたプロジェクツでは海外ギャラリーによる合同展”The Project Yugen”が開催され、見どころとなっています。これは、アートフェア東京が他のアートフェアとの差別化を図り、新たな方向性を打ち出す初の試み。ゲストキュレーターに、イタリア出身でロンドンで活躍している女性キュレーターのタラ・ロンディを迎えています。
”The Project Yugen”
2月27日(火)に行われた記者発表会において、アートフェア東京のマーケティングディレクターを務める木下明は「今回、プロジェクツでは幽玄をテーマにしています。幽玄は、言葉では語り尽くせないほど宇宙の深遠な意識を示していて、これは日本の美意識に通じるものであるというところが、タラの感じる今の日本の魅力だそうです。見えるものと見えざるものの境界線が、この時代において曖昧になってきており、このアートフェアに携わってると、なぜアートを所有しなければいけないのかや、所有する意味であったり、そういったところについてもっともっと考えていくような時代になってきてるんじゃないかなと感じています。
これからどういうものを買っていけばいいのか、自分にとってアートって何だろうって会話がとても増えてきており、そういうときの曖昧さだったり、自分のために何でこれがあるのか、見えているものと見えてないものの間で感じるもがあると思うんですが、そういったものをより問いを投げかけるような企画展になっていると思っています」と語りました。
マネージングディレクターの北島輝一は、アートフェアの役割について「多くの方々は美術館の展覧会に近いものと考えていらっしゃるのですが、我々としては実は全然違うというふうに思っています。以前は展覧会に近いフォーマットでやっていたのですが、ここ数年はなるべくその美術館の展覧会でないようにするために、初日をプレビューではなくプライベートビューと呼ぶとか、初日が一番売れるし、できれば早い時間帯にコアなコレクターに来てほしいということを主眼に設計しており、VIPの誘致をしています。
ギャラリーに対しては、アートフェア東京に出ることが、ブランディングとマーケティングに繋がるように考えています。アートフェア東京に、日本のコレクター全員に来て欲しいし、海外からも一部コレクターに来て欲しいとの想いでやっています。来場者には、いっぺんにたくさんのギャラリーの展示販売している作品を見ることができるという意味で、流動性を提供しています」と述べています。
次に、アートフェア東京に出展しているおすすめギャラリーを5つピックアップします。
1.小山登美夫ギャラリー
1996年、江東区佐賀町に開廊した「小山登美夫ギャラリー」。2016年より六本木に拠点を移し、2022年天王洲にもスペースをオープン。開廊当初から海外アートフェアへ積極的に参加し、日本の同世代アーティストを国内外に発信しています。
日本における現代アートの基盤となる潮流を創出しており、現在は菅木志雄、杉戸洋、蜷川実花、リチャード・タトルなどのアーティストに加え、陶芸アーティストも紹介。国境やジャンルにとらわれず巨匠から新たな才能まで幅広い作品を紹介し、独自の視点で現代アートマーケットの更なる充実と拡大を目指しています。
Tom Sachs トム・サックス Model Ninety Five 2023 ©Tom Sachs, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
川島秀明 Hideaki Kawashima bad condition 2003 ©Hideaki Kawashima, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
本フェアには、出展作家10名の作品が並んでおり、身の周りにある素材を使って現代のアイコンを再現した彫刻作品を発表し続けているトム・サックスや、様々な顔とそこに現れる憂いを帯びた繊細な目や表情を描き出す川島秀明といった気鋭の作家に注目したい。
2. カイカイキキギャラリー
アーティストのマネジメントと作品販売により、アートの社会的価値の創造を行っている「 カイカイキキギャラリー」。カイカイキキ所属アーティストをはじめ、海外からはMark Grotjahn、Matthew Monahan、Friedrich Kunathなどを取り扱い、展覧会を開催してきました。今後も、国内外問わずさまざまな作家をインバイトし、社会とアートをつなぐ起爆剤として機能していくといいます。
©2024 Otani Workshop/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©2024 Mr./Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy of Kaikai Kiki Gallery
今年頭にDiorとのコラボレーションを行って生まれた緑の大きなかいじゅうの作品は、大谷工作室のもの。実際にDiorのブティックに展示されていた立体作品が展示販売されています。また、正面の壁面でのインスタレーションは、Mr.の作品。先日パリでの個展を終えたばかりの作家ですが、今回のアートフェアのために制作された新作が並んでいます。
3.KOTARO NUKAGA
異文化が交差し多様な情報が発信される六本木と、新たな現代アートの中心地として注目される天王洲に拠点を置き、国内外の先鋭的なアーティストと共に独自性の高いギャラリープログラムを展開している「KOTARO NUKAGA」。
アートは歴史や社会と対話し、批判的に私たちの既成概念に揺さぶりをかける一方で、領域横断的に科学や先端的のテクノロジーなどをも思考や表現の対象に取り込んでいくと、同ギャラリーの代表を務める額賀古太郎は考えています。
JOSÉ PARLÁ Movement of Reflective Light, 2024
(左)AMANI LEWIS They call him Los, 2022 (右)AMANI LEWIS Finding peace in the History, not the turbulence., 2022
KOTARO NUKAGAのブースでは、ホセ・パルラ、ニール・ホッド、松山智一、森本啓太、マイケル・リキオ・ミング・ヒー・ホー、アマニ・ルイスの作品を展示。中でも、ホセ・パウラとアマニ・ルイスは初出展です。
4.gallery UG
一人ひとりアーティストを発掘・育成しながら、アーティストと共にギャラリーとしての成長を遂げてきた「gallery UG」。 現在では若手アーティストを30人ほど抱え、平面作品はもちろんのこと、扱いが難しいとされる立体作品にも注力しています。
(左から)野原邦彦 「みまわし山をつくる」樟、アクリル絵具(153×64×63cm)2024 「みまわし山をつくる」樟、アクリル絵具(115×61×64cm)2023
田島享央己「Almost cut my hair Part 6」 キャンバスにアクリル絵具 F100 (162×130.3cm)2024
本フェアには、キャッチ―で親近感を覚えるモチーフをポップな色彩で表現した木彫を中心に発表している野原邦彦や、アウトローな気質を備え、彫刻だけでなく絵画領域にフィールドを広げ、幅広く活動している田島享央己などを出展しています。
5. ギャラリーこちゅうきょ
壺中居の屋号は「壺中之天」の故事から、創業者の南天子と不孤斎によって名付けられました。そこには、日常の中にある別天地であることを願い、美術を愛する皆様の憩いと楽しみの場でありたいという二人の想いが込められています。店内には、会津八一(秋艸道人)の揮毫による壺中居の看板が掲げられています。
中国・韓国・日本を中心とした東洋古美術、主に陶磁器を取り扱っており、日本を始め世界のコレクター、美術館の収集を一世紀近くにわたりお手伝いしてきました。最近では、数寄者や文士の本をご覧になって来店される方も多く、また店の看板を目当てに来る書家の方も珍しくないとのこと。
戸田浩二 焼締尖 Stoneware, "SEN"
本フェアでは、戸田浩二の作品を展示販売。戸田は笠間の陶芸家・伊藤東彦に師事し、2002年より薪窯を築いて制作をしています。作品は、焼き締め技法による装飾を排した端正な花器や水瓶などで、強靭かつ繊細な造形力と柔軟な発想が無限の可能性を感じさせます。
以上、「アートフェア東京」についてご紹介しました。ぜひ会場に足を運んで、お気に入りの作品を見つけてみてはいかがでしょうか。
■アートフェア東京
会期:2024年3月8日(金)~10日(日)
プライベートビュー: 3月7日(木)11:00~19:00
パブリックビュー : 3月8日(金)11:00~19:00
3月9日(土)11:00~19:00
3月10日(日)11:00~17:00
会場:東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー
東京都千代田区丸の内3丁目5番1号
JR・地下鉄有楽町駅 徒歩約1分、JR東京駅(京葉線) 徒歩約5分
チケット:前売券:4,000円(税込)
予約当日券:5,000円(税込)
※小学生以下は、大人同伴に限り入場無料
麻布台ヒルズ
執筆者:遠藤友香
「Green & Wellness」を軸に、「Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街~」をコンセプトとして、人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街「麻布台ヒルズ」。
この度、「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)」が、東京・お台場から移転し、2024年2月9日、麻布台ヒルズにオープン! 独立した79の作品群が複雑に関係し合うチームラボボーダレスが完成しました。森ビルとチームラボが共同で手掛け、東京・お台場にオープンしたチームラボボーダレスは、開館わずか1年で世界160ヵ国以上の国・地域から約 230万人を動員。今回麻布台ヒルズに移転したチームラボボーダレスも、オープン前から話題を集めました。
チームラボボーダレスは、アートコレクティブ・チームラボの境界のないアート群による「地図のないミュージアム」。地図がないので順路はなく、ご自身の好きなようにミュージアムをまわることができます。
アートは、部屋から出て移動し、他の作品と関係し影響を受け合い、他の作品との境界線がなく、時には混ざり合います。チームラボボーダレスは、そのような作品群による境界なく連続する1つの世界です。人々は、境界のないアートに身体ごと没入し、「境界なく連続する1つの世界の中で、さまよい、探索し、発見する」ことができるといいます。
新しいチームラボボーダレスでは、境界のないアート群は、より進化し、より多くの場所へ移動し、複雑に関係し合い、永遠と変化し続ける、境界なく連続する1つの世界を創るそう。
森ビルは「私たち森ビルは、「文化」を都市づくりにおける重要な要素と位置付けて、街ごとに個性的な文化施設を創出してきました。2018年に開館した「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソンチームラボボーダレス」(東京 お台場)もその一つであり、チームラボとともに国際都市・東京の磁力向上に貢献してきました。
ウェルネスへの意識が高まってきた今、文化やアートは人々の心を豊かにするものとして、ますます重要視されています。「Green & Wellness」をコンセプトの柱とする「麻布台ヒルズ」では、「アートによって、自分と世界との関係と新たな認識を模索したい」と考えるチームラボの作品群が、訪れる人の感性を刺激し文化を育むことを願って、「チームラボボーダレス」を移転オープンすることとしました。多様な文化発信をする「麻布台ヒルズギャラリー」、街のあらゆる場所に設置されるパブリックアートとともに、芸術・文化が一体となったミュージアムのような街を目指します」と述べています。
次に、おすすめの作品を7つピックアップします。
《人間はカメラのように世界を見ていない》
エントランスの《人間はカメラのように世界を見ていない》という作品から、このミュージアム体験は始まります。エントランス空間の指定の位置付近でカメラで見ると、「teamLab Borderless」の文字が空間に浮き上がり正体をします。しかし、同じ場所で肉眼で直接見ても、文字は浮き上がりません。人間はレンズのように世界を見ていないことを示唆しています。
チームラボ設⽴以前から、世界は境界がなく連続しているにもかかわらず、認知上分断してしまうこと、特に、レンズで⾒ると、⾃分の⾝体がある世界と⾒ている世界が分断されることに興味があったそうです。チームラボを設⽴した2001年頃から、レンズや透視図法は、空間の平⾯化の論理的な⽅法論の⼀つだと考え、レンズや透視図法とは違った、空間の平⾯化の論理を模索し始めたとのこと。⼈間はこの世界をどう認識しているか、認識と⾝体がどのように関わるのかを知りたかったといいます。
《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境によって生み出される光 》
《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境によって生み出される光 》は、チームラボの新たなアートプロジェクト「認識上の彫刻」をテーマにした、インタラクティブな作品です。空間は無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中には、異なる光の存在が入り混じっています。本作は、認識と存在について、そして、人間が世界をどのように見ているのかを模索すると同時に、現象とは環境との連続的な関係性の中に存在することをほのめかしています。
チームラボ《Black Waves: 闇から生まれ闇に帰る》© チームラボ
《Black Waves: 闇から生まれ闇に帰る》は、海は全ての海と繋がっていて、この世界の全ての波は繋がりあっていることを認識させてくれます。古典的な東アジアの美術の波は、よく線の集合で表現され、線の集合でできた波は、それらが流れの中の一部であることを気が付かせてくれるといいます。そして、その線の集合は、波がまるで一つの生き物であるかのように感じたことを、思い出させてくれるのです。波は、無数の水の粒子の連続体で表現し、粒子間の相互作用を計算し、三次元上の水の動きをシミュレーションしているそうです。
《Light Sculpture - Flow》シリーズ
《Light Sculpture - Flow》シリーズは、流れ出ていく光による巨大な彫刻が生まれ、押し寄せ、広がり、人々を飲みこんでいきます。 「非対称宇宙」と呼ぶ空間に生まれるライトスカルプチャー。現実空間とミラーの中の世界とでは、非対称な異なる存在として生まれ、現実世界とミラーの中の世界を行き来します。
これまでもチームラボは、物質的ではない彫刻、「境界面の曖昧な空間彫刻」を創ってきました。「なぜ、海の渦に存在を感じるのか?そして、それを生命にすら感じるのか?構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、部分に秩序が形成された時、部分は一つの存在として認識され、時には生命のようにすら感じる。」このような考えのもと、流れ出ていく光の集合体が、生命的宇宙を創っていくとのこと。
チームラボ代表 猪子寿之氏は「新作のライトスカルプチャーを今創っているけど、めちゃくちゃすごい。もう、空間がどうなっているか、全くわからない。宇宙に吸い込まれて、宇宙と一体化した」と語っています。
《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》
《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》は、奥行きすらわからない無限に広がる空間の中を、無数のぷるんぷるんの光が走り続ける作品です。「構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、全体に異なった秩序が形成され、重なり合う時、それは、宇宙か?」を模索する作品となっています。 ぷるんぷるんの光は、チームラボのアートプロジェクト「認識上の彫刻」で、それは、物理世界には存在せず、認識世界に存在する彫刻なのです。
《スケッチオーシャン》
共同的な創造性「共創」をコンセプトにした作品《スケッチオーシャン》では、来場者が紙に描いた魚が、他者が描いた魚たちと共に目の前の海で泳ぎだします。魚たちは人々にインタラクティブに反応しながら、部屋を出て、他の作品の境界を越えてチームラボボーダレスの中を泳ぎ始めます。中でも、マグロは、ミュージアムの物理空間をも超えて、世界の他の場所で行われている展覧会へと泳いでいき、そこで描かれたマグロの群れを引き連れて帰ってきます。
スケッチファクトリー
また、《スケッチオーシャン》の作品内で描いた絵は、作品空間で動くだけでなく、自分だけの缶バッジ、Tシャツ、トートバッグとして、そのまま持ち帰ることができます。是非、お子さんと一緒に楽しんでみては。
《EN TEA HOUSE》
《EN TEA HOUSE》は、チームラボボーダレス内にあるティーハウスで、茶やアイスクリームを味わうことができます。一服の茶を点てると、茶に花が生まれ咲いていきます。花々は茶がある限り無限に咲き、器の中の茶は、花々が咲き続ける無限の世界となります。その無限に広がる世界をそのまま飲むティーハウスです。茶が存在して初めて作品が生まれるので、茶を飲み干すともう作品は存在しません。
以上、チームラボの境界のない一つの世界「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」をご紹介しました。世界中にファンを抱えるチームラボの作品群を思う存分堪能できるミュージアムです。是非、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス
【公式】チームラボボーダレス, 麻布台ヒルズ, 東京 (teamlab.art)
場所:麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1(東京都港区麻布台1-2-4)
開館時間:10:00 - 21:00
※最終入館は閉館の1時間前
※開館時間が変更になる場合があります。公式ウェブサイトをご確認ください。
休館日:第一・第三火曜日
※休館日が変更になる場合があります。公式ウェブサイトをご確認ください。
チケット価格:
大人(18歳以上):3,800円〜
中学生・高校生(13 - 17歳):2,800円
子ども(4 - 12歳):1,500円
3歳以下:無料
障がい者割引:1,900円〜
※事前日時指定予約制です。
※大人と障がい者割引につきましては変動価格制を導入し、日によって金額が異なります。日別の価格をご確認の上、日時指定チケットをお買い求めください。
※現地での購入の場合、上記価格に+200円となります。
公式チケットサイト | 森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス, 麻布台ヒルズ, 東京, 日本 (teamlab.art)
お問い合わせ:CONTACT | teamLab / チームラボ
執筆者:遠藤友香
執筆者:遠藤友香
世界で初めて宇宙空間でのCM撮影を実現したことで知られる写真家・アーティストの高松聡氏が代表を務めるアートコレクティブ、株式会社 WEが実施する「宇宙アートプロジェクト『WE』」が始動します。
国家宇宙機関が行う宇宙プロジェクトではなく「私達の、私達による、私達のための宇宙プロジェクト」である本ミッションをWEと名付け、また本ミッションを推進するコミュニティの名称もWEとすることにしたとのこと。デロイト トーマツ グループのデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社が本アートプロジェクトの推進プロフェッショナルパートナーおよびオフィシャルスポンサーとして、本プロジェクトの実現に向けたサポートを行います。
高松聡氏
ここで高松氏についてご紹介しましょう。 高松氏は1963年生まれ。筑波大学基礎工学類を卒業後、株式会社電通に入社。2005年クリエイティブエージェンシーGROUNDを設立し、代表取締役兼クリエイティブディレクターとして数多くのブランドを担当しました。カンヌ広告祭など国際広告賞で数多くのグランプリや金賞を受賞し、審査員、審査委員長を歴任。世界初のFIFA公 認パブリックビューイングを2002年国立競技場で実現。また世界初の宇宙ロケCMの撮影を2001年にポカリスエットで実現しました。2回目の宇宙ロケCMでは「反戦」をテーマ としたカップヌードル「NO BORDER」を、さらに「地球のサステナビリティ」「未来の管理社会」をテーマにしたカップヌードル「FREEDOM」などを手掛け、広告作品でありながら社会性の強いキャンペーンを提示し続けたことで知られています。2015年広告業界を離れ、 ロシア「星の街」で8カ月に及ぶ宇宙飛行士訓練を終了。株式会社SPACE FILMS代表、写真家・アーティストとして活動。2014年東京都現代美術館 「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」に出展。2020年個展「FAILURE」を開催。2024年アートコレクティブWEを設立しました。
宇宙から地球を見ると「オーバービューエフェクト」と呼ばれる体験、マインドシフトが多くの宇宙飛行士に起きると言われています。その体験は様々ですが、多くの宇宙飛行士が薄い大気に守られた脆い地球を見ることで地球の環境問題、サステイナビリティの重要性を直感的に感じると言われています。また一つの惑星で国家間の戦争が続いている現実を宇宙から考え、戦争のない地球を強く希求するといいます。ですが、これまで宇宙に渡航した宇宙飛行士などの専門家や一部の富裕層など、人類全体でも600人程度のごく限られた人が体験できるものでした。
宇宙に行かなくてもオーバービューエフェクトを起こすには限りなくリアルな「宇宙から地球を見る体験」を再現する必要があります。つまり人間の視覚能力の限界に挑戦する撮影と上映が必要です。それを実現するため本アートプロジェクトでは、撮影に複数台の高性能カメラをスタックして同時運用し、静止画3億画素、動画24K、VRではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で60PPD(PPD Pixel per degree 画角一度あたりのピクセル数)を超える360度動画再生を実現する撮影を行うとのこと。 さらに後処理でマシンラーニングさせたAI超解像を行い、出力としては静止画6億画素、動画48Kをターゲットとしているといいます。
WE代表の高松氏は2002年の日韓ワールドカップで世界初のFIFAパブリックビューイングを国立競技場で実現した経験から「非常に多くの人が見たいと思っている貴重なコンテンツは限定的な人数の方しか体験できない。そこで限りなくリアルなバーチャル体験を多くの方に提供することに大きな意味がある」と確信しました。今回のプロジェクトは「宇宙から地球を見る体験のパブリックビューイング」とも言えます。
また高松氏は、先にもご紹介した通り、世界初の宇宙ロケCMを2001年にポカリスエットで実現し、2005年には 日清カップヌードル「NO BOREDR」で平和を希求する2年間のキャンペーンを行いました。その国際宇宙ステーションでのCM撮影経験と、2015年にロシア「星の街」で8ヶ月間行った宇宙飛行士訓練、その後の写真家・アーティストとしての経験を統合して今回の宇宙プロジェクトWEを推進します。WEは2023年1月に米国ヒューストンのAxiom Space社と長期滞在宇宙飛行の座席予約契約を完了。 高松氏は第一回目のAxiom Spaceへの支払いを完了し、今後世界中の個人、 ブランド、財団等に協賛を依頼し必要経費のファンドレイジングを行います。
「WE」記者発表会にて。(左から)高松聡氏、伊東真史氏
2024年2月8日に行われた記者発表会にて、高松氏は「私が宇宙に興味を持ったのが1969年、アポロ11号の月面着陸をテレビで見てからです。非常に心に残る出来事で、月に着陸しているアームストロング船長を見て、人類ってすごいな、科学ってすごいな、テクノロジーってすごいなと思い、将来宇宙飛行士になりたいと思いました。プロ野球選手なりたいとか宇宙飛行士になりたいってのはみんなが思って、どこかで忘れていくものですが、私の場合は22歳、大学4年生になるまでその夢を追いかけていました。
大学4年生のときに、現JAXA、旧NASDAの日本で初めての宇宙飛行士募集があり、やっと時代が追いついたと思い願書を取り寄せました。身長、体重、水泳、英語、理工系の大学を卒業している、一応全部クリアしているつもりで願書を取り寄せたのですが、裸眼視力が1.0以上、こういう項目がありました。私はド近視でして、当時レーシックも認められず、コンタクトも眼鏡も認められないということで宇宙飛行士への夢が22歳で潰えました。
ロシア「星の街」にて
ロシア「星の街」での訓練の様子
2014年に広告業界を引退し、宇宙飛行士になりたいという6歳からの夢が忘れられずに、ロシアの「星の街」なら、ある方のバックアップクルーとして8ヶ月間訓練をするとなれるよということで、ロシアに8ヶ月間行って、宇宙飛行士訓練をコンプリートしました。
2015年にロシアに訓練に行ったときは、「宇宙飛行士になりたい」っていうだけで行ったんです。それ以外何もなかった。だけど星の街で毎日写真を撮っているうちに、写真家としての自分に目覚めていったんですね。宇宙飛行士という肩書きを取るためだけに頑張ることって何の意味もないな思ったのです。子供の頃からずっとやってきた写真が、私の新しい仕事になるだろうと思いました。宇宙飛行士になるってことより写真家・アーティストとして、宇宙で何ができるか、それこそが大事なんじゃないかと思うようになりました。
僕は人生観が変わるほどの写真って見たことがないんですね。でも宇宙に行って地球を見たら、真っ暗闇の中に青く輝く地球が浮かんでいて、それがゆっくりと回転している。その向こう側から太陽が昇ってきて、90分に1回日の出と日没があって、1日に15回、日の出と日没を繰り返す。その視覚体験が人生を変えるほどの影響を与えないわけがないと思うんです。おそらく全ての人が地球を宇宙から見たら、何か心が変わると思うんです。心のスイッチが入るっていうか。だとしたら、僕のなすべきミッションは、宇宙に行って、地球を見たときに得られる視覚体験を100%とは言わないまでも、限りなく近づけるような撮影をして、それを再現する再生装置を地上に設けて、世界中の人が宇宙に行かずとも、宇宙から見た地球を体験できる、そういう体験装置を作ることじゃないかなっていうふうに思ったんです。それが星の街で僕が見つけることのできた新しいミッションなんですね。宇宙飛行士になりたいっていう夢は僕だけの夢ですが、宇宙から見た地球を地上で見たいっていうのは、これは僕だけの夢じゃないと思うんです。
宇宙から地球を見る経験ができる人はほんの一握りで、そのほんの一握りを世界中の人が見られるように変えること、つまり宇宙から地球を見る体験の民主化に僕はすごく意義があると思っています。宇宙から地球を見たら、ほとんどの人がこの青い地球を守らなきゃって自然に思うはずで、本で読んだ知識ではなくて、サステナビリティの重要性を直感的に理解すると思うんです。この一つの星で国境をはさんで殺し合うとかありえないだろうとも思うだろうし、戦争がない地球になって欲しいと強く願うと思うんです。少なくともこの小さな星にみんな共生して生きてるんだっていう、地球人としての意識が芽生えるはずです」と語りました。
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 執行役 Deputy CSIO パートナーの伊東真史氏は「 DTFA が本プロジェクトに参画するのは、このプロジェクトが持つ意義そのものに強く共感したからです。当社はこれまで様々な企業課題、社会課題の解決を支援してまいりましたが、近年その肥大化・複雑化を感じております。このような状況だからこそ、我々は強い意思を持って、「平和」や「サステナビリティ」を希求することが必要だと思っています。高松聡氏とのパートナーシップのもと、その意義に賛同いただける数多くの民間企業、学術機関、専門機関、個人の方々などと連携し、プロジェクトを実現させてまいります。平和を前提として我々の幸福を語り、サステナビリティを単なる地球環境の延命措置とせず、人類のサステナビリティと捉え、月や火星といった次の宇宙開発に向かっていく、そのような未来を皆で創り出していきます」と述べています。
以上、宇宙アートプロジェクト「WE」に関してご紹介しました。人生観が変わる体験ができるであろう本アートプロジェクトに、ぜひご注目いただけますと幸いです。
執筆者:遠藤友香
千葉県誕生150周年記念事業の一環として、9月から開催中の「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス 」。市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市を舞台に、「広域連携」「官民協同」による初の試みとして、アート、クリエイティブ、テクノロジーの力を融合した、百年後の新しい未来を創っていくための持続可能なプラットフォームとしての芸術祭を目指しています。
小林武史氏
北川フラム氏
総合プロデューサーはクルックフィールズ(木更津市)の代表を務める小林武史、アートディレクターは地域に根ざした芸術祭を数多く手掛ける北川フラムが務めます。
昨年9月に行われた「en Live Art Performance」の様子
9月に初披露された、⾳楽・映像・ダンス・光・テクノロジー(ドローン)を融合させた「en Live Art Performance」を皮切りに、10月には「円都 LIVE(エントライブ)」を開催。さらに、11月には、「en Live Art Performance」と、食と学びの新たな食体験イベントとして、内房総5市などの魅力的な食材が集結した「EN NICHI BA(エンニチバ)」を同時に行いました。
本芸術祭は、「LIFE ART」と 「LIVE ART」を両軸として展開します。「LIFE ART」と 「LIVE ART」という言葉は、「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」の総合プロデューサーである小林武史とアートデ ィレクターの北川フラムが、それぞれのフィールドで携わってきたこれまでの経験や想いをもって表現していくものです。
ダダン・クリスタントの過去作品/Photo by Takenori Miyamoto + Hiromi Seno
「LIFE ART」は、日本各地の芸術祭をディレクションし、市原市の「いちはらアート×ミックス」の総合ディレクターを務めた北川フラムが、 人々の生活に根ざした地域の営みに美を見いだし、アーティストとともに表現するアートです。
2024年3月23日〜5月26日のアート作品展示では、気鋭の現代アート作家を国内外から招聘し、内房総5市の各所で、アート作品を展示します。市原市においては、牛久商店街や市原湖畔美術館、旧里見小学校などの各拠点に約50作品展開します。新設となる、木更津、君津、袖ケ浦、富津の各市では、 来場者が巡回しながらアート作品を鑑賞しやすいよう、それぞれ拠点となる地域を選定し、作品を展示します。
出展アーティストとして、梅田哲也、小谷元彦、SIDE CORE、さわひらき、島袋道浩、名和晃平、リナ・バネルジー/ペギー・E・レイノルズ、保良雄、ディン・Q・レなどの他、新たに五十嵐靖晃や角文平といったアーティストの参加が追加で決定し、総勢約 80 組となります。絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、様々な手法を用いて表現される作品たちが、内房総5市を舞台に展開します。
一方、「LIVE ART」は、音楽と音楽以外の様々な才能を融合させた新しい形のバンドButterfly Studioをはじめ、木更津のクルックフィールズなどを手掛けてきた小林武史が、瞬間瞬間に生み出されるライブパフォーマンスを中心に表現するアートです。 この2つのアートが融合し、混ざり合うことで生まれる、アート作品展示とライブパフォーマンスの新たな表現へ挑戦していきます。
「LIVE ART」のタイトルは、“通底縁劇・通底音劇”です。通底という言葉は、アンドレ・ブルトンの『通底器』からヒントを得たもので、 「つながるはずのないものがつながる、つながっている」ということをイメージしています。この通底という言葉には、歴史的な要因による戦争、自然災害による物理的な分断など、表面的には様々な分断が絶えないように見える現実に対して、本来、私たちは根底でつながりあえる(わかりあえる)のではないか? という想いを込めているそう。また、地理的な要因として、東京と内房総エリアはアクアラインで海の底で通底している、ということもあるとのこと。
この度、音楽を主とする「LIVE ART」では、櫻井和寿、スガシカオ、宮本浩次、アイナ・ジ・エンドらと小林武史プロデュースによるスペシャルライブが決定しました。4月6日に、富津公園ジャンボプールにて、アイナ・ジ・ エンドをフィーチャーしたアートパフォーマンスライブ「不思議な愛な富津岬」、4月20日、21日には、クルックフィールズ(木更津市) で、櫻井和寿、スガシカオを中心とした「super folklore(スーパーフォークロア)」、5月4日、5日は、君津市民文化ホールで 宮本浩次を中心とした「dawn song(ドーンソング)」、5月12日には荻野目洋子、MOROHAをフィーチャーした「茶の間ユニバース」。上記のメインアーティストとともに、通常の音楽ライブとは異なる次元の様々なアート的表現が展開されていきます。 年初に石川県能登地方で起こった能登半島地震に対して、「通底」の思いで内房総エリアから、表現を通じて想いを伝えつつ、APバンクの協力も得て、支援を実施していきたいと考えているとのことです。
2月9日に開催された「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」 企画発表会において、総合プロデューサーである小林武史は「本芸術祭には、環境と欲望というサブタイトルがついていますが、環境というのは私たちの力だけではそう簡単に変わることはできませんが、今問題となっているのは欲望の方なのでしょう。間違いなく僕たちの欲望をゼロにするということはできないわけですが、おそらく今問われているのは欲望をとらえ直してみたり、欲望の質を変えてみたり、工夫してみたりということを考えたり想像したり、表現したりしながら、新しい方向に向かっていくということなのだと思います。
100年後芸術祭の意味に込めた100年後という時間の感覚も、様々な問題や危機が今は想像し得る未来でもありますが、同時にここにいるほとんどの人がいない未来でもあります。だからこそ、利他的な感覚が生まれ、それを乗り越えていくというような未来に続いていくことができるのではないかと考えています。
そして東京に隣接しながら、今までの成長を支えてきた千葉内房総は、自然の力をまだまだ保有しています。これからの未来を自然の力も含めて考えるのにふさわしい場所だと考えています。想像力を集めて芸術祭という場を作ることで、続いていく未来に何らかの役割を果たせると確信しております」と語りました。
また、百年後芸術祭の内房5市に加え、山武市、佐倉市、栄町の追加されることとなりました。例えば、「山武市百年後芸術祭」では、梅田哲也、SIDE CORE、橘田優子といったアーティストの作品と、すでにそこにある自然物やアーティファクトをつなぎ、100年後のために今何ができるのかを考える機会を提示したいとのことです。
以上、「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」をご紹介しました。百年後芸術祭は、千葉県を舞台とした百年後を考える誰もが参加できる芸術祭です。 100年後を思うことは「利他」そのもの。 100年後に残したいアートとは何か? 100年後に残したい音楽とは何か? 100年後に残したい食とは何か? 100年後に残したいこととは何か? この芸術祭は、一緒に100年後の未来を創っていくための共創の場とのこと。 100年後を考え、表現することすべてが芸術活動になるといいます。 ぜひ、ライブ・アート・パフォーマンス、食体験、アート展示を通して、千葉県の魅力を再発見し、未来に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
■「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」LIFE ART
開催期間:2024年3月23日(土)〜5月26日(日)
※火・水曜日定休(4月30日・5月1日は除く。一部施設は通常営業)(全49日)
開催時間:10時〜17時 ※作品によって公開日・公開時間が異なる場合があります。
販売期間 :前売パスポート:2024年2月 9日(金)〜3月22日(金)
当日パスポート:2024年3月23日(土)〜5月26日(日)
価格:一般 当日 3,500円、前売 2,500円(税込)
小中高 当日 2,000円、前売 1,000円(税込) ※県内の小中学生は無料引換券を配布(予定)
小学生未満 無料
※芸術祭の全会場へ各1回入場可能(ただし、有料イベントや有料体験ワークショップなどは別料金)
※2回目からは個別鑑賞券(値段未定)が必要。
■「百年後芸術祭〜環境と欲望〜内房総アートフェス」LIVE ART
・4月6日(土) 富津公園ジャンボプール(予定)
「不思議な愛な富津岬」
出演:アイナ・ジ・エンド/ 東京 QQQ(アオイヤマダ/かんばらけんた/ Kily shakley /KUMI/ 高村月/ちびもえこ/平位蛙 /MONDO/山田ホアニータ) 小林武史&スペシャルバンド
衣装:ひびのこづえ
・4月20日(土)、21日(日) クルックフィールズ(木更津)
「super folklore(スーパーフォークロア)」
出演:櫻井和寿/ スガ シカオ/ Butterfly Studio(guest vocal : Hana Hope/ dancer:KUMI/ 高村月/ dance: 浅沼圭 小林武史(Key)/ FUYU(Dr)/ 須藤優(Ba)/ 名越由貴夫(Gt)/ 沖 祥子(Vl)
・5月4日(土)、5日(日) 君津市民文化ホール
「dawn song(ドーンソング)」
出演:宮本浩次/ 落花生ズ(ヤマグチヒロコ、加藤哉子)/ dance:浅沼圭 小林武史(Key)/ 玉田豊夢(Dr)/ 須藤優(Ba)/ 名越由貴夫(Gt)/ ミニマルエンジン(四家卯大(Vc)、竹内理恵(Sax))
・5月12日(日) 袖ケ浦市民会館
「茶の間ユニバース」
出演:荻野目洋子/ MOROHA/落花生ズ(ヤマグチヒロコ、加藤哉子) and more 小林武史&スペシャルバンド トータルプロデュース:小林武史
※チケット料金、販売日は、2月20日(火)にオフィシャルサイトなどで発表予定です。
執筆者:遠藤友香
2010年から3年ごとに開催され今回で6回目を迎える、国内最大規模の芸術祭の一つである「あいち」。国内外から多数のアーティストが参加して、愛知芸術文化センターのほか、県内の都市のまちなかといった広域にて展開しています。
本芸術祭では、主な会場として、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、そして瀬戸市のまちなかにて、2025年9月13日から11月30日の計79日間開催予定です。現代美術を基軸とし舞台芸術なども含めた複合型の芸術祭で、ジャンルを横断し、最先端の芸術を「あいち」から発信していくといいます。
フール・アル・カシミ「あいち2025」芸術監督
2024年2月1日に記者会見が行われ、「あいち2025」のテーマ・コンセプト、 参加アーティスト(第一弾)、企画体制が発表されました。今回の芸術祭のテーマ・コンセプトは「A Time Between Ashes and Roses 灰と薔薇のあいまに」で、シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター、国際ビエンナーレ協会(IBA)会長のフール・アル・カシミが芸術監督に就任しています。
アル・カシミはこのテーマ・コンセプトに関して「国際芸術祭「あいち2025」は、詩人アドニスの詩集『灰と薔薇の間の時』から出発します。その心情とヴィジョンに共鳴するこの芸術祭は、現在の人間と環境の間の分断を照らし出す国家や領土といった目先の視点からではなく、地質学的な時間軸によって見えてくる未来の展望を提示します。
本芸術祭は、極端な終末論と楽観論を中心に据えるのではなく、環境正義(出自や所得の多寡にかかわらず、公平に安全な環境で暮らす権利を持つこと)の重なり合う複雑さを扱うことで、自らの責任に向き合い、不正義への加担を自覚するよう促しています。そしてまたこの芸術祭は、破壊と開花のあいまにある陰影のニュアンスや表現、人間と環境の複雑に絡み合った関係を強調します。
世界中から招くアーティストやコレクティブによる作品は、私たちが生きる環境について既に語られている、そしてまだ見ぬ物語を具現化してくれるでしょう。キュレーターの使命とアーティストの作品は、この芸術祭の地域性を掘り下げ、陶磁器や「せともの」の生産に触発された環境の物語を掘り起こします。こうした産業は地域の誇りの源であり、人間と環境の関係の新しく実験的なモデルを模索する本芸術祭の枠組みを支えています。
愛知の産業史において、陶磁器生産によって灰のように黒く染まった空は、環境の汚染や破壊よりもむしろ繁栄を意味していました。こうした地場産業や地域遺産は、人間と環境の複雑に絡み合った関係について、ニュアンスに富んだ思考への道を開いてくれるのでしょうか。「灰と薔薇のあいまに」とは、当然視されてきた位置づけやヒエラルキーが解きほぐされるよう、幅を持ち中間にある状態を引き受けること、そのような横断的なあり方なのです」と語っています。
ダラ・ナセル Dala Nasser Adonis River 2023, commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist 提供元:国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局
小川 待子 Ogawa Machiko 結晶と記憶:五つの山 2020 Photo: Tadayuki Minamoto Courtesy of Shibunkaku 提供元:国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局
記者会見では、テーマ「灰と薔薇のあいまに」に沿って選定した参加アーティストのうち、第一弾として4組が発表されました。
多様な素材を用いて、抽象概念とオルタナティブなイメージを表現する芸術家のダラ・ナセル、鉱物の美しさの中に「かたちはすでに在る」という考え方を見出し、ゆがみ 、ひびや欠け、釉薬の縮れなどの性質を活かし 、つくることと壊れることの両義性を内包する「うつわ」として、始原的な力を宿す作品を制作している小川待子、生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を制作する沖潤子、そして、彫刻、ドローイング、ビデオ、執筆、行為や事象の痕跡などを組み合わせながら、すでに絶滅に遭ったか、絶滅に瀕して危険にさらされている人間の状態を研究し、過去、現在、未来が折り重なるポスト人新世時代における種間の境界線を探るアドリアン・ビシャル・ロハスの4組です。
また、企画体制として、学芸統括始め、各分野のキュレーター及びキュレトリアル・アドバイザーも発表されました。芸術監督には、先にも述べた通り、フール・アル・カシミ、学芸統括にはキュレーターの飯田志保子、キュレーター(現代美術)に愛知県陶磁美術館学芸員の入澤聖明、キュレーター(パフォーミングアーツ)にパフォーミングアーツ・プロデューサーの中村茜、キュレーター(ラーニング)に建築家の辻琢磨、キュレトリアルアドバイザー(現代美術)に人類学者/秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻准教授の石倉敏明、福岡アジア美術館学芸員の趙純恵が名を連ねています。
大林剛郎「あいち」組織委員会会長
記者会見において、「あいち」組織委員会会長の大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長)は、「世界的なコロナ禍がようやく落ち着きをみせてきましたが、その一方で、地震や戦争など、様々な形で困難に直面している人たちも多く、世界は以前にも増して不安定なものになっていると感じています。
そんな中、私たちは現代アートを紹介する国際芸術祭として、一体我々は何を目指すんだろうということを考えていきたいと思います。現代アートは文字通り、今を生きるアーティストが感じる現実そのものを反映します。ただ、その現実が絶望的な状態にあったとしても、アーティストたちは困難な現在に対して、そして未来に対して、その表現を通して人々の心に希望の火を灯すことを考えています。私はこれがアートそのものの力だと考えています。
私は、アル・カシミ芸術監督が作られたこのテーマ・コンセプトをもとに、キュレーターチームと参加アーティストの皆さんが、どのように呼応し、具現化していくのか、大変楽しみにしています。そして、人々の心に希望の火を灯す素晴らしい芸術祭にしたいと考えています」と述べています。
アル・カシミは「私は20年以上、世界中のアーティストと一緒に芸術祭を行っていました。今回、そのうちの何人かのアーティストに、この「あいち」への参加をお願いしました。私は瀬戸市や愛知県のいろいろな場所にしばらく滞在し、この土地の歴史や現状を見て、理解しようと務めました。
私たちと環境との関係は長い年月をかけて、どのように変化してきたのでしょうか? かつての私たちは自然と一体化していたのでしょうか? 女性が部族の長を務める、多くの先住民族の社会がそうであったように、自然と完全に調和してるというというのは童話の世界ものなのでしょうか?
私たちはアドニスの詩を読みながら、手塚治虫さんの漫画にある来たるべき世界にも注目しています。愛知県の地域性を活かし、アーティストやキュレーターと一緒に答えはないかもしれませんが、私たちに可能性を想像させる場を作れるような芸術祭を開催したいと考えています」と語っています。
以上、国際芸術祭「あいち 2025」のテーマ・コンセプト、 参加アーティスト(第一弾)、企画体制についてご紹介しました。ぜひ本芸術祭に注目していただけますと幸いです。
■国際芸術祭「あいち2025」
テ ー マ:A Time Between Ashes and Roses 灰と薔薇のあいまに
芸術監督:Hoor Al Qasimi フール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/国際ビエンナーレ協会会長)
会 期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間]
主な会場:愛知芸術文化センター/愛知県陶磁美術館/瀬戸市のまちなか
主 催:国際芸術祭「あいち」組織委員会
(会長 大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長))