既成概念にとらわれない「⼈間の存在」への寡黙で奥深いまなざし。伊藤慶二展 「沈黙と空間」

2025/10/18
by 遠藤 友香

場 Place 1993 ceramic h.14.5x w. 43.3  x d.33.5cm ©Keiji Ito photo by Katsuhiko Kodera


執筆者:遠藤友香(Yuka Endo)


1996年に東京都江東区佐賀町に開廊し、2016年より六本木に拠点を移した「小山登美夫ギャラリー六本木」。開廊当初から海外アートフェアに積極的に参加し、日本の同世代アーティストを国内外に発信してきました。日本における現代アートの基盤となる潮流を創出したことで知られています。



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ストーリー Story 2005 ceramic 15.5 x 32.5 x42.5 cm ©Keiji Ito photo by Katsuhiko Kodera


この度、「小山登美夫ギャラリー六本木」にて、伊藤慶二展「土の人「沈黙と空間」が、2025年10月15日(水)~11月15日(土)まで開催中です。

今年卒寿(90歳のお祝いのこと)を迎えた、アーティスト・伊藤慶⼆(1935-)。陶、油彩、⽊炭、インスタレーション、コラージュなど、様々な素材、手法を既成概念にとらわれず⾃由に扱い、「⼈間とはいかなる存在か」という本質的な追求を作品上で表現。

そこには、伊藤氏独自の鋭敏な感性と幅広い視点が影響しています。幼少期聞いた戦争の惨状が心に刻まれたことからの祈りへの想い、武蔵野美術学校(現、武蔵野美術大学)で油画を学び、モディリアーニ、ピカソや、明日香の巨大石造物、飛鳥大仏や薬師寺講堂の廃仏などの東西美術への興味、デッサンの重要性を説くその視座は、新たな作品世界として展開される基となりました。

また、岐⾩県陶磁器試験場に籍を置き、陶磁器デザイナーでありクラフト運動の指導者の⽇根野作三との出会いに強い影響を受けます。そこで、平⾯での意匠のみでは実際の⽴体とのつながりに限界を感じたのが、⾃らやきもの制作を⼿がけるきっかけとなったといいます。

伊藤氏の制作に対して、豊田市美術館長の高橋秀治氏は次のように述べています。

「粘土を手で感じて形作るというより、視覚的にそのプランを想定されたうえで、つまり極端に言えば、二次元でものを考え、それを組み合わせて三次元の形を構成しているように感じるのである。これは優劣の問題でなく、その作家が持っているテイストのようなものだと思うのである。」

伊藤氏の寡黙で奥深いまなざし、力強い作品群は長年高い評価を得てきましたが、90歳の現在でも精力的に制作を続け、国内外でますます意欲的に発表し続けています。今年6月から9月に岐阜県現代陶芸美術館で開催された「伊藤慶二 祈・これから」では、今までの足跡と創作の現在地を表し、大きな評判を呼びました。

ぜひ、伊藤氏の持つ、既成概念にとらわれない「⼈間の存在」への寡黙で奥深いまなざしを感じ取りに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。


■伊藤慶二展「沈黙と空間」

会期:2025年10月15日 (水)ー11月15日(土)

会場:小山登美夫ギャラリー六本木

東京都港区六本木6-5-24 complex665  2F

時間:11:00 - 19:00 (日月祝休 入場無料)