国内美術館初! 世界的な文化アイコンであるパティ・スミスと、ベルリンを拠点に活動する現代音響芸術コレクティヴのサウンドウォーク・コレクティヴによる最新プロジェクト「コレスポンデンス」が、東京都現代美術館にて開催中

2025/06/24
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香


世界的な文化アイコンであり、アーティスト、詩人であるPatti Smith(パティ・スミス)と、ベルリンを拠点に活動する現代音響芸術集団のSoundwalk Collective(サウンドウォーク・コレクティヴ)による現在進行形の最新プロジェクト「CORRESPONDENCES(コレスポンデンス)」のエキシビションが、2025年6月29日まで東京都現代美術館にて開催中です。

パティ・スミスは50年以上にわたり創作活動を続けるミュージシャン、詩人、画家、パフォーマーです。デビューアルバム『Horses(ホーセス)(1975年)』は詩とロックを融合させた革新的な作品として音楽史にその名を刻み、ソニック・ユースのキム・ゴードンやPJ ハーヴェイにインスピレーションを与えるなど、パンクやロックにおける表現の可能性を切り拓いたことで知られています。

1960年代後半からは写真やドローイングの制作を開始し、近年ではインスタレーションを手掛けるなど創作活動の幅を広げています。カルティエ現代美術財団での大規模個展「Land 250」(2008年)をはじめ多くの美術館で作品を発表し、その作品はニューヨーク近代美術館に収蔵されています。

アーティストのStephan Crasneanscki(ステファン・クラスニアンスキー)とプロデューサーのSimone Merli(シモーヌ・メルリ)が率いるサウンドウォーク・コレクティヴは、場所や状況に応じたサウンドプロジェクトを制作する現代音響芸術プラットフォームです。

音の具象的かつ精神的な力を通じて物語を立ち上げ、記憶、時間、愛、喪失といったテーマを探求しています。また、コンセプトや文学、芸術的テーマをもとに、写真家のナン・ゴールディン、ジャン=リュック・ゴダールアーカイブ、振付家のサシャ・ヴァルツといったアーティストらと協働し、綿密なリサーチにもとづく作品を多数制作してきました。

ドクメンタ14(2017年)ではラジオプロジェクト「Every Time a Ear di Soun」に楽曲を提供し、2019年にルーヴル・アブダビでサウンドインスタレーション《Mirage》を発表。さらにナン・ゴールディンを追ったドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』では劇伴を手掛け、本作品は2022年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。また、楽曲制作も精力的に行い、数多くのレコードをリリースしています。

パティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴとの創造的な共同制作は、10年以上にわたって継続し、べネチア・ビエンナーレ(映画部門)やNYのクリマンズット・ギャラリー、コロンビアのメデジン近代美術館をはじめ、世界各地でライブパフォーマンス、展覧会、上映、詩の朗読会、ワークショップと多岐にわたる形式で両者のコラボレーションによる作品を発表してきました。2022年にはパリのポンピドゥー・センターで展覧会「(Evidence)エヴィデンス」を開催しています。

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Mathilde Brandi, taken at Kurimanzutto gallery NYC 2025


本展では、彼らの最新プロジェクトとなる「コレスポンデンス」をご紹介。これまでトビリシ写真マルチメディア美術館(2023年、ジョージア)、メデジン近代美術館(2024-2025年、コロンビア)、オナシス文化センター(2024年、ギリシャ)、メンデス・ウッドDM(2025年、ブラジル)、クリマンズット(2025年、アメリカ)を巡回してきました。この度、、日本では初公開となります。

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Mathilde Brandi, taken at Kurimanzutto gallery NYC 2025


エキシビション「MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス」は、「MOT Plus」としての初の取り組みです。「MOT Plusプロジェクト」はパフォーマンスや上映など、従来の展覧会の形式にとどまらない実験的なプロジェクトを展開する場として、2025年に開館30周年となる東京都現代美術館の新企画。

その第一弾の企画となる本展は、カルチュラルプラットフォームYYとの共同主催、実験音楽、オーディオビジュアル、パフォーミングアーツを紹介するイベントシリーズ「MODE」の企画協力により開催中です。 


1.最新プロジェクト「CORRESPONDENCES(コレスポンデンス)」とは

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Soundwalk Collective & Patti Smith ‘Correspondences’ - kurimanzutto NY (installation view), courtesy of kurimanzutto


「コレスポンデンス」はサウンドウォーク・コレクティヴとパティ・スミスによる10年以上におよぶ協働プロジェクトであり、彼らが現在まで交わしてきた“対話”から生まれた作品です。現在進行中で絶えず進化し続けるこの協働プロジェクトは、さまざまな土地の「音の記憶」を呼び起こし、芸術家や革命家、そして気候変動の継続的な影響の足跡を体現しています。 

ステファンが詩的な霊感や歴史的な重要性をもつ土地を訪れ、フィールドレコーディングによって「音の記憶」を採集し、パティがその録音との親密な対話を重ねて詩を書き下ろし、さらにそのサウンドトラックに合わせてサウンドウォーク・コレクティヴが映像を編集。こうした“往復書簡(=コレスポンデンス)”によって生まれたのが、本展の根幹を成す8つの映像《Pasolini》《Medea》《Children of Chernobyl》《The Acolyte, the Artist and Nature》《Cry of the Lost》《Prince of Anarchy》《Mass Extinction 1946-2024》《Burning 1946-2024》です。 

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Soundwalk Collective & Patti Smith ‘Correspondences’ - kurimanzutto NY (installation view), courtesy of kurimanzutto


これらの映像は本会場に合わせて構成されたオーディオビジュアル・インスタレーションとして展示され、展示空間全体をサウンドウォーク・コレクティヴのフィールドレコーディングとサウンドデザイン、パティ・スミスの声で包み込み、観る者を合計約2時間の没入型体験へ誘います。それぞれに異なるテーマをもつ8つの映像は、複数のスクリーンに投影され、映像同士の対話や、展示内のほかのインスタレーションとの相互作用を生み出します。

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Soundwalk Collective & Patti Smith ‘Pasolini / Medea’, photo courtesy of Soundwalk Collective


映像のインスピレーション源と制作過程で行なわれたリサーチの蓄積を示すライトボックスでは、パティ・スミスによる直筆の詩やファウンド・オブジェのスキャン画像、ドローイング、写真、科学的データ、手書きの原稿や歌詞が展示され、サウンドウォーク・コレクティヴとパティ・スミスによるリサーチと対話の視覚的洞察を提供しています。

「コレスポンデンス」は、チェルノブイリ原発事故や森林火災、動物の大量絶滅といったテーマを探求するとともに、アンドレイ・タルコフスキー、ジャン=リュック・ゴダール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ピョートル・クロポトキンといった芸術家や革命家を参照しながら、人間と自然の関係やアーティストの役割、人間の本質について問いかけます。


2. 「CORRESPONDENCES(コレスポンデンス)」の見どころ

1)貴重な映像素材 

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Soundwalk Collective & Patti Smith ‘Correspondences’ - kurimanzutto NY (installation view), courtesy of kurimanzutto

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Soundwalk Collective & Patti Smith ‘Correspondences’ - kurimanzutto NY (installation view), courtesy of kurimanzutto


本展の映像は、アンドレイ・タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』や、マリア・カラスがギリシャ悲劇の王女を演じたピエル・パオロ・パゾリーニの『王女メディア』(Cinemazero 提供)、殺害されたイタリアの巨匠ピエル・パオロ・パゾリーニの最期の一日を描いた、アベル・フェラーラの『パゾリーニ(原題)』といった、映画の貴重な未公開映像のほか、NASAの衛生写真、研究財団TBA21-Academyとの協業により可視化した海洋データ、さらにはジャン=リュック・ゴダールの肉声を使用し、編集しています。


2)パティ・スミスによる最新表現 

ビジュアルアーティストとしてキャリアを開始したパティ・スミスは、詩とロックを融合させた革新的なデビューアルバム『ホーセス』以来、半世紀にわたり表現の新しい地平を切り拓いてきました。1960年代後半から制作を続けている絵画と写真に加え、2010年代からはインスタレーション作品にも創作の幅を広げています。

80歳を目前に控えた今、パティはサウンドウォーク・コレクティヴとの協働により、新しいオーディオビジュアル表現を生み出しました。フィールドレコーディングに耳をすませて書き下ろした力強い言葉は、その土地の“音の記憶”を増幅させ、わたしたちが見つめるべき世界のビジョンを提示します。 


3)日本で滞在制作する新作 
世界各国を巡回する「コレスポンデンス」は、開催地ごとに新しい作品を制作し、サイトスペシフィックな展示をすることで、常にかたちを変え続けています。これまでジョージア、コロンビア、メキシコ、アメリカなどで滞在制作を行ない、その土地の歴史や文化的風景と結びついた作品を通じて、観客とのあいだに多層的な応答関係を築いてきました。

今回はサウンドウォーク・コレクティヴとパティ・スミスが日本の協力者とともに滞在制作をし、本
展で新作として発表します。 


Patti Smith(パティ・スミス) 

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1946年シカゴで生まれ、ニュージャージー州南部で育ったのち、1967年ニューヨークに移住。詩とロックを融合させた革新的なアルバム『Horses(ホーセス)』(1975年)でデビューして以来、数々のアーティストやミュージシャンに影響を与え、世界的な文化アイコンとして知られる。音楽、著作、パフォーマンス、視覚芸術における業績は各分野で高く評価されており、グラミー賞に4度ノミネートされたほか、『ホーセス』は米国議会図書館の国家保存重要録音物登録簿に登録されている。また写真や絵画、インスタレーションを手掛けるアーティストとしても活躍し、世界中のギャラリーや美術館で展示を行なっている。著作に全米図書賞を受賞したベストセラー回顧録『ジャスト・キッズ』のほか、『ウールギャザリング』『Mトレイン』『無垢の予兆』など多数。2020年にペン/フォークナー賞を受賞、コロンビア大学から名誉博士号を授与される。2022年には彼女の生涯の業績を称えて仏レジオンドヌール勲章を受勲した。


Soundwalk Collective(サウンドウォーク・コレクティヴ) 

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アーティストのステファン・クラスニアンスキーとプロデューサーのシモーヌ・メルリが率いる現代音響芸術コレクティヴ。アーティストやミュージシャンとの共同作業により、コンセプトや文学、芸術的なテーマを検証するために、場所や状況に応じたサウンドプロジェクトを展開。パティ・スミスや映画監督のジャン=リュック・ゴダール、写真家のナン・ゴールディン、振付家のサシャ・ヴァルツ、女優で歌手のシャルロット・ゲンズブールといったアーティストたちとの長期的なコラボレーションを行なう。彼らの実践はアートインスタレーション、ダンス、音楽、映画と多岐にわたり、音
を詩的で感触を伴う素材として扱うことで異なるメディアを結びつけ、複層的な物語を創造することを可能にしている。2022年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したローラ・ポイトラス監督の『美と殺戮のすべて』ではオリジナルサウンドトラックを制作した。これまでポンピドゥ・センター(パリ)、ドクメンタ(カッセル)、クンストヴェルケ現代美術センター(ベルリン)、ニューミュージアム(NY)などで、展示やパフォーマンスを発表している。 


■「MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス」

会期:2025年4月26日(土)〜2025年6月29日(日)

10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日

会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F(東京都江東区三好4-1-1)

観覧料(税込):一般1,800円/小学生以下無料 ※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。

展覧会ウェブサイト