“がんと生きる想い”を絵画・写真・絵手紙とエッセイで伝えるコンテスト 「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス がんと生きる、わたしの物語。」が開催

2025/09/03
by 遠藤 友香

執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


米国イーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人である日本イーライリリー株式会社。日本の患者さんが健康で豊かな生活を送れるよう、日本で50年にわたり最先端の科学に思いやりを融合させ、世界水準の革新的な医薬品を開発し提供してきました。現在、がん、糖尿病、アルツハイマー病などの中枢神経系疾患や自己免疫疾患など、幅広い領域で日本の医療に貢献しています。

日本イーライリリー株式会社は、“がんと生きる想い”を絵画・写真・絵手紙とエッセイで伝えるコンテスト「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス がんと生きる、わたしの物語。」の授賞式を、2025年6月6日(金)に開催しました。

リリー・オンコロジー・オン・キャンバスは、がん患者さんやその家族、友人を対象に、がんと告知された時の不安や、がんと共に生きる決意、がんの経験を通して変化した生き方などの「がんと生きる想い」を、絵画・写真・絵手紙とエッセイで表現するコンテストです。日本イーライリリーが 2010 年に創設してから今回で第15回目となりました。

選考は作品の技術的・芸術的な評価ではなく“想いの表現”を重視しており、今回は104点の応募の中から、5名の審査員により、絵画・写真・絵手紙の 3 部門でそれぞれ最優秀賞1名、優秀賞1名、入選2名の計12作品が選出されました。本コンテストはがん患者さんのアートセラピーの場にもなっており、審査員の1人である森香保里先生はアートサイコセラピストでもあります。

日本イーライリリー 執行役員 オンコロジー事業本部長 ステファン・クーレンコッタ氏は、「15周年という節目を迎えたリリー・オンコロジー・オン・キャンバスに、大きな誇りと感謝の気持ちでいっぱいです。このジャーニーを共に歩んでくださった受賞者、審査員、そしてすべての参加者と支援者の皆様に、心からお礼を申し上げます。

このコンテストのアート作品やエッセイは、単なる創作物ではありません。がんと共に生きる人々の強さと勇気を深く表現した作品です。これらの作品は、私たちに深い感銘を与え、大きな励みとなっています。

日本イーライリリーは、患者さんを支援し、元気を与える“場”をつくり、患者さんとの有意義なつながりを育むことに尽力しています。私たちは、がんに関わる人々が自分らしい生活を続けられるよう、研究開発やその改善を行うことを使命としています。私たちは、この使命に全力を尽くし、患者さんの道のりの一歩一歩を支援してまいります」と語っています。

今回は、絵画部門、写真部門、絵手紙部門において、最優秀賞を受賞した3作品をご紹介します。

1.【絵画部門】最優秀賞:中井 智子(なかい ともこ) さん <愛知県>

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『来週の約束』(エッセイ抜粋)

ある日、耳が痛んだ父が受診すると、お医者様から、「外耳道がんですね。このままなにもしなかったら、もって二年です。」と余命宣告があった。

手術をして退院した後は、週末に父と母と私の三人で畑仕事をするのが生活スタイルとなった。また、夕食時ぐらいだった家族の会話が、畑仕事帰りの車内で、来週の話をするようになった。世間一般的には、ただの来週の予定。私には、余命宣告された父と来週の約束ができるという幸せな時をかみしめられる時間。

自分のことながら、この数ヶ月間で家族の有り難みを感じられるようになった心境の変化には驚いた。父ががんになったことは良くないことだが、家族との在り方を考え直す良いきっかけとなった。

一年中楽しめるように作られている畑。毎週「来週の約束」を穏やかに積み重ねて、未来があると信じて共に歩いていこう。


【審査員コメント: 堀均氏(日本対がん協会)】

この絵を見た瞬間に、家族全員が畑でニコニコと畑仕事をしている、なんだかあったかいんだ、このあたたかさは何でだろう、と感じました。

エッセイを読むと、がんに罹患した後少しずつ良くなっていって、畑の仕事をしている間に、来週の約束ができている。これはがんの患者にとってとても素晴らしいことです。

未来が見える、未来を見据えて、来週も頑張ろう、来週また美味しい作物を獲れるね、という世界を感じ、とても感動しました。おめでとうございます。


【本人コメント】

本日はこのような歴史あるコンテストで最優秀賞という名誉を頂き誠にありがとうございます。
まさか自分の父親のがんがきっかけで描いた絵と綴ったエッセイのおかげで、このような場所に立てるとは全く思っておりませんでした。

家族ががんになったことで、多くの人が日々何気なく交わしている来週の約束ができるということが、当たり前ではなく、今でも次が最後になるかもという、不安をいただきつつ生活しています。

しかし、畑へ行く度に、鳴くのが上手くなっていくウグイスのことや、今年はどんな作物を植えようかなという、家族で同じ話題を語れる喜びを感じられるようになり、自分でも気がついてなかった己の心の内を見つめ直し知ることができました。

この作品では、私なりにがんとともに生きる私の物語を表現することができました。私の作品を通して、がん患者の方や、共に歩んでいる家族の心を癒したり、励みになってくれますようにと願っております。


2.【写真部門】最優秀賞:轟 穂乃佳(とどろき ほのか)さん <岐阜県> 

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『父のレンズ』(エッセイ抜粋)

父が、ひと月の間に、五回も交通事故を起こした。検査の結果は、「神経膠腫(グリオーマ)」。治療により一命を取り留めたが、視野の左側を失った。

その後、家の中では、父がよくぶつかる場所には赤い印を付け、机の角や柱には赤ちゃん用の保護クッションを付けた。父は、今まで何でも一人でこなしてきたからか、「一人でできる!」と意地を張った。それでも見えない壁にぶつかり物を落とすと、母と私は胸が痛んだ。

ある日、リビングに向かうと、父が遠くを見つめ、今にも何かが弾けてしまいそうな顔をしていた。私は父の左頬にそっと手を当てた。「辛いの?」。父は何も言わずに、見えない左側から私を探した。そして深く呼吸をし、また遠くを見つめた。父の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

私は咄嗟にカメラを手にした。ファインダー越しに見る父は、とても美しかった。抱える辛さ、悲しみ、家族への愛、そして力強い生命力、そのすべてが凝縮されているように感じた。その時、私は父を通して、写真の真の意味を知った。それは単に目の前の光景を記録するものではなく、人の心を写し出すものなのだと。

【審査員コメント:亀山哲郎氏(カメラマン)】

素晴らしい写真をありがとうございました。僕は上手な写真はいらないよといつも言っています。いい写真が欲しい。この作品で轟さんはそれを見事に具現化してくださいました。

創造物というものは、己の姿をそこに投影して映すことであり、それが写真の一番大きな役割だと思っています。おめでとうございます。


【本人コメント】
一言で言います。父は生きています。皆様に感謝しています。ありがとうございました。

3.【絵手紙部門】最優秀賞:齋藤 紘子(さいとう ひろこ)さん <神奈川県>

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『伝える事で役に立つ』(エッセイ抜粋)

私が乳がんを告知されたのは、31歳の時でした。その頃友人は結婚や出産で幸せそうな時期でしたので、自分がとても惨めで不運に感じていました。

今は元気に過ごしていますが、14年経った今年、なんと私の姉も乳がんになってしまったのです! 幸い早期発見だったので手術だけで済み、早々に治療を終える事ができました。私が乳がんになったので、姉も欠かさず乳がん検診を受けており、私が治療を乗り越えた姿を見て、治療の流れも聞くことができたので、とても心強かったと感謝してくれました。

今まで私は乳がんになってしまった自分を否定的に感じ、誰にも言えずにいたのですが、自分の辛かった経験も、隠すのではなく伝えていけば、知識という立派な贈り物になることに気づきました。

乳がん検診を受診すること、罹患してしまったとしても、正しく治療を受ければ、必要以上に怖がる事はないと伝えたいです。大丈夫!不安なのはあなただけじゃない。皆が感じる事と、悲しい気持ちに真に寄り添えるのは経験した者だと思うので、これからは自分の体験談を伝えていこうと思っています。

【審査員コメント:西村詠子氏(NPO 法人がんとむきあう会)】

がんになった人の経験やその時の気持ちが、他のがんになった方の理解に繋がり、支えていく力になるのだと思います。それをお伝えすることで、またその方達の戦おうとか、困った時の辛い気持ちに寄り添うような経験になると思います。

がんになったことは変えられないけれども、がんになったことに意味を見つけられるのは自分だけだと思います。人のために何かできる。それはきっとご自分の力にもなると思います。

知識というものをプレゼントとして、手から手へと渡すこの作品が本当に心に残りました。おめでとうございます。


【本人コメント】

私が乳がんになったのが31歳の時で、友達はみんな結婚したり出産したりと幸せな話題が多かった中で、自分だけがんになってしまって、不幸で惨めだなぁと思って、ほとんど友人に言うことはありませんでした。

そのため、抗がん剤で髪の毛が抜けた時も、ウィッグをかぶって結婚式に参加をしていました。そこから14年経って、去年私の姉が乳がんになってしまって、その時は自分の病院を紹介したり、自分が経験した治療内容を伝えたりしました。それが姉はすごく心強くて支えになったと言ってくれました。

そこで思ったのが、今まで自分はずがんになったことをずっと隠していましたが、自分の中で留めてしまうと、それはただの辛い思い出で終わってしまうので、人に伝えていくことによって、その人の大きな知識になるんだなということに気づきました。そのため、今回このコンテストに応募させていただきました。これからも少しずつですが、自分の体験を伝えていこうと思います。ありがとうございました。